FISM2000

今年(2006)は3年に一度のFISMの年。
6年前の記録を載せてみました。これは(社)日本奇術協会の機関誌に掲載されたものです。
ではお楽しみください。


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注釈の多い個人的FISM日記          

 北見会長から大会レポートをよろしくといわれたものの、FISMは膨大なイベントです。催しものも多く、重なることがあります。しかし身体はひとつしかないので、個人的な日記しかかけません。しかもそうなればなるほど他の人にはわからない言葉やいいまわしを多用してしまうのは否めません。それでもいいですか?と会長に再確認したところ「いいです」という返事をいただきましたので書かせていただきます。したがって注釈の多いレポートということをご了承の上お読みください。まともなレポートは東京堂出版のザ・マジックをご覧いただいた方がいいかと思います。

7月2日(日)
 <ああ、ヘヤードライヤー大爆発>の巻

 待ちに待ったミレニアムFISM(注1)です。確か3年前の「FISM日記」(注2)には、マジシャンにとって3年ごとのリフレッシュタイムと書きました。とはいえ今回は、初めてのゲスト出演です。過去、何回コンテストに出たことか!(注3)

 それはともかくゲスト出演は世界的にマジシャンと認められたということ。うれしいとともに責任も重大です。それに無謀なことに個人的にボナ植木はクロースアップコンテスト(注4)にエントリーしているので、ああ、いまからこの緊張感がたまらないーっ!

 昼に成田を出発。一路エアフランスでシャルル・ド・ゴール空港へ。でも天候不良で着陸できず1時間ほど旋回。前途は暗雲たちこめているということか!先がおもいやられる。

 それでもパリから乗り継いで2時間ほどでポルトガルのリスボンについたのは、夜の11時。空港では前大会のマニピュレーション部門(注5)1位のジュリアナが迎えにきてくれた。期待を胸に、静かで暗い町並みをホテルへ向かう。ジュリアナの「部屋狭いですよ」の言葉に「そんなことはない」と心で笑う。ルイス(注6)には言ってあるからだ。ゲストなんだから扱いはいいはずだ。そうこうしている内にホテル・イビスに到着。

 ここはどこかの寮か?と思えるほどの狭さだ。山谷の木賃宿(注7)でも今はいいぞ。トランクをおいたら歩けねーだろ!冷蔵庫もないし何もない。ガイドブックを見ると☆2つだ。ルイス、横浜の恩を忘れたか!(注8)と思いつつシャワーを浴びる。

 疲れていたので、うっかり日本からのドライヤーをコンセントにさす。スイッチを入れると火花とともに大爆発!ブレイカーが飛び部屋が暗転!
 私自身のブレイカーもそこで切れ、火花の残像を網膜に残しつつ、そのまま静かに息を引き取る。。。。

注1)Federation Internationale des Societies Msgiqueの略。国際奇術連盟とでもいいますか。3年に一度行われ今年は21回目(2000年)。

注2)「ワンツースリー」16号。

注3)スペイン85、オランダ88、ローザンヌ91、ドレスデン97ああよく行ったもんだ。

注4)以前はテーブルマジックといった。カードやコインなどの小物を扱うマジック。

注5)手練技、このジャンルはテクニックの点数が重要。

注6)ルイス・デ・マトス。今回のゲストマジシャンの責任者。ハンサムガイだ。

注7)台東区にある地名。肉体労働者がよく集まる。最近は外国人が多いのでホテルもきれいらしい。

注8)94年の横浜大会。見栄でとったナポレオンズのスイートルームに毎晩きて親交を深めた(よく飲みに来たということ。時々我々より先に部屋の前に来てた)



7月3日(月)
<ああ、会場にスリが?むなしいぞ>の巻

 朝7時に目が覚める。相棒のパルト小石が部屋にくるなり「ホテル変えないか?これじゃ一週間もたない」(注9)と提案。そこからホテル探しをするがハイシーズンの上にFISMなので、どこも満員。

 たった一軒あいていたのがリッツ(注10)という最高級ホテルだ。無理してそこを予約する。ああー大出費だあ。ホテルイビスのフロントの女の子が「もう出ていくの?」というので「ちょっと、狭いので」というと悲しそうな顔をする。タクシーを呼んでもらって、彼女が行き先は?ときくので「リッツ」というと、(ああそっちのいいホテルにいくのかい)という顔をする。ごめんね。

 リッツにチェックインしてタクシーで会場へ。100エスクードは約60円。会場までは1000エスクードもあれば着く。

 ポルトガルのタクシーは荒っぽい。なんでも韓国を抜いて交通事故世界一の国になったそうだ。

 リスボンは大西洋側にあり、湾のそばに今回の会場のコンベンションセンターがある。その近くには「発見のモニュメント」(注11)という観光スポットもある。

 レジストレーションカウンター(注12)に行くが、我々のパスがない。会場でフミオ(注13)に会う。彼はコンテストにでるのでなんと今朝の7時に集合がかかったらしい。 しかし結局どんどん時間が押して昼になったそうだ。FISMはいつもそうだ。世界中から2000人ものマジシャンあるいはその関係者が集まるので、いろんなことで時間のずれがでるのだ。

 日本の女性が会場でスリにあったらしい。バッグの口が開いていて、サイフがなくなっていたそうだ。マジシャンしかいない会場にスリがいるのか!ああテクニックを悪用するとは。むなしいぞ!

 メイン会場は2000人も一度に入らないので観客は半分ずつ交代で参加することになる。つまり出演者は同じステージを2度やることになる。その方が本来なら後ろの席の観客も前の方に座れるので、よく見えるからいいかもしれない。
 会場で外国のマジシャンと親交を深める。

 オープニングガラショー(注14)はオールディーズ特集。いわば「懐かしの歌声」のマジシャン版だ。まずはFISMポルトガルの若き責任者ルイスのカードプロダクション。そばでハープ演奏はティナ・レナートだ。いい雰囲気だ。そのあとロープのピエール、機械人形をあやつるジョン・ゴーン、服からネタをまき散らすコメディのトッパー・マーティン、ウサギのレフティを操るいっこく堂の原型ジェイ・マーシャル。溶けるようにつながるリングの名手リチャード・ロス、コメディのアリ・ボンゴ。全員の年齢を足したら一体何歳になるのだろう。マジシャンは長生きだ。

 午後はNHKのロケ。繁華街のバイシャ地区のカフェや路上の売店でマジックをみせる。売り子の少年に「ポルトガルサッカーは強いね」(注15)というと自慢げにスター選手のヌノ・ゴメスの写真のある雑誌をしめす。それをおみやげに買う。

 夜はトンさん達(注16)と中華を食べる。海外はほとんど中華だ。明日は私のクロースアップコンテストだ。
 その夜はリッチなリッツで熟睡。  

注9)これから一週間、ガラショー2回その他ロケもあるので、仕事が終わってここにもどりたくないという意味。

注10)リッツ・フォー・シーズン。☆☆☆☆☆

注11)大航海時代にポルトガルが発見した国や地域の地図がある。

注12)大会参加には費用がいるので支払った人はここで自分のパスをもらう。結構きびしくてパスがないと有名人でも入れない。

注13)アメリカに20年以上住んでいたコメディマジシャン。運悪く実家がなんと私の家のそばなので結構一緒に飲む機会が多い。日本語はうまくない。

注14)ゲストショーのことをガラショーという。galaはお祭りという意味。

注15)サッカーヨーロッパ選手権でベスト4までいった。

注16)マジックランドのヒゲジジイ。これでも?この大会の事務局に名を連ねている。



7月4日(火)
<ああ、真夜中にホテルへの道は遠いのだ!>の巻

 朝7時頃だれかから電話。「あのー植木さんは今日コンテストにでるんでしょうか?」実は申し込みがぎりぎりの為、プログラムに私の名が載っていないのだ。眠い目をこすりながら「へーい、多分夕方4時くらいでしょう」といって電話を切る。

 朝9時にコンテスト現場にいく。もう3人ほどきていた。来た順にうち合わせだ。驚いたことにクロースアップテーブルが見やすいように観客側にななめになっている。こっちのネタは世界初の横向きマジック(注17)だから、これじゃあ演技できないのだ。ああ、なんてこった。これは予想しなかったことだ。結局、テーブルの前の足に板をかませて、フラットにしてくれるとのこと。まずは一安心。そのままガラショー用にとってあるナポレオンズの楽屋に荷物を持って待機。

 午後、クロースアップコンテスト会場にいく。多くても観客としては200人位しかはいらないので早い者順だ。残りのクロースアップマニアはロビーの至る所に置かれているモニターで見るしかない。残りの参加者は、レクチャーなどの他の催しものにいくか観光だ。舞台監督にきくと「お前は今日の最後だ」といわれる。よかった。早く終わらせたいという気持ちもあるのだ。

 ああー3年に一度の緊張感がましてきた。前のFISM日誌にも書いたけれど、この脳内におけるベータエンドルフィンの放出(注18)がエクスタシーを生むのだ。オレは変態か!? すべてセットして出番をまつ。

 ところがどっこい、かなり待ったあげく舞台監督がきて死刑を宣告「あなたは時間切れで、あさってね」

 力が抜け、再び着替えてロビーにでる。マックス名人がいて「コンテスト ハ?モウスグ?」「いえいえ、あさってになりました」「アサッテ?アサッテ?アサテサテサテサテ、サテハナンキンタマスダレ!」誰だ、マックスに玉すだれを教えたのは、松旭斎すみえさんか!

 昨日スられたと思われたサイフは無事、事務局に届けられていたそうだ。しかも中身はそのまま。結局スられたのではなく落としたのだった。
ね、マジシャンに悪い奴はいないといったでしょ(いってない)
でも、ああ、よかった。うれしいよ。

 夜のガラショーは、イリュージョンのハンス・クロック、画家マジシャンのニコラス・ナイトとキンガ、前回のジェネラル部門(注19)1位のユンゲ・ユンゲ、陽気なマック・キング、中国どんぶり鉢のゲー・キー・フー、私達を迎えに来たジュリアナのカード、日本古来の和妻代表の藤山新太郎。

 夜中の12時近くに終了。ところが会場の表にでると、タクシーはない、バスと市電も終電間近。しかも寒いぞ。何千人が路頭に迷う。リスボンで難民状態だ。バスも電車も満員でのれない。みんなでだらだら歩く。ああ、ベッドが遠い。
 結局、途中の超満員の市電でなんとか繁華街にいき、そこでタクシーを捕まえる。知らない外国人とも乗り合いだ。それもまたいいか。でももう3時だぞ。

注17)テーブルマジックは観客にとって見にくいという発想からうまれたネタ。寝転がって演技するため観客はまるでマジシャンの真上から見ていると錯覚する。もちろん特別なテーブルは磁石を使っている。

注18)陶酔状態に脳内で分泌されるタンパク質。

注19)コンテストには色々な部門があるが、総合的なマジックはジェネラル部門になる。



7月5日(水)
<ああ、そうかい。誕生日の人がおごるんかい!>の巻

 早朝からNHKのロケ、会場前の撮影だ。午前中にあのフミオの出番だ。舞台袖にいき仕掛けのセットを手伝う。コメディは難しい、同じ手順でアメリカでは馬鹿受けなのに、大爆笑とはいかない。ヨーロッパとアメリカの違いはあるかもしれない。

 ロビーにいると突然、美女から「ボナ植木さん誕生日おめでとう」といわれ、バースディカードとワインをもらう。7月5日は私の誕生日?いつからだ?怪訝な顔をしながらも「あ、ありがと」とつぶやく。その顔を察してか、かの美女は「え、違うんですか?」「はい私は4月です」何を勘違いしたか?「でもうれしいので喜んで今年2つ歳をとります」といって記念撮影。オレは何歳になったんだ?

 午後は何十とあるディーラールーム(注20)へ向かう。日本のディーラーの人が売れないよとなげく、なんでもポルトガルの一般会社員の月給は4万円ほどだそうだ。紙吹雪などの消えモノ(注21)はお金が消えていくようにみえるのだろう。さっぱり売れないそうだ。

 アレックス(注22)のショップでメカ物(注23)2点購入。忙しいから支払いは後でといわれる。
 ちょっと時間があいたのでフミオとクロースアップコンテスト用のセリフの英語を習う。「何で今頃勉強するの」とフミオにいわれる。「だからいいんだよ。力を抜いてやるんだよ」と勝手な理論をいう。

 夕方トンさんと日本料理(注24)にいく。刺身や豆腐やそばを食べる。「うめー」一緒に行った漫画家のT氏(注25)が「今日誕生日の人が支払いするんだよね」と噂を知ってか提案する。「ああ、わかったよ」なかばやけにカード(注26)を出す。

 昨日ガラショーを見た人は今夜はファド(注27)と会食。でもそのまま日本料理で過ごす。


注20)マジックショップの出店。見本市といっていい。

注21)瞬間に燃える紙、蜘蛛の糸、紙吹雪のように一回きりしか使えない物。ちなみにナポレオンズのイリュージョンは段ボール製が多いので、消えモノという。

注22)スペインのマジシャン。近年はショップで稼いでいる。

注23)機械もの。シルクハットから出るシャボン玉と何を計算したかわかる計算機。詳しくは書けない。

注24)bonsaiという店。高級日本料理なみの味。

注25)ビッグ・コミックで山口六平太というマンガを書いている高井研一郎さんのこと。しかもD・ウイリアムソンの助手に借り出され、そのとぼけた反応に場内大爆笑。一躍スターになった。

注26)トランプじゃなくてクレジットカードのこと。6人でさんざん飲んで食べて\13000だ。安い。でも現地の人には高い店だ。

注27)ポルトガルの民謡。地元の人はほとんど聴かないそうだ。



7月6日(木)
<♪ああ〜川の流れのように〜2トンの水槽大破壊!>の巻

 いよいよ私のコンテストだ。しかも午後の1番だ。私のネタはケレンだから途中に入るのがベストだ。でも仕方がない。
 午前中はステージコンテストを見る。日本のユミさんがきれいな演技で満場の拍手。何度か彼女を日本で見ているが、欠点をどんどん改良して手順も演技もパーフェクト。ヨーロッパ人はこういうメルヘンチックで芸術的なのが好きなのだ。

 ある人から貴重なおにぎりをもらい、楽屋で食べる。ああー緊張してきたぞ。しかも悪いことに今夜のガラショーのステージリハーサルが同じ時間だ。それをパルト小石とアシスタントのS(注28)に頼んで単身会場に乗り込む。あー、手が汗ばんできた。いいね、この感覚!いよいよ出番。

 拍手に迎えられ、センターテーブルへ。自分のクロースアップテーブルを立てた瞬間爆笑が起こる。そして横に寝たままの演技が続く。審査員のアリボンゴが手を叩いて笑ってる(ちゃんと審査しろよ)と少し余裕。途中カードを観客にひかせる場面でブロンド美人を呼ぶ。来るやいなや彼女は大人の雰囲気ですぐさま横に寝転がった。もうそれで会場は盛り上がる。爆笑の連続で終了。残念ながらコメディ部門じゃない。でも世界初の演技は観客にインパクトを充分与えたと実感する。

 そのままステージのリハーサルへ行くが、おおかた終わっていた。さらにそのままNHKのロケに直行。あー腹へった。さらに夜のショーへと向かう。

 途中ロビーで審査を終えたアリ・ボンゴとすれ違う。彼は私に向かい「マッド!」(注29)といって去っていった。

 楽屋では今日の出番のマジシャン達と楽しく過ごす。78才になる英国のコメディマジシャン、ビリー・マッコムに「お前達のあとはいやだね。客を笑わさないようにな」といわれる。

 いよいよガラショーの始まりだ。軽いジョークマジックのボローニン、ブラックアート(注30)のゲルコッパーの次に出る。マックス名人の心地よい紹介で登場。

 腹はへっていた。でも大爆笑!うれしい。
 さわやかな汗をかいたものの、なぜか身体は眠い。今頃時差ボケが出てきた。ところがそのあとまさに時差ボケも吹っ飛ぶ事態が発生するのだ。

 最後からふたつ目の演目はスペインのマーゴ・アントン。フィナーレ間近だから、舞台袖でその演技を見る。巨大な水槽(注31)にトランプ一組を投げ入れ、そのあと、潜って選ばれたカードを取り出すという演技だ。

 手にコンクリートの塊を手錠でつけ、頭から飛び込んだ瞬間、水槽が後ろに50センチほど動いたのだ「ああ、ストッパーが止まってない!」その瞬間、全面のアクリルが割れ、本人と一緒に、一気に2トンの水が客席に向かって大放出!まさにダム決壊の様だ。本人は上から入ったのになぜ舞台に座っているのかわからないまま放心状態。

 幕が降ろされた。しかしこの後の処置がすごかった。モップにバケツ、そして業務用バキューム4台でスタッフが一丸となって一気に吸い取る。

 老練ビリー・マッコムが「クリネックス(ティッシュ)をもってこい!」と叫ぶ。
みんな忙しいのに冗談を言うな。その間幕の前では緊急にジャグラーのマイケル・メノスやカナダのコメディアン、デレック・スコットが笑わせて時間をつなぐ。うーむさすがにプロだ。

 ほどなく最後の演技者のトパスのイリュージョンの準備が整い、幕があく。場内大歓声だ。そしてフィナーレ。水槽のアントンは口に水を含んで観客にかける。
 ああー疲れた一日だった。そのまま水に溺れる夢を見ながら眠る。


注28)注16の息子のサトシの事。

注29)Mad=クレイジーと同じ意。もしくは「興奮したよ」という意味にもとれる。私にとっては賞賛の言葉。

注30)暗くしてブラックライト(紫外線)で照らすと黒以外の蛍光服などが光る。黒子になっていれば何しても観客から見えない。でも今の高感度カメラだと這って仕事をしている助手などが見えてしまう。マヌケだ。

注31)底面1mX1m、高さ2m。さて水の量は?答え、2トン。



7月7日(金)
<ああ、驚愕、ドミノ・サントス事件!>

 午前中、日本人コンテストを見る。中でも名古屋の峯村けんじさんがマニピュレーションで大喝采!すごいテクニックと小気味いい動きで見ていて心地いいスライハンドだ。入賞は間違いない。

  ロビーにいると昨日の私のクロースアップを見て面白いと言って声をかけてくれる人が結構いたのにはうれしかった。
 ディーラールームでアレックスにおととい買った商品の代金を払おうとするが「忙しいから後で」の一点張り。

 ランチは海辺のシーフードにいってみる。ここはいい。ビールを注文し、エビやら貝、カニなどをカニ味噌をつけて食べるのだ。うまいぞ、コノヤロ!あとはステーキも食べる。やっとまともな食事という感じだ。

 午後はステージコンテスト。いい所は吸収し、あとは反面教師として学習する。

 夕方になったので出演者スタッフ用の食堂にいく。ポール・ダニエル(注32)がきて「へい、ボーイ、元気か」と声をかけてくれる。彼はショーではなくインタビューというマジックに関しての質疑応答をするのだ。なかなかいい催し物だ。

 そして今夜のガラショーの支度する。もちろん、水槽のマーゴ・アントンは出演なしとなる。

 突然、パルト小石が楽屋に来て「おい、ドミノ・サントスって知ってるか?」という。「いや、ドミノピザなら知ってるゾ、なんてね」というと、それを無視して話だす。「さっきイリュージョンのカルロス・バラゴンが聞いてきたんだ。NHKの前の大会のFISMのビデオを手にいれたんだが、自分の紹介で日本人のアナウンサーが『カルロス・バラゴン・ドミノ・サントス』と紹介してるんだって。で、知り合いの日本人達に『ドミノ・サントス』という日本語があるかときいたんだけどみんなそんな日本語はないっていうんだと」「そりゃないわな」「うーん、謎だ。もう一回詳しく聞いてくる」といって去っていった。

 道具をセットしているとパルト小石が走って帰ってきた。「わかったぞ!この私が解明した!」「改名?名前変えるのか?」またそれを無視して話だす。
「いいか、NHKのアナウンサーが紹介したんだろ。ということは彼らはイリュージョンチームだ」「なるほど」「ということは、集団を紹介するわけだ。するとこうなる。
『次はカルロス・バラゴンのみなさんです』と」
「そうだね」
「問題は最後の<…のみなさんです>だ。ノミナサンデスつまりノミナ・サンデス、ドミノ・サントス、となる」
「なるほど!」「でそれを説明したらえらい喜ばれたよ。なんせ3年間、日本人に会うたび質問して答えられなかったから、今胸のつかえがとれたとよろこんでたよ」

 もし、みなさんがどこかで彼らのイリュージョンショーに出会ったら「ドミノ・サントス」と声をかければ大声で笑ってくれるだろう。(このあと彼らと会うと必ずドミノ・サントスと挨拶する)
 二日目のガラショーも無事にこなして、夜中はとある部屋でそーめんパーティ。これがうめー!


注32)英国のスター。彼のテレビショーは何十年と続いた。



7月8日(土)
<ああ、また3年後FISMがあなたを待っている>の巻

 朝8時よりNHKのロケ。12時よりいよいよ入賞者の発表。私は入賞していないのを確信しているので(?)ロビーのモニターでビールを飲みながら見る。ユミさんがジェネラル部門2位を獲得!よかった。そして、峯村さんがなんと日本人初のマニピュレーション部門1位に選ばれる!えらいぞ!おめでとう。やはりがんばった人には栄冠は輝くのだ。彼らのFISM挑戦への長い道のりを知っているから、心からうれしく思う。

 グランプリはオランダのスコット・ザ・マジシャン。男女ペアのコメディ風・イリュージョンだ。

 さよならパーティは全員がはいれるソニープラザというところで野外ディナー。しかし食事が足りず、大騒ぎ。でも一度にいろいろなマジシャンと逢えてとても楽しかった。

 途中、審査員のアリ・ボンゴに会ったので点数表を見せてもらった。
 以下は大先輩とのやりとりだ。
「お前は72点だ。3位が76点だ。もう少しだったね」
「あの私の演技はクロースアップ部門でいいのですか?インベンション部門は?」
「うーむ。インベンション部門はエフェクト(現象)が新しいもの。おまえのはプレゼンティション(見せ方)が新しいからそこにはエントリーできない」
「じゃコメディ?」
「それがいいと思うが物が小さくステージでできない。結局、カードやコインを使ってるからクロースアップしかないね」
 以下は私の反省。
 私の場合、やはりもっと練って、完璧なメカを使い、芸術的要素もいれるべきだった。つまり今の手順で72点ということは、その上もっと不思議な要素を加えれば、入賞点数に到達できるというもの。つまり中途半端な演技はダメだと実感したのです。

 将来、入賞ねらいでコンテストに出ようという方は、よく手順を考えてインターナショナルの観客に演技が理解できるかどうかというところまで熟慮するべきです。

 現にガラショーで演じたナポレオンズの演技はよく練られた手順だと自画自賛しています(誰も誉めないから)。もしその演技で前のFISMでコンテストにでていたならコメディ部門で入賞間違いなかっただろうという事を肌で感じました。
 しかし今となってはナポレオンズにとって入賞はどうでもいいことなのです。なぜならこの演技は<FISMが育ててくれた>といってもいいでしょう。FISMに挑戦し続けていたから、得られた宝ともいえるのです。
 とにかく中途半端な演技は観客にも審査員にも失礼というもの。一生懸命考えてチャレンジすることによって自分の演技に磨きがかかるということです。

 後で聞いたところによるとクロースアップ部門の1位のシモ・アルト(注33)は前大会の2位だったという。手順を改良してチャレンジしていると知り、なるほどなと思った次第です。私も次回、再挑戦しますので、今から予約しておいて応援に来て下さい。

 あ、しまった!ディーラーのアレックスにお金払ってない!ま、3年後でいいか。
 というわけで熱いFISM2000ポルトガル大会は、寒い野外パーティの内に終了。また3年後、燃えるFISMオランダ大会があなたを待っている!


注33)フィンランド人。小さなベルから大きな鐘。コインをこれでもかというくらい出す。