Compact Disc の規格

一般的に使用されるコンパクトディスクは、 Red Book、Yellow Book、Orange Book、White Book、Blue Book、Green Book のいずれかに大別されます。それらを列挙し、関連事項を紐解きます。

Red Book Family

CD-DA (CD Digital Audio) 1981年
ソニー、フィリップス社により共同開発されました。 CDの物理的な規格や記録方式は赤いバインダーの仕様書にまとめられ、 Red Book と呼ばれます。最大74分のデジタルオーディオを記録できます。

CDの断面
CD の構造
CDの構造は、表側から、ラベル印刷層、保護層(ポリカーボネート)、 反射層(アルミニウム)、基板(ポリカーボネート)という順に重なっています。(図1)
基板には突起(凹み)があり、これを「ピット」と呼びます。 そしてピット以外の部分(平面部分)を「ランド」と呼びます。 これらに 780nm の波長のレーザーをあてると、ランド・ピットの境界部と、 それ以外とで反射に違いが現れてきます。 境界部を「1」、それ以外の部分を「0」とみなします。(図2)

CD-DA のセクタ
Red Book では、CDの物理セクタは1セクタが 2352 バイトで構成され、 再生される場合には1秒間に75セクタが読み出される、と定義しています。 この定義から、1秒間に読み出すデータを計算すると、

2352 * 75 * 8 = 1,411,200 (bit)

データとピットの対応

となります。 また、16bits のデータが、44.1kHz の周波数で2チャンネル分記録されていることから、 1秒分のデータ数を計算すると、

16 * 44100 * 2 = 1,411,200 (bit)

と、同じ数字が算出されます。

また、実際の物理的なメディアの記録を意識すると、 2回のCIRC (Cross Interleaved Reed-Solomon Code)、 EFM変調 (Eight to Fourteen Modulation) のメディア特性による冗長性、 サブコーディングの付加等により、もっと多いデータ量が記録されています。 16bits, 2ch のデータ6サンプル分192bits (=24bytes) が、 588bits の1フレームを形成します。 このフレームが98個で、セクタを形成します。

24 * 98 = 2,352 (byte)

CD-G (CD-Graphics) 1985年
CD−DAのオーディオ再生と同時に、 288x192dot、2〜16色の画像データが表示可能になっています。 画像データはサブコードに記録されています。


サブコード
1フレームあたりに8ビット含まれる情報で、 1セクタ(98フレーム)を単位に意味を持っています。 それぞれのビットは、P,Q,R,S,T,U,V,W の8個のチャンネルに分かれています。 Pチャンネルは、トラック間の無音部分を示し、 Qチャンネルは、トラック番号、トラック内のインデックス番号、 トラック内でのそのフレーム位置の経過時間、 ディスク内でのフレーム位置の経過時間を示します。 R〜Wチャンネルは画像や文字情報等の特殊用途に使用されます。
サブコードひとつあたりの時間は、1フレームが6サンプルであることから、 98フレーム分の時間を計算すると求めることができ、

(1 / 44,100) * 6 * 98 ≒ 0.0133 (s)

となります。この 0.0133(s) の逆数を求めることで、単位時間(1秒) あたりのサブコード数、及びセクタ数が求められ、75となります。


CD SINGLE 1987年
直径8cm の小型CD。最大20分のデジタルオーディオを記録できます。


CDV 1987年
CDとレーザーディスクを合体させたようなもので、 ディスク内周に最大20分のデジタルオーディオ、 残りの外周に最大5分の動画を記録できます。 動画の記録方式はLDと同じ無圧縮のアナログ形式のため記録時間が短く、 一般のCDプレーヤでは動画を再生できなかったため、あまり一般化しませんでした。


CD-EG 1991年
CD−Gの発色数を26万色中の256色に拡張した上位規格です。


CD+MIDI 1990年
CD−DAのオーディオ再生に同期して、 MIDI機器にデータを送信して再生が可能です。 MIDIのデータはサブコードに記録されます。



Yellow Book Family

CD-ROM 1985年
ソニー、フィリップス社により、Yellow Book で規格化された、 CDにデータを記録するための規格です。 Yellow Book では物理フォーマットは規定されましたが、 論理フォーマットは自由とされました。


セクタの構成
CD-ROM の物理フォーマット
Yellow Book では、CD−ROMの記録フォーマットとして、 MODE1、MODE2の2つを用意しています。 MODE1では、1セクタ 2352 バイト中に、 ランダムアクセスのための同期データ、ヘッダ、 EDC(Error Detecting Code)、ECC(Error Correction Code)等を確保して、 ユーザが読み出せるデータ記録部分を 2048 バイトと定義しています。(図3)
誤り訂正の無いMODE2では、同期データ、ヘッダのみ確保し、 2336 バイトをユーザデータとしています。 CD−ROM1枚の容量は約747MBですが、MODE1の場合、約650MB、 MODE2の場合は、約742MBの容量となります。

CD-ROM の読み出し速度
1秒間に75セクタが読み出される定義から転送速度を計算すると、

2048 * 75 / 1024 = 150 (KByte/s)

の値が、MODE1の等速読み出しの速度になります。


エラー訂正
CDは本来、平均すると10の5乗ビットにつき1ビット程度のエラー (約0.07秒に1ビット)が発生するといわれていますが、 CIRCにより10の9〜10乗ビットにつき1ビット(約12〜118分に1ビット) 程度に抑えられます。 CIRCは、データをバラバラに並び替えた上でパリティを付加する訂正方式(実際はかなり複雑です)で、ランダムエラー(製造上の単発的なエラー)だけでなく、 バーストエラー(傷などによる連続的なエラー)にもある程度対応できるようになります。
また、MODE1及びFORM1のEDC/ECCを利用することで、 10の12乗ビットにつき1ビットのエラー率になると言われています。 これは、650MBのCD−ROM183枚に対して1ビットのエラー率となります。


CD-ROM XA (eXtended Architecture) 1988年
CD−ROMの拡張規格です。 ISO9660を採用し、 CD−Iのオーディオ・ビデオ記録の仕様が取りこまれています。


CD-ROM XA の物理フォーマット
Yellow Book では「1枚のディスクにMODE1とMODE2が混在してはならない」 とあり、1枚のディスクにMODE1のデータとMODE2の画像(動画)データを、 同時に記録するためには新たな規定が必要でした。 そこから規定されたのが、FORM1とFORM2です。 FORM1はECCが有り、データ記録用として、 FORM2はFORM1のECCを取り除いたもので、 画像(動画)等の目的で使用されます。 これらFORM1、FORM2のフォーマットが CD-ROM XA となります。(図3)


CD-ROM の論理フォーマット
Yellow Book では、CD−ROMへのデータ記録に関して、 物理フォーマットを規定しましたが、論理フォーマットは規定しませんでした。


HSF (High Sierra Format)
ハイシエラグループによって最初に提案された、 CD−ROM専用のファイルフォーマットです。


ISO 9660
1988年、HSFを加筆修正し、ISOに登録したものです。 CD−ROM上のファイルとディレクトリの論理フォーマットに関して定義した標準規格で、 特定のハードウェアやソフトウェアに依存せずにCD−ROMを読み出せることを目標に、 規格化が行われました。


HFS (Hierarchical File Format)
Macintosh OS のファイルフォーマットで、 CD−ROMのフォーマットはHDDと同じで起動も可能です。 これは階層構造によるファイル管理のほか、作成したCD−ROMには、 リソースフォーク、データフォーク、クリエータといった、 マッキントッシュのファイル管理情報が全て反映され、 マッキントッシュ以外のOSでは読むことができません。


Hybrid
一般的に、 MS-Windows と Macintosh の両方で使用可能なCD−ROMのフォーマットを差します。 ISO9660と、HFSの両方に対応しています。


EI Torito
Phoenix Technologies、IBM社によって開発された規格で、 PC上でのブート可能なCD−ROMのフォーマットを規定しています。 システムのブートが出来るフロッピーディスク、或いはハードディスクのイメージが、 そのままブートイメージとしてCD−ROMに収められます。 システムが起動する際に、BIOS を介してブートイメージをA、 またはCドライブと見せ掛け、起動します。


フォト CD 1990年
イーストマンコダック社が考案した規格で、 銀塩写真フィルムに撮影された静止画像をデジタル化してCDに記録したものです。 メディア自体はCD−Rを使用します。 構成はマルチセッションを採用したため、データ(画像)の追記が可能です。 CD−ROM XA、Orange Book、ハイブリッドCDの仕様に基づいています。


カラオケ CD 1993年
CD−I DVをカラオケシステム用に利用した規格で、 日本ビクターとフィリップス社によって合意されました。



Green Book Family

CD-I (CD-Interactive) 1986年
ソニー、フィリップス社により、Green Book で規定された規格で、CDに音声、画像、 アニメーション、文字といった情報を3次元的に記録し検索機能を持たせると共に、 ユーザが画面を見ながらインタラクティブに操作できることが特徴です。 CD−Iプレーヤには、ゲーム機を思わせるコントロールパッドが接続されていて、 これを使ってユーザはメニュー操作を行うことが出来ました。 日本ではCD−Iプレーヤはほとんど普及しなかったようです。


CD-BGM 1989年
圧縮技術により、 ステレオ4時間モノラル8時間のオーディオの記録を実現した規格です。 店舗等の業務BGM用に使われました。


CD-I Ready 1990年
CD−Iプレーヤで再生したときに字幕や付加画像が表示されるように情報を記録した オーディオCDです。


CD-I DV (CD-I Digital Video) 1992年
MPEG−1圧縮により、最大74分の動画と音声が記録可能な規格です。 CD−I DVは、 インタラクティブな制御機能を持った専用プレイヤ以外では再生できず、 一般に普及するタイプのメディアではありませんでした。 CD−I DVからインタラクティブ機能を簡素化し、 動画再生に的を絞った規格がビデオCDです。 CD-I FMV (Full Motion Video) とも呼ばれます。



White Book Family

VIDEO CD 1993年
White Book で規定されました。 MPEG−1圧縮により、最大74分の動画と音声が記録可能です。 カラオケCDの規格を一部変更し、高精細静止画、 メニュー再生などの機能が追加されています。 物理フォーマット的には、CD−ROM XAに属します。


CD-I Bridge
CD−I情報を、 CD−ROM XAディスクへ記録するための方法を定義した仕様セットです。 フォトCDとビデオCDで使用されています。 この規格により、CD−ROM XAのメディアが、 CD−Iプレーヤでも再生可能となります。

Orange Book Family

CD−Rの断面
CD-MO 1990年
ソニー、フィリップス社により、Orange Book PART1 で規定されました。 光磁気記憶方式を応用した、書き替え可能なメディアです。 一般用途向けに製品化はされなかったようです。


CD-WO (CD-Write Once) 1990年
Orange Book PART2 で規定されました。 この規格に基づく実際の製品が、 現在普及しているCD−R (CD-Recordable) です。 また、CD−Rという名前は太陽誘電社が開発した追記型CDの商品名でした。


CD-R の構造
CDの構造と異なる点は、反射層と基板の間に記録層(色素 - Organic Dye)があることです。(図4)
また、基板にはグルーヴ (Groove) と呼ばれるレーザーの案内溝があります。 ブランクのCD−Rメディアでは、プレスCDのピットに相当するものがないため、 グルーヴはレーザーを導く目的で設けられています。


CD-R の記録方法
CD−Rメディアに記録するためには、CDと同一波長(780nm)で、 数十倍強力なレーザー光を照射し、グルーヴの部分に集中させます。 レーザーを、有機色素の記録層が吸収・発熱し、局部的に 300 ℃の温度になります。 この温度上昇によりプラスチック基板の変形、 および記録層の色素分解による屈折率変化が起こり、 光干渉条件が変化して、ピットに相当する部分が形成されます。


セッション
CD−ROMにデータを記録する際、データの前に「Lead In」、 データの後に「Lead Out」というものがセットになり、 Lead In−Data−Lead Out という3つをまとめて1つのセッションといいます。
Lead In には、データ部分のファイル情報などが書き込まれていて、 これをTOC(Table Of Contents)といいます。 1つ目の Lead Out では 8.8MBytes、 2つ目以降の Lead Out では 4.4MBytes の無音データが書き込まれ、 これは Red Book との互換性のために書き込まれ、セッションの終わりを示しています。
このことから、Track At Once 書き込みの場合、まずデータを書き始め、 その後セッションを閉じる為に Lead In、Lead Out と書き込み、 セッションを完了させます。
Disk At Once 書き込みの場合、Lead In、Data、Lead Out の順に書き込みます。 (レーザーの出力が途切れることはありません。)


PCA と PMA
CD−ROMでは、メディア最内周に Lead In が存在しますが、 CD−Rでは、Lead In のさらに内側に PCA(Power Calibration Area)、 PMA(Program Memory Area)という領域が存在します。
CD−Rドライブでは、動作温度(気温)やメディアの種類によって、 レーザーの出力を調節しています。 レーザーが強すぎても弱すぎても、正常にピットを刻むことが出来ないためです。 レーザーの強さを調整する事を Calibration といい、 この Calibration を行う領域がPCAです。
PMAは、トラックの先頭及び末尾のアドレスを保存しています。 この領域により、CD−DAを1トラックずつ書き込むことが可能となっています。 Track At Once 書き込みで、1つのセッションを閉じるとき書き込まれる Lead In は、 このPMAのデータを参照しています。


ISO9660 Interchange Level と ファイル名の規格
CD−Rにデータを記録する際に、読み出しを行うOSによって、 ファイルの命名法が変わります。


ISO9660 Level 1
最初に作られた ISO9660 Level1 は、 DOS を含むほとんどのOSで読み込むことができますが、 そのため、ファイルのレコーディングと命名法に制限があります。 具体的には、ファイル名8桁、拡張子3桁、ディレクトリは8桁となっています。 使用を許される文字は、大文字の A 〜 Z、数字の 0 〜 9、 それにアンダースコア (_) を加えた37文字だけです。 また、ファイルは、断片化したりインターリーブさせずに、 連続したバイトストリームとして書き込む必要があります。


ISO9660 Level 2
Level1 から文字制限を緩め、31文字までの使用が許されています。 レコーディングに関して、Level1 と同様の制限があります。


ISO9660 Level 3
Level2 からレコーディングの制限を外しています。


RockRidge
UNIX OS で使われるファイルシステムで、 SunMicrosystems 社を中心としたグループにより規定された、ISO9660 拡張仕様です。 ISO9660 でのファイル名の制限はなくなっています。 また、ファイルに対して実行のパーミッションを設定することが可能です。


Joliet
Microsoft 社が Windows95 用に開発した規格で、CD上でロングファイル名が扱えます。 Joliet では、スペースを含む64文字までの文字をファイル名に使用でき、 ユニコード国際文字セットも使用できます。 また、(8+3) 文字のDOSファイル名も同時に記録するため、 ロングファイル名をサポートしないOSでも読み出すことが可能です。


Romeo
スペースを含む128文字までの名前をつけたファイルを、 CDに書き込むことが出来る規格です。 Joliet と異なり、ユニコードはサポートされません。 また、DOSファイル名の同時書き込みを行わないため、 OSによっては、読み出し不可のファイルシステムとなります。 また、ファイル名が31文字以下の場合、Macintosh OS で読み出すことが出来ます。


CD-RW (CD-ReWritable) 1996年
Orange Book PART3 で規定されました。 レーザーの熱で構成物質に、結晶と非結晶(アモルファス)を作り分けます。 結晶はレーザーを反射し、非結晶は拡散させます。 Rewritable の名前が示すように、1000 回程度の書き換え(或いは消去)が可能です。 また、レーザーの反射率が低いため、読み出しにAGC(Auto Gain Control) と呼ばれる増幅回路が必要となり、 対応していないドライブでは読み出しが行えません。 AGCに対応したドライブを「MultiRead」対応と呼びます。


相変化メディアの記録方法
相変化ディスクは、記録層の「相」を可逆的に変化させることで、 記録、書き換えを行うメディアです。 記録部分では、素材はアモルファス(非結晶)相であり、比較的反射率が低く、 逆に消去部や未記録部は結晶相であり、比較的反射率の高い状態となっています。 この二つの相の反射率の違いをグルーヴに沿って読み取ることで読み出しを行います。
記録部の形成には、比較的高パワーな記録ビームを適切な変調をかけて照射し、 記録材料を融点付近の高温まで昇温させ、その後急激に冷却させます。 すると、高温でのランダムな状態が凍結されアモルファス相となります。 また、消去部の形成には比較的低パワーの記録ビームを照射し、 結晶化転移温度まで昇温させ、その後徐々に冷却させます。 これによりアモルファス相は結晶相に変化します。

Blue Book Family

Mixed MODE CD
規格として定まっていませんが、 第1トラックにデータ(CD−ROM或いはCD−ROM XA)、 第2トラック以降にオーディオが記録され、 シングルセッションで構成されたメディアを指します。 Combined Disc とも呼ばれます。


CD Extra 1995年
アップル、マイクロソフト、ソニー、フィリップス社が考案し、 ソニーとフィリップス社により、Blue Book で規定されました。 マルチセッションの構成中で、第1セッションがオーディオ、 第2セッション以降にデータ(CD−ROM XA)が記録される規格です。 Blue Book が策定されるまでには、CD Plus、Enhanced Music CD とも呼ばれていました。

Scarlet Book Family

SACD (Super Audio CD) 1999年
ソニー、フィリップス社による規格で、今夏にも製品の市場投入が予定されています。 仕様書は Scarlet Book と呼ばれます。 SACDの主な特徴は、DSD (Direct Stream Digital: 1bit の信号を 2.8224MHz の周波数で記録) 技術を用いた、 CDDAの4倍の密度の信号記録層と、CDDAと同じ記録層を持つ、 2層構造のハイブリッド・ディスクであることです。 この2層構造により、CDDAと互換性を持つ仕様が実現されています。 この点で、DVD-Audio と差別化が図られています。
高密度層には2チャンネルステレオのほか、 マルチチャンネルによるサラウンド音声も記録できます。 また、テキストやグラフィックス、ビデオクリップなどを記録することも可能で、 演奏時間はどちらの記録層も74分と、CDDAと同じです。