REIWA(令和) Story 1

あれから20年、ロードスターとは無縁な生活を送っていました。
しかし、またアホアホマンのゲノムが活性化し始めたようです

令和 2年1月2日 朝

英国BBCのトップギアって番組の司会者はこう言った。「人は結婚と育児を経験し、ミニバンに乗って死ぬ。」
アホアホマンの私も人並みに結婚したし、育児も経験した。ミニバンにも乗った。
年齢はもう50を過ぎたが少し尿酸値が高い以外は健康そのものだ。
確かにこのまま死んだとしても人並みには幸せだったと言えるし、そう思いたい。

50歳過ぎたらショボ系リーマンでも部下や後輩の一人や二人いてもおかしくはない。
彼らは、私がアホアホマンだという事は知らないし、私もその尻尾を掴まれないように神経を使っている。

世間的にはある程度の年齢に達してもクルマが好きだなんて口にするとコイツはアホだとレッテルを貼られる。
趣味は何ですかと問われたら、ゴルフやキャンプ、そば打ちなんて言っておくのが無難だ。
大借金して初めてロードスターを買った20代。ロードスターのローンとメンテ費用でタバコ代にも困ることがあった。
当時タバコは220円だった。

そういや10年前、身体に悪いからってタバコも止めてしまった。
葬式で会った親戚のジジイには「お前、タバコ止めるなんて いのち根性 がきたね〜な!」と言われた。
ちょっと面白いけど不本意である。そもそも いのち根性 って何だよ。

今では月に一回か二回会社の仲間と飲みに行くのが今では一番の楽しみだ。
俺はこのまま、子育てを経験し、軽ワゴンに乗って死ぬのか?

クッソ!俺はこのまま死なね〜つ〜の!

令和 2年1月11日

平成元年、ロードスターは若者の車だった。

働き始めたばかりで薄給の私でも60回払いのローンを組めば手に入れられる車だった。
平成は終わって令和二年、もうロードスターは若者が新車で手に入れられる車ではない。
youtubeに出ていたMAZDAのディラーマンもロードスターは50代、60代に売れている。だから安全装備が重要だと言っていた。
ちょっとイラッとくる発言だ。50過ぎたらアクセルとブレーキを踏み間違えるとでも言いたいのか。
馬鹿にすんな。お前よりも車と病気には詳しいぞ。

「ロードスターのすべて」という本でも若手ライターが
”だれもが、しあわせになる“ そのキャッチコピーに頷くほど僕たちはロードスターを味わったことがない。と書いている。
私がミニバンに乗っている間に時間は経ったのだ。
ロードスターを取り巻く環境は大きく変わった。俺も変わった。育児を経験しミニバンに乗って死ぬのもそう遠くない将来だ。
でもミニバンに乗って死ぬ前にもう一回くらい、トンネルでギヤを一段落としてアクセルを踏み込み悦に入る猿になりたいじゃないか。

令和 2年2月1日

平成の仲間はみんな髪の毛が後退して後頭部の髪の毛はスッカスカになった。
シェイプアップして排気量を1,500ccまで落とし、若作りしてスカしたロードスターとアクセルやステアリングを通じて会話してみたい。
意外に盛り上がるかもしれない。
若作りしてカッコつけたってロードスターは三十年前と変わらずパワープラントフレームなんだから、同じく古い設計の私とも話は通じるはずだ。

令和 2年2月5日

今度ロードスターに乗る時はノーマルで乗ると決めている。私はもう大人なのだ。大人ってか、もう初老を超えた年齢だ。
ロールバーとかも付けない。そういう事をすると年甲斐もなくアホアホマンの血が騒いで峠道で張り切ってしまったり、サーキットも…なんて色気が出てくるからだ。
ノーマルで乗ることは揺るがない決定事項だが、ブレンボのキャリパーは付けたい。
ホイールの隙間から覗く赤いブレンボが素敵だからだ。
なるほどブレンボにするとホイールの選択肢が狭まって私が気に入っているノーマルのポリッシュされたホイールは付かないのか…
そういえば、機械式のLSDは autoexeとかから出てるのかな。モーターショーで展示されていたオーリンズもカッコ良かった。その予算は確保しておかなきゃな。
あれ、ノーマルってどうゆう状態だっけ?納車時の状態がノーマルだ。

令和 2年2月6日

昨日の記録を読み返したら「その予算確保しておかなきゃな」だってさ。
すでにアホゲノムが発動してますわ。

令和 2年2月8日

今日ディーラーを巡ってボディ色のバリエーションを確認した。50,000円位高くなるが、メタリックが気に入った。
メタリックの粉末が異常に細かくて、普通のメタリックのようにキラキラしている感じではなく、きめが細かくて輝きが金属そのものに近い。
買うなら絶対にこの色しかないと思うほど気に入った。
あまりに気に入ったので、写真に撮って「すげ〜だろこの色」と初老のアホ仲間に送ってやったが、興奮しているのは私だけで髪の毛同様、反応も薄かった。
近くのマツダディーラー、遠くのマツダディーラー 沢山回って、全てのカラーバリエーションを確認して色も決めた。
あとは近所のディーラーで契約するだけなのだが、3末まで待ったら、条件が良くなるかもしれないなどという下心と一回冷静になる時間を作ることにする。

令和 2年2月28日

シルバートップと言う特別仕様車が販売されている。
限定車なので3月末で買えなくなるらしい。
シルバートップは、幌の色やホイール、ドアミラーの色がベース車と異なるらしい。
ミラーがボディと同色なのと、ホイールは高輝度塗装のお気に入りのモノが付いているのでバッチリだ。
幌の色がシルバーなのはおまけといったところか。幌は黒の方が良い気もするが、ボディ色ももシルバー系にするつもりなので幌と一体感が出るかもしれない。
よし、3末ギリギリまで待ってシルバートップを買うことにしよう。

令和 2年3月5日

新型コロナウィルスが蔓延している。
コロナ禍(コロナか)らしい。コロナは解ったけど、○○○禍(か)ってなんだ。コロナ鍋(なべ)なら、なかなか旨そうな響きでもある。
渦(うず)も似ているが、多分コロナとは関係ない。
禍(か)、鍋(なべ)、渦(うず)の三兄弟か、マークII、チェイサー、クレスタの三兄弟みたいなもんだな。とニヤニヤしている私は相変わらず教養とは無縁で暮らしている。

令和 2年4月13日

コロナのお陰で自宅で仕事をしろっと言われている。テレワークと言うらしい。
なんか、カッコいいぞ。「俺さ、テレワークしてるんだよね、テ・レ・ワーク!」って色んな人に言ってみたい。

照れてないけど、テレワーク!
50過ぎたらこういうこと言わないとムズムズするんだよ。若いあなたも覚えておくといい。

令和 2年4月17日

自宅で仕事って天国じゃない?
朝は10時くらいに起きて顔洗って、コーヒー飲んで目が覚めたら12時でしょ。
昼飯食って、ゴロゴロしてたら2時でしょ。
少し仕事をしたら3時のおやつ休憩で、その後はちょっと本気出したらもう5時だよ。テレワーク最高!!

のはずだった。

なんで朝から会議なんだよ。最近はオンライン会議ってのがあって、スマホが有れば自宅から会議に参加できる。
スマホ持って無いですから。とか言い訳は通用し無い。
参加者の姿は映像として皆んなに配信される。パジャマやステテコで仕事出来ねぇじゃん!!

しかも生活感あふれるボロアパートの内情が、皆んなにバレバレだ。

令和 2年4月23日

自宅リビングは、子がオンライン授業を受けるとかで私の居場所がない。
私がリビングに居て万が一子のオンライン授業に映り込んでしまったら子がイジメに合う可能性すらある。

家でも会社でも居場所がないのは50代のリーマンにはよくある話。
よし!居場所がないおっさんの隔離部屋に仕事ができる環境を作ろう。

作ろう!という言葉は前向きだな。彼女を作ろう。とか SST作ろうとか。
コロナ鍋(なべ)においては前向きな考えが大切だ。

気持ちは前向きになったが、隔離部屋には引っ越しした時の段ボールが山積みだ。
段ボールの中は、 GT ROMAN とか、BOLT AND NATS、CAR MAGAZINEとか Tipo とか、車マンガや、車雑誌で一杯だ。
昭和の匂い漂うオールドタイマーや、マニアックなところではオートジャンブルまである。
上級国民向けの CAR GRAPHIC なんかは数冊しか無い。

おっ、「I LOVE SEVEN」か、懐かしいな。20代の頃に買った本だな。
スーパーセブンは憧れの車で、薄給の身には現実味の無い車だった。
黄色い表紙の「I LOVE SEVEN2」なんてのも出てきた。

思い出したのだが当時、会社の車好きや友人には、「俺、35歳までに セブンを買うから!」なんて豪語していた。
なんとなく、宣言すれば、夢が叶うような気がしていた。
帰省した時には親にまで「俺スーパーセブン買うから!」と宣言し、親父に「おう、お前カローラセブン買うのか?よし!買え。」などと意味不明の合意を得ていたが
私の宣言は35歳で実現する事はなかった。まぁ、政治家の公約みたいなものである。

ぶっちゃけ35歳になった時、転勤やら結婚など重なってセブンの事など頭になかった。 もちろんセブンを買えるようなお金も無かった。
当時マイルドセブンライトを吸っていたのが唯一セブンとの接点だ。

令和 2年4月29日

コロナ禍のなかゴールデンウィークがやって来た。
外出も出来ない。こんな時、50代のオヤジはネットサーフィンをする。
ネットサーフィンが解らなければ Google先生に聞いてみて欲しい。
試しに Appleの Siriに「ネットサーフィンって何?」って聞いてみたら1990年に一般化した言葉だと。30年前か。

なんとなく古い車の売買サイトを覗いていたら、昔憧れたスーパーセブンが載っていた。
へぇ、ロードスター買うぐらいのお金を位出せば、憧れのスーパーセブンも買えないことはないのか・・・
ケータハムと言えば GT ROMAN でヒロシがこっそり LOTUS のエンブレムを付けたエピソードを思い出した。

令和 2年4月30日

そうかぁ、ロードスター買う気ならスーパーセブンも買えるのか…

気付いたら今日も個人売買のサイトを眺めていた。
昔はBDRエンジン搭載車に憧れたが、KENTもいいな。若い頃と違って何がなんでもBDRが欲しい!とは思わなくなったのは不思議なものだ。
プラス100万の価格差が無意識にそう思わせているのかも知れないし、今やBDRのスペックすら
セブン界では平凡なスペックと言えるスペックになってしまっている事もあるかも知れない。
ベルトドライブの系譜への尊敬は変わっていないのだが。

おっ、このセブン、店名は伏せられているけど、セブンの後ろに写っているのは英国車ばかりだから、英国車ショップに展示して有るんだな。
大雑把な地域を指定して英国車ショップを検索したら、すぐにお店が見つかった。
うちからは遠いけど連休でヒマだし、昔惚れた車でも見に行ってみるかな。青臭い過去との決別だ。
お店はお休みみたいだけれど、冷やかしの私にはむしろ好都合。ショーウィンドウ越しに外観くらいは見られるかもしれない。

令和 2年5月2日(1)

家族には告げず英国車ショップへ100Kmの長距離ドライブだ。
昨日ネットで見つけたショップの前をゆっくり通り過ぎる。
店内は暗くて何も見えないし、脇見運転は危険なので近くのコインパーキングに車を停めて折りたたみ自転車に乗り換えて再びショップに向かう。

お休みのお店の周りをウロウロしていると怪しまれそうなので、散歩途中の中年親父を装った。
犬でも連れていれば完璧だが、自分自身が会社の犬だった。
ガラス越しにセブンの雰囲気を確認した後、あまり良く見えなかったがショップを後にした。

令和 2年5月2日(2)

セブンの雰囲気を確認して車に戻る途中、後ろ髪を引かれて、もう少し車を観察したくなってUターンした。
今度は怪しまれるのは覚悟の上で店前の駐車場に自転車を停めてショーウィンドウに近づき、中を覗き込む。店内は暗いのでガラスが反射してよく見えない。
ショウウィンドウと私の距離は近づき、ついにガラスに張り付く形となった。実に怪しい。

うっ!ヤバイ!お休みで誰もいないハズの店内からコッチを見ている人が居る。
さっきは誰も居なかったのに…
まずい。今の私は明らかに不審者だ。想像して欲しい。身長の2倍もあるようなショールームのガラスに両手を上に挙げて張り付いている中年親父を。
そりゃ車泥棒か、窃盗の下見にきた奴にしか見えないハズだ。百歩譲っても変質者だ。

通報されると困るので少しでも心象を良くしようと、両手を上げたまま笑みを浮かべてペコッ!っと頭を下げる。

んっ、店内の人影も笑みを浮かべて私に向けて手を振っている。
おっ、変質者への理解が深いタイプの人かな??

令和 2年5月2日(3)

相手も私に心を開いてくれている状態の今、その場を去ったら、やっぱり怪しい奴だったと思い返される可能性がある。

攻撃こそ最大の防御である。私は堂々とお店の正面玄関に向かい、扉を引く。
ガコッ!イッテッ、鍵閉まってるし!少し手首を痛めた。扉は鍵が掛かっていて開かない。
正面玄関から堂々と訪問したのだから、防犯カメラ的にも自動車泥棒の疑いも晴れたハズ。と振り返って歩き出した時、扉が開いた。

「今日はお店休みなんですよぉ?。どうされました?」オーナーの奥様らしき方が声を掛けてくださった。
「あっ、すいませんガラス越しに車見せて頂いてたのですが、中に人がいらしてビックリしてしまいました」

「そうなの?、私たちもちょっと用事あって今きたばっかりなの」

奥様がお店の奥にいるオーナーらしき人物に声をかけてくれた。

「くるま見に来たんだって。入ってもらうよ!」

「どうぞ?」

令和 2年5月2日(4)

奥まで進みショップのオーナーらしき人物に声をかける。
「さっきはすいません。誰もいないと思って中を覗き込んだら人が居てビックリしました」

「俺も窓に向かって近づいて来る人がいるから、知り合いかと思って手を振っちゃったよ」
知り合いと間違った罰の悪さも手伝ってか、お店のオーナー快く私を迎え入れてくれた。

令和 2年5月2日(5)

「このミニ見に来たの?」

「いえ、後ろのセブンを見せていただきたくて…」

「あぁ、そう…(ちょっと残念そう)どうぞ、自由に見てって下さい」

しばらく雑談と英国車談義に花が咲く?
「ちなみに、これ幾らで出てるんですか?」

「ああ、これね。これ、〇〇〇万円。委託車両なんだよ。ウチを通すと、消費税だけで〇〇万円、故障した時の保証も考えなきゃいからプラス○十万にはなるよ。
 自分で整備できるなら、個人売買すれば消費税も掛からないから、この車のオーナーを紹介してあげようか?」

「はっ、はい。前向きに考えたいので連休が開けてお店が始まった頃にまた連絡させて頂きます。今日は本当に有難うございました。」

ヤバイ、どうしよう。前向きに考えたいって言っちゃったよ。

令和 2年5月3日

私はもう50を超えた年齢だ。ミニバンに乗り、あとは死ぬのを待つだけだ。
しかし、自分でもアホだと思うくらい、今でも自動車が好きで、なかでもロードスターには並々ならぬ思い入れがある。
平成元年。ロードスターデビューの年。友人と一緒に赤、青、揃えて買ったロードスターの思い出と
まだオープンカーが少なかった頃に体験した良き記憶は強烈に刷り込まれている。
その後も、3台のロードスターに乗った。つまり私の青春はロードスターと過ごした日々なのである。
初老を超えた今、上がりの1台として相応しい車はやっぱり、ロードスターであろう。

その一方、先日観に行ったセブンの存在も胸の奥で小さく弱々しくもずっと燃え続けている。昔から変わらず私の憧れの存在だ。

令和 2年5月4日

色は決めた。マシーングレープレミアムメタリックだ。
特別色なので55,000円プラスになるが超絶美しい色なので妥協する気はない。
さて、いよいよ決断の時だ。

令和 2年5月5日

50歳を過ぎた今からこの先、多少ヤンチャに車を走らせられる気力・体力が残っている時間はそう長くない。
いまロードスターを買ったら、10年はロードスターと過ごすことになる。
そのあと色気を出して違う車に乗ろうとしても、その先は、あまり過激な車には乗れないだろう。過激な車を爺さんがトロトロ走らせるのはアホアホマンの美学に反する。
だから20世期と21世期を生きたアホアホマンの晩年はハイブリットカーや電気自動車に乗って終わろうと思う。
化石燃料時代からの変革期に生きた車好きのエンドロールに相応しいと思う。

そう考えたら、過激な車、気力も体力もすり減らして走らせるような車に乗れる時間はそう長くは残されていないのだろう。
私も、この文章を読んでくださっている皆さんも、死ぬまでしか生きられないのだ。戒名には 「亜法亜法マン晩年ドットコム居士」と刻んでもらおう。
ドットコムに意味はないがちょっと響きがいいから使ってみた。

令和 2年5月7日

連休が明けた。
ロードスターを買う。そう決めている。
昔からの憧れだったスーパーセブンもたまらんが、ショボ系リーマンにはやり過ぎだ。

令和 2年5月8日

ロードスターは懐の広い車だ。
平成元年、私のような20代の若者の心を昂らせ、同じく中年でハイパワー戦争に飽きたオヤジの心も掴んだ。
古き良き時代の英国車に憧れた年配のオジ様がVスペシャルに飛び付いたのもロードスターの懐の広さ故だ。

ロードスターは年齢問わず何歳になっても楽しめる車だと思う。
ロードスターは60歳になっても、70歳になっても楽しめる車だと思う。
ただ60歳過ぎたら高速道路の逆走やアクセルとブレーキを踏み間違えに注意する必要はある。

憧れのスーパーセブンは、どうだろう。恐らくそうはいかないだろう。
60過ぎたらあのタイトなコックピットに体を収めるだけでも難儀しそうだ。
今でさえも五十肩で腕が肩の高さ以上に上がらない。
自分の年齢を考えると頭頂部の髪の毛と同じくあの手の車を楽しめる時間は案外残されていないのかもしれない。

よし、最後にもう一度だけ、もう一度だけ、スーパーセブンを見に行こう。
そして、未練を断ち切るのだ!。

令和 2年5月9日

やっちまった。かもしれない
ショップのオーナーに勧められるがまま、運転席に乗り込むと「エンジン掛けていいよ。バッテリー充電しておいたから」と言い残し工場に戻って行った。

ショップ正面の駐車場に残されたのは私とセブンだけだ。
えっ、行っちゃうのエンジンを掛けるなりなんなり、勝手にしろってこと?
出会いはショーウィンドウの窓に張り付く変質者だったが、意外に信用して貰っているようだ。

それならお言葉に甘えて・・・とキーを差し込み、イグニッションキーを回す・・・
コッ・コッ・コッと電磁ポンプが始動しキャブに燃料を送る音が聞こえ・・・
・・・
ない!

あれ?バッテリー充電しておいたって言ってたのに。恐る恐るセルを回すとセルは元気よく回る。バッテリは充電されているようだ。
どうやら、このセブンは、電磁ポンプではなく、機械式の燃料ポンプのようだ。
となると、少し長い間、セルを回してやらないとキャブに燃料が送られない。「キュルキュルキュル〜」とセルを回すが、それだけではエンジンはかからない。
この手の車はエンジンをかける前にちょっとした儀式がいるのだ。ウェーバー付きの古い車に乗っていたことがあるので知っている。
実は、儀式なんて大げさなものではない。

セルを回して機械式の燃料ポンプからキャブに燃料が送られ、キャブ内に燃料が行きわたったことを想像する。
電磁ポンプなら、音が変わるのですぐわかる。その後、アクセルを2度床まで踏み込む。
こうすることで、キャブからピュー、ピューとガソリンがシリンダーに流れ込む。
その後、セルを回しエンジンを始動する。掛かりにくいようなら、少しだけアクセルを踏みセルを回す。

「ボッ、ボッ、ボッボッ・・・」

「ボッボッ、ボェ〜!手慣れた感じでカッコよくエンジン始動したかったが、まさかの失敗!」

失敗したが、燃料も来ているし、火も飛んでいることが確認出来た。

少しだけアクセルを踏み、もう一度セルを回す。

「ボッ、ボッ、ボッボッ・・・ブォ〜ン!!」
「かかった!!爆音だ!エンジンの中でガソリン爆発が起こってるよコレ(当たり前)。なんだコレ〜!」

アクセルを戻すとエンジンが止まってしまうので、アイドリングが安定するまではアクセルを少し踏んだ状態で暖気運転をする。

「これ、ヤバイやつだ!」思わずつぶやきが出た。
アドレナリンとか、ドーパミンとか、モンダミンとか、色んな汁が脳内に一気に噴き出て、髪の毛が逆立つ思いがした。
やっちゃってんな。これ。

令和 2年5月10日

いまロードスターを買ったら、一生スーパーセブン には乗らないということだ。
私の財力ではガレージに車を何台も並べる訳にはいかない。現実的にはそういうことだ。

20代の頃、根拠なく「俺、35歳までにはスーパーセブン 買うから!」そう豪語していた。
財力的に全くその可能性が無かった当時に、そう強がって見せたのは、今になってみると微笑ましい限りだが、今になったからこそ、そういう想いは雑に扱いたくない。
俺の若かりし頃の想いを実現させてやれるのはオッサンになった俺自身しかいない。

令和 2年5月11日

スーパーセブンを買ってしまった。

今日、車両代金を振り込んだ。

「俺、35歳までにはスーパーセブン 買うから!」

夢は15年以上遅れて実現した。

今日、私が「のび太くん」だったら、タイムマシーンに乗って二十代のフジカモに会いに行く。

そしてこう言う。「強がりでもいいから夢は言葉にしておいた方がいいぞ。言葉にした夢はきっと実現するよ」

くぅ〜。カッコイイ〜。さすがオッサンになったフジカモだ。こんなカッコイイ台詞は五十代にならないと似合わないよな〜。
そして、ながい沈黙のあと、こう付け加える。

「まだ未熟なお前にダンディズム臭漂う俺から伝えておきたいことがある」(ダンディズム臭と加齢臭は違う)

「あのな...若いお前に伝えるのは酷な話になるかもしれないが...」














「アホは一生直らないぞ!」

「これ、わりとマジだからな」



フジカモとスーパーセブンの話は こちら