良いパソコン

エンドユーザーの手に渡る製品はデザインで売る時代ですが、SONYなどにデザイン前の基礎製品を供給するのが私の仕事です。その場合には、常にデザイン以外での「良い製品」を作ろうと考えているのですが、技術者自身の「良い製品」という認識に間違いが無いとも言えません。

良いリセットボタンとは

私がパソコンに触れたのは、大学時代に友達のパソコンでゲームをやった以外では、就職してから仕事で触ったのが初めてだ。NECのPC9821Asという機種で、そのころのシリーズ中、唯一、大きなバグのない機種だった。バグがないと言っても、当然ハングアップはするわけで、そんなときに使うのがリセットボタンだった。
(1).電源ボタンは押しやすい場所にあるのに、リセットボタンは押しにくい場所にある。
その後、DOS/Vの自作機に移行するわけだが、ケースの買い方としてポイントを置いたのが、「押しやすいリセットボタンであること」であった。変な場所についていたり、ものによってはピンを使わないと押せないようなものもあったからだ。
(2).良いパソコンとは、リセットボタンが押しやすいことである。
さて、この定義は正しいのだろうか。この時代に私がパソコンを設計していたら、立派なリセットボタンを取り付けたに違いない。普段は間違って押すことの無く、しかしながら有事の時はすぐに手が届く位置に配置したであろう。実際今の私のPCもそんな絶妙な位置にリセットボタンが付いているのだが。
だが、最近のパソコンを見てみると、リセットボタンはついていない。時代が、そしてユーザーが望んでいたのはリセットボタンの位置や押しやすさではなく、リセットボタンの要らない、つまりはハングアップしないパソコンだったのだ。
こう書いてしまうと、「そりゃそうだ」の一言で済んでしまうが、当時、私はそんなことを考えもしなかった。パソコンとは、毎日必ずハングアップするので、毎日リセットボタンを押すものだという概念が出来上がっていたため、あとはいかに押しやすくするかしか考えられなかった。ユーザーとしてはそれでいいのだが、技術者としては見通しが甘いと言わざるを得ない。

良い電源ボタンとは

これも究極的には電源ボタンのないパソコンが良いのだろうか。いや、そこまで進化したものは、概念的に”パソコンではないもの”となっている可能性が高い。とりあえずここでは電源ボタンが必須のものを前提としておく。
昔、パソコンのマニュアルを作る上で、よく話しに出てくるのは、「メッセージが表示されたら、何か押してください」の記述だ。我々は「何か押す」と聞けば、Enterキーが出てくる。しかし、素人が初めてパソコンを使ったときは、キーボードは「押すもの」ではないため、代わりに押せるものを探す。ここで上の(1)を思い出して欲しい。昔のデスクトップ型パソコンは、PCの一番押しやすいところに電源ボタンが付いているのだ。とうぜんユーザーの手は、メッセージに従い、電源ボタンを押した。そして使用中に電源を落とされたパソコンは、特に当時のパソコンは、それっきり2度と起動しなくなった。
では、電源ボタンはどうあるべきだったのか。その昔、ニフティサーブに書いてあった記事では、「メッセージが表示されたら、Enterキーを押してください」とすべきだとの意見が出ていた。私はなるほどと思った。「Enterキーを」と限定するのは、「他のキーではダメなのか」「間違って隣のキーに触れてしまったら、処理が失敗するのではないか」などの誤解を招くと思っていたのだが、このレベルの初心者は、このメッセージを見ると、なんの疑問も抱かず、正確にEnterキーを押す。
良い電源ボタンの答えは、操作の説明文書にあったのだ。
と、そのときは思ったものだ(笑)
これも最近のパソコンを見てみると、電源ボタンは付いているのだが、間違ってそのボタンを押してしまうと、Windowsが正常に終了して電源が切れる。初めてこれを見たのはATXパソコンが流行り初めてすぐのことだったが、正直これを見て、しまったと思った。電源ボタンは安全規格に従う限り、電源を物理的にカットしなくてはいけないという概念が頭にあったがために、電源ボタンがWindowsの管理下に置かれるなんて事は思いもしなかった。