2002年7月

7月 1日(月)
お昼、母がほんの少しホタテの煮物をくれた。あっというまに食べたワタシはこれで終わりと思い、さっさとネグラに戻ったよ。K代が「さすが病気だと自覚してるわ。偉い。よくわきまえて我慢してるわね」。母は「もう少しあげようと思ったのに・・」。えっ、まだあったのか!ワタシは慌ててネグラから出て、またほんの少しもらったよ。食べ物のことで、ワタシが我慢するはずがないんだニャ。ねぇー。

2日(火)
あれっ、急に静かになったな。ゆっくり背伸びしてネグラから出てみると、母はもう帰っていた。午後三時過ぎ。いつもより少し早く帰ったんだな。水を飲んで、オシッコをして玄関へ向かったら、なんと陽が射していたんだ。そうか、いまはこんな時間に陽が射しているのか。いつもワタシが昼寝している時間だよ。なあーんだ。それではヒナタボッコをと、寝そべった時「お中元のマンゴーです!」。あーあ、配達の人に邪魔されたよ。まったくこんな時に荷物を送るなよ! でも、マンゴーって魚かな?

3日(水)
ムシムシしたイヤな日だよ。これからあの恐怖の夏がやってくるのか。店がここに移ってから三回目の夏になるが、去年の夏より体力は確実に落ちているし、体調もよくないから、辛いだろうな。まさに正念場だよ。今からできる準備といえば・・。うーん、そうか、睡眠を十分とることかな。そうだ、寝よう。グー、グー、グー。

4日(木)
なんかムシャクシャした気分だったな。ネグラに敷いてあった新聞紙をちぎりまくってやったぜ! あースッキリはしたが、散らかった新聞紙を見て、深く反省しました。スイマセン。これもみな暑さのせい、といいたいが、この歳になっても至らないワタシの未熟さの所以です。まあ、まあ、フム、フム。それはそれとして、お昼に食べたトリのソボロは珍らしいものだな。変わった味だよ。

5日(金)
朝、Yに抜け毛をとってもらったよ。昨日はとらなかったから、大量の細かな毛がとれたな。そうか、昨日は抜け毛をとらなかったんだ。それでムシャクシャしていたんだな。そうだよ。だって、今日の午後は、母に呼ばれてもグースカいびきをかいて寝ていたんだもの。これからは毎日してもらわないとな。Yには苦労をかけるが・・。

6日(土)
休みの日は自転車の音に敏感になるな。だって、いつもYが来てからだいたい一時間ほどして、K代が自転車でやってくるんだよ。自転車の止まる音がして、玄関があくと、それ!っと、ワタシはネグラへ急いで戻るんだ。誤解されると困るけれど、別にK代が嫌いなわけじゃないんだよ。カンヅメがイヤなだけなんだよ。もちろん身体のためにはしかたないこともわかっているんだ・・。そのK代が「腰のまわりの肉付きが少しよくなってきたわね」。そうか。あと背骨のあたりにもう少し肉がつけばいいんだがな。

7日(日)
あーあ、この毛が脱げたれどんなに楽かな。そういえば七〜八年前には、夏に入る前に毛を丸刈りにしてもらったんだけどな。麻酔をかけ、頭と顔の部分を除いて、毛を全部バリカンで刈ったんだな。ワレながら異様な姿だったな。だって野良ネコたちがびっくりして逃げて行ったもん。麻酔をかけてもらうと、体力が消耗するからな。この歳では・・。まあこの暑さを我慢するしかないな。

8日(月)
まったく相変わらずの暑さだな。昼過ぎ、母に顔を拭いてもらったよ。本当に久し振りだったな。ちょっと乱暴だったけど、すごーく気持ちよかった。なんともいえず、すっきりしたな。おかげで、そのまま夕方まで睡眠一直線だったよ。

9日(火)
午後KYT君が来たが、ワタシはもっぱら体力の温存を心掛けたよ。ジッと静かに寝ていたな。だって、ここ数日の異常な暑さでみんなバテテいたからね。母などはタクシーを停めるつもりで、パトカーを停めてしまったしな。もちろん乗せてくれなかったらしいが・・。YとK代も、カンヅメのエサの代わりにオイシイ物をワタシの口に入れてくれないかな。まあ無理かなぁー。それにしても、なんだ、この暑さは!

10日(水)
いゃー、昨日にくらべると暑さが少しおさまったな。母は病院へ。静かな昼寝の時を過ごせたよ。嵐の前の静けさか。そう、台風が近づいているのだ。みんなが帰ってから、換気扇からはスゴイ雨音が聞こえるし、シャッターは強風を受けてブルブル震えているよ。オーイ、誰か来て欲しいよ! まったく、みんな役に立たないな。

11日(木)
ガタガタ、ゴトゴト、ジャージャー。まったく、ひどい台風だな。勝手に来て勝手にどっかへ飛んでいったな。恐かったので、ニャーニャー鳴きながら夜警の仕事をしたよ。おかげでひどく睡眠不足になった。それに台風一過で、この暑さ。店のクーラーも一台故障する始末さ。まったく夏は体力と知力を使うな。グニャ、グニャ。

12日(金)
昼のカンヅメが終わり、ヤレヤレ、昼寝でもするかとネグラに戻った時、手ぬぐいを握った細く柔らかそうな手が伸びてきた。母だ。顔を拭いてくれるのだ。迷惑だったけど、母の好意は無にできないよ。終わってから、手ぬぐいをワタシの頭の上に載せてくれたな。なんだね、ワタシはお風呂に入っているわけじゃあないんだよ!

13日(土)
ちょうど三年前の今頃だな。妹のマリーが天国に修行に出掛けたのは。四月頃急に痩せだし、3kgあった体重が2kgになったんだ。Yが急いで動物病院に連れて行ったがもう遅かったよ。扁平上皮ガンだった。それから三カ月頑張ったんだけどな。極めて曖昧な母の記憶によれば、ワタシ達は野良ネコ三姉妹だったらしい。ワタシ達を生んだ母ネコはすぐにいなくなり、もう一匹の妹は生まれてすぐに車にはねられ、ワタシとマリーだけが残ったんだ。マリーはいつも甘えてばかりいたな。同じ日に生まれたんだけど、姉のワタシの方が落ち着いていたし知力もあったからな。それからはなんとか植木家の一員になれるようにと、狭い額に汗流し、煮干しも細るような努力とタコの吸盤のごとし知恵を駆使して生きてきたんだ。そうか、もう三年たつのか。ネコ暦では3年×4倍の12年だな。一生懸命修行してるかな、マリーは・・。あれ?今夜はカツオブシだけか。
妹のマリーぃ…ちょっと、会いたい気もするにゃ……。

14日(日)
暑いよー。休みの日はYが来るたびにクーラーをつけてくれて、店全体を涼しくしてくれるんだけど、故障したクーラーが店の奥、つまりネグラの近くにある方なんで、今日はネグラのあたりが全然涼しくならないんだな。でも、ネコに小判、じゃあない、ネコにクーラーなんてちょっと贅沢だな。贅沢というよりおかしいな。ネコ族はエビのシッポのような本能で、夏は涼しい所、冬はより暖かい所を見つけなければいけないんだよ。そうだよ、ネコ族の野性はすごいはずなんだけどな。どこかに置いてきたのかな。

15日(月)
昼、ワタシの野性がついに目覚めたな。母とK代の気配を感じたワタシはネグラからヨイショと起きだし、母からは小エビの天ぷらを二匹ゲットし、K代にはニャーニャーと甘え、小魚を一匹もらったのだ。おっ、これは豆アジだな。なんだこれは、この匂い。酢漬けじゃないか。まったく、味付けは必要ないのにな。プンプン。

16日(火)
また台風が来たな。でも今度は、みんながいる昼間なのでちっとも恐くなかったよ。大雨や強風の音を子守唄にグースカ、グースカ、昼寝をしていたよ。残念なのは、夜食のメニューからついにマグロなどのナマものが消えてしまったんだな。この暑さだから仕方ないか。秋まではガマン、ガマンの食生活になるな。アーア。

17日(水)
やっとクーラーが直ったな。これでまずは一安心だ。みんなが帰ったあと、Yがワタシをナデナデしながら、珍しく真面目な表情で囁いたよ。「マリーがもし『お姉ちゃん、遊ぼうよ』と誘いに来ても絶対について行ってはいけないよ」。ワタシは何のことかよくわからなかったな。なぜだろう。マリーは妹なのに・・。なぜ?だろう?

18日(木)
クーラーが涼しい風を運んでくれるな。そのおかげで、午後はイビキの大合唱になったよ。ワタシの横の椅子では母がグースカ、ちょっと離れてK代がグースカ、ワタシも負けずにグースカ、グースカ。外ではカラスがカァー、カァー。不思議なことに目覚めたのはみんな同じころだったな。母曰く「夏は寝るのが一番よ」。同感ですニャ。

19日(金)
あれ、なんだ! このあいだ行ったと思ったら、もう一カ月たったのか。あーあ、Yに連れられて動物病院へ。一番乗りだ。院長先生はやはり採血がうまいな。あっというまに咽から血をとられたよ。体重は3,9kg。エヘン、また増えたんだ。でも、少し貧血気味だと注意されたよ。そういえば、最近少しフラフラすることがあったな。まあ、このままカンヅメ生活を頑張るしかないか。

20日(土)
梅雨明け。厳しい暑さだな。Yのイスの上で一日中グッタリしていたよ。カンヅメを食べるのもけっこう体力がいるんだよ。K代が人さし指につけたカンヅメの中身をワタシの上顎にこすりつけるんだな。ワタシはそれを飲み込もうとするが、これがなかなかうまく飲み込めないんだよ。マズイし咽につかえるんだ。今では少し変則的だけど、苦しくなると、後脚二本で少し立って、前脚をYの手で支えてもらって突っ張って飲み込むんだよ。なかなか大変なんだよ。だからYとK代には悪いけど、ときどき唸りながら怒るんだ。いやぁー、辛いもんだな。お互いに。

21日(日)
なんだこの暑さは。ジワジワとワタシの毛皮に熱気が押し寄せてくるよ。でも救われたのは昼のカンヅメがなかったことだな。K代はこのクソ暑さのなか遊びにでも行ったのだろうか。Yが天丼を買ってきてワタシにエビとイカをくれたよ。身体にはあまり良くないと思うけど、それはそれで、やっぱりオイシカッタな。一人と一匹、暑い日、腎臓も焼けつくような心温まる昼食だったな。

22日(月)
母もYも社長のMもいない昼時。Yのイスに座ったK代がお弁当の蓋をとった時、なんとも言えぬ香りがワタシに起きろと囁いた。ガサゴソ起きだしたワタシはきちんと前脚を揃えてかしこまり、極上の笑みをK代に投げかけ、ニヤァー、ニヤァー、ニヤァー。人の良いK代から金目鯛の焼き物を頂戴したよ。もちろんこの好意に報いるため、カンヅメはおとなしく食べたんだ。だって、金目鯛は生まれて初めてだよ。

23日(火)
あーあ、抜け毛がひどいな。毎朝Yにミットでとってもらっているんだがな。身体の手入れをするたびにどんどん、どんどん口のなかに入ってくるんだよ。毛玉を吐くと体力、気力を使い果たして、集中力がなくなり、注意力散漫になるんだ。そのせいだな、きっと。昨日の夜のオシッコとウンチが砂の上にいかず、その横の新聞紙に落ちてしまったのは。そうだな、抜け毛のせいだな。なるほど。理路整然としているな。

24日(水)
夜警担当のワタシとしては、この店の隅々まで知っているつもりだが、ただ一カ所まだ足を踏み入れたことがない場所があるんだ。ワタシが入ろうとするとうまく邪魔されて、なかなか中にもぐり込めないんだな。いつも不思議に思っていたんだが、やっと今日わかったんだ。修理の人が来て「トイレの詰まりは直りました」だって。そうか、みんなのトイレだったんだ。ワタシのトイレハウスよりずいぶんと巨大だな。道理でみんなイソイソと入ってスッキリした顔で出てくるわけだ。二年半に及ぶ大疑問が氷解した。これで今夜は悩まずにスッキリ眠れるな。

25日(木)
朝のカンヅメの時、K代から「今日は毛のツヤがいいわね」。そういえばここ数日、お肌の調子が悪くて毛がバサバサだったからな。ちょっと夏バテ気味なのかな。でも、昼に母からエビの天ぷらをもらったら、疲れが身体全体からすっ飛んでいったよ。いい気持ちになって昼寝から夕寝までグースカ、グースカ、グニャ、グニャだ。

26日(金)
今日の昼は収穫がなかったな。母はこの暑さの中、カレーライスを食べていたよ。カレー独特の匂いがワタシのネグラの上空を旋回していた。ネグラから出て、しばらく眺めていたら頭がクラクラしてきたよ。カレーでなくてカレイを食べてくれれば、ワタシの出番もあったのにな。電話も少なく社長のMもいなく静かな一日だった・・。

27日(土)
朝珍しくYが遅く来たよ。寝坊でもしたのかな。そしたら、K代がいつもより早く来たよ。困るんだよな。ナデナデの時間が短くなるんだ。朝のひとときはワタシの癒しの時間なのだから。癒しといえば、夕方、浴衣姿の女性が多かったな。涼しそうで、心が洗われるな。。そうか、そうか。隅田川の花火大会か。でも食べられないし、ネコ族は色彩感覚に乏しいからな。音だけ楽しむか。

28日(日)
朝、カンヅメの前に胃液を吐いてしまったよ。しかもYとK代の目の前で。このところ好不調の波が激しいな。まあ夏だからしかたないか。昼は小さな金庫の上で寝ていたよ。布がかぶせてあって、固いけど涼しいんだ。ワタシがいつもの所にいなかったのでYがしばらく探していたな。16坪ほどの小さな店だからそんなに大騒ぎして探すことはないと思うけど。金庫の上で招き猫をしていたんだニャ。ウッフッフ。

29日(月)
そうか、いま子供達は夏休みなんだな。朝のカンヅメの時、小学3、4年生くらいの女の子が店に入ってきて、ワタシの様子をジット見ていたよ。ちょっと迷惑だったけど、ワタシは静かに食事との闘いを続けていたよ。そのうち近づいてきてカンヅメを手に取って匂いを嗅いだな。「わぁー、おいしそうな匂い。タラノコみたい」。そんなわけないよ。でも、でも、いいな。無邪気で、無限の未来があって・・。

30日(火)
やはり夏バテだな。母からも、K代からも「痩せたわ。痩せたね」といわれた。でも、夏にブクブク太るネコなど聞いたことないけどな。夕方のオシッコも砂の上でなく横の新聞紙にかけてしまったしな。あーあ、この暑さ何とかして欲しいよ。金庫の上でジット我慢して、この夏が通り過ぎるのを待つしかないか。

31日(水)
なんだ、またクーラーが故障してしまったよ。この夏一番の暑さだというのにな。お昼もワタシの好物は何もなかったし、一日中グッタリしていたよ。クソ暑かった七月さん、さようなら。もう当分来なくていいからね。それにしても暑いニャー。