鉄道旅行への誘い

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 小さな頃から列車に乗るのが大好きだった。出かけるときはいつも電車で、それも運転室のすぐ後ろのかぶり付きが指定席だった。「大きくなったら新幹線の運転士になるんだ」と無邪気に思いこんでいた。
 その夢は叶わずじまいだったけれど、今でも旅行といえば鉄道である。「鉄道で行く」と言うとさまざまな反応が返ってくる。曰く「小回りが利かない」「時間がかかる」「切符の手配が面倒」「運賃が割高」等々。移動手段としてだけ考えるのなら、そんな一面もあるかも知れない。けれど、鉄道旅行にもそれなりの良さがあるのだ。
 一人旅が多いせいもあるのだろうが、なぜか地元のお年寄りに声をかけられる(若い仲間と知りあうこともたまにはあるが)。世間話から始まって身の上話までたっぷりと聴かされ、「あんた気に入った。今晩うちに泊まっていきなさい」などと誘われたり、老人会の宴会旅行にいつの間にか引き込まれてお酒をご馳走になっていたり....。
 そんな具合に見知らぬ人との束の間のふれあいがある。時間がかかるということは、それだけ日常から離れて旅に出たという実感を高めてくれる。席さえ確保できてしまえば、うたた寝をしているうちに予定どおりに目的地に着く。そして夜汽車の移りゆく車窓の風景を肴に飲むビールの旨さ....。これこそが鉄道旅行の醍醐味だと私は信じている。
 東に新しい車両が登場すれば乗りに行き、西に廃止になる路線があれば「ご苦労さま」と言ってやり、南に新線が開通すれば駆けつけ、北に美味しいと評判の駅弁があれば食べに出かける。そういう人に私はなりたい。(あれ、もうなっているのかな???)(99年11月)

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