2002年11月

11月 1日(金)
朝のカンヅメの時、二人の中年の女性が入れ代わり店に入ってきたな。一人は社長のMの知り合いらしい。もう一人はなんだか遠い昔、会ったことがあるような人だな。ワタシの名前を知っていたし、気安くワタシの身体をナデナデしてくれたからな。でも、ワタシはカンヅメを食べることに精一杯だったからな。失礼があったらゴメンナサイ。雨降りのイヤな一日だった。でもガンバルしかないよ、みんな。

2日(土)
おかしいな。ワタシの計算では今日は土曜日のはずなんだが。土曜日はお店は休みなんだけどな。朝のカンヅメが終わってもYとK代は家に帰らないで働いていたな。そうか方針を変えたんだな。まあヒナタボッコはできないけど、二人がいてくれれば穏やかになっていいか。暖房がほどよく効いて温かかったよ。
 
3日(日)
いい天気だなぁー。でもYとK代にとってはそれどころではないな。夕方のカンヅメの時間がだいぶ遅くなったよ。もう来ないのかなぁー、と思った時、やっと二人が来たよ。うれしかったな。どうやら病院の帰りらしいな。何か手伝えることがあればなんでもやるよ。

4日(月)
今日も休みか。昼には太陽が出てヒナタボッコを楽しめたよ。でもここにいない母のことを思うとノンキにしていられないな。「母曰く…」で、ワタシはいろんなことを学ばせてもらったからな。でもひとつだけよく分からないのがあるんだな。いつだったか、母曰く「トラが男だったらな」と、言ったことがあるんだよ。ワタシが男だったら、オスになるだけなのにな。でも深い意味があるんだろうな。また会えたら、ぜひ教えて欲しいな。

5日(火)
寒い日が続くな。朝のカンヅメの時、K代がマジマジとワタシの顔をみて、「顔がだいぶ白くなったね」。それはそうだよ。ワタシだって歳を重ねて顔全体の毛が抜けてきたんだよ。あれっ、おかしいな。今は亡き妹のマリーは小さい時から体全体が白かったけどな。まさか幼ない時から年寄りだったわけではないと思うけどな。そういえば動きが少しにぶかったけど、そんなことはないか。

6日(水)
お昼にYからトリ肉をもらったよ。あれっ、このトリ肉にはタマゴが少しついているな。そうか、そうか、親子丼のトリ肉だけをくれたんだな。親子といえば、T子さんと赤ん坊のKT君が遊びにきていたな。大きなダンボール箱の中で、KT君は気持ちよさそうに寝ていたよ。やはり、ダンボール箱が寝やすいのはワタシだけではないんだな。それを遠くで見ていたワタシも、いつしかグースカ、グースカ。

7日(木)
最近のYとK代はまったくあわただしいよ。朝のナデナデもゆっくりしてくれないし、カンヅメの時間も不規則だしな。まあ、母がいないから少しぐらいの不便は我慢しないといけないな。今日も夕方のカンヅメはいつもより早めだったよ。でも、夜遅くYが戻ってくれた。ワタシの頭を少しだけ撫でて帰っていった。寂しいな。ニャーン。

8日(金)
今日は調子が悪かったよ。朝、Yがシャッターを開けるのに気づきながらも起きていけなかったからな。ここ数日の寒さのせいかな。カンヅメも咽に通りにくくなったし、夜、店の警備の時間も短かくなったよ。寒いな。やはり、ネグラから出るのがつらいよ。

9日(土)
あーあ、今朝もYが来た時起きれなかったよ。寒さのせいか、調子が悪いせいか、よくわからないが。こう冷え込むと、前の家の掘りごたつが懐かしく思い出されるな。冬の間、ワタシとマリーは掘りごたつにもぐりこんだまま、ゴハンとオシッコの時以外は出てこなかったな。ワタシたちは温かくて、寝心地のいい場所をとるのに必死だった。みんなの足をかいくぐって場所を取り合ったよ。ときたまマリーの方が絶好の寝場所を確保したことがあったけど、ワタシはマリーの頭をゴツンと叩いて奪い取ったよ。若気の至りだ。マリーには悪い事をしたな。たまに二匹ともノボセあがって、グッタリして出てきたこともあったな。楽しかったな。「人間はなぜ追憶を語るのだろうか?」なんてフレーズがあったけど、もう歳なんだなあ。今夜も冷えそうだな。

10日(日)
エヘン。今朝はYが来た時、きちんと起きて出迎えられたよ。やはり朝の行動がその日を決めるな。お昼にはお陽様が、これでどうだと言わんばかりに、強烈な陽射しを浴びせてきて、ヒナタボッコを満喫できたよ。それから、一カ月振りにYがミットで抜け毛をとってくれた。気持ちよかったな。やはり、朝は早起きしないといけないな。

11日(月)
昨日の話とちょっと矛盾するみたいだが、ここ数日、朝のカンヅメの一口めが鬼門だな。今朝も一口めで逆流して少し吐いてしまったよ。これが三日も続いているんだ。どうしても、体力を消耗してしまうよ。昼と夕方のカンヅメはなんとか食べたんだけどな。やはり体調がよくないのかな。

12日(火)
今日はカンヅメがスイスイ入っていったよ。少し暖かかったからな。それはそれとして、なんか店にいる人が少なくなったような気がするな。正確に数えてないからよくわからないがな。何となくおかしいことはおかしいな。気のせいかな。母はいないし。

13日(水)
午後はポカポカ陽気になったな。ワタシは寝ていたのでよく分からないが、一瞬店の中が静寂に包まれたような気がするよ。遊びに来ていた、KT君を含めて、みんなグースカしていたのではないかな。グースカといえば、母を思い出すな。母とグースカを競い合ったものだよ。早くあいたいな。

14日(木)
あれっ、今夜の夜食はいつもとちょっと違うマグロだな。ツヤがあるな。ムシャ、ムシャ。ウマイ。これは、ウマイ。ムシャ、ムシャ。いつものが100g百円なら、ン百円だろうな。あれっ、もうなくなったよ。うーん、むずかしいな。高いマグロを少量食べるか、安いマグロをたくさん食べるか? むずかしいよ。悩むなー。

15日(金)
昼下がり、気持ちよくマグロの夢を見ながらグースカしていると、ゴソゴソ騒がしい音がワタシの頭の上あたりから聞こえてきたよ。なんだ、なんだと、急いでネグラから出てみると、なんと母の机の上をK代が片付けているではないか。ダメ、ダメだよ。母はワタシと似てゴチャゴチャしているのが好きなんだから。整理整頓をしてはいけないんだよ。まったく、みんなわかっていないよ。プン、プン。

16日(土)
いつものトリオで終日終わったな。つまり、Y、K代それにワタシ。でもこの二人と一匹だと、休みなのか、店を開けているのかよく分からないんだな。いつも玄関のガラス越しに見ていた子供達が入ってきて、やっと、ああ営業しているんだと納得したよ。子供達は苦手だ。やれやれ、奥のネグラに戻ってグースカしよう。

17日(日)
真冬なみの寒さだな。今年は寒さが駆け足でやってくるよ。もっとゆっくり来てくれてもいいのにな。玄関のガラス越しに、道路に落ちた枯れ葉を物思いにふけって見ていると、洋服を着た犬たちが散歩をしていたな。なんだ、あれは。自分たちの体毛で十分ではないのかな。過保護すぎるよ。ハックション。でも温かいかもな。

18日(月)
最近のお昼時は油断できないな。みんなそそくさと食べて、ワタシを起こしてくれないんだよ。ネグラの温かさに負けてしまうワタシもいけないんだが・・。今日も危うく食べ損なうところだったよ。殺気をおぼえて起き出したら、Yのお弁当が終わるところだった。必死にニャアーニャアー鳴いて、やっとアジのフライをもらったよ。生きていくことは大変なことなんだよ。

19日(火)
あーあ、とんだかんちがいをしてしまったよ。お昼にはまだ早いなと思いながらも、誰かが何かを食べている気配を感じ、ネグラから出たら、Yはなんにも食べていないんだ。なんだ、社長のMが親子丼を食べているんだ。そうか、くれそうにないなと感じ、静かにネグラに戻ったよ。しばらくして、今度は本物だった。Yからイカをたっぷりもらったよ。寒い日は食べて寝るにかぎるな。まあ毎日そうだがな。

20日(水)
変な中年の男性が来たな。ワタシの名前を連発して呼んでいたよ。そういえばずっと昔に会ったような気がするな。サカナの名前ならすぐ分かるけど、人の名前はなかなか覚えられないよ。ワタシをナデナデして、「やはりホンモノは毛並みがいいな」、だって。ホンモノ? なんだ。ということはニセモノがいるのか。植木ドラ、だったりして。いや、違うな。たぶん毛皮のことだろう。失礼だな。ワタシの体内には立派な血が通っているんだよ。

21日(木)
静かな店内で夜食のマグロをしんみり食べながら、ふと思ったんだ。何かが足りないな。そうか、冬のこの時期、いつもマグロの隣りに何かがあったはずなんだけどな。そうだ、そうだ、昨年まで、マグロの隣りにはいつも甘エビがあったんだ。あの甘さはたまらないな。Yは忘れているのかな。頼むよ、思い出して欲しいな。

22日(金)
甘エビを思い出して欲しいと頼んだのに、Yが思い出したのは動物病院だったよ。なんでこんなに寒い日に。あーあ、Yに連れられて谷澤動物病院へ。待合室にはネコ族だけだ。室内に響くのはニャー、ニャーの鳴き声だけ。やはり気分がいいな。体重は4kg。前回と同じだ。数値はちょっとだけ悪かったけど、先生からは褒められたよ。「このくらいの数値を保てていられるのは、汗と涙の結晶ですね」。エヘン。ワタシがカンヅメの時間に流した多くの汗と涙の結晶で、今この健康状態を保てているんだな。感激したな。やっぱり努力は無駄ではなかったんだ。うれしかったよ。

23日(土)
どんよりした天気だと心も沈むよ。こんな日はグースカにかぎるな。あれっ、いま思い出したが、昨日の動物病院で、採血の前に女の先生から目を入念に調べられたな。光りを当てられながら。そういえば、5〜6年前にもネコ族の図鑑を見ながらワタシの目と見比べていたことがあったよ。ワタシの目はネコ族の目の色と違うのかな。なんだろう。もしかして、ワタシの目はゴールデンキャッツアイだったりして。それなら納得するんだがな。天気が悪いと訳の分からないことを考えてしまうな。やはり寝よう。

24日(日)
休みの日に天気が悪いと、一日損をした気分になるな。玄関マットの所でしばらく待っていたが、いっこうに陽が射す気配がないよ。しかたない、新聞紙の上に移動だ。新聞紙の上はけっこう温かいんだよ。サラッとして、玄関マットとは、また違う心地よさがあるんだよ。おやっ、今夜の夜食は、すこぶる新鮮なマグロだな。これは買ったばかりだな。ムシャ、ムシャ。やはり外国産だ。でも、おいしいよ。ムシャ。

25日(月)
このところ、KT君がよく来ているな。ワタシを見ても特に反応することがないよ。あまり動かないので、ネコの置き物だと思っているのかな。茶トラだから、目立たないので無理もないか。黄色や青色のネコになら反応するかもしれないが、そんなネコはいるのかな。まあ、ワタシも一歳の子供に興味はないから、お互いさまか。

26日(火)
少し便秘気味だよ。天気が悪くてヒナタボッコはできないし、毛玉は吐くし、寒いからネグラにジッとしているからだな。やはり夜警の仕事をしっかりしないといけないな。よし、寒さを我慢して動き回るか。おいしい夜食のためにもな。しかし、シンシンと冷え込むな・・。

27日(水)
寒さに震えながらも、夜警の仕事をしっかりしたせいか、ついに便秘が解消したよ。気分がいいな。それと、昼のカンヅメのあと、玄関に陽が射しているのに気がついたんだ。幸いお客さんがいなかったので、短かい時間だったけれど、久し振りのヒナタボッコが楽しめたんだ。一生懸命仕事をすれば、やはり報われるんだな。おかげで午後は気持ちよくグースカ、グースカしたよ。

28日(木)
昨日で味をしめたワタシは、今日もお客さんのいない昼時、ヒナタボッコを楽しんだんだ。冬のヒナタボッコは春とは少し趣きが異なるよ。寒そうに急ぎ足で歩く人々を眺めながら浴びる強烈な陽射しは、また格別な感慨があるんだよ。今年も終わりか、そんな予感がするな。と、男性のお客さんがそっとドアーを開けて入ってきたよ。ワタシは静かに玄関から離れた。買い物を済ませたお客さんはK代に「ネコちゃんがゆっくりしていたのに邪魔をしてすいませんね」。ワタシは感激した。ほんとうに心の豊かなお客さんだな。太陽のぬくもり以上の温かさをもらったよ。生きていてよかったな。

29日(金)
静かだな。午後にはK代とワタシだけになったよ。この一人と一匹はなぜかグースカが好きなんだな。示し合わせたつもりはないが、どちらともなくグースカがはじまったんだ。もしお客さんが来なかったら、この一人と一匹は夜までグースカしていただろうな。平穏だけど、なんかおかしな一日だったな。

30日(土)
今月はニャアーというまに終わった感じだな。別に何をしたという感じもないけど。カンヅメを三十個食べて、夜警の仕事をして、あとはグースカしていたからな。ふと、これでいいのか、と思うけれど、ワタシの場合、一日一日が闘いだし、長く厳しい闘いだからな。まあ、そう考えると、そう、そう考えると、あまりにむずかしくて、よくわからないから、眠くなってしまうよ。あーあ、疲れた。母はどこにいるのかなあ。グー、グース、グースカ。