2002年12月
12月 1日(日)
雨だ。雨の日はやはり冷え込みが厳しいな。ネグラにはホカロンを2個入れて欲しいよ。あっ、そうだ、そんなことより大事なことを忘れていた。今日は母の79回目の誕生日なんだよ。どうしょう。ネズミをプレゼントしたら大騒ぎになるだろうし、ワタシが鳴き歌をしても迷惑だろうな。でもどこにいけば母に会えるかなあ。ニャアーン。

2日(月)
やっと晴れたよ。昼にYから白身のサカナ入りご飯をもらって、玄関でヒナタボッコだ。やはりいいな。でも、平日のヒナタボッコはちょっぴり注意が必要なんだ。女性のお客さんはそうでもないけど、男性のお客さんはドカッと入ってくるからな。やっぱり来たよ。ドアーが身体にぶつかりそうになった。危なかったけど、うまく避けたな。歳はとっても、まだまだワタシの敏捷さは失われていないよ。エッヘン。

3日(火)
夕方のカンヅメの時、YとK代が変な話をしていたな。ワタシは右利きか、左利きか、ということを。口に含んだカンヅメの中身を左前脚でかき出しているから、左利きなのかな。でも、箸やボールペンを持つわけでないし、電話に出るわけでもないから、そんなことどうでもいいと思うけどな。ネズミをとる時、どちらの前脚から出していたかな。別に意識していなかったけど、そういえば気になるな。

4日(水)
雨だよ。まったくイヤになってしまうな。おまけに朝から、赤ん坊のKY君が来てギャアー、ギャアー泣いているしな。昼にYからイカリングのイカだけもらって、ネグラでゆっくり休んだよ。入り口に手ぬぐいをかけてもらえば、別世界だ。雑音は入らないし、温かさが逃げないからな。ここで一句。
「静寂な ネグラに響く 寒イビキ」

5日(木)
昼時、強烈な匂いがネグラに流れ込んできたよ。なんだ、この匂いは。顔を少しだけ出して見ると、社長のMがカレーライスを食べていた。ワタシの嗅覚をかく乱する匂いだな。参った。Yが用意してくれた昼ご飯も食べる気がしなかったよ。そのせいか、昼のカンヅメを食べ、水を飲んだあと、少し吐いてしまった。カレーライスは嫌いだよ。

6日(金)
春でもないのによく寝るな。深夜から早朝までぐっと冷え込むから緊張しているが、店内に暖房が入ると、やはり気がゆるんでしまうよ。朝カンヅメを食べて寝て、昼カンヅメを食べて水を飲んでオシッコして寝て、夕方カンヅメを食べて寝て、いや、夕方は食べたあと寝てはいけないんだ。そんなことをしていたら、また便秘になってしまうよ。さあ、店内の巡回に出かけよう。ワタシに黙って配置替えしているかもしれないからな。まったく油断がならないよ。

7日(土)
まったくあわただしいな。シャッターを開けたり閉めたり、また開けたり。いったい営業をしているのか、休みなのか、はっきりして欲しいな。とは言っても、今日みたいに冷たい雨の日だと、ヒナタボッコもできないから、どちらでもいいや。こんな日はネコ族も冬眠ができたらいいなと思うよ。寒い冬はずっと寝ているのさ。でも、よく考えてみると、今のワタシの生活も冬眠状態みたいなものだな。アッハッハ。寝よう。

8日(日)
エッヘッヘ。今日はカンヅメが二回だったよ。昼にYだけが来て、なんとスズキ君をくれたよ。マグロに少し食傷気味だったから、うれしかったな。歯ごたえといい、にじみでてくる甘味といい、白身のサカナもいいな。夕方またYが来たので、大急ぎで玄関まで行ってニャアー、ニャアーねだってみたが、あとからK代が来て、当然のごとくカンヅメの時間になったよ。まあ、しかたないか。今夜も冷え込みそうだな。

9日(月)
わぁー、寒い、寒いとおもったら雪が降っていたよ。Yにナデナデされながら、ただただ真っ白な雪をジッと見ていると、心が洗われるおもいだな。崇高なる声がどこからか聞こえてきそうだ。「トラよ〜。あまり寝てばかりいてはいけないゾ〜」。でも寒いよぉー。Yがネグラにそっとホカロンを二個入れてくれたよ。ずいぶんと温かくなったな。崇高なる声が子守唄に聞こえてきたよ。グースカ、グースカ。

10日(火)
おやっ、夜食が替わったな。これはなんだ。ムシャ、ムシャ。そうか、そうか。なかなか考えているな。これは白身の連合軍だ。スズキとヒラメを合体させたのだな。歯ごたえ二倍、甘味も二倍、うまさ五倍のスグレモンだな。寒い夜にはピッタリの豪華版だ。いいぞ、いいぞ。あれっ、もうなくなったよ。もっと欲しいな。

11日(水)
なんだ、なんだ、この朝の冷え込みようは。もう真冬なのか。そんなことはないよな、まだお正月のタコを食べてないもん。朝早く社長のMが来たけど、暖房を切ってすぐに出掛けてしまったな。せっかくだから切らないでおけばいいのにな。Yが来てやっと温かくなったよ。でも床のあたりまで温かくなるには時間がかかるんだ。ワタシは背が低いし、おまけに猫背だから、たまらないよ。頼みの綱はやはりホカロン君だよ。仲良くしようよ。もっともっと、くっついていいよ。

12日(木)
ハッ、ハッ、ハックション。風邪をひいたかな。この寒さでは、しかたないよ。あれっ、なんだ、Yも鼻水を流しているな。人間も風邪をひくんだな。よし、今度はワタシがYを病院に連れていってあげるよ。おとなしくしてるんだぞ。エッヘッヘ。

13日(金)
なんだ、Yは一人で病院にいったのか。せっかくワタシが連れていってあげようとおもったのに。病院で暴れなかったかな。あれっ、それはワタシのことだな。Yが風邪でダウンしたとなると、ワタシは忙しくなるな。よし、まずタバコの火の注意。なんでこんなもの吸っているのかな。それから戸締まり。オーケー。そして、不審な者が入っていないかだ。あーあ、今夜は眠れないな。夜食をもっと多くして欲しいな。

14日(土)
Yは休まないのか。風邪をこじらせないために休んだほうがいいのにな。そうすれば、ワタシのカンヅメの回数も減って、お互いが幸せになるのに。そうはいかないか。やはりYは辛そうにイスの上で寝ていたな。ワタシもおつきあいしてイビキをかいて寝ていたよ。一人より、一人と一匹。だな。

15日(日)
やっと少し暖かくなったな。これで例年なみの気候になったな。昼にはゆっくりとヒナタボッコを楽しめたよ。ただ夕方のカンヅメが少し冷たかったな。冷蔵庫から出してすぐだったから、おもわず悲鳴を上げてしまったよ。寒い季節に冷たいものは身体に悪いよ。特に年寄りには。気をつけて欲しいな。

16日(月)
平日なのに朝のカンヅメの時間が遅かったな。そうか、Kが病院に行っていたのか。体調不良か。Yといい、K代といい、だらしがないな。自己管理がなっていないからだよ。エッヘン。ワタシを見習って欲しいよ。マズイカンヅメを食べさせられ、寝たい時にはイビキをかいて、飲みたい時には水を飲み、出したい時が出たい時、適当に、ではなく、真面目に夜警の仕事をする。これぞ自己管理の見本だよ。

17日(火)
すごい強風だな。なにに怒っているのかな、風君は。そりゃあ、腹のたつこともあるだろうよ。でも、みんなに迷惑をかけてはいけないよ。ほら、自転車が倒れたし、みんなまっすぐに歩けないじゃないか。木の葉君だって散ってしまって。風君、ワタシだって毎日腹のたつことばかりだよ。カンヅメは無理やり口に入れられるし、夜食の好物のマグロは三口で終わってしまうし。でも、みんな少しづつ我慢しながら生きているんだよ。おや、風がおさまったな。静かになった。ヤレ、ヤレ、これでゆっくり昼寝ができるな。まったく、うるさかったよ。

18日(水)
午後、気持ちよくグースカしていたワタシは、突然、押さえ込まれるような息苦しさを感じた。なっ、なんだ。冷静になってネグラの入り口あたりを見ると、二本の太い木、じゃあない、足が見えたんだ。この足と、あの声。そうか、N君がYと話しをしているんだ。寝たふりをして黙って二人の話を聞いていると、あのケガをした外ネコのチビ君が家ネコになったらしい。元気で家の中を走り回っているそうだ。ほんとうによかったな、チビ君。いい人にめぐり会ってよかった。これもN君の猫徳のおかげだよ。

19日(木)
お昼にA子さんが持ってきた焼いたイカをもらったよ。売っているお弁当のオカズより味付けが上品で、スゴクおいしかったな。優しい調理が素材を生かしているのだろうな。やはり家庭の味がいちばんだよ。家庭の味は母の味だな。やだな、だんだん悲しくなってきたよ。ネグラの隣りのイスにいつも座っていた母。母の味をうしなって、もう、もう二カ月以上になるよ。さみしいよ。母の耳までとどけ、ワタシのこの鳴き声が。ニャアーーーン。

20日(金)
家庭の味から一転、今日はデラックス弁当のエビフライだ。Yがころもをとっているのももどかしく、ニャアー、ニャアーせびってしまったよ。やっとありつけたエビにムシャ、ムシャ。ウマイ! 苦しいカンヅメの時間に耐えているのも、この一瞬のためなんだよ。毎日、毎日、おいしいモノが食べられるワタシ。あーあ、なんて幸わせなんだろうな。ただ、ただ、みんなに感謝だニャ。

21日(土)
よく降るな、この雨は。午後から少し激しくなってきたな。夕方、はんぶんおりたシャッターのガラス越しに、Yとジッとその雨を見続けていたよ。一人と一匹、なかなか動かなかった。ワタシは雨のかわりにマグロやヒラメが降ってくればいいのにな、と思っていたが、Yはなにを考えていたのかな。まったく、人がなにを考えているのか、よくわからないな。ワタシはそっとネグラに向かったよ。今夜も冷えそうだな。

22日(日)
わぁー、Yがばかに朝早くきたな。休みなのに。でも、ワタシはうれしかったよ。ぞんぶんにナデナデしてもらったからな。満足げなワタシも見て出かけていったよ。人の考えはわからないけど、行動はわかるよ。母のところに行ったんだな。行ってらっしゃい。母によろしく。ワタシのこともちゃんと伝えてよ。

23日(月)
あーあ、ビックリした。朝Yだけ来て、一人で苦労してワタシにカンヅメを食べさせたんだ。ほんの数口しか入らなかったけどな。それはそれで、いいんだが、昼にまたYだけ来たんだよ。ヒナタボッコを終えたワタシをカゴに入れたんだ。おかしいな。休みの日の午後に動物病院に行くのかな、と思ったら、なんと、自転車に乗せられたんだよ。なんだ、なんだ、どこへ行くんだ。ワタシの鳴き声も聞いてくれず、自転車にのせられて十数分。着いた先で出迎えたのがK代だった。そうか、K代が風邪でダウンしたので、YとK代のアパートに連れてこられたんだ。初めての家だったので、キョロキョロ、ジロジロ、ニャアーニャアー。何がなんだかわからないままカンヅメを食べて、すぐ店に戻ったよ。それにしても落ち着かなかったな。まあ、ちょっとした冒険だったのかな。

24日(火)
きのうの夜はまだ興奮していたのか、よく眠れなかったな。まったくドキドキだったからな。朝は朝で、冷え込みがきつかったせいか、ホカロンのネグラから出られなかったよ。店に暖房がはいって、やっと落ち着いたな。午後、カンヅメが終わってから、ネグラで毛づくろいをしながら考えたんだ。きのうのできごとは、たぶん、深い意味のあることだったんだろうな。いつか、ああ、このためだったんだな、と思うときがくるのだろうな。そんな予感がしてならないよ。そう考えると、眠くなってきたな。

25日(水)
そろそろ、というか、やっぱり、というか。Yに連れられて動物病院へ。体重は3,8kg。前回より200g減ったな。数値もまた悪くなった。あーあ、出るのはタメイキだけだ。泣きたい。そう思ったとき、動物病院に異変が起こったんだ。診察室の天井から水がもれてきたんだ。おっ、ワタシの涙か? ではなかった。ワタシの哀しみが二階の水道管を破裂させたらしい。もう診察どころではなかった。先生たちはぞうきんやバケツを持って、おおあわてだったな。騒ぎがおさまったころ、一人と一匹はトボトボと店に帰ったよ。何がいけなかったのかな。カンヅメはしっかり食べているのにな。Yもガックリしていたな。前回ほめられたので油断があったのかな。それに、心配事がいろいろあったからな。でも、がんばるしかないな。そうだな。あしたからまたがんばろう。

26日(木)
やはり疲れているのかな。午後はずっと寝ていたよ。K代が言うには、店を揺るがす地響きか、と間違えそうな大きなイビキをかいていたそうだ。イビキにまじってわけのわからない寝言も言っていたらしい。やはり疲れているんだな。ここ数日、神経が休まらなかったからな。寝て疲れをとるしかないな。おやすみ。

27日(金)
ガタゴト、バリバリ、ドスン。なっ、なんだよ、気持ちよく寝ているのに、朝からウルサイな。あれっ、よく見ると、YとK代が忙しそうに掃除をしているな。そうか、そうだ。もしかして年末の大掃除か。これは、ワタシも寝ているどころではないな。トイレとネグラの掃除をYに頼まなければ。ニャアー、ニャアー、せいいっぱいの鳴き声でYに頼んだよ。Yがネグラの毛布を新しいのに替えてくれたよ。ピンクの毛布。女らしくてワタシによくあっているな。これから匂いをつけるのに、あー忙しいよ。

28日(土)
静かすぎるな。これは、もしかして、年末年始の休みに入ったのかな。ヒナタボッコがゆっくりできて、きがねなく高イビキがかけて、ノンビリしていてワタシにピッタリだよ。あれっ、でもワタシの仕事に休みはないんだ。年の瀬だから、夜の警備は厳重にしないとな。

29日(日)
休みなのになんでみんな店に来るのかな。警備はワタシに任せておけばいいし、カンヅメだって別に食べたいわけではないのだから、ヒラメとかマグロとか甘エビなどおいしいものをおいといてくれれば、ワタシがきちんと整理して食べるようにするから。あしたから、みんな休みなさいよ。いろいろやることがあるでしょう。

30日(月)
お昼にヒナタボッコでくつろいでいたら、はんぶんおりたシャッターからそっと入ってきた人がいたな。「ここが例のヒナタボッコの場所か」。例の? なんだ、ワタシの生活を知っているのか。それにしてもYによく似ているな。声もそっくりだよ。Yが「あしたから家に泊まらせようと思って」。そうか、だれかYの家に泊まりに来るのか。まあ、年末だし、もうすぐお正月だからな。その人、おみやげにおいしいサカナを持ってきてくれないかな。

31日(火)
突然だったな。昼のカンヅメが終わり、ヤレヤレと休んでいたら、Yがワタシをカゴに入れ、K代がネグラを持って、あっというまに店を出発したよ。これは、もしかしたら。着いたところはYとK代のアパートだった。なんだ、なんだ、きのう話していたのはワタシのことだったのか。ニャアー、ニャアー鳴いて、匂いを嗅いで、慣れるまで大変だよ。夕方のカンヅメが終わっても、店に帰る気配はなかったよ。そうか、YとK代の家で年を越すのか。まあ、いろいろとお世話になっているから、ここで一年を振り返るのも悪くないな。心残りは、そう、やはり、母に年末の挨拶ができなかったことだな。来年こそ、みんなでおいしいサカナをたくさん食べたいな。さあ、年越しのひと鳴きをするか。ニャアーーーーー!