激しい攻防の末・・

スコアは57/55.クラヴィスがヴィクトールを1ゴール上回った。

ヴィクトールは、膝に掌をのせて暫くの間、荒い呼吸を繰り返していたが、顔を
上げるとクラヴィスの側まで歩み寄り、右手を差し出した。

「いやぁ、負けました!僅差ではありましたが、負けは負け。潔く引き下がりま
すよ。」

クラヴィスは、ヴィクトールのその言葉を聞いて、先ほどまでの心の中の暗い炎
が少し小さくなった気がした。

「フッ・・そなたも、やはり鍛えているだけあって、よくやる・・今回は勝たせ
て貰ったがな。」

「ハハハ。まぁ、結果はこうなりました。それは認めます。アンジェリークの元
へ行って、クラヴィス様のご自分の気持ちを伝えて下さい。」

クラヴィスはそのままズバリなヴィクトールの物言いにやや怯んだ。

「何を・・」
僅かに動揺の見える口調でクラヴィスは答える。

「俺も伊達にこの歳まで独りで来たわけじゃありませんよ。誰が誰を好きか、なん
てことくらいは見ていれば分かります。しかし・・」

ヴィクトールは自分の胸の前で拳をぎゅっと握り締め、クラヴィスの方へ向けて突
き出した。

「アンジェリークが貴方を拒絶したら、次は私の番ですよ。」
そう言って会心の笑みを浮かべた。

日の曜日。クラヴィスは朝から落ちつかず、珍しいことではあるが私室の中を逡巡
していた。

”ヴィクトールにあそこまで言われた以上、やはり今日、アンジェリークの元へ行
かねばなるまい・・しかし、何といえばいいのか・・”

そうして、午前中はずっと過ごしてしまった。はっと気がつくともう日も高く、午
後1時を過ぎていた。

「このままでは日が暮れてしまう。早くアンジェリークの元へ行かなければ。」

あわてて私室を出てアンジェリークの元へと向かった。

ドアをノックすると、中から軽やかなアンジェリークの声がした。

「どうぞ!お入り下さい。」

静かにドアを開けると、アンジェリークはいつもの可憐な微笑でクラヴィスを迎えた。

「あの、良かったらお座りください。今お茶を入れて来ますから。」

そう言って踵を返そうとしたアンジェリークの白く、細い手首をクラヴィスは掴んで
引き止めた。そのまま開いたままだったドアを後ろ手に閉める。

「クラヴィス様・・・?」

驚いたようずではあるが怯えの色は見せず、アンジェリークは、背の高いクラヴィス
の顔を、下からじっと見上げた。

エメラルドグリーンの宝石。美しく輝くアンジェリークの瞳を見つめたクラヴィスは、
そのままアンジェリークの手を引いて体を引き寄せた。

頬を染めて、僅かに身じろぎ、恥じらいの為か身を引こうとしたアンジェリークを、
クラヴィスは更に力を込めて抱きしめた。

「もう、離さぬ・・」

半ば、消え入りそうな声でクラヴィスは呟いた。

「お前が、他の男といるのを見ることが、身を切られるように・・私にはつらい。私
を・・私だけを見ていて欲しい・・・・お前を、放したくない。」

クラヴィスは抱きしめた力を僅かに緩め、アンジェリークの瞳を真っ直ぐに見つめた。

「その瞳に・・私だけを写していて欲しい・・だが、それは叶わぬ願いなのか・・?」

アンジェリークは、クラヴィスに見つめられた瞳から、大粒の涙をこぼした。

「・・!何故泣くのだ・・」

クラヴィスは表情を曇らせる。アンジェリークははっとしたように涙を拭いたが、それ
でもあとからあとから涙はこぼれ落ちる。

「嬉しいからです・・クラヴィス様。私・・ずっとクラヴィス様のことを・・でも、そ
の気持ちを伝えるのが怖かった・・笑われたら、どうしようって。」

「そう・・だったのか・・すまぬ。お前の気持ちに気付いてやれなかった私を、許して
欲しい・・」
クラヴィスはそう言うと、そっと唇をアンジェリークの頬へ近づけ、涙をすくいとる。

「愛している・・アンジェ。お前だけを・・」

愛しくて、何者にも代え難い少女、アンジェ。この名でずっと呼びたかった。自分だけ
が許される、この名で。胸の奥深くから無限に涌き出るこの気持ちを、アンジェという
名に託して、クラヴィスは囁いた。

「クラヴィス様・・愛しています。」

もう一度、心を、愛を込めてクラヴィスは愛しい少女を胸に抱いた。さらりと漆黒の髪
が落ち、アンジェリークを包む。腕の中に確かにある小さな温もり。自分だけを愛して
くれる少女。決して・・離さない。クラヴィスはそう呟いた。



えっ、ヴィクトール様バージョンよりあっさりしすぎ?(^^;; いや〜、クラヴィス様じゃ
ないみたいですね、あはは。特に、物語前半のクラ様・・ジュリ様のよう(爆)こんなの
クラヴィス様じゃなーい!!という怒りの声が聞こえてきそうですね・・ハハ・・笑って
ごまかそうっ!

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