マンションの駐輪場からオートバイを引出し、メインスタンドを立てる。
エンジンを始動して、アイドリング状態にしたまま工具を並べる。
2ストローク特有の頼りない爆発音と、サイレンサーから吐き出される排気煙が辺りに漂う。
ミッションケース内のオイルは、このようにしてエンジンを暖めないと油温が上がらず、ケース内へ残ってしまう。
 17mmのボックスに、エクステンションバーを連結し、レンチのハンドルへ固定する。
廃油吸収材の袋をひろげ、車体の下へセットする。
エンジンを停止すると、ボックスをドレンボルトへかぶせ、隙間が出来ないようにエクステンションを手で支える。
最初の1/8回転を丁寧に緩めると、あとはラチェットを利用して手早く回す。抜けきる数回転は、吹き出すオイルでボルトを落とさないように、レンチを外して右手で回す。
慣れれば、手を汚すこともない。
オイルが吸収材の中央部に落ちるのを見届け、しばらくの間放置する。
短時間に排出するには、注入口のキャップをはずしておくのも忘れないことだ。
 現代の2ストロークエンジンは、分離給油を採用しているためにオイル交換はトランスミッションのみとなる。
4ストロークのように、クランクから燃焼室へ上がってしまうオイルがないため、定期的に残量を調べる必要がない。
ただし、シーズン前に交換を心がけておく条件が付く。

 ボルトの汚れを潤滑材で洗浄し、ドレンへセットする。
1度止まるまで手で回し、最後の1/6回転をレンチで締めるのがこつだ。
トルクは、緩めたときの力を頼りに感で調整する。
アルミエンジンだからといって、あまり気にする必要もない。
 バイクショップで交換すると、工賃を含めてかなりの経費を覚悟する。
個人で整備すれば、廃油吸収材を考慮しても半額に収まり、工具もボックスレンチ以外は特別なものを必要としない。
残りの予算で、”60 Mile Blend”が可能だ。

 平塚を抜け、西湘バイパスへ上がる。
大磯港からのジャンクションを過ぎると、レーダー式の速度取締り装置に脅かされることもなく、大磯プリンスホテルを越えるまで直線が続く。
強いオンショアの日にここを走行すると、フルフェイスのシールドがくもるのに数秒とかからない。
そのまま走行を続ければ、150km/hオーバーで30秒近くクルージング出来るが、ロングビーチの手前で、1度バイパスを降りる。
国府新宿の交差点へ出る前に左折し、ロングビーチのゲート前を通って、プリンスの入口へと続く桜並木を走る。
私道のせいか、夏のシーズン以外は通る車も少なく、適度なアップダウンと共に落ち着いた景色が続く。
ここは、ソロツーリングで楽しめる数少ないポイントだ。

 警察署前から1号線を流し、国府津のジャンクションから再びバイパスへ上がる。
この区間の一般道走行は、料金所をパスする形になる。
10分近い遅れを発生するが、あまり苦にはならない。
川をオーバーパスする形でバイパスへ進入すると、ゆるい下り坂になり、サービスエリアを眺望できる。
 進入路へ乗ると、ギアを落して50km/hまで減速する。
ほぼ180゜のターンをフルバンクで回る。
大型車専用のパーキングを通過し、小型車のエリアへ進む。
ここで休息を取るライダー達は、パーキングエリアから外れ海岸寄りの堤防に沿って停める。
7〜8年前のオートバイブームから、このように変わったと覚えている。
よく晴れた休日は、新,旧30〜40台が並び、さしずめ壮観なミュージアムと化す。
 パーキングの外周を大きく回りながら、今日の停止位置を捜す。
場所を見つけると、15m程手前でキルスイッチを入れ、エンジンを停止する。
続いてヘッドライトを消し、シールドを上げると慣性で停止位置まで進める。
リアブレーキをうまく使いピッチングしないように止め、サイドスタンドへ車重をあずける。
メインキーを抜いてフルフェイスを取り、右のミラーにかける。
潮風が、押さえられていた髪を自由にしてくれる。

 リアシートに固定したツーリングバッグから、財布と小銭入れを取り出し売店へ向かう。
以前は食券で売られていた COFFEE が現金と交換になった。
レギュラーブレンドをペイパーフィルターで入れてくれる。
小銭入れから硬貨を2枚取り出し、ミルクを残して受け取る。
オートバイへ戻り、堤防に腰掛けて海側を眺める。

 往復約100km、ガスは8リッターで十分だ。
COFFEE を1口飲む。
ごく普通のレギュラーが、凝ったブレンドを超える。
僕が読んだ「横浜 KENTAUROS の伝説」には、1杯の COFFEE を神戸まで飲みに行く、”600マイルブレンド”の逸話が書かれていた。
バイクフリークに有名なストーリーだ。
僕自身の”60 Mile Blend”は、年に25回を超す。
休日の昼下がり、堤防の上で昼寝をする僕を見つけるのは、それほど難しくない。