武者小路実篤『武者小路実篤詩集』


『武者小路実篤詩集』
武者小路実篤 著
角川文庫

 角川文庫の詩集フェアの1冊として新しく編まれた『武者小路実篤詩集』を買った。角川書店では以前同名の文庫を出しており、その旧版は二段組で細かい文字がびっしり詰まっていたが、新版は一段組で文字も大きくなった。紙も少し厚くなってぱらっとした印象を受けた。定価は540円。背表紙の著者インデックスを見ると武者小路の「む」ではなくて「し1−8」(し=詩集?)となっていた。
 旧版は亀井勝一郎の編集だったが、今回は編者は明記されていない。年譜を佐々木さよ氏が、解説を荒川洋治氏が書いている。荒川氏は詩人で「実篤のいるスタジアム」など実篤関連の文章をいくつか書いているが、解説にあった実篤風の詩をつくる方法は、高橋源一郎の「実篤ウィルス」と並んで、実篤の脱神話化の一翼を担う画期的な文章かもしれない。

 旧版と同じく新版でも作品が作成年代順に配列されているが、『白樺』以前の文語体の詩など、あまり紹介されていない作品も目につく。ざっと読んだ印象は、旧版が初めて読んだ実篤作品という思い入れがあるせいか、今回はあまりぱっとしなかった。作品の数も少ないし、これまでの詩集に収録されていた代表作があまり入っていなかったように見える。意識的にこれまでと違うものを集めたのだろうか。特に晩年の年齢が入った誕生日の詩を並べたあたりは、こんな作品が詩集に必要なのかと強い不満を感じた。晩年にも画の讃に近いもっといい詩があったように思うのだが。ということで、心情的にはまだ入手可能な新潮文庫版実篤詩集の方がおすすめだ。時間をおいてもう1回よく読んでみようとは思うが、初回の印象はあまりよくなかった。

(1999年2月20日:記)
(1999年5月5日補記)




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