2003年2月
2月 1日(土)
朝のカンヅメを終えて、この家のヒナタボッコの場所に移動だ。店が光の熱湯とすれば、ここはぬる湯だな。じっくりとヒナタボッコをして身体を温めないと風邪をひいてしまうよ。あーあ、ノンビリとした時間だな。それにしても、家庭はいいな。YとK代と一緒に住んでみてつくづくそう思ったよ。夜はフトンの上で二人にナデナデされながニャアーニャアー鳴いていると、団欒とはこういうものなんだな、と実感するよ。いいな、家庭は。

2日(日)
寒い日だな。天気が悪くてヒナタボッコができなかったから、一日中グースカしていたよ。この家の寝心地は最高だな。二人が出かけてしまうと静かなもんだよ。夕方、Yに連れられて店へ。店もまたいいんだな。まず、水を飲むんだ。落ち着いてから、一巡。変わりなし。そうだ、店に着いたとたんに大事なことを思い出した。また母を探すのを忘れてしまったことを。先週もそうだったな。どうも最近物忘れがひどいな。

3日(月)
夕方のカンヅメの時、K代の手からプーンと変な匂いがした。また犬を触ったんだな。犬を触ったらしっかり手を洗って欲しいよ。あれっ、この匂いはあのブルドックの親子だ。そうか、まだこのあたりを散歩しているんだ。ワタシが元気だったころ、よく玄関先で見たな。きれいなおねえさんに連れられている姿を。子犬は大きくなったろうな。そういえば、母が「ブル連隊長」と呼んでいた犬はどうしたかな。とんと、ウワサを聞かないな。人が去り、犬も去り、時はめぐり、ワタシは歳をとる。悲しいニャアー。

4日(火)
クァーカー、クァーカー。カラスがうるさいな。ワタシに起きろというのか。あれっ、もう夕方か。昼にYが小さなホカロンをたくさん入れてくれたので、気持ちよくグッスリしてしまったな。寝すぎか。ゆっくり背伸びして、オシッコをして、トボトボ歩いて、玄関マットの上でノンビリ外の景色を眺めていたよ。いつのまにかYが横にきたな。一人と一匹並んでみるのもひさしぶりだ。いいな。

5日(水)
まったくよく寝るなぁ。自分自身にあきれてしまうよ。昼の食事どきでも近ごろは起きないからな。そういえば、店の品物が少なくなった気がするんだが。ワタシが寝ている隙に、ネズミたちがどんどん運び出しているのかな。いかん、あんまり寝ていてはネズミたちにもバカにされるな。よし、目をこらしてしっかりと、あれっ、ダメだ、眠くなってきた・・。いかん、寝てはいけないけど、しかたないな。グースカ・・。

6日(木)
よっし。今日はしっかりとお昼にありつけた。置き忘れた本能が目覚めたんだよ。Yがモゴモゴしているのを感じ、さっと起きだしYをビックリさせたな。ころもをとったエビフライ。やっぱり、おいしいよ。それとなく話しを聞いてみると、毎日ワタシのためにオカズを少し残しておいてくれてたんだな。ゴメン。そんな気持ちも知らないで、ワタシはお昼もグースカ寝ていたのだ。悪かった。これからは毎昼起きるよ。そして思いっきりねだるよ。

7日(金)
きのうの決意はどこへやら、お昼もグースカしてしまったよ。カンヅメの時間に起こされ、イヤイヤしながら食べて、その後たっぷりヒナタボッコを楽しんだよ。夜はYの家へ。忘れないように、着いたそうそう母を探したよ。いない。ニャアー、ニャアー鳴きながら、母を呼んでみたけれど、どこからも出てこなかったよ。おかしいな。この家にいなければ・・・。ワタシはどこを探せばいいんだろうな。教えてくださいニャ。

8日(土)
夜中の二時ごろにふと目をさましたら、なんだか急に不安になった。思わずニャアーニャアー鳴き叫んでしまったよ。Yが眼をこすりながらも起きてきて、ゆっくりナデナデしてくれたので、やっと落ち着いたよ。ワタシだって心細くなることもあるさ。それにしても、K代は神経が太いというか、鈍感というか、ワタシの鳴き声にかまわずグースカ、グースカしていたな。耳が遠いのかな。よくわからないけど。

9日(日)
あーあ、寝不足だな。YもK代も眠そうだな。そうだよ、きのうの夜もついつい騒いでしまったんだ。さて、ゆっくり朝のヒナタボッコをするか。店より陽が弱くて、のぼせることがないから、時間をかけて温まるか。じっくりと・・・。ウツラ、ウツラ、ウツラ、あれっ、二時間も寝てしまったよ。静かな休日だったな。

10日(月)
おかしいな。ワタシのカンだと、きのうの夕方は店に戻らなければいけないはずなんだけどな。まさか、またお正月がきたのかな。そんなはずないな、暑い夏がまだきてないからな。まあいいか。店だと、夜はワタシ一匹だから淋しいし。ここだと、YとK代に遊んでもらえるからな。いや、いや、ワタシが遊んであげているんだよ。そこのところが、まだYとK代にわかってもらえてないな。

11日(火)
曇り空。これではヒナタボッコはできないな。おっ、飲み水用の大きな器を用意してくれたな。これは飲みがいがあるな。ウマイ、ウマイ。ワタシの病気に水は不可欠なんだよ。ノンビリ過ごした午後、そして、夕方のカンヅメがやっと終わったと喜んでいたら、なんだ、やはり店に戻るのか。もしかしたらこのままYの家で暮らすのかと思っていたのにな。小雨の夜、タクシーで店へ。ホットした反面なぜか少し淋しいな。複雑な心境だな。どうしたんだろう、この気持ち。

12日(水)
ちょっぴり太ったかな。Yの家で、昼間はノンビリし、夜は適度に動いて騒いでいたからな。腎臓が悪いと、どんどんやせていくらしいから、これはいい徴候だよ。それにしても店の夜はヒマだな。今までは全然感じなかったけれどな。ニャアー、ニャアー鳴いてもだれも起きてこないし。あーあ、つまらない。早く朝にならないかな。

13日(木)
お昼に絶好のヒナタボッコ日和になったんだが、お客さんが次々にやって来て、それどころではなくなってしまったよ。お客さんが「安い、安い」と言って、品物がどんどん売れて、ポッカリ空間ができた所もあるよ。なんでだろう。そういえば、最近、品物を補充していないな。なんでだろう。ワタシのカンだと、なんか不穏な動きがあるな。なんだろう?

14日(金)
おかしいな。いつもなら今夜からYの家に行くはずなんだけどな。そのために、お昼はたっぷりヒナタボッコをして準備していたのに。K代はカンヅメが終わると、さっさと帰ってしまうし、残っていたYもワタシの頭をナデナデして「じゃあな、トラ」と言って、シャッターの向こうに消えてしまったよ。なんか肩すかしをくらった感じだな。そうか、あしたの朝に迎えに来るんだな。そうだな、きっと。

15日(土)
やっぱりそうだ。朝Yが来て、ワタシをナデナデし、K代が少し遅れて来て、カンヅメを食べさせられて、Yがワタシをカゴに入れた。よし、Yの家に出発だ。自転車じゃなくてタクシーか。豪勢だな。あっ、違う、方向が違うよ。Yの家はそっちじゃないよ。そっちは、あれっ、T動物病院じゃないか。なんだよ、参ったな。病院に着いて、Yはワタシを置いていってしまった。またか・・・・・・・・・・・・・・。

16日(日)
・・・・・夕方、やっとYが迎えに来てくれた。ワタシはうれしくて、ニャアー、ニャアー鳴くだけだったよ。店に着いて、大量の水を飲んで、ウンチをして、Yにナデナデしてもらって、やっと落ち着いたよ。あーあ、なんだったのかな。

17日(月)
まったく、夢にまで動物病院が出てきたよ。ワンワン、ニャアーニャアー、ワンワン、うるさいこと。うなされて、よく眠れなかったな。でも、お昼にじゅうぶんヒナタボッコをしてから、やっと回復したよ。やはり店はいいな。午後にはイビキをかきながら、グースカ、グースカ。それにしてもK代の声がおかしいな。あまりにハスキーすぎるよ。風邪をひいたのかな。おかしいな。K代も風邪にかかるのか。

18日(火)
Yがネグラの毛布を替えてくれたよ。だいぶ汚れて、変な匂いがかすかにしだして、気持ち悪かったからありがたかったな。ふかふかしていい寝心地だ。マグロの雲にのっているようないい気分で寝ていたら、何やらガタゴト騒がしい音が聞こえてきた。うるさいな。せっかくの昼寝がだいなしだ。こっそり薄目を開けて見たら、いつのまにか帰ってきた社長のMが机の上を整理していたよ。紙をちぎっては投げ、どんどん片づけていたな。なんだよ、引っ越しでもするのかな。ワタシは眠くてたまらないんだよ。

19日(水)
ひさしぶりにお店がお客さんでいっぱいになったよ。なんだい、この活気は。おかげでヒナタボッコはできなかったけれど、K代が忙しかったので、お昼のカンヅメはほんの数口で終わったよ。よしよし。なに、‘半額セール’? どうりでお客さんが「安い、安い」と言ってたくさん買っていくわけだ。でも、半額セールって半分になることかな? おかしいな。マグロやヒラメも一匹の半分になれば、とうぜん安くなるよな。当たり前のことなのに、なんでみんな喜んで買っていくのかな? わからないな。

20日(木)
きょうも相変わらずお客さんがよく来るな。こんなことはここに引っ越ししてから初めてだよ。そうか、こんなに売れれば、とうぜんワタシの夜食も豪華になるはずだな。きょうの夜食は、おっ、これは、定番のマグロの横にさりげなく置いてあるのは、ホッ、ホタテだ。とんと、ごぶさただったねホタテ君。君に会いたかったよ。ウマイ。あしたもお客さんがドンドン来て欲しいな。

21日(金)
お客さんがドンドン来てくれるのはいいんだが、あまりに次々とお客さんが入って来るので、ヒナタボッコができないよ。絶好の天気なんだけどな。昼過ぎに出かけていったYが夕方やっと帰ってきた。何やら病院の匂いがするな。ワタシは病院の匂いは嫌いだよ。そのYがカゴを取り出した。そうか。十日ぶりだな。自転車でYの家へ。なんか懐かしい匂いだな。とりあえず、ニャアーニャアー鳴きながら部屋を歩きまわったよ。変わりがないな。いや、変わりようがないな。まあ、ゆっくりと週末を過ごすか。

22日(土)
朝早くからニャアーニャアー騒いでしまったな。だって目覚めた瞬間、ここがどこだかわからなくなったんだよ。店か、Yの家か。Yにナデナデされて、やっとYの家に来たことを思い出したんだ。ちよっと寝ぼけていたかな。二人が出かけてしまった後は、天気も悪いし、寝ているしかない一日だったな。ワタシのような年寄りには、寝ることが身体にいちばんなんだよ。それにしても静かだな。

23日(日)
夕方のカンヅメの前に、Yが爪切りを持ち出したよ。買ってきたのかな。いつもは動物病院で切ってもらっていたんだけどな。ここ数日、ワタシの爪攻撃で二人とも傷ついたから、自分たちで切ってみようと思ったのか。まあ、おとなしく切られてあげよう。カンヅメが終わってから、自転車で店へ。もう一泊してもよかったんだけどな。

24日(月)
「二月で終わりなんですよ」。K代がお客さんに話していたな。なにが終わりなのかな? カンヅメが今月で終わりだったらうれしいんだけど。まさか、この世の終わりではあるまいな。まあ、関係ないか。外は粉雪混じりの雨が降っていたが、ワタシは、Yがいうところの、七色のイビキでグースカしていたよ。この世の終わりか、グースカ。

25日(火)
うわー、暖かくていい天気になったな。相変わらずお客さんの出入りが激しいな。でも、そのあいまをぬって、ヒナタボッコを楽しんだよ。ワタシの長生きの秘訣はこのヒナタボッコにあるのかもしれないな。何もかも忘れて、ボーッとしている時間が必要なんだよ。それとグースカ。ボーッとしてグースカする。なんかバカみたいだな。

26日(水)
今朝はビックリしたよ。シャッターが開く音がしたので、ずいぶんYも早くきたな、とおもいながらトコトコ玄関にむかったら、入ってきたのは社長のMだったんだ。ドタドタといろんなところを片づけて、さっさと出かけていったよ。「待ってニャー」ワタシは謝ろうと社長のMを追いかけたんだけどな。だって、通路に落としたワタシの小さなウンチを社長のMが踏みつけていたからさ。まあいいか、社長のMは寛容だからな。

27日(木)
夕方のカンヅメを終えて、ヤレヤレと玄関へいったら、なんと愛用の玄関マットがなくなっていたんだ。おかしいな。朝はマットの上でYにナデナデされたし、昼はヒナタボッコを少ししたから、お昼まではあったんだが。さては、午後ワタシがグースカしている隙に、だれかが持っていったんだな。参ったな。爪とぎ、ナデナデ、ヒナタボッコに必要なんだよ。そのショックか、少し吐いてしまった。店の品物も、だんだん少なくなってきているし、おかしいよ。まったく、どうしたんだろう?

28日(金)
「いよいよ今日で終わりね。寂しくなるわ」。お客さんがK代に話していたな。えっ、やはりこの世の終わりなのか。そういえば、この店にこんなにたくさんのお客さんが来ることじたい異常だし、あまりの忙しさにお昼のカンヅメを忘れたのも、おかしいな。こんなとき母がいれば、いろいろ教えてくれるのにな。でも、母はまだ見つからないしな。やはり母の存在は偉大だったな。そんな疑問を感じながらも、自転車でYの家へ。もうすっかり慣れた場所だよ。夕食はめずらしく二人と一匹で、なかよくイカを食べたよ。まさか最後の晩餐では? おい、おい、三月は来ないのかニャアー。