新・闘わないプログラマ No.103

真似る


FUSION-PCというソフトウェアがあります。Microcode Solutionsという会社が発売しているPC上(というか、DOS上)で動作するアプリケーションです。日本での発売元は株式会社オープンテクノロジーズという会社で、お値段は、現行バージョンの2.0で17,800円。パッケージソフトなどというような洒落た代物とはほど遠い、単なる真っ白な封筒に、フロッピーディスクが1枚、英語のマニュアルが1冊(これは一応2色刷りの表紙の印刷物)、日本語のインストールマニュアルが1部(コピー物? 左上を止めてあるだけ)、ユーザ登録カードが1枚。
フロッピーがたった1枚で17,800円なのかよー、とか、もうちょっとましなパッケージに出来ないのかよー、これじゃああまりに怪しいソフトに見えるじゃんか、とか、言いたいことはいろいろありますけど、とにかくそういうソフトです……って、まだ、どんなソフトか全然言っていませんでしたね。
このあまりにも怪しげなパッケージ……いやいや、単なる白い封筒には、こう書いてあります。

FUSION-PC v2.0
Professional Macintosh Emulator

はい。というわけで、DOS上で動作するMacintoshのエミュレータ、要するに、Macintoshというハードウェアのふりをするソフトウェアなんですね。「エミュレータ」というと、私はそっちの方の話は全く疎いのですけど、PCで動作するゲーム機のエミュレータについての話題をときどき聞くのですけど、それのMacintosh版だ、とでも思っていただければいいと思います。
このFUSION-PC、68K Macのエミュレーションを行います……PowerPCじゃないところが残念ですけど、まあ、これは仕方ないですね。
このエミュレータを使うためにはいろいろと条件があって、まず、68k Macを所有していることが大前提です。というのも、MacintoshにはシステムROMというのがあって、これはまあ要するにPCでいうBIOS ROMに相当するものですけど、Macintoshからこの内容を吸い出して、エミュレータ側に持って行かないといけないのですね。でもって、当然のごとくシステムROMの中にあるソフトウェアはAppleが著作権を持っていますから、勝手に配布するわけにはいかない、というわけで、とにかくMacintoshを持っている人、というのがこのエミュレータを使うための前提になります。
他にも、MacOSを持っている(FUSION-PCはMacintoshというハードウェアのエミュレーションを行うのであって、MacOSというOSのエミュレーションを行うわけでは無いので、別途MacOSが必要)、とか、DOSの知識があるとか、その他もろもろがあります。
とにかく私は、自分のノートパソコンに入れてみることにしました。インストールからセットアップ、MacOSのインストールまで、あっけないほど簡単に終わり、MacOSの動作するThinkPadの出来あがり。一番苦労したのは、FUSION-PCとは関係の無い、専用のディスクパーティションの作成だったりします。これも実は、FUSION-PCをネイティヴなDOS上で動作させるのでは無く、Windows95/98のDOSプロンプト上で動作させれば専用のパーティション自体がいらなかったのですけど、諸般の事情により、ネイティヴなDOS環境にしました。
まだ大して使っていないのですけど、かなり完成度は高そうです。OS自体はMacOSそのものなので、MacOS自体がちゃんと動いていれば、大丈夫じゃないかなあ、などと思います。しかし不思議な感じではありますね、ThinkPad上でMacOSが使えるというのも。幾つかベンチマークテストをやってみたのですが、Celeron 300MHzというCPU上で動作させた場合、68040 Macとどっこい程度の速度は出るようで(68040 33MHzと比較して、整数演算は多少遅い、浮動小数点演算はかなり速い)、まあ、お遊び程度には面白いのではないか、などと思いました。

通常この世界では、あるハードウェア(ソフトウェアの場合もあるか…)を真似るソフトウェアやハードウェアのことをエミュレータと呼んでいます。コンピュータそのもののエミュレータというのは結構荷が重くて、最近になってやっと日の目を見るようになってきたのではないか、と思うのですけど(「そんなことねーよ、ずーっと昔からいっぱいあるよ、おめーが知らねーだけじゃん」というようなご指摘は歓迎します)、昔からよく使われているものに「端末エミュレータ」なるものがあります。これは、ある端末のふりをするソフトウェアで、メインフレームの世界などではよく使われていましたし、現在でも使われています。
ところで、あるAというアーキテクチャのコンピュータがあって、このコンピュータ上で動く、Bというアーキテクチャのコンピュータのふりをするソフトがあったら、これは「エミュレータ」と呼びますよね。ところが、Aと言うアーキテクチャのコンピュータ上で動作する、同じAというアーキテクチャのふりをするソフトは「エミュレータ」とは呼ばないような気がするのですけど、どんなものなんでしょ? 普通こういうことをやるのを「Virtual Machine」などと言っていますけど。
「同じアーキテクチャのふりをするソフトなんて、いったい何に使うんだ?」と思われた方もいらっしゃるかと思いますけど、これはこれで便利な代物なのですよね。たとえば、WindowsNTを動作させておいて、その上でVirtural Machineを起動して、その上でLinuxを動かすとか、Windows98を動かすとか、1台のコンピュータで複数のOSを同時に動作させることが出来ます。
Virtual Machineを実現するソフトに、IBMのメインフレームには、かなり昔から、そのものズバリの名前の「VM」という製品がありました(私が学生の頃からあった)し、WindowsNTとかLinuxとかで動作するものに、VMwareという製品があります。
このVMwareはデモ版を先日試してみたのですが、結構使えそうです。と言っても、個人的に、家では、それほど使い道は無さそうなのですけど、仕事では「あったら便利だろうなあ」と思いました。ソフトウェアを作っていると、いろいろな環境でテストしなければいけないのですけど(たとえば、Windowsのソフトだったら、95/98/NTそれぞれ、サービスパックのレベル、IEのバージョン等々)、そのあたりを1台のPCで効率よく出来そうです。
あと、私は職場では通常WindowsNTを立ち上げておいているのですけど、Linuxを上げる場合もあって、これが結構面倒なのですよね、再起動には時間は掛かるし、いろいろパスワードを入れていかないといけないですし。これなんかもVMwareがあれば結構便利かなあ、などと思っています。
ただ、私が今、職場で使っているPCはメモリが64MBしかなくて、VMwareを使うにははっきり言って全然足りない。メモリの価格も下落してきているようなので、もうちょっと様子を見て、あと128MBくらい増設して、VMware環境を構築しようかな、などと狙っているところです。

ところで、「VMwareはいいけど、FUSION-PCは何のために入れたんだ?」と疑問を持たれた方もいらっしゃるかと思いますけど、実は、これがやりたかっただけだったりして……
「ねえねえ、IBMがMacintosh互換機を出したの知ってる?」
「え? ウソ?」
「ふふふ、知らないだろー。実はこれなんだけどね」
「え? これ? IBMのノートパソコンじゃない?」
「これがねー、実はねー、Macintosh互換機なんだよねー」
「ほんとに?」
「じゃあ見てみる?」と言いつつ、電源を入れるが、最初のDOSの起動の部分は当然見せない。「Welcome to Macintosh」のメッセージが出たところで、おもむろに……
「ほら、これMacOSの起動メッセージだろ?」
「あ、ホントだ……あ、分かった。これ、Windows上で動くジョークソフトだろ? あたかもMacOSが動いてるように見せかける」
「違うってば。使ってみれば分かるって。おまえ、家にMacintoshがあるから分かるよな」
「確かに……これ、本当にMacintoshだねえ」
「だから言っただろ? ほら、だいぶ前にIBMとAppleが提携したことがあっただろ? あの提携が実はまだ生きていて、Jobsが、AppleはiBookのような大きなやつしか作れないから、と言って、IBMに互換機を作ることを許したんだよね。でも、日本じゃまだこの事実が発表されていないもんだから、まだ知る人も少ないんだけど……」
などと嘘八百。

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