本林勝男 『近代歌人』


短歌シリーズ 人と作品21 『近代歌人』
本林 勝男 著
桜楓社 昭和61年8月20日 第3版

 木下利玄で1章たてられていたので、そこだけ拾い読みしてみた。
「『白樺』的でヒューマンなものの感じ方」という評言があったが、そうくくられてしまうのはうまくない。かつて私もそう読んでいた時期があったが、最近は白樺の運動は「個性主義」「自我主義」と呼ばれていることがすんなり理解できるようになった。
 たとえば、武者小路の目指していたものと木下の目指していたものが同じだとは思わないし、それぞれの中で良しとするものを目指して進んでいて、それをお互いに尊重し合うという関係に『白樺』同人はあったのだと思う。まず相手を知りそれに対する尊敬があって、その彼が目指すものへの尊重があった。柳宗悦への追悼文の中で武者小路は、「君の理論はよくわからないが、君が目指しているのだから間違いないと思う」というような主旨の柳民芸理論へのことばを残している。
 根っこのところで「自我主義」−−これを私は「己を強固にたのむやり方」と解釈している−−があって、それが木下にもあったのではないだろうか。本林氏の「執拗な観察」「凝視の深さ」ということばの中に、そういったものを読んでみたい。「独特の口語調」「大胆な言葉の用いざま」という著者の言葉を、安易に武者小路の文体に結び付けることはできないが、木下独特の「四四調」(五七五七七の終わりの七七の部分を、四四という八文字にするよみ方)の効果などを、これからじっくり読んでみようと思う。


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