激しい攻防の末・・

スコアは57/55.ヴィクトールがクラヴィスを1ゴール上回った。

クラヴィスは、暫くゴールを見上げていたが、やがてヴィクトールの元へゆっくりと
近づき、右手を差し出した。

「なかなかやる・・さすがに鍛え上げているようだ・・普段の運動量の差が出てしまっ
たというところか・・負けを認めよう・・」

ヴィクトールはクラヴィスの差し出した手を握り、

「いや・・正直勝てるとは思いませんでした。今回は運が良かっただけでしょう。」
そう言うと、頭をがしがしとかきながら笑った。

「フッ・・だが、負けは負けだ。私はおとなしくしていることにしよう・・アンジェリー
クの元へ行け。勝ったものの権利だ。・・だが、”最初に気持ちを告げる”ことを譲るだ
けだ。私は諦めたわけではないのでな。」
そう言ってクラヴィスは不敵な笑みを浮かべた。

日の曜日。ヴィクトールは緊張した面持ちでアンジェリークの私室のドアをノックした。
手には小さな花束を持って。

「どうぞ、お入り下さい。」

ぎくしゃくとドアを開け、ヴィクトールは部屋へ入ると、緊張に震える声で挨拶を交わす。

「あー、その、今日はいい天気だな。お前に似合うと思って、その・・プレゼントだ。」
小刻みに震える手で、花束を差し出す。

「わぁ、とってもかわいい!ヴィクトール様、有難うございます!」
アンジェリークは花束を受け取ると、すうっと息を吸い込んで、
「・・いい香り・・」
うっとりとした表情で花束の芳香を楽しんでいる。

ヴィクトールはそんなアンジェリークの表情に見とれた。なんて・・愛らしいのか。

「これ、花瓶に生けてきますね。」
アンジェリークの言葉にはっとしたヴィクトールは、あわてて

「あ・・手伝おう。」
そう言ったが、アンジェリークは首を振り、

「いいんです、ヴィクトール様は座ってて下さいね。お花を生けたら、お茶を入れます
から。少し待ってて下さい。」

 ヴィクトールは言われるままにソファに腰掛けたが、そわそわした様子でアンジェリー
クが戻ってくるのを待っていた。待っている間、様々な思いがヴィクトールの胸中を駆け
めぐっていた。

”今日は、俺の気持ちをはっきりと告げる為にここまで来たが・・思いを告げたところで
アンジェリークが俺を受け入れてくれるかどうかなんて、分からない・・俺に対して向け
てくれる笑顔は、教官に対する思いからなのかも知れん。俺を男としては、見てくれてい
ないんじゃないか・・

 部屋に入った時、そのまま自分の気持ちを即座に告げていれば良かった。待っている間
に、考え事をして迷いが出てきてしまった。迷いとは、不安の現れでもあるのだ。もし・・
拒絶されたら。その後どんな顔をして、アンジェリークに接すればいいのか・・”

そんなことを考えているうちに、アンジェリークはお茶をトレイに載せてヴィクトールの
元へとやってきた。白磁のティーカップをヴィクトールの前に置くと、自分の分のカップ
をヴィクトールの横へと置き、トレイをサイドボードの上に置いてから、ちょこんとヴィ
クトールの向かいに座った。

アンジェリークは、”どうしたんですか?”という表情でにこにこと笑いながら首を傾げ
てヴィクトールを見つめている。

自分を信頼してくれている、この少女の瞳を見つめているうち、ヴィクトールの不安な思
いは、徐々に薄れていった。心臓の鼓動は相変わらず速いが、それでも、不思議と落ちつ
いた気分になってきていた。

「アンジェ・・」

ヴィクトールは少し、照れくさそうに頬をうっすらと染め、愛しい少女の名を呼んだ。

アンジェリークは、ヴィクトールに初めて愛称で呼ばれ、驚いた様子でヴィクトールを見
つめた。

「はい、ヴィクトール様・・」

「この前の試合で、俺は1ゴール差でクラヴィス様に勝った。・・だからという訳でもな
いんだが・・クラヴィス様が、”アンジェリークの元へ行け”と仰ったんだ。・・ふんぎ
りのつかない俺は、まぁ・・きっかけを与えてもらった、というところだな。」
ははは、とヴィクトールは照れて笑った。

「あの試合の前までは、俺は正直、自分の気持ちをもてあましていた。お前に対する思い
は、教え子に対する思いなんだと、そう思っていた。だが・・あの試合で、クラヴィス様
とお前が・・・その、仲良さそうにしているのを見ると、なんだか無性に腹が立って・・
それで胸が傷むんだ。お前の側にいるのは、俺のはずなのにってな。」

驚き、頬を紅く染めてアンジェリークはヴィクトールを見つめた。

「・・お前は、どうなんだろう。俺のことを・・一人の男として、見てくれているんだろ
うか?」

アンジェリークは、嬉しそうに少し目を伏せ、小さく頷く。

「・・!そうか・・ありがとう。・・お前の側にいて、お前を見守って行くのは、俺の役
目だ。他の誰にも渡さん。アンジェ・・お前が、好きなんだ・・」

ヴィクトールは、その大きな腕で、アンジェリークの華奢な体を抱き寄せた。軍服の上着
が、アンジェリークの体を包み込むように覆う。

「とっても、あったかいです、ヴィクトール様・・」

ヴィクトールの力強い腕に、広く逞しい胸に抱かれ、アンジェリークの心には愛しさがこ
み上げた。潤んだ瞳でヴィクトールを見上げる。

そんなアンジェリークを優しく見つめたヴィクトールは、そっと自分の手袋を外し、アン
ジェリークの頬を両手で包み込むようにして触れた。そしてゆっくりと肩にかかる栗色の
髪をかき上げると、

「愛している・・アンジェ・・」

耳元でそう囁いた。

無骨だか大きく暖かい手と、華奢な白い手が重なる。指が絡まり、二人の手はしっかりと
繋がれた。ヴィクトールの大きく広い胸に、甘えるように頬を預けていたアンジェリーク
の細い顎を、ヴィクトールはそっと上げる。

「ヴィクトール様・・好き・・」

アンジェリークは愛する男の名を、心を込めて呼んだ。彼女の愛する男は、その愛の言葉
に、暖かく優しいキスで答えた。額に。頬に。そして唇に。長く・・甘く重なる、二人の
くちづけ。

「アンジェ・・ずっと・・俺の側にいてくれ。」



だははは(^^;; 如何だったでしょうか。ヴィクトール様、はっきり言って贔屓です、ハイ。
Special2の温和ちゃんとのカップルが大好きだったのですが、トロワコレットちゃんとの
カップルもいいですよねぇ。ヴィクトール様の魅力は・・なんといっても大人!そして力
強く逞しい!女に生まれたら一度はこんな男性に守ってもらいたい、甘えて見たい!なん
て私は思うのですが。

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