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(親愛なるアニーへ) お元気ですか? 相変わらず多忙な日々を過ごしているのでしょうね。 さて、僕は休暇を利用して、ンゴロンゴロ自然保護区に行ってきました。 アフリカの地図があったら開いてみてください。東アフリカ、タンザニアのセレンゲッティ国立公園の東南に広がる広大な草原です。 ここを訪ねるのは実は4回目なのですが、保護区に向かう外輪山を越える瞬間には、いつも胸が締めつけられるような興奮に襲われます。世界で二番目に大きいカルデラの火口原を、そのまま動物たちの聖域にしたこの自然保護区は、高さ約800mの外輪山が城壁のように取り囲んでいるのです。 僕たちの乗った旧型の4WDは、喘ぎながら外輪山のガタガタ道を登っていきます。登り詰めたとたん、突然、眼下に巨大なパノラマが開けました。城壁の内側は広大な草原になっているのです。乾期の草原は、強い日差しを浴びてライオン色に輝いています。(このイメージ、分かりますか?) 湖も川も林も、まるで箱庭のようで、そこだけが、回りから切り離された別の世界みたいです。ここは約250万年前に噴火した時には、隣にそびえるキリマンジャロと背比べできるほどの高さだったのに、火口が陥没して、直径20qほどのパレットのような火口原になってしまったそうです。 今回、たまたま一緒の4WDに同乗した外国人たちも、この風景を目の当たりにして、思わず自国語で感嘆の声を発していました。かつて訪れた有名、無名の旅行者は、「ここはノアの方舟が到着した土地だ」「人間がこれだけ痛めつける前の地球だ」etc…と、多くの言葉を残していますが、僕は「ここが、エデンの園だ!!」を採用しました(笑)。 ここから車は外輪山の内側に刻まれた、つづら折りの道を下っていくのですが、あまりのデコボコ道に、4WDは車体がきしんで今にもバラバラになってしまいそうです。それに一気に数百mも下るので耳にツーンとくるのですが、火口原まで頑張れば生き物たちの生活が目の当たりに見れるというので、贅沢は言えません。 火口原の草原の上には、ゴマをまいたような黒い点が動いています。双眼鏡を取り出すと、小さな点はトムソンガゼル、その中に混じって大きいのはグランドカゼル。シマウマの白黒の縞は、こんな遠くからもはっきりとわかります。 そのむこうに一列になって動いているのはヌー(ウシカモシカ)の行列です。ところでヌーを見たことはありますか? 近くでみると本当に不思議な動物です。アフリカの民話に「神さまが動物を作りすぎてアイデアに困り、ウシの角、ヤギのひげ、ウマの尾をつなぎ合わせて作った」とあります。むろん本人のせいではないけれど、まさにそんな姿です。 アカシアの林の中では、一本の高い木がワサワサ揺れています。その下で動く巨大な黒い影は何だと思いますか? そう、ゾウです。幹に額を押し当ててアカシアを押し倒し、葉を食べようとしているのです。また木の間から、ヒョコヒョコとキリンの頭も見え隠れしています。 ライオンは、ひたすら木陰で昼寝をむさぼっています。ハエにたかられながらだらしなく眠りこける姿には「百獣の王」の威厳のかけらも見いだせません。実際に狩りはへたくそで、獲物を狙っても打率は2割程度しかないそうです。なので、ハイエナなどが取った獲物を脅して横取りするという、マフィアかギャングのような生活を行っているそうです。 ところで、近年のライオンの研究では、新たに解明された興味深い話があります。なんとライオンの雄は、他の群れを乗っ取ると、その群れの赤ちゃんを全部かみ殺してしまうのだそうです。(ひえ〜(笑)) 自分の種のみを残そうという本能なのか、それとも…。君ならどう思いますか?(え、人間の男ならまだしも、ライオンの男心はわからないって。失礼しました!(^^;) 動物に見とれていると、車のボンネットに音もなくふわりと飛び乗ってきたものがいます。チータです! 無賃乗車というよりも、高見から獲物を探しているようで、僕たちがおそるおそるカメラを向けても、彼はしなやかな身体で悠然とポーズをつくっています。 実は、ここの動物は、いつも草原を走り回っている観光客の車をほとんど怖がりません。このチータは、それを逆手にとって車の陰を巧みに利用し、獲物に接近する芸当をやってのけたのかもしれませんが、ちょっと複雑な気分です。 このンゴロンゴロ自然保護区と隣接するセレンゲッティ国立公園、さらに国境を越えてケニア側に続くマサイマラ動物保護区に広がる広大な大草原では、草原獣たちが草を求めて毎年移動していきます。 その数は、ヌー150万頭、トムソンガゼル25万頭、シマウマ20万頭。12月から4月の雨期に、ここで子どもを産んだヌーは、6〜7月の乾期に入ると、草を求めて北上を始め、さらに国境を越えてマサイマラ動物保護区までやってきます。そして、乾期が終わる11月ごろから、再び南下していくのです。 その先頭に立つのはシマウマです。続いてヌー、トムソンガゼルと続きます。体の大きなシマウマはまだ丈が高く青い草を食べ、背の低いヌーはその後から出芽してきた葉を好み、もっとも小型のトムソンガゼルは残された葉を食べる…。移動の時期をずらすことによって同じ草を「仲良く食べ分けて」いるということです。神が与えた、自然の知恵なのでしょうね。 そんな百万頭を越えるヌーの移動は、とても壮観です。草原を横切り、丘を越え、川を渡ってひたすら先祖から繰り返されてきた同じルートを突き進んでいくのですが、その川を渡る大群が見たくて、ある朝早く、僕は川のほとりに隠れて待ち構えていました。 待つこと二時間。やっと先頭の群れが川岸に到着したのですが、たじろぐばかりでなかなか水に入ろうとしません。そのあとからもぞくぞくと押し寄せて、まるでラッシュ時の駅さながらの押し合いになってしまいました。500頭はいるでしょう。まるで西部劇に出てくるカウボーイに追われる牛の群れにそっくりです。 すると、突然、一頭が意を決したように川に飛び込みました。そのあとはまるで雪崩のようでした。すさまじい水しぶきと彼らのいななき。その時の音は、ラッシュどころではありませんでした(笑) 何と言ったらいいのか…。ビデオを持って来なかったのが悔やまれます。写真は山ほど撮ったんだけどね(^^; ヌーの渡河は命懸けです。深みでは、溺れた子どもが二頭、下流に流されてしまいました。他にも、群れのほとんどが対岸に上陸したその瞬間、一頭が水に引き戻されたかと思うと、浅瀬で待ち構えていたワニがヌーの後ろ脚のももにかみついたのです。ワニは自分の体をくるくる回転させながら、獲物を水の中に引きずり込んでいきます。そしてヌーは、力尽きて、僕の目の前で濁った水中に消えていってしまいました。ざわめいていた川が再び元の流れに戻ると、それまで気がつかなかったのですが、川岸に漂着した流木の山と思っていたのは、なんと死んだヌーの白骨の山でした。 ふと空を見上げると、数十羽のハゲワシが旋回しています。人間の目には平和な「エデンの園」も、ここに生きる動物にとっては、生存を賭けた戦いの場なのですね。 さて、この外輪山の北側のすぐ外にあるオルドバイ渓谷からは、人類最古の化石や石器が出土しています。三百数十万年前の「猿人」の遺跡で特に有名なのは「足跡」の化石です。帰りに博物館で実物を見てきましたが、男性と女性の二筋の足跡の間を縫うように小さな足跡が交差しているのです。これはどう見ても、はしゃぎながら両親の後を追う子どものものです。彼ら親子は、この動物の大群を追って暮らしていたのでしょう。三百数十万年前の親子の会話は、その日に捕れた獲物のことか、それとも広い空を朱色に染め上げた夕焼けのことだったろうか…。なんてことない足跡から、さまざまなことを想像させてくれます。 この旅行では、君に伝えたいことは、まだまだ他にもたくさんあったのですが、あまりの感動でペンがうまく進みません。僕の頭の中は、かなり混乱しているみたいです。 それに飛行機の時間が迫っているし…、とりあえず空港から、この「報告書(概要版)」を、有能な編集者どのに送ります。 |
タンザニアから愛をこめて (ジョン・オブライエン) |
| PS アニー。君に、本物の草原の輝きを見せてあげたい。 |
![]() 強烈なアフリカの陽光が、頭のてっぺんに突き刺ささる。それから逃げるように、アカシアの日陰に飛び込んで、アニーは草の上に大の字になった。 緑陰からのぞく濃紺の空に、白い雲がふたつ、のんびりと浮かんでいる。 「彼らもバカンスを楽しんでいるのかなー」 ポカンと口をあけていたアニーの顔を、髭もじゃのジョンが笑いながら覗き込んでいた。 「はい、差し入れ」 グラスには、絞りたての濃い黄色の飲み物が注がれていた。甘い香りに誘われて一口飲むと、天国にのぼる心地よさである。 「エデンの園の、アップルジュースかしらね」 「それを勧めた僕は、蛇の化身ってこと?」 「こんな髭もじゃの蛇がいるかしら (^o^)」 そう言いながら、アニーは一気にジュースを飲み干した。その様子を目を細めて見つめているジョンの栗色の髪を、草原の風が揺らしている。 「あの手紙を読んだら、もう、いても立っていられなくなって、仕事放り出して来ちゃった。下手なガイドブックより客寄せできるわよ。あれを読んでアフリカに行ってみたいと思わない人は余程の変わり者かもしれないわね。私も強引に休暇を取ってきて正解だった。生きていてモトをとった気分よ」 二人は再び草原に大の字になった。 そして風の歌を聞こうと、瞳を閉じた。 |
| END |
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【あとがき】 「サバンナを夢見て」の続編です。 エイズと闘う若き医師ジョンが、余生を預けたアフリカの大地で、大自然と動物たちから新たな生きる感動を受け、それを親友アニーに手紙で伝えてくるという内容です。 実はこれは1995年9月20日の朝日新聞に載っていた「世界遺産はいま」という記事を、うちのキャラが語りなおし、そのドラマに無理矢理引用したというものです。オリジナル創作部分は、最後のアニーがアフリカ訪問をしたところぐらいです(おいおい)。 当時、何気にこの記事を読んだとき、ものすごく感動したんですね。これこそがジョンの心ではないか!疲れた人間と地球が、喉の渇きを癒すかのように、本能の部分であこがれ、求めていたことだったのではないか。大自然は過酷だけれど、でも何もかも包み込んでくれる優しさがある。母なる大地とは、よく言ったものです。 1995/12/30(rewrite:2003/04/29) |
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