2003年1月後半
16日(木)
うわぁー、この冬一番の厳しい冷え込みだな。ふと、野良ネコ達はどうしているのかな、と想ってしまうな。ただ、ただ、じっと、朝が来るのを待っているのかな。ワタシは、ただただ、Yの来るのをじっと待っていたよ。野良ネコ達とくらべれば、恵まれているな、と思うよ。腎臓が悪くても、誰かか来てくれて、マズイながらも食べ物がある。贅沢は禁物だよ。でも、もう少しマグロを食べたいニャ。これは贅沢ではなく、本能だよ。しかたないよ。だって、食べたいんだもの。
17日(金)
いくらワタシだってわかるよ。昼にK代が「ヒナタボッコをたっぷりしておきなさい」と言い、Yが夕方ごろからソワソワしてトイレの砂を小分けしていたりすれば。これは、またYの部屋に連れていかれるな、と。やはり、そうだった。 店を閉めてから自転車でYのアパートへ。もはや勝手知ったる我が家だな。着いたそうそう、オシッコとウンチをしてYとK代をビックリさせ、各部屋を点検だ。よし異状なし。そして夜食だ。あれっ、まだ夜食が用意されてないな。お腹がすいているから、早くしてよ。
18日(土)
なんだ、この植木鉢に入った草は? そうか、ワタシのために買ってきてくれたんだな。まあ自然の草と少し違うが、せっかくの好意だからいただくか。ムシャムシャ。少し固いな。グィとかみちぎってみると。あれっ、これはいけない、植木鉢が倒れて砂がこぼれてしまったよ。おまけに横に置いてあった皿の水までこぼれてしまった。二人が帰ってきたら怒るかな。参ったな。そうだ。ワタシは寝ていたことにしよう。寝ているあいだに、知らない犬かネコが入ってきて、植木鉢を倒し、水をこぼしたんだ。そうだ、そうだ、寝ていよう。・・・。ダメ、ダメだ。ワタシにはそんなウソはつけないよ。正直にあやまろう。きっと許してくれるよ。あっ、帰ってきた。あーあ、どうしよう?
19日(日)
きのうは正直に言えてよかったよ。Yはニコニコしながらワタシの頭をナデナデしてくれただけだった。よかった。おかげで気分よく寝てしまって、朝二人を起こすのを忘れてしまったよ。まあ休みだからいいか。予想どうり、夕方二人に連れられて店に戻ったよ。これから二人は病院に行くのか。冷たい雨が降る寒い夜になったな。行ってらっしゃい。風邪をひかないようにね。シャッターの内側からそっと見送ったよ。
20日(月)
だれだ! 玄関マットを汚したのは。ドロの付いた靴のまま入ってきた人がいるな。困ったもんだな。常識がないな。ワタシがヒナタボッコする神聖な場所を汚してはいけないよ。ゴロリゴロリするたびにワタシの身体にドロが付いてしまうではないか。そして、毛づくろいをするたびにワタシの口の中にドロが入ってしまうじゃないか。口の中に無理やり入ってくるのはカンヅメだけでたくさんだよ、まったく。
21日(火)
たっぷりヒナタボッコを楽しんで、気分よくグースカしていた午後。何やら横でゴソゴソ怪しげな音が聞こえてきたな。ネグラの隙き間からこっそりのぞいてみると、なんと金庫を開けている男がいたよ。これは、たいへんだ。Yを呼ばなくては、と探してみると、なんだ、男の横に笑いながら立っているではないか。知り合いか。それにしても金庫の中には何が入っているのかな。きっと、大切なものが入っているんだろうな。おいしいサカナか? それともマズイカンヅメか? さらに目をこらしてみると、なんと、からっぽだった。なんだ、つまらない。あーあ、時間のムダだった。寝よう。
22日(水)
なんだ、年があけても行くのか。あーあ、Yに連れられてT動物病院へ。ずいぶんと混んでいるな。待ち合い室には、犬、犬、ネコ、犬、ネコ、ワタシ。みんなお正月においしいものでも食べ過ぎたのかな。二人に押さえ込まれて採血、それにみがきにみがいた爪まで切られてしまったよ。数値は「悪くはなっていませんね。でも良くなったとは思わないで下さい」。そうか、よくわからないな。もう良くはならないのか。悲しいな。体重は3,85kg。おっ、前回より50g増えたか。やったな。50g増えるのと、減るのとでは、エビの天ぷらか、カッパエビセンか、の違いに匹敵するよ。いろいろ住まいを移り変わっていたから、もしやと思っていたんだが、よかったな。まずは一安心だ。店に戻って、白身のサカナをもらって、あとはゆっくりとグースカしたよ。よし、よし。
23日(木)
今日も寒い一日だったな。ミゾレと雨に強い風。三位一体の強烈なパンチが襲ってきたからな。外の光景はまるで台風なみだったよ。みんな寒そうに歩いていたな。でも、ワタシは温かな気分だったよ。お昼に天ぷらのエビとイカをもらい、新しいポカポカのホカロンを入れてもらったからな。それに夜食のマグロとカツオブシが首を長くしてワタシを待っている。そう、そう考えると、あの生涯の宿敵・カンヅメに立ち向かう勇気がわいてくるんだよ。これは闘いなんだニャアー。
24日(金)
週末はYの家へ。もうわかっているよ。夕方のカンヅメが終わってから出発だ。うわー、外は風が冷たいな。Yよ、もっと自転車を早くこいでくれよ。家に着くまでに風邪をひいてしまうよ。やっと着いたな。ストーブで部屋を暖めてくれていたK代がニッコリ迎えてくれたよ。この家にはまだまだ未体験の場所があるから楽しみだな。あれっ、もしかして、まさか、ここに母が隠れていることはないだろうか。どっかにいるにしては長すぎるしな。そうだ、その可能性はじゅうぶんあるな。ワタシがまだ入っていない所もあるし、YとK代に内緒で、こっそり探してみようか。
25日(土)
そうか、この部屋は朝に陽が射してくるのか。窓のそばに座布団が置いてあるな。この上でヒナタボッコをしてくれといわんばかりに、不自然な所に置いてあるよ。どれ、どれ。あーあ、気持ちいいな。朝風呂、じゃあない、朝のヒナタボッコもなかなかいいもんだな。ゆっくり毛づくろいもできるしな。そういえば、何かを探さなければいけなかったんだが、なんだか忘れてしまったな。いい気持ちだよ。
26日(日)
きのうの夜はK代のフトンの上で、おもわずノンビリしてしまったな。おかげでグッスリ寝てしまった。でも、朝はしっかり二人を起こしたよ。複雑な心境だったな。だって二人が起きるとカンヅメを食べさせられるから、ずっと寝かせておけばよかったのかな。夕方、店に戻った。洗面台の上にイスからのぼって、ゆっくり水を飲んで、店内を巡回したよ。別に変わった所はなかったな。そうか、今思い出した。Yの家で母を探さなければいけなかったんだ。でも、ワタシの鳴き声を聞けば出てくるはずだよな。おかしいな。こんど行った時、真剣に探してみよう。
27日(月)
Yの家と店をこうも往ったり来たりしていると、なんだか、わけがわからなくなってきたよ。きのう店に戻ってヤレヤレとおもったが、夜になるとなんだか淋しくなってきたんだ。こんなこと今までなかったのに不思議だな。人恋しいというか、家庭はいいなというか、そんな感情だな。だから、朝、シャッターが開く音を聞いたとたん、駆け足でYを迎えにいったよ。Yにナデナデされ、K代から口にカンヅメを入れられると、ここはどこ? ワタシはだれ? の心境になってしまうな。なにか、おかしいな。
28日(火)
やはり、店のヒナタボッコは最高だな。たぶん、Yの家と窓ガラスが違うんだろうな。店のガラスは光を最高の状態に生き返らせるんだよ。でも、のぼせすぎに注意しないとな。あれっ、夜食に定番のマグロがないよ。カツオブシだけだな。忘れてきては困るな。おっ、さっき帰ったYがまた来たな。マグロを持ってきたのかな。なんだ、忘れものか。ワタシの頭をナデナデしてさっさと帰ってしまったよ。つまんないな。
29日(水)
いつもどうりの朝を迎えた、はずだった。店に入ったYは、ワタシのネグラの前で立ち止まってワタシの顔をジット見たよ。ゴメンナサイ。ワタシは素直にあやまった。そう、ネグラの前の新聞紙の上に、ちょこっと小さなワタシのウンチがあったんだ。Yは苦笑いをしながら片づけてくれたよ。きのうはマグロがなかったから調子が出なかったのさ、と言いたかったけど我慢したよ。ウンチを落としたのはワタシの責任だからな。スイマセン。こう冷え込むとやはり年寄りにはこたえるな。クァーカーと、カラスの鳴き声がうるさかったけど、まさかワタシを冷やかしているのではないだろうな。まったく、うるさいな。
30日(木)
Yに悪いことをしたな。お昼のカンヅメの時、あまりの苦しさに、Yの手をワタシのするどい爪で引っ掻いてしまったんだ。もちろんYとは仲がいいよ。でもワタシの野性が本能的にでてしまったんだな。Yは痛そうにしていたよ。ペロペロなめてあげたかったけど、そうするとよけいバイキンが傷口に入ってしまうからな。だから、夕方の時はおとなしく食べてあげたよ。だいじょうぶかな。明日もナデナデしてくれるかな。
31日(金)
Yの手はだいじょうぶだった。そしてワタシをナデナデしてくれた。そして、そして、夜は週末恒例のYの家へ。でも、まだ自転車は恐いな。ニャアー、ニャアー鳴いて、ひたすら早く着くことを祈ったよ。Yのフトンの上でノンビリしてから、そうだ、思い出した。母を探さなくては。うーん。怪しい所が一カ所あるんだがな。確かに臭いな。「トラ、おいで」。母の声が聞こえてきそうだな。あの声をもう一度聞きたいな。あれっ、なんだ、なんだ、もう一月も終わりか。