戸沢報告:15分経過時点まで

前置

 だいぶ時間がおしておりますし、お話したい内容もたくさんございますので、ちょっと用意した原稿を読むような形で早く、淡々とお話しますので、お聞き頂きたいと思います。

 まずはじめにですね、非常によく計画され、準備された本大会のスケジュールの中で、この特別委員会の特別報告を割り込ませていただく、いうお願いについて、大会実行委員会に、大変ご迷惑をおかけしたと思います。関係者の皆様に感謝を申し上げると共に、心から敬意を表したいと思います。ありがとうございました。

謝意

 早速、報告に入ります。

 特別委員会の一般経過報告、これに関しましては、お手元の冊子15ページ以下を参照していただくことにして、ここでは説明は省略させていただきます。

 ただ、この間の特別委員会の活動も含めて、昨年末以来、この問題への取り組みの推移を追ってみますと、全国の研究団体、あるいは研究者同士、さらに自治体や関係機関等々、相互の間で、協力、協調の関係が促進された。そして多くの場面で、その成果が目に見えた。これは、大変喜ばしいことであり、この種の問題の正しい解決のために、極めて大切なことである、いう風に考えます。

 複数の団体、あるいは関係機関が共同で、あるいは協力してシンポジウムを開いたり、今まで行われた遺跡の再発掘調査では、先程報告がありましたように、実施主体の自治体、あるいは機関が、考古学協会に対して要請された、そして協会から、特別委員会の委員を含む、多くの協会員が調査に参画し、協力する、いうことがありました。また会員の皆様においては、協会・委員会の呼びかけに応じて、活動の募金、これに大変積極的に協力されて、先程冒頭に会長から御報告がありましたように、約270万円でした。そういう協力をいただいております。

 以上、概略を申しあげましたけれども、特別委員会の委員長としては、そうした全てを併せて、深く感謝と敬意を表するところであります。と同時に、今回の事件で大きく信頼を失した日本考古学界の信頼を、1日も早く解決[回復]するためには、こうした学会内の結束、関係機関との緊密な協力、これをますます強化することが、大事だ、いうことを痛感いたす次第であります。

検証発掘

 次に、これまで行われた、検証のための再発掘調査について一言ふれておきたいと思います。

 本日は、一斗内松葉山、袖原3、総進不動坂、この3遺跡について、それぞれ詳細な報告がございました。その内容は繰り返しませんが、今日、報告のなかった東京都の多摩ニュータウンNo. 471-B遺跡、そして埼玉県秩父市の遺跡群、この場合は再発掘を伴う検証が行なわれたんですが、その経過とその結果、要するに、今迄の全ての検証発掘調査の経過・結果を総括しまして、これは私としても、これは大変貴重な体験を与えてくれたと、いう風に記憶されるべきでありますし、また改めて、今後の考古学の発掘調査のあり方という点でも、今後に生かすべき多くの反省の材料を提供したものという風に思います。
[5:02]

 しかしこれらの検証調査の結果全体をみれば、検証発掘を一つ進めれば、それだけ疑惑が、疑惑の資料が増える。分りやすい表現を使えば、「グレー」の強さが黒に近づく、その反面「シロ」が新たに加わる、そういうことが皆無であったという、当初の予想を激しく上まわる厳しい現実だということを、知らなければならない、ならなかったというのが、現状の認識でございます。

 また、特にこのいくつかの発掘に色んな形で加わりました私の感想、所見を加えるならば、たとえどんなに厳密に再発掘や検証を行っても、「シロ」か「クロ」か、これを100%実証することは、非常に難しいのではないか、そのことを改めて経験することになった、という点も、率直(そっちょく)に実感としてお伝えしたいと思います。

 そのため、今後はあらゆる可能な検証の手段を活用して、ある程度目標を絞った検証作業をおこない、そして複合的かつ総合的に判断し、一定の責任のある結果が出るような、そういう努力を早めなければならない、そのために早急に各作業部会等の活動を、この方向に向けて、促進したいと、こういう風に考えております。
[7:27]

各作業部会

 次に、今申し上げました作業部会のいままでの活動、それから今後の取り組みの方向性について、概略を申しあげます。

 まず第1作業部会。これは石器の検証を主とした部会ですが、9月22日、23両日、宮城県考古学会と合同で、藤村氏が昨年段階で捏造を既に告白している上高森遺跡の石器、今回の大会中に展示されておりました。それをさらに厳密に検討して、その基礎データに基づいて、他の疑惑のある遺跡の資料についても、比較検証を拡げる、いう作業を進めておられます。

 また、同じこの検証会で、藤村コレクションと我々言ってますけれども、藤村氏が以前から周辺で個人的に採集した資料、これがかなりの量ある。これを今、考古学協会の責任で預かって、いろんな調査を進めておりますが、その藤村コレクション、および座散乱木、馬場壇というような、重要な遺跡の石器を検証して、細かいことは別としてですね、それらに多くの疑惑の点が指摘できるという報道発表をしたことは皆さん周知の通りでございます。これについての正式な部会の結果報告は、今後のことと承知しております。

 第2部会。遺跡検証の部会ですが、ここでは、いままでに行われた、先程報告のあったような再発掘調査された遺跡、その調査の直接の視察、それから遺跡に関する色々な観察、これを独自の立場、というとおかしいですけれども、要するに第三者的な公正な立場で、行なってまいりました。そのレポートの作成を現在進めている段階、こういう風に報告を受けております。

 そうした疑惑のある遺跡の検証と並んで、部会では、今後の研究の基礎につながる可能性のある遺跡、これは新しい遺跡も発見され始めてますし、今迄そういう評価が一定加えられておった、そういうものの再検討、再評価に向けた作業を進める方向性、これを打ち出しまして、その具体的な検討に入っています。こういう方向性も聞いております。

 次に第3部会。これは自然科学との連携によって、疑惑の石器、その他の遺跡の検証、それだけではありません。将来の考古学研究の、あるいは発掘調査の科学性をより高めるため、そういう大きな目的を持った自然科学との連繋、これをどういう風に作り上げていくかということでございます。 現在までのところ、自然科学分野の研究者と一定の打ち合わせを重ねる。そしてこういう新しい研究・開発ということになりますと、多くの費用がかかります。現在、その部会が中心になって、来年度の大型な科学研究費を申請する準備を具体的にすすめる。その中で、今後の研究に必要なプロジェクトをいくつか作り上げる。具体化していく。こういうことになっております。

 第4部会。これは石器の型式学の、広い長いスパン、目で検討する、ということでございます。今までの、特に今問題の前・中期旧石器の型式学的分析は、率直(そっちょく)に言って多少不備があった、いうふうに言わざるをえません。こういうことを反省して、その方法論の再構築等をきちんとやっていく。そして当面、検証ということでは、縄文時代のものを含めた、たくさん出て問題になっている、ヘラ状石器、これを十分に検討して、一つの結果を、という作業に入っております。
[12:40]

 続いて第5部会。これは研究史とか方法論、そういうものを検討する部会でございますが、この部会では、前・中期旧石器を含む、日本の旧石器研究の研究史と方法論の総括・評価、それから今回の事件の背景となった研究体制や社会的状況と考古学との関わり、そういった問題を整理して、問題点を洗い出すと、いうことの、検討を計画しております。 特に、今申しました、後の方の問題、背景分類、問題につきましては、今回この緊急の事態を含めて、踏まえて、教科書や学校教育の中で、この歴史教育が、困難な問題で大変色々混乱している、いうニュースがありますし、これはニュースだけではなくて、現実だという風に私も思います。 そういくものに学会として、きちんと責任ある対応ができるような検討、これをともかく早急に、緊急の課題としてやるように、昨日の特別委員会で提案があり、その計画を進める、いうことが承認されております。
[14:20]

 以上が、各部会の活動状況の概況報告ということになりますが、そのそれぞれの成果につきましては、来春の考古学協会総会において、各部会から詳細な報告がなされる、皆さんにも御討議いただける、こういう風になろうかと考えています。


以下続く

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