以下の文章は、キーリ氏の Index to Materials on Japan's Early Palaeolithic Hoax サイトに掲載された
"America's Clovis vs Pre-Clovis Controversy and Japan's Early Palaeolithic Controversy: A Comparison in Approaches " http://www.t-net.ne.jp/~keally/Hoax/clovis.html)の翻訳である。ナショナルジオグラフィックの最近の記事に触発された、氏のエッセイである。翻訳…01.1.14
クロビス(クローヴィス…Clovis):1950年代初頭に発見されたニューメキシコ州のクロビス近郊のブラックウォータードロウ遺跡を標式とする。同遺跡の資料は放射性炭素年代で約10,900〜11,500年程前(較正年代で12,975〜13,350年程前)とされる。

アメリカにおけるクロビス/プレクロビス論争と
日本の前期旧石器論争:アプローチの比較

© C.T.Keally 2001年1月10日
チャールズ・T・キーリ

筆者は過去15年程、アメリカにおけるプレクロビス論争に強い関心を払い、観察を続けてきた。この論争は、日本の前期旧石器論争と非常によく似ているところがある。それゆえ日本における研究のあり方を考える上で、参考になるところは大きいと思われる。

プレクロビス論争については、『ナショナルジオグラフィック』の最近の記事「最初のアメリカンを探し求めて」(Parfit 2000)で概要が紹介されており、お薦めである。日本の前期旧石器論争と比較すると、実に興味深いものがある。

プレクロビス論争において進行中の学問的・科学的な研究レベルは、日本の前期旧石器論争に比べると、成熟した大人と子供くらいの差がある。野球でいえばメジャーリーガーと、砂場遊びに興じる子供を比較するようなものである。ナショナルジオグラフィックの記事は、彼我の差をいやになるほど思い知らせてくれる。世界的なレベルは遥か彼方にある。

プレクロビスの研究は極めて学際的である。また高度に科学的だし、アカデミックなものである。出版物や大会は、意図的に議論の両サイド(あらゆる立場の人)から寄稿や発表をあおいでいる。様々な立場から、多くの考古学者やグループが独自の研究を進めている。批判は、ごく通常的に、パブリックなものとして行なわれている。しばしば過熱するし、時として醜いものとなることもある。しかし批判に対しては、正面から答えが返ってくる。批判への解答を見い出すために、莫大な時間・労力・資金が費やされることも厭わない。プレクロビス論争をめぐるこうした傾向は、日本の前期旧石器論争では、大いに欠落している類いのものである。

彼我の違いを明確にするには、ナショナルジオグラフィックの記事を引用した方がいいだろう。クロビス/プレクロビス論争に関わる研究者達は以下のように感じている。

  1. 論争はエキサイティングだし、有益なものである
  2. 殆どの意見は、推論に基づいている
  3. 「問う」ことが当り前であり、懐疑的探究心が求められている
  4. ソリッドな科学的証拠が求められている
  5. 議論はパブリックに、かつ熱心に行なわれるものである。
  6. 新たな証拠や論証が得られれば、それまでの考えを改めることが可能だし、改めるべきだと考えている。
  7. 批判されることを(むしろ)楽しむものとされている。

こうした考え方や以下に示す引用は、日本の前期旧石器論争には決してあてはまらないものである。

論争はエキサイティングだし、有益なものである

殆どの意見は、推論に基づいている

「問う」ことが当り前である

科学的証拠が求められている

議論白熱はいつものこと

考えを改める

批判を享受する


関連リソース

 ※その他の関連リソース・参考文献については、原文参照 (随時追加されます)

本稿での引用文献

訳註
モンテ・ベルデ
チリ南部の遺跡。放射性炭素年代で12,500年程前(較正年代で14,850年程前)。プレクロビスの関連遺跡は40程あるが、中でも有力な遺跡と目されている。

▼なおプレクロビス論争についてはDiscovering Archaeologyの下記記事(2000年1/2月号)もお薦めです。
Proving Pre-Clovis -- Criteria for Confirming Human Antiquity in the New World


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