コスモ三国志





第一章 カント大戦


「丞相閣下、まもなく惑星カントへの最終ワープに入ります。ご準備を」
 首席参謀のカクカが、ソウソウに告げた。すると、同じく参謀のテイイクが、
「わが国は、今回の戦闘に軍隊の大部分を出撃させ、母星キョトに残した守備兵は、わずかです。いっぽう、敵のエンショウ軍は、わが国の五倍以上の兵力を有しています。敵にこちらの動きを察知され、キョトが襲われれば、わが国は壊滅的な打撃を被ります」
 と、心配顔で言った。
「その心配は無用だ。余はエンショウの性格をよく知っている。あの男は、機を見るに敏でない。そのような電撃的作戦を実行できるわけがない」
 というと、ソウソウは、静かに目を閉じた。
「ごもっともです」
 カクカが、うなずいた。
「ワープ開始!」
 威風堂々としたソウソウ軍の宇宙艦隊は、次々と漆黒の宇宙空間の狭間へ溶け込んだ。


「宇宙が、血を流している」
 カントの大地で、天を見上げていた男が、つぶやいた。男の名は、リュウビといった。
 かつて大気ある星から眺める宇宙は、青白く輝いていたという。しかし、現在の宇宙は、全体が赤茶けて見えた。長年に渡って宇宙全体にまき散らされた放射性物質は、銀河系の外観さえも変えてしまっていた。
 宇宙汚染が顕在化した当時の人々は、次のような言葉を口にしたという。
「蒼天すでに死す」
 二十二世紀初頭、銀河系内のほとんどの恒星系の探査を完了した人類は、少なくとも銀河系においては、人類が最も進んだ知的生命体であるという結論を出した。それから一世紀を経て、人類は巨大な銀河帝国を築き上げた。銀河帝国は、銀河系を十三の州に分割して統治した。ヨ州、キ州、エン州、ジョ州、セイ州、ケイ州、ヨウ州、エキ州、リョウ州、ヘイ州、ユウ州、コウ州、そして帝都特別州の司隷校尉である。しかし、長期政権は、とかく政治腐敗を生み出す要因となる。二十七世紀になると、政権内部では派閥抗争が繰り返され、役人は己の利益だけを求めて血まなこになっていた。当然ながら、中央の権力は弱まり、各州に派遣されていた州長官は、君主や国王と称し、帝国からの独立を宣言した。彼らは領土を拡大するため、互いに争い合った。また、州長官の下に位置する各恒星系の統治官の中からも、帝国や州から独立しようとする者が現われた。さらに、帝国の圧政に苦しむ民衆も蜂起した。彼らは黄金色に光り輝く宇宙船で宇宙を荒らし回ったことから、黄金賊と呼ばれた。形骸化した銀河帝国に、これらの動きを抑える力はなかった。そこで、銀河帝国は、君主を名乗る者たちに、黄金賊討伐の見返りとして自治権を認めた。これで中央集権は完全に崩壊した。この政策のおかげで、巨大な権力を手中にしたのが、リョウ州長官の下で軍事担当官を務めていたトウタクだった。トウタクは州長官から奪い取った屈強な軍隊を用いて、黄金賊を次々に攻め滅ぼした。帝都である惑星ラクヨウへ上ったトウタクは、皇帝を謀殺すると、皇家の血筋を引く幼子を新帝に据え、自らは行政官のトップである丞相の地位に就いた。トウタクは独裁者となって帝国以上の暴政を行ったため、他の君主たちは、トウタクに対抗するために連合した。連合軍に敗れてラクヨウを追われたトウタクは、自らの拠点に近い惑星チョウアンに遷都して、政権を維持しようとした。だが、帝国の役人であったオウインの計略で配下のリョフ将軍に裏切られ、命を落した。トウタクが死亡すると、それまで連合していた君主たちのあいだで侵略戦争が再発した。
 冒頭に登場したソウソウや、彼と対立するエンショウは、そうした君主の一人である。ソウソウは中央政府の役人だったが、トウタク暗殺に失敗し、故郷のエン州へ逃げ落ちた。やがて、エン州とキ州、ヨ州の一部を征服して君主となり、強大な星間国家を築いた。いっぽう、エンショウは、銀河帝国の大臣を歴任する名門の家系の出身で、ユウ州、ヘイ州、セイ州、そしてキ州の大半を領土とする大君主だ。キ州に領土をもつ両君主が激突するのは当然の成り行きであった。
 キ州にある惑星カントは、ソウソウ領に接するエンショウ軍の前線基地だ。カント基地には、ソウソウ軍出撃の情報を得たエンショウ軍各部隊の指揮官が、すでに集結していた。もちろん、その中には君主のエンショウの姿もあった。
「ソウソウめ。あれしきの軍勢で、わが軍に勝てるとでも思っているのか」
「しかしソウソウは乱世の姦雄と呼ばれる男です。充分に注意してかかりませんと……」
 参謀のデンホウが進言した。
「ソウソウ軍艦隊は、カントより四十二万スペースマイル前方の小惑星帯に、ワープアウトしました」
 と、レーダー探査官が告げた。
「こしゃくな。目にものを見せてくれるわ。誰か、ソウソウ軍をねじ伏せてやろうという者は、おらぬか?」
 エンショウが一同を見回すと、
「私めが、参りましょう」
 と、歩み出たのは、エンショウ軍の中でも、ひときわ勇猛な武将と名高いガンリョウ将軍だった。
「おお、お主が行ってくれれば心強い。ひと思いにひねり潰して参れ」
 エンショウはガンリョウに百隻の機動艦隊を与え、小惑星帯に向かわせた。
 小惑星帯に布陣を完了したソウソウ軍は、迫りくる敵の船影をキャッチした。早速、軍議が開かれる。
「先鋒隊を希望する者はおるか?」
「わしに、お任せを」
 と、黒々とした長い顎髭をはやした大男が、間髪を入れずに、応答した。
「おお、カンウ将軍か。しかし、客人である貴公に先陣を申しつけるのは、いささか心苦しいのだが……」
「なんの、これしき。食後の運動にもなりますまい」
 カンウ将軍は自信に満ちた表情で、自慢の顎髭を撫でる。
「では、チョウリョウを援護につけよう」
「いや、百隻の艦隊なんぞ、わし一人で十分。ごゆるりと、ご観戦を」
 そう言い残すと、カンウはたった一隻の宇宙戦艦で出撃した。その戦艦の装甲板は、一面が、まるで血のような深紅色であった。この戦艦こそ、かつて銀河一勇猛と、その名を轟かせたリョフ将軍が保有していた戦艦セキトだった。リョフが、ソウソウとの戦いに敗れて死ぬと、この伝説的な名艦はソウソウの手に渡った。そして、ソウソウは、自分に投降したカンウ将軍の歓心を買うために、惜し気もなく与えたのであった。
「カンウ将軍の旧主であるリュウビは、現在、エンショウ軍に身を寄せております。それを知っていて、裏切るつもりかもしれません」
 カクカが、ソウソウに耳打ちした。
「カンウはリュウビの消息を、まだ知らん」
 と、ソウソウが答えた。
 リュウビは、帝国皇帝の遠い血筋に当たる。だが、彼がこの世に生を受けたとき、すでに帝国は有名無実の存在になってしまっていた。リュウビは、帝国再建を目指して立ち上がったが、宇宙全域に広がった混乱は、すでに彼一人の力では、どうにもならないほど進行していた。彼はトウエンという惑星で出会ったカンウとチョウヒという二名の豪傑と意気投合し、義兄弟の契りを交した。
 時が経て、カント大戦の数年前に話は移る。このころ、リュウビ、カンウ、チョウヒの三人は、ジョ州を支配するトウケンの下に身を寄せていた。リュウビの人柄に魅せられたトウケンは、後継者に恵まれなかったこともあって、領地をリュウビに禅譲した。野心家のソウソウが、この好機を見逃すはずがなかった。銀河帝国丞相の地位にあるソウソウは、皇帝の名を使い、リュウビに黄金賊残党の討伐を命じた。それがソウソウの罠と知りながらも、銀河帝国を重んじるリュウビは、皇帝の勅命に逆らうことができなかった。かくして、リュウビがジョ州を離れた隙に、ソウソウはジョ州を攻め取った。このとき、ジョ州の警備を任されていたカンウ将軍は、己の失態を恥じて自害しようとした。しかし、親交があったソウソウ軍のチョウリョウ将軍に説得されて「身分をソウソウ臣下ではなく帝国臣下とすること」「リュウビの家族の生命を保証すること」「リュウビの消息が判明したら戻るのを許めること」の三つを交換条件に、ソウソウ軍に投降したのであった。
(カンウがガンリョウを殺せば、エンショウは、報復としてリュウビを殺すだろう。そうなれば、カンウは主人を失い、永遠に自分の配下になる)
 と、ソウソウは目論んだ。ソウソウは、それほどカンウの武勇を買っていた。
 いっぽう、リュウビがエンショウ軍にいることを知らないカンウは、自分が提示した条件をすべて呑んだソウソウに報いるため、手柄を立てることしか頭になかった。リュウビの消息が判明して自分が立ち去るときの置き土産として……。
 ガンリョウ艦隊の前に、一隻の深紅の宇宙戦艦が立ち塞がった。その戦艦を見たとたん、ガンリョウ軍の兵士たちが狼狽える。
「あれは、伝説の戦艦セキトではないか!」
「リョフは、生きていたのか?」
「相手がリョフでは、勝ちめがない!」
 ガンリョウは、いきり立った。
「者ども、ひるむな。リョフは、とうの昔に死んでいる。これはソウソウの謀略だ」
 と、鼓舞する。しかし、その赤い戦艦は、凄まじい強さだった。一隻、また一隻とガンリョウ軍の艦船が宇宙のもくずと化していく。もはやこれまでと覚悟を決めたガンリョウは、最後に自分を倒した勇者の名を尋ねるべく、敵戦艦に打電した。
「その艦はセキトか? 艦長は、まさかリョフ将軍ではあるまいな?」
 マルチスクリーンに、立派な髭を生やした赤ら顔の大男が映し出された。
「いかにもこの艦はセキト。だが、わしの名はカンウ。御身にはなんの恨みもござらんが、これも運命。命は頂く」
 セキトから発射されたミサイル群が、確実にガンリョウ艦を貫いた。
「カンウ……。では、リュウビ将軍の……」
 ガンリョウが呟いた。
「なにっ! 今、なんと申された? 兄者のことを、なにか、ご存じなのか?」
 スクリーン越しにカンウが血相を変えて尋ねた。しかし、その瞬間、ガンリョウ艦は紅蓮の炎に包まれて、通信が途絶えた。
 カントの司令本部は喧騒に包まれていた。「ガンリョウ旗艦の航跡が、途絶えました。おそらく、敵の攻撃で破壊されたものと思われます」
「なんと……。あのガンリョウを破る強者が、ソウソウ軍におると申すのかっ!」
 エンショウが怒鳴った。
「ボイスレコーダーを再生します」
 通信士が受信機を操作すると、司令室内に、太く雄々しい声が再生される。
〈……わしの名はカンウ……〉
 エンショウの部下たちが、ざわめいた。
「リュウビはソウソウ軍のスパイで、わが軍の機密を敵に流しているに違いありません。そうでなければ、あのガンリョウ将軍が敗れるはずありません」
 と、部下の一人がエンショウに訴えた。
「うむ。それはまちがいないであろう」
 元来、短期な性分であるエンショウは、すぐにリュウビを連行しろと、部下に命じた。エンショウから死刑を宣告されたリュウビは、落ち着き払って言った。
「わたしの命など、惜しくはありません。ただ、今まで受けたご恩に報いるために、一言だけ、言わせていただきたく存じます。ソウソウは策略にたけた男です。あらゆる手練手管で、われわれを撹乱しようとするはずです。十分に、ご注意ください」
 リュウビは、エンショウに平伏した。エンショウは、しばらくじっと考えていたが、やがて、
「お前たちの、つまらない憶測のおかげで、危うくソウソウの策略にはまり、大事な客将を失ってしまうところだった。今後、余計なことを口走れば、断じて許さんぞ」
 と、部下たちを叱責し、司令室を出ていった。それを見たデンホウは、
「あのように優柔不断な性格では、天下統一など望めますまい。仕える君主を誤ったのも、私自身の不徳か……」
 と、誰にも聞こえないようにつぶやくと、肩を窄めた。
 カント基地の君主室でエンショウが塞ぎ込んでいると、一人の男が入ってきた。ガンリョウと並ぶエンショウ軍の猛者、ブンシュウ将軍だった。
「私とガンリョウは、義兄弟の誓いを交した仲です。是非とも義弟の仇を討たせて下さい」 ブンシュウがエンショウに訴えた。エンショウは、緒戦に敗れて気がむしゃくしゃしている。二つ返事で出撃を許可すると、二百五十隻の艦隊を委ねた。
 そのころ、ソウソウ旗艦の作戦司令室では、ソウソウが、カクカと情勢分析を行っていた。
「わが軍は、エネルギーも弾薬も少なく、長期戦は不利でございます。そこで、ひとつ、策がございます。エンショウ軍は、エネルギーの補給を、衛星ウソウで行っております。ここを叩けば、条件は互角です」
 と、カクカが言った。
「なるほど。しかし、敵の守備艦隊を引き離さなければならないな」
 と、ソウソウが指摘する。
「はい。ですから、カコウジュン将軍、カコウエン将軍の陽動艦隊で、カント基地を攻撃します。敵が迎撃してきたら、ウソウと逆方向へ、敵艦隊を引きつけながら退却させ、その隙にチョウリョウ将軍たちにウソウを攻撃させます」
 と、カクカが言い終えたとき、司令室内に、エンショウ軍艦隊接近の知らせが届いた。
(向こうから来てくれたか)
 ソウソウは、カンウを司令室に呼んだ。
「エンショウ軍が、雪辱戦を挑んできた。すまないが、もう一働きしてはもらえぬか」
「お安い御用。……ところで、ガンリョウ将軍は、兄者、いや、リュウビ将軍について、なにかを知っておるような口ぶりでしたが、丞相はお心当たりございませぬか?」
「いや、なにも……。もし、情報が入れば、なにをおいても将軍にお知らせしよう」
 ソウソウは、素知らぬ顔で答えた。
 ガンリョウの仇を討つため、勇んで出撃したブンシュウだったが、彼もまたカンウの敵ではなかった。またたく間に、全滅の憂き目をみた。
 その頃、カコウジュン、カコウエン麾下の陽動艦隊は、カント基地を攻撃していた。カント基地に残っていた全艦隊が、エンショウの命令で発進した。カコウジュン、カコウエンの艦隊は、それぞれ二百五十隻。対するエンショウ軍は、総数六千隻。数では勝負にならなかったが、ソウソウ軍は、攻撃してはすぐに後退するヒット・アンド・アウェー戦法で善戦していた。
「こっ、こしゃくな……。全艦隊、追撃せよ。ソウソウ軍を叩き潰すのだっ!」
 エンショウが号令した。
「それはなりません。エネルギーの少ないソウソウ軍の狙いは短期決戦です。みすみす敵の策略に乗ることはございません」
 デンホウが、たしなめた。
「きさまっ、君主に指図する気か! ガンリョウ、ブンシュウという優秀な武将を失った軍の士気を高めるためには、敵の名だたる武将を討ち取るしかないのだっ!」
「しかし、防衛に専念すれば、敵は攻める手立てをなくし、退却するしかございません」
「だっ、黙れ! わが軍の勝利に水をさすつもりか? あるいは、貴様、ソウソウに通じているのではあるまいな」
 度重なる敗戦で冷静さを欠いたエンショウは、聞く耳を持たなかった。
「めっそうもございません」
「きさまは作戦の邪魔だ。もう用はない」
 エンショウは、部下に命じて、デンホウを投獄してしまった。
 ソウソウ旗艦のカクカに、カコウジュン将軍から通信が入った。
「エンショウ軍艦隊が、攻勢に転じました」
「よし、では、反撃しながら、じりじり退け。できるだけ、カントから引き離すのだ」
「了解(ラジャー)」
 カクカは、次に、小惑星帯で待機しているチョウリョウ将軍に指令を送った。
「現在、カコウジュン将軍たちが、エンショウ軍の主力艦隊を、カントから引き離している。指示があり次第、ウソウへ小ワープを行え」
「了解(ラジャー)」
 衛星ウソウのエネルギー基地の責任者は、ジュンウケイ守備隊長であった。戦場から離れているせいか、緊張感に乏しく、ジュンウケイは、酒浸りの毎日だった。
「守備隊長。こちらに向かってワープしてくる複数の宇宙船の航跡を、捉えました」
 次元レーダー探査官が、ジュンウケイに報告した。
「たぶん、わが軍の補給部隊だろう。ゲートを開いてやれ」
 ジュンウケイが酒をあおりながら命じた。
「確認を怠るのですか?」
 部下がジャンウケイに聞き返した。
「ソウソウ軍が、わが軍の包囲網をかいくぐって、こんな衛星まで来られるわけがない。まあ、一応、ビーコンを打ってみろ」
 もちろん、この艦隊はチョウリョウ将軍たちのウソウ攻撃隊だ。しかし、ソウソウ軍は、密かにエンショウ軍の識別信号のラジオビーコンを解読していた。当然、チョウリョウ艦もエンショウ軍の偽ビーコンを発している。
「守備隊長、わが軍の識別信号を確認いたしました」
「それ、みろ。タグシップを発進させ、A−23番ポートに誘導しろ」
 ジュンウケイは、けだるそうに部下に命令すると、グラスに酒を注いだ。その瞬間、基地が大きく揺れた。
「どっ、どうした!」
「艦隊が基地に攻撃を開始しました。ど、どうやら敵の偽装艦隊だったもようです」
「ばか者。それしきのことが、なぜ見破れんのだ。すぐさま、迎撃しろ!」
 ジュンウケイは自分の怠慢を棚に上げて、部下を叱りとばす。ウソウ基地は、まるで戦闘態勢が整っていないうえに、軍の規律も司令系統も、緩みっ放しだ。エンショウ軍の迎撃部隊は全滅し、エネルギー基地は、壊滅的打撃を受けた。ここにエンショウ軍とソウソウ軍の形勢は完全に逆転した。
 ウソウを失ってエネルギーが補給できなくなったエンショウ軍艦隊が、惑星カントの防衛線を保持することは不可能だった。
「やむを得ん。ここはひとまず退却する。全艦、ワープ!」
 エンショウは苦々しい顔で命令した。


 カントの戦いでエンショウ軍は大敗を喫し、戦線をキ州、セイ州の奥深くまで後退させなくてはならなかった。エンショウに殺されかけたリュウビは、ここで一計を案じた。
「このままでは、わが軍の不利は否めません」
 と、エンショウに申し出る。敗戦で苛立っているエンショウは、語気荒く、
「そんなことは、百も承知だ」
 と、答える。リュウビは平然として、
「しかし、ソウソウは本拠地を空にして遠征してきています。今、自分の領地を他国から攻撃されれば、わが軍を追撃するどころではなくなります」
 エンショウは、なるほどと納得した。
「だが、ソウソウに立ち向かおうとする者がおるかのう」
「ケイ州のリュウヒョウ殿は、ソウソウと戦えるだけの軍事力を有しております。リュウヒョウ殿を説き伏せて背後から攻撃させ、ソウソウ軍がリュウヒョウ軍を迎撃した瞬間、わが軍が攻勢に転じて挟み討ちにすれば、勝利は間違いありません」
 エンショウの顔が晴れた。
「余もそれを考えておった。しかし、リュウヒョウを説得できるか?」
「わたしは、リュウヒョウ殿とは遠縁に当たります。必ずや説得してご覧にいれます」
 リュウビがうやうやしく頭を下げた。そのとき、
「この男は、わが君を騙して逃げる算段です」
 と、ソジュが叫んだ。エンショウは「余もそれを考えておった」と言ってしまった手前、自分の作戦にけちをつけられたようで、面白くない。
「なにを言うか。疑い深いやつめ」
 と、ソジュを怒鳴る。
「しかし、カンウが敵に組していることといい、この男は信用できません」
 と、ソジュは食い下がる。
「カンウは、私がエンショウ閣下にもてなしていただいていることを知らないのです。次の戦闘で、もしカンウが出陣してきたならば、『リュウビはエンショウ閣下の命令でケイ州へ向かっている』とお伝え下さい。必ずカンウはソウソウの下を離れ、わたしを追ってケイ州へ向かうはずです。そうなれば、わたしがカンウを説き伏せて、エンショウ閣下のために働かせましょう」
「おう。カンウを引き抜いてくれるのか。そうなれば、わが軍は一気に形勢を逆転できる」 エンショウは、先の大敗も忘れて、上機嫌になった。ソジュは、それでも異議を申し立てたが、主君に逆らう者として、デンホウ同様、投獄されてしまった。リュウビは計画通り、エンショウの下を離れて、リュウヒョウの母星であるケイ州のジョウヨウを目指して出発した。しかし、ジョウヨウまで一気にワープすることはできない。なぜならば、ワープバリアが張り巡らせてあるからだ。ワープ航法の発明は、長距離の宇宙旅行を可能にしただけでなく、各分野に様々な影響を与えた。最も影響を受けたのが、防衛構想である。いくら国境の防衛線を固めても、敵にワープで侵入されれば無意味である。その対処策として考案されたのが、ワープバリアだ。これは異時限空間を歪める装置で、無理にワープで通過しようとすれば、その宇宙船は次元断層によって粉砕されてしまう。この戦乱の時代に、各君主たちは、自分の所領内に幾重にもワープバリアを張り巡らせていた。いわば、宇宙の関所である。おそらく、ソウソウは、すでにカントにワープバリアを張っているだろうと予測したリュウビは、その手前の空間でワープアウトした。ソウソウ軍の主力部隊は、すでに母星キョトまで引き上げたようで、カントには、わずかな防衛部隊しか残っていなかった。リュウビは、ソウソウ軍に気づかれないように、カントに着陸した。あるいは、カンウについて、なにか情報がつかめるのではないかと、考えたのだ。
 リュウビはカントの地上から、宇宙を見上げた。
「また宇宙を汚してしまった。わたしに、もっと力があれば……」
 そこへ、一隻の戦闘艦が飛来した。リュウビは慌てて隠れようとしたが、船体に描かれた、星雲を突き抜けるベビードラゴンのマークを見て驚いた。それは、かつてリュウビが、ユウ州のコウソンサン将軍の下に身を寄せていたときに見た記憶がある戦闘艦だ。艦長は、若いながらも腕のたつ男で、名をチョウウンといったはずだ。リュウビ艦の隣に着陸したチョウウン艦の昇降口から、一人の凛々しい若者が降りてきた。その溌溂とした風貌は、まさしくチョウウンその人であった。
「リュウビ将軍ですね」
「おお、きみはチョウウンか」
 意外な再会であった。チョウウンは、主君コウソンサンが、エンショウに滅ぼされると、降伏はせずに、流浪の旅に出たのだ。
「かねてから、主君なきあと、お仕えするならば、リュウビ将軍をおいて他にはないと考えておりました。若輩者ですが、どうか臣下の末席にお加え下さい」
 リュウビは一方ならず喜んだ。ソウソウ領を通過しなければならないケイ州までの長い航海は、不安が山積していた。チョウウンのような勇将が加わるのは、大歓迎だった。リュウビはチョウウンに、これからジョウヨウに向かうことを打ち明けた。
「それならば、少し遠回りになりますが、コジョウを経由して参りましょう」
 と、チョウウンが言った。リュウビが、その理由を訪ねると、チョウウンは、
「あの星を、流れ者の大将が占領したという噂を聞きましたが、どうやらそれが、チョウヒ将軍らしいのです」
 と答えた。リュウビは、わが耳を疑った。
「チョウヒが生きていたのか」
「わたくしが護衛を務めます。すぐに向いましょう」
 リュウビ艦とチョウウン艦は、カントを離陸した。リュウビたちは、ソウソウ軍の防衛部隊の監視の目をかいくぐって、ワープバリアを抜けるのに成功した。いや、一、二隻の敵艦に発見されたが、チョウウン艦が素早く撃破した。チョウウンは、まさしく一騎当千の若武者であった。
 そのころ、エンショウは、カンウをソウソウ軍から離脱させる計略を練っていた。リュウビから「カンウが出撃してきたら、自分の消息を伝えれば裏切る」と言われたものの、それを待っていたのでは遅すぎる。カント大戦では完敗したエンショウだが、彼とて、周辺の君主を倒して大勢力を築いた男である。まったく無能な人物ではなかった。エンショウは、ソウソウ陣営に、配下のチンシンを送り込んだ。チンシンは、カンウに接触すると、「リュウビ将軍は、只今、エンショウ閣下の主命で、ケイ州のリュウヒョウ殿に会いに向かっています」
 と、耳打ちした。
「それは、まことですか?」
 カンウは赤ら顔を、興奮でさらに朱に染めて尋ねた。
「リュウビ将軍より書状を預かっております」
 チンシンは、カンウに一通の手紙を渡した。この時代の通信手段は、ニュートリノを利用するのが一般的だった。しかし、軍事機密などの最重要情報は、相変わらず人間が仲介していた。通信技術と盗聴技術は、常に並行して進歩しており、いかに通信手段が進歩しても、確実な盗聴防止法を作れないためだ。その場合、通常はデジタルデータを記録したマイクロチップを使用したが、儀礼的な書状は、わざわざ紙に文字を書くという古式ゆかしいものもあった。
 カンウはリュウビの書状を広げ読んだ。
『カンウよ。きみは、わたしとトウエンで堅い契りを誓った義兄弟であるのに、なぜ、逆賊ソウソウに加担しておるのか。もし、心変わりして、地位や名誉、富を求めるようになったのならば、わたしは、きみのために、喜んで、この首を差し出そう』
 カンウは、ほろりと涙をこぼした。もちろん、これは、エンショウが作った偽書である。「兄者は、誤解しておいでになる。わしがソウソウに降ったのは、兄者のご家族をお守りするためです。そして、ソウソウとのあいだに、兄者の消息が判明すれば、すぐに戻っても構わないという約束を交わしているのです」
 カンウは、まるでリュウビ当人に弁解するかのように、落涙しながらチンシンの襟元を掴み、せつせつと訴えた。
「兄者にお伝え下さい。このカンウは、たとえ宇宙の星々が、全て星屑になっても、決してトウエンの誓いをたがえるような男ではないと!」
 チンシンは、十分な成果をあげると、キョトを立ち去った。
 カンウは、すぐさま主君の下へ、馳せ参じようとしたが、彼は大変に義理固い男である。無断でソウソウの下を離れることはできなかった。彼は、毎日、丞相府を訪問したが、カンウの目的が暇乞いであると察知したソウソウは、仮病を使って会おうとはしなかった。カンウは、これ以上がまんができなくなると、ソウソウへの置き手紙を、これまで下賜された数々の宝物とともに残し、キョトを飛び立った。乗船した戦艦セキトもソウソウから与えられたものだったが、これだけは、しばらく拝借することにした。セキトがキョトの引力圏を脱すると、ソウソウ軍の艦隊が迫ってきた。セキトに通信してきたのは、ソウソウ本人であった。カンウは、ソウソウに直接、別れの挨拶を告げなかった非礼を詫びた。そして、ソウソウの下を去る了解を求めた。
 ソウソウは考えた。カンウを止めるのは不可能だろう。カンウとはリュウビの消息が判明すれば、軍を離れてもいいと約束している。選択支はふたつだけだ。認めるか、殺すかである。いずれにせよ、カンウを失うことに変わりはない。だが、仮りにカンウを殺せば、カンウを説得して投降させたチョウリョウの面目を失わせる。責任感の強いチョウリョウは、自ら命を絶って、カンウに詫びるだろう。そうなれば、一度に二人の有能な武将を失う。一人失うか、二人失うか。答えは明瞭だった。ソウソウは、カンウの申し出を承諾すると、自艦のエネルギーをセキトに補給してやり、カンウを見送った。
 だが、ソウソウは、カンウが離脱したことを、各ワープバリア地点の守備隊長には通達しなかった。カンウを解放するのは、虎を野に放つも同様だ。自分が約束を守ったことで、とりあえずチョウリョウの顔は立ったのだから、このあと、守備隊が、誤ってセキトを撃破したとしても、なんの問題もない。もちろん、カンウほどの武将が、一介の守備隊長ごときに殺されることは、万が一にもありはしまいと、ソウソウは確信していた。だが、多少の足止めにはなるだろう。このとき、ソウソウは、リュウビがまだエンショウ軍にいると誤認していたので、カンウが合流する前に、エンショウを叩き潰してしまおうと、企てたのだ。
 カンウがソウソウ領を抜け出すためには、いくつかのワープバリアを越えなければならなかった。ワープバリアは領内からの逃亡者を監視する役目も果たしていた。最初のワープバリアは惑星トウレイに張られていた。この星は、コウシュウという男が守備隊長を務めていた。セキトがワープアウトすると、すぐさまコウシュウからの通信が入った。ここを通るには、ソウソウの許可証が必要だとコウシュウはカンウに告げた。
「あいにく、急な出発で、丞相の証明はいただけなかった」
 と、カンウが答えると、コウシュウは通行を拒否した。リュウビの所在を知らされて矢も楯も堪らぬカンウは、強硬突破を試みた。
「無理に通ろうとするならば、攻撃しなければなりません」
 コウシュウは、最終通告をカンウに突き付けた。カンウはわずか一隻、トウレイには五十隻の戦闘艦が配備されている。当然、カンウは諦めるであろうとコウシュウは推測した。
「ならば、腕ずくで通るまで」
 コウシュウの意に反して、カンウは強引に通過しようとする。トウレイから艦隊が発進してセキトに一斉砲火を浴びせるが、天下無双の名艦はびくともしない。カンウは巡洋艦や駆逐艦には見向きもせず、コウシュウ艦に標的を絞る。主砲から発射されたまばゆい閃光は、たったの一撃で、コウシュウ艦を木端微塵に打ち砕いた。司令官を失ったトウレイ艦隊は、攻撃も退却もできず、その場に立ち往生した。
「コウシュウはやむを得ず殺したが、これ以上、戦闘する気はない。おとなしく航路を開けろ」
 と、カンウが威嚇すると、艦隊は航路をカンウに譲り、トウレイまで退却した。
 カンウがトウレイを強硬突破したことは、次のワープバリアを守るカンプクにすぐ連絡された。ここは、かつての帝都ラクヨウに最も近い防衛線で、トウレイよりも警戒が厳重だった。艦隊以外にもプラズマ衛星砲や磁気モノポール砲などが配備されている。プラズマ衛星砲は、衛星内に蓄積されたエネルギーをプラズマに変えて敵に発射する砲撃装置で、最大効力にすれば、衛星本体を衝突させるのに等しいダメージを与えられる超兵器だ。磁気モノポール砲は、磁気単極子を発生させ、物体の動きを停止させる装置だ。
 トウレイと同様の遣り取りが、カンウとカンプクのあいだで交わされた。カンプクは磁気モノポール砲でセキトの動きを封じると、プラズマ衛星砲を発射した。第一弾で、さしものセキトも左舷艦尾の一部が破壊された。だが、カンウは冷静だった。すべての兵器を磁気モノポール砲に集中して破壊すると、セキトの制御を回復し、間一髪の差で、プラズマ衛星砲の第二弾を回避した。標的を逸したプラズマは、ラクヨウに落下し、惑星の一部を破壊した。プラズマ衛星砲は絶大な威力を誇るが、磁気モノポール砲などで敵を動けない状態にしなければ使用できないのが難点だった。もし、敵に回避されれば、このように自軍基地に大きな被害を与えてしまうからだ。磁気モノポール砲を破壊されたカンプクは、プラズマ衛星砲の使用を諦めて、大艦隊でセキトを攻撃した。だが、自在な動きを取り戻したセキトを、カンウは自らの手足のように扱い、カンプク艦を宇宙の塵にした。
 トウレイ、ラクヨウ守備隊が、次々に敗北したことを聞き、次のワープバリア地点であるキスイを守るベンキは、武力でカンウを阻止することは不可能だと知った。そこで、一計を案じた。カンウがキスイにワープアウトすると、ベンキから通信が入った。
「将軍の件は、丞相より伺っております。どうか、エネルギー補給のため、ご着陸下さい」 カンウは、ほっとした。約束を果たしてくれたソウソウの軍隊を破壊するのは、これまでも断腸の思いであった。ようやく、ソウソウから守備隊へ、通行許可の通達が届いたのだと安心した。
 キスイにセキトが着陸すると、ベンキ自らが出迎えた。
「宇宙の長旅、さぞやお疲れでしょう。今夜は、この星で、ごゆっくりお休み下さい」
 と言うと、ベンキは来賓用の官邸へ、カンウを通した。しかし、歴戦の勇者であるカンウは、殺気を感じ取った。
「武装した兵士を多数隠せというのも、丞相のご命令か。それとも、貴殿の策略か」
 と、ベンキを問い詰める。計略を見破られたベンキは、もはやこれまでと、官邸に伏せておいた兵士たちに、カンウを襲わせた。だが、白兵戦でもカンウは並ぶ者がない猛者だった。襲いかかる兵士をことごとく撫で斬りにすると、ベンキも一刀両断にした。
 その後のワープバリア地点の守備隊も、すべてカンウの敵ではなかった。カンウは合計で六つのワープバリアを突破し、ソウソウ領最後のワープバリアまで到達した。ここを守るのはカコウジュン将軍であった。国境のワープバリアを任されているだけあって、彼はこれまでの守備隊長とは格が違う。ソウソウ軍にあって、名の通った将軍である。カンウはカコウジュンとて倒す自信はあったが、彼はソウソウ軍の重鎮だ。彼を殺せば、ソウソウは大きな痛手となる。立つ鳥あとを濁さずというように、カンウはカコウジュンを殺したくなかった。だが、カコウジュンも自分の腕に絶大な自信を持っていた。ここを通りたければ、おれを倒して通れの一点張りである。やむを得ず、カンウが戦いの火蓋を切ろうとしたとき、数隻の戦艦がワープアウトして出現した。チョウリョウの艦隊であった。チョウリョウは両軍を執り成すと、カコウジュン艦にソウソウの書状を電送した。それは、カンウの通行を許可する証明書であった。リュウビがエンショウの下を離れたことを知ったソウソウは、これ以上の損害を出さないように、チョウリョウを派遣したのであった。さらに、ソウソウは、ある遠大な計画を実行するために、カンウをリュウビの下へ帰すことにしたのである。その遠大な計画については、後述しよう。ともあれ、カンウはついにソウソウ領の七つのワープバリアをくぐり抜けると、主君リュウビを追い求めて、ケイ州星域に向けてワープしたのである。


 ケイ州は、銀河系の中心バルジ部に位置する要衝である。銀河中心核側は司隷校尉とヨ州、その反対側はコウ州、そして渦巻腕部は、それぞれヨウ州とエキ州に接していた。
 他星域を支配する君主たちは、誰もがケイ州を狙っていたが、実際には誰も手を出さなかった。というのは、この州を攻略するには、かなりの軍事力を必要とし、さらに大きな損害も覚悟しなければならなかった。そして、支配下に加えたのちも、あらゆる方面からの攻撃に備えて、莫大な防衛兵力を必要とした。せっかく手に入れても、兵力が消耗したところを他の君主に襲われて、易々と奪われてしまったのでは、元も子もない。従って、どの君主も、無傷のケイ州に、最初に手出しするのを見合わせていた。誰もが、うまく他人に火中の栗を拾わせようとしていたのだ。このように、微妙な軍事バランスの均衡で、ケイ州は領土拡大戦争の嵐に巻き込まれることなく、台風の目のように穏やかに繁栄していた。ケイ州を支配するリュウショウは、戦争嫌いで、政治家というよりは、音楽や美術、文学などを愛する文化人だった。そのため、戦乱が続く他の星域を嫌った多数の文化人が、ケイ州に逃げ伸びて来ていた。
 州全体を巻き込む戦争はなかったが、末端星域では宇宙海賊が横行していた。というのも、ケイ州は宇宙を往来する宇宙船の中継点であり、長距離航海中の宇宙船は、ほとんどケイ州で一度ワープアウトする。宇宙船が最も無防備となるワープアウトの瞬間を襲おうというのだ。
 ようやくソウソウ領を脱したカンウもケイ州星域の入り口でワープアウトした。と、十数隻の海賊船に取り囲まれてしまった。セキトの能力を持って臨めば、これしきの海賊船を撃破するのはたやすかったが、ソウソウ領を離脱するために、かなりのエネルギーや弾薬を消費している。できれば戦闘は回避し、戦力を温存したかった。カンウは海賊船に打電した。
「きさまたちの要求は何か?」
 すると、予想もしなかった人物の顔が、セキトのメインスクリーンパネルに映し出された。それは、まぎれもなく義弟チョウヒであった。
「お前はチョウヒか! 生きておったのか! 心配していたぞ!」
 カンウは、スピーカーから、義弟チョウヒの「兄貴も無事だったのかい」というダミ声が返ってくるものと信じていた。しかし、スピーカーから流れたのは、
「黙れ! 裏切り者!」
 というチョウヒの罵声だった。
「裏切り者とは誰のことを言っておるのだ?」
 カンウは尋ねた。
「白ばっくれようとしても、そうはいかない。おれさまと、リュウビの兄貴を裏切り、ソウソウの手下になったそうだな。おおかたソウソウの命令で、ケイ州の偵察にきたんだろう」
「誤解だ。話を聞け……」
「問答無用!」
 カンウが事情を説明する前に、通信が遮断された。同時に、チョウヒ艦からミサイルが発射された。
「相変わらず気が短い男だ」
 カンウは苦笑しながら、全ミサイルを迎撃し、撃墜した。セキトの攻撃力を持ってすれば、反撃に移るのはたやすい。しかし、相手がチョウヒであると判明したからには、是が非でも戦闘を回避しなくてはならない。カンウはチョウヒに再三再四、呼び掛けたが、応答はない。そこでカンウは一計を案じ、リュウビの妻を司令室に招いた。そして、夫人からチョウヒに呼び掛けてもらった。義姉と慕う女性の呼び掛けで、ようやくチョウヒから応答があった。
「カンウ将軍は、決して裏切り者ではありません。わたくしたちの命を救うために、やむを得ず、ソウソウに降伏したのです」
「姉君も、その男に騙されておいでとは……」「なにを根拠に、そのようなことを言うのです」
「では、後方に出現したソウソウ軍艦隊を、どう説明するのです。おれを攻撃するために、カンウが手引きしたに違いない」
 カンウが、セキトの後方を探査する。たしかに、数十隻のソウソウ軍艦隊が、ワープアウトして出現している。カンウがワープバリアを突破したとき、シンキという武将を倒したが、シンキの叔父に当たるサイヨウ将軍が仇討ちのために追跡してきたのだった。
「あれは、わしとは無関係だ」
「ならば、あの艦隊を攻撃できるか」
 チョウヒがカンウに怒鳴る。
「もちろんだ」
 セキトが、サイヨウ艦隊に砲撃を加える。すでに臨戦体制だったサイヨウ艦隊も、セキトに集中砲火を浴びせ、反撃する。セキトは、サイヨウ艦隊の戦闘艦を、一隻、また一隻と撃沈していくが、いかんせん多勢に無勢で、じりじりと追い詰められていく。だが、チョウヒはセキトを援護しようとしない。と、そのとき、セキトを援護する船が、ワープして出現した。その戦闘艦の船体には、星雲を駆け昇るベビードラゴンのマークが記されていた。強力な援護射撃を受けて、セキトは態勢を立て直すと、サイヨウ艦隊を全滅させた。
「きさまは何者だ?」
 チョウヒは出現した戦闘艦に打電した。
「わが名はチョウウン。しかし、あなたが話すべき相手はわたしではない」
 と、チョウウン艦の後方を航海していた宇宙船からの通信が割り込む。
「相変わらず、喧嘩っ早い男だな」
 という苦笑まじりの懐かしい声を聞いて、チョウヒは腰を抜かさんばかりに仰天した。
「あ、兄貴!」
 リュウビの顔が、チョウヒ艦のマルチスクリーンいっぱいに投影される。チョウヒは、もう満面、涙でくしゃくしゃだ。
「カンウをなぜ信じぬ。われらの誓いは、そんな軽いものだと思っておるのか」
「滅相もねえ」
 チョウヒが鼻をすすり上げながら答える。カンウも、チンシンが持参した書状の文面が脳裏に残っていたので、リュウビの言葉に感動した。やはり兄者は、自分を信じていてくれた。あの書状は、自分に奮起を促すためのものだったのだ−と、カンウは考え直した。エンショウの計略は、カンウをソウソウから引き離すのには成功したか、この三人をさらに強い絆で結び付けることになった。
 さて、そのエンショウだが、再びソウソウ軍に攻撃されて領土を大幅に失うと、辺境の惑星で病死した。さらに遺児たちのあいだで、熾烈な後継者争いが起こり、家臣が四分五裂すると、あえなくソウソウに滅ぼされてしまった。
 エンショウ領を攻略して後顧の愁いを絶ったソウソウの目は、豊かなケイ州に向けられた。いっぽう、義弟たちとの再会を果たし、新たにチョウウンという有能な武将も配下に加えたリュウビは、リュウヒョウの賓客として、正式にケイ州に招かれた。
 リュウビとソウソウの前に、新たな運命の渦が待ちかまえていた。




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