思ツタコト No.33

名古屋人と漬物の謎


「おまえ、名古屋出身だろ?」
「え? なんで知ってるの」
「ふ、やっぱりな」
「いままで秘密にしてたのにぃ。誰から聞いた?」
「誰からも聞いていない。いま気づいた」
「???」
「お前がいくら『オレ、江戸っ子だもんねー』ってな顔してたって、私にはお見通しさ。おまえは名古屋人だ」
「す、すまん。オレは高校まで名古屋だったんだ。両親も名古屋の人間だ。オレが東京の大学に入った後、両親は仕事の都合で東京に出てきたんだ」

場所はトンカツ屋、二人でロースカツ定食を食べているときのことでした。私は、そいつが漬物を残すのを見逃したりはしませんでした。
「ふ、世間の目は誤魔化せても、私の目は誤魔化せないぜ。お前は名古屋人だ」

私の知っている名古屋出身者って、みんな漬物が嫌いなのです。食べないのです。会社の同期のYもMもTもそうだし、それから会社の先輩のOさんもNさんもそうだし、友人のIもN'もAも、ええとそれから……とにかく、私の知っている名古屋出身者はすべて漬物を食べません。
それだけなら、関西人が納豆を食べないのと似たようなもんか、と思っちゃったりするのですが、でも上記の人たちに聞いてみると……

「名古屋って、もしかして漬物食べないの?」
「そんなことないよー、自分がたまたま嫌いなだけで」
「だって、私の知っている名古屋出身者って、誰一人として漬物を食べないんだけど」
「そんなこと無いと思うんだけどなあ。うちの両親は好きみたいだよ」

何故か、かならず同じような答が返ってくる。自分はたまたま嫌いで食べないのだけれど、両親は好きで食べる。判で押したような同じ答が返ってくる。不思議だ。
こ、これはもしかすると、名古屋人は漬物を食べないというのは、名古屋人以外には知られてはいけない秘密なのかも知れない。ばれそうになった場合には、ああやって誤魔化すように指導されているということなのかも……

そーんなことを思っていたとき、ついに見つけました。
「あれー、お前、名古屋出身って言っていたよね」
「うん、まあ、そんなようなもんだよ」
「苦節ウン十年、私はつにに見つけた。漬物を食べる名古屋人を」
「なんだそりゃ」
「いや、私の知っている名古屋人って、みんな漬物を食べないんだよね。だから、いつも不思議に思っていたんだよね。今日は、名古屋人と漬物について尋問するから覚悟しておくように」
「あ、あの。ちょっと言っていい?」
「ん?」
「あのさ、オレ、愛知出身だとは言ったけど、名古屋とは言っていないはずだけど」
「へ? んじゃあ、どこ?」
「岡崎」

そーか、そういうことか。ついにすべてが明らかになった。
秀吉(いや、信長でもいいけど)は漬物が嫌いだけど、家康は漬物が好きだったんだ。

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