教えない教え方

スタッフの指導観

 サマースクールを母と子の島で実施するようになってから十五年になります。今年の「無人島に生きる」計画については、当然のことながらその長い経験の積み重ねの上に立っているものです。主催は県立母と子の島ですが、直接この事業を行うのは、母と子の島のスタッフ会(野外活動のポランティアグループ)が、中学生にとってどのような体験が望ましいのか、先輩の知恵と経験の上に、何回となく論議を重ね、共通理解をしながら決定して実施しているものです。しかし、メンバーは四十代後半の超ベテランスタッフから高校生と幅が広く、スタッフの考え方が必ずしも徹底したとは思えず、具体の場面では戸惑いもあったことと恩いますが、彼らがモットウとしてまいりましたことは次の通りです。

 

自分の力で自然から学ぶ

講師 芦田正明

 無人島と呼ばれている兵庫県青年の島はできるかぎり、自然のままに残そうと、「手を加えないことに懸命の努力をしている」という施設なのです。

 利用する側としては「自然環境そのものがブコグラムなので、自分の力で自然の中で生活することにより、自然から学ぶという姿勢で臨むのが最適と思っています。

 ですから、リーダーも「何もしない」のを関わり方の基本としています。とはいうものの現在の文明社会で育った子供が、自然の中で何事もなく生活できるとは思えません。

 いざというときの守り神、どうしても困ったときの知恵袋としての役割は、必要であり、傍らに居て、いざというときには手を貸そうということになります。

手の貸し方にもひと工夫いるわけで、まず、間いてきたことには答えましょう。

その間き方も

「どんな植物が食べられますか」

これには答えません。

実物を示して「これは食べられますか」

これには答えましょう。

 しかし、実際は何もせずに傍らに居るというのは大分辛いようで、米の水加減が違う、いくらやっても火が付かない、こんな状況になると「あっ、それは駄目」「これはこうしで」と、間かれるより先に手出し口出しが始まります。

 食欲というのは原始本能で、誰に頼まれなくても自ら満たそうと言う強い欲求があります。炊事のための火が付かないと本当にやきもきして、どうしようかとあれこれ悩む。そのような求める力と試行錯誤が組み合わさったところに「工夫」が生まれると思うのですが、そんなせっかくの工夫のチャンスを、安易に正解を与えることによって、奪っているような気がしてなりません。「近頃の子供は、自分で考えようとせず私たちを辞書代わりに便っている」と嘆く先生がいらっしやいますがそのように寄ってたかって青てているのではないかと、思いたくもなります。

 自然というのはある面で情け容赦はありません。特に海はかなり積極的に関わる必要があります。山は、動かなければ元の場所に居ることができますが、潅は常に動いておかないと元の場所に留まれません。

 カヤックで海に出ると、自分で帰るか、人に助けてもらわないと本当に帰れなくなることもあります。本人が病気であろうが悩んでおろうが関係ありません。

 自分のことを何もしないといわれていた子が、案外まめに動くようになったり、しやべらない子が話しかけてきたり、と変化していくとき、自然のもつ切羽詰まった環境が大いに影響しているのではないかと思うときがあります。

 自然活動には自分で選ぴ、自分で決める自由があります。親が、先生が決めるのではない島での自分の生清なのです。しかし人間は本質に自分だけでは生きられない存在で、他人と協力しなければなりません。勝手放題というのでなくお互いの自由を尊重し合いながらどう協力していくか。つまり、個人がより自由に生きるためにこそ協力が必要なのだということを、体験から学べるところが沢山あるのです。

 現在の教育は、教える・与える式がほぼ全てのように思われますが、今後は、教えない教え方についても圏を向ける必要を感じます。その時、自然活動は大変興味のある分野になってくるでしょう。

「自然にはいると学ばずにはいられない」といわれていることの意味を考えたいと思います。

  

カウンセラーが先頭に立つことはありません

(中学生への説明より)

チーフディレクター辰馬玲

 「無人島」という言葉を間いてどんなイメージを持ちますか。多くの人たちはヤシの木が茂ったり真っ自な砂でおおわれたりしている美しい島を思い浮かべるでしょう。しかし、実際に私たちが行く無人島「松島」は決してそんな島ではありません。たしかに松島には電気はもちろんのこと水道もガスもありませんし、海岸にはいろいろなところから流れ着いたゴミでいっぱいです。島で私たちは五日間生活します。

 でも、松島には「自然」があります。例えば、海や山へ行けば魚や貝などの食料や住居になるものを私たちに与えてくれますし、太陽の光は暖かさを、雨は水を与えてくれます。自然からものを大切に便い私たちは「松島」で生活していかなければならないのです。私たち人間も自然の一部ですから、私たちが生きるために必要最小限の物を採るのは決して自然を破壊していることにはなりませんガ、不必要な物まで採ってしまうのは破壊につながると思います。ですから、松島で生活するときには私たちが食べるだけの物を採り、私たちが生

活するのに必要な空間だけの草木を切るようにしてください。自然は私たちに多くの物を恵んでくれるでしょう。しかし、自然は時として私たちに苦しみを与えます。雨は水を与えてくれる一方で、私たちの行動を妨げることもあります。また、海は私たちの命を奪うこともあります。自然の中で生きるのは今までのみなさんの生活とはかなり違う生活です。もちろん面白いところもありますが、危険もいっぱいあります。自然の中で危険から身を守るのはほかのだれでもありません。皆ざん自身です。ですから自分で責任を持って行動してください。

 ところで、今皆さんの生活の中で自分のことは自分でしているでしょうか。ご飯の用意や掃除はもちろん、もしかすると学校の宿題まで両親や友達にやってもらっていませんか。松島では自分でできることは全部自分でしなければなりません。のどが渇いても水道がありませんから水が滴り落ちている岩場へ行って長い時間かけて水を集め、おなかがすいたら自分で食料を探し、まきを集めかまどを作ってご飯を作らなければなりません。もちろん自分には出来ないこともあるし、一人では出来ないこともあります。そんなときには班のみんなで協力すればいいのです。ここば学校ではありませんから、先生はいません。各班にはカウンセラーはいますがカウンセラーはみんなの先頭に立って指示を出すことはほとんどありません。班の行動や班での間題は班のみんなで一つ一つ話し合い解決してください。このサマースクールではみんなで考え協力して無人島での生活をしてほしいと思います。そうすれば一人でいるよりももっと有意義な無人島生活が出来るでしょう。カウンセラーはみんながわからないことや困ったことがあれば色々先輩としてアドバイスを与えてくれる人ですし、同じ班の一員です。

 

KEYWORD

(1)自然の中で生きる

  自然の優しさと怖さ

 

(2)協力して生活する

  自分のことは自分で責任を持つ

  出来ないことは協力して

 

(3)命の大切さを知る

  命は同じ

 

(4)カウンセラーの役割

  カウンセラーは指導者ではなく助言者

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