2002年6月

6月 1日(土)
休みなのにYが掃除をしていたな。冬には暖かい風が、夏には冷たい風がでるエアコンを。あれっ、ということは、あのアツイ夏がもうすぐ来るのかな。勝手に来るなといっても、来るだろうな。この“プヨプヨの身体”でいったいどう乗り切ればいいのかな。ウーン。考えれば考えるほど難しくて眠くなってしまうな。グー、グー。

2日(日)
夕方、K代がカンヅメのエサをワタシの上顎に入れた時だった。Yが「頭が少しハゲてるな」。ワタシが苦労しながらエサを飲み込んだ時、今度はK代が「前から見るとわからないけど、後ろから見ると少しハゲてるね」。なんだって! やっと首の周りのハゲが直ったと思ったら今度は頭か。そういえば、このお店の家系はハゲるみたいだしな。まったく、いやになっちゃうな。今度、鏡で見てみるか。

3日(月)
ワタシを抱きかかえた母がシミジミとした口調で言ったな。「オマエも年をとったねぇ。イボができたり、ハゲたり」。そう言えば、まだ野良だった子ネコの時にこうして抱かれたような気がするな。母も若かったよ。と、しばし感慨に耽っていると、横から現実的なYの手が伸びてきた。なんだよ、またカンヅメの時間か。時は確実に過ぎてゆく。

4日(火)
朝、Yにナデナデしてもらってから、開いていた玄関からほんの少し表に出てみたよ。ほんの少しだよ。幅にして25cmくらいかな。7〜8歩くらいだよ。車と人の往来が騒々しいな。ドカンという音を聞いてあわてて店に戻ったよ。やはり店の匂いが一番だな。恐くて外なんか歩けないよ。前の家の時も庭を歩いたくらいだからな。まあ刺激的ではあるが、そんなものちっともおいしくないさ。

5日(水)
ブーン、ブーン。うるさい蚊の季節になったな。隣りが小さな神社で、緑が多いから仕方がないんだけどな。その緑のおかげで夏でもけっこう涼しいんだよ。それにしてもうるさいな。ワタシもイビキで対抗したよ。ブーン、ブーン。グー、グー。ブーン、ブーン。グー、グー。

6日(木)
Yがワタシの冬用のネグラ、つまり小さなハウスを掃除して、外で陽に当ててくれたよ。お昼ごろ、それを見た30歳前後のきれいな女性が二人、「ネコちゃんはいないんですか?」。昼寝をしていたワタシはK代に起こされて、二人の前に連れていかれたよ。「わぁー可愛いい。でも痩せてるわね」。痩せてる?その言葉だけは聞きたくなかったよ。落ち込んでトボトボと机の下のネグラに帰ろうとしたワタシに、母がエビの天プラをくれた。うれしかった。これで生きる勇気が湧いてきたよ。ありがとう。

7日(金)
YとK代が夏用の新しいネグラを作ってくれた。小さなダンボール箱にマットを敷いただけの簡単なものだがけっこう寝心地が良かったよ。これでワタシのネグラは三カ所になったな。夜はYのイスの上。昼は母の机の下。今度できたダンボール箱は、母の横の折りたたみイスの下に置いてみたよ。どこで寝ようっかなあ、楽しみだな。グーグー。

8日(土)
暑さのせいか、調子があまりよくなかった。朝のカンヅメの時に吐きそうになったよ。残念ながら、せっかくの休みなのにYとそんなに遊べなかった。そういえば最近店の中を走っていない気がするが。冬の終わり頃まではすごい勢いで走っていたのにな。体力が衰えたのか。ネズミ君でも出てくれればな・・。でもなにか悲しすぎるな。

9日(日)
昼間、Yにミットでムダ毛をとってもらったよ。驚くほどとれたな。身体がすっきりとして本当に気持ちよかったよ。おかげで午後は爆睡だ。もうなにが来ても起きないからな。グーグー。数時間後、やってきたのはカンヅメの時間だった。あーあ。

10日(月)
新しいネグラはなかなか快適だな。ただ難点は、すぐ横の通路に人の行き来が多いことだな。少々騒々しいな。おっ、K代がそれに気付いてくれたのか。ダンボールを横に巻いてくれたな。よしよし、やはり落ち着くな。K代もなかなかやるじゃないか。ワタシもこれでダンボールハウスの住人、じゃない、住猫になったな。

11日(火)
ダンボールハウスは実に絶好の場所にあるんだ。みんなが食事をする時にチラリと見れるんだよ。そのおかげで、昼にYからはイカの天プラ、母からはなんとホタテの刺し身をもらったんだ。ホタテの刺し身はやはり最高だな。甘味があって、味に奥行きがあるよ。午後からは、赤ん坊のKYT君が来ようが、カラスが鳴こうが、ぶんぶんカが飛んでこようが、もう関係なく冬眠状態だったよ。まさに至福の時だったな。

12日(水)
あれっ、カンヅメを変えたのか。こんどのはオイシイかな。ゲッ! マズイ、マズイ。やはりマズイよ。なんだ、カンが変わっただけで中身は全然変わってないじゃないか。ワタシが元気なうちに腎臓疾患用のオイシイカンヅメを作ってくれないかな。トラ・ノーベル・カンヅメ賞をあげるのにな。マズイ、苦しい、つらいのだ。

13日(木)
おもいがけずに涼しい日が続いているな。病気もちのワタシにとっては大変有り難いことだ。有り難くないのは新しいカンヅメだよ。前より少し固いので、ペッ、ペッと吐き出せないんだな。まあそのうちなんとか対策を考えるよ。この賢い頭脳で・・。本当は全部食べるのが身体に良いとわかっているんだけどなぁー。

14日(金)
朝、社長のMが来なかったから、Yにゆっくりとムダ毛をとってもらったよ。新しいカンヅメになって、なんだか体重が増えたような気がするが・・。気のせいかな? 昼もみんなにねだらなかったしな。病は気からというから、楽な気持ちでいくか。あれっ、夜、帰ったはずのYがまた来たな。寂しかったので、嬉しかったな。ナデナデしてもらったら、気持ちよくて咽がゴロゴロしたよ。またちょくちょく来てほしいなぁー。

15日(土)
昼ごろ、玄関のマットの上でくつろいでいたら、子供達がガラス越しに覗き込んで、「あっ、いた。ネコだ。野良ネコなんだよ」。失礼なことを言うな。生まれたばかりの時は野良だったかもしれないけど、今は名前もちゃんとあるし、この店で寝起きしてるんだから。留守番と夜警の仕事もあるんだからな。天気も悪いが、気分も悪いよ。でも後でYから、「カンヅメを食べるのも仕事なんだよ、大変だろうが頼むよ」と言われ、だいぶ落ち着いたな。そうだ、もうひとつ。寝るのも仕事だ。あー、忙しいな。

16日(日)
カンヅメの時間が不規則だったな。朝と昼はいつもより遅かったが、夕方はいつもの時間だった。YとK代にも都合があると思うけど、ワタシにとっては非常に困るんだな。確か、以前にも注意したことがあったとおもうけどな。おかげで寝る仕事がはかどらなかったよ。これから溜まった仕事をかたずけなければ・・グーグーグー。

17日(月)
昼時、Yは何もくれなかった。たぶん、お弁当のオカズにワタシ向きのがなかったんだろうな。諦めて草でも嗅ぐか、と玄関の方に向かった時、「トラ」と、神の呼び声、いや母の呼び声が。あっ、マグロだ! やった! マグロを堪能したワタシは、母に感謝し、その手をペロペロなめたんだな。

18日(火)
朝、例によってYにナデナデされながらミットでムダ毛をとってもらったよ。とっても、とっても毛がとれたな。これからは抜け毛のシーズンだから毎日とってほしいな。そうでないと毛玉を吐くことになるんだよ。夕方、YとK代が不吉な会話をしていたな。「明日は病院にいくから」。えっ、まさかワタシのことではないだろうな。

19日(水)
あーあ、昨日の会話はやはりワタシのことだった。Yに連れられてY動物病院へ。昨日雨だったせい混んでいたな。犬たちが大中小と、われらネコ族が二匹。ワタシが暴れたせいか、咽からでなく足から採血された。結果は。エヘン、数値はまあまあ、そして体重は3,77kg。前回より120g増えたんだ。増えたんだ。増えたんだよ。うれしかった。やればできるんだな。ルンルンの気分でYと店に帰ったよ。でも、あまり調子に乗らないよう自分を戒めながら、母がくれたホタテを無我夢中で食べたよ。

20日(木)
今日は母が病院へ。社長のMもいなかったし静かなもんだ。そのせいか、みんなが昼ご飯の時、ワタシは深い眠りの世界に落ちてしまっていたのだ。K代によれば、それはすごいイビキをかいていたそうだ。まあ、昨日の疲れがあったんだろうな。

21日(金)
暑い日が戻ってきたな。こんなムシムシした日にカンヅメを食べるのは苦痛なんだよ。でも体重が少し増えたのはこのカンヅメのおかげだからな。カンヅメが変わったことはワタシにとって幸いなことなのかな。そうだな、きっと。

22日(土)
変な天気だな。今日は一転して涼しい日になったよ。昼ごろ、Yと玄関のマットの所でくつろいでいたら、小さな7〜8歳位の女の子がガラスごしにジッとこっちを見ていたな。30分ほど、ワタシとYと女の子の間を、二人と一匹の視線が往ったり来たりしていたよ。30分だよ! ワタシはすぐにわかったよ。寂しいんだな。ワタシがもっと若くて、すごく健康だったら、遊んであげるんだけどな。

23日(日)
朝カンヅメを食べて寝て、昼カンヅメを食べて寝て、夕方カンヅメを食べて・・・。まさに絵に書いたような平和で静かな休日だったな。夜食はカツオブシとマグロ。そう言えば最近、ヒラメ君やタイ君やスズキ君や甘エビ君に御無沙汰しているな。少しは考えてほしいけどな。まあそれぞれ都合があるんだろうな。

24日(月)
やだな、失敗してしまったな。明け方近く、オシッコをしてトイレから出ようとしたらバランスが崩れて、トイレの入り口近くにあった水の器を倒し、敷いてあった新聞紙をビショビショにしてしまったんだよ。Yの来るのが待ち遠しかったよ。Yは、あれっ、とワタシを見て、急いで片付けてくれた。いつも迷惑をかけて申し訳ないな。しかし、最近どうも、よろけることが多くなったよ。やはり歳のせいかな。

25日(火)
お昼のカンヅメの時にお客さんが入ってくると、非常に困るんだよな。今日もお客さんがワタシの横で買い物しながら、「わぁー、可愛い」とか「きれいな目をしてるわね」とか。それは褒められるのは嬉しいけど、ワタシはカンヅメを食べるのに必死なんだな。店の奥で食べればいいんだけど、ちょっと狭いからな。ワタシは一応レディーなんだから、必死な形相でカンヅメを食べてる姿を見せたくないんだよ。でも、今の状況では仕方ないか。物わかりがよすぎるのも、ワタシの人の、じゃない、ネコのよさか。

26日(水)
もう、いやになっちゃうな。またまた失敗してしまったよ。新聞紙の上でオシッコしてしまったんだ。ここ数日、梅雨寒むの天候だからな。ちょっと我慢できなかったんだよ。母曰く「そこいら中にオシッコやウンチをするようになったら、もうおしまいよ」。おっしゃるとうりです。猛省します。スイマセン。

27日(木)
またまた、冷たい雨。Yがホカロンをいれてくれた。この時季にホカロンなんて珍しいな。最近、失敗続きのせいか少し便秘気味だよ。精神的なものだからな。そのせいか、カンヅメを食べるのが非常に苦しかった。やはり、天気が悪いと気分も落ち込むよ。あーあ、お日さまが恋しいな。

28日(金)
ヤッホー。スッキリ、サッパリ、気分爽快。昨日の夜、ウンチを二回したんだ。便秘解消。やはり便秘の苦しさは経験したものでないとわからないよな。朝、Yが驚いた顔をして、忙しそうにワタシのウンチ達を片付けていたよ。ウッフッフ。

29日(土)
昨日と一転、調子がいまいちだったな。朝、Yが来た時、明け方食べた草を胃液と一緒に吐いてしまったよ。植木鉢の草を食べることじたい、あまり胃の調子がよくないんだよ。やはり、この梅雨の気候のせいかな。昨日はスッキリした気分だったのにな。あっ、でも食べたカンヅメを吐いたわけじゃないからな。そうだよ。新しいカンヅメになって一度も吐いてないよ。そうだ。だいじょうぶだよ、きっと。

30日(日)
夕方、ワタシにカンヅメを食べさせながら、YとK代と話していたな。「夕食、何を食べようか」。“何を食べる?”。ワタシは一度もきかれたことがないな。なぜだろう? 一日三回のカンヅメ。夜食は少量のカツオブシとマグロ。病気だから、決まりきった食事なんだ。一度きいてほしいな。「トラ、何を食べる?」。「ねえ、トラさん、何食べたい?」
うーん、何を食べようかな。好きな物がたくさんあり過ぎて困ってしまうよ。今度きかれる時までに考えておこう。