民主党様

「前期旧石器捏造問題」に関連して、立法措置は全く不要です。これは、そういう問題ではありません。学術問題に、政治が介入するなど、全く民主主義の根幹に対する冒涜であり、不見識です。

詐欺師に対して、正当な学術的プロセスを踏んだ批判や反論が、これまで通用しなかったとしても、その事象を表面的にとらえて、考古学界のチェック態勢が十分でないという論調があるようですが、それは当たっていません。いかに状況証拠(石器の製作技法上の疑問、出土状況の不自然さ)が挙がっていたとしても、発掘の当事者が本当だと主張している限り、それ以上手の打ちようがないのです。その手詰まりを打開するには、結局第4の権力=マスコミに頼るしかなかったのです。

自浄努力は、といわれるかもしれませんが、学界や学会というものは、異なる意見や見解を持った者の集まりです。そこでは民主的プロセスをとらざるを得ない。あいつは捏造していそうだから、隠密裏に偵察して証拠写真を撮る、などという研究者は一人もいないのです。

発掘は、遺物や遺構の資料化を目的としています。資料化を真剣に考え、資料化の経験を深めていけば、資料研究の方向に行き、自ずと学問にならざるを得ない。そうして営々と考古学が発達してきたのです。行政発掘といえども、資料的価値は、考古学的手順に基づいたものになります。資料的価値は、事務系の上司が決めるものではない。むしろ、もっと自由に公開して、市民に判断してもらったらいい。

第1〜3の権力が、この問題に介入することは、現行法規の範囲だけにしてして下さい。

地域起こしに使われ、ちょっとした発掘成果に飛びつくのは、飛びつく方にも責任があります。現場担当者が、自身の見解しか述べないのは当然です。また「〜の可能性があります」といった、研究者として当然の慎重な発言が、何時のまにか歪んで(「その言い回しでは分らない」とされて)、断定的に受け取られるのがパターンです。その結果、研究者の常識と、地元自治体の常識が、ずれている例が、多々あります。そこで研究者が、馬鹿げたことはよしなさい、と上司や首長に言えるでしょうか。話題作りに利用しておきながら、捏造となったとたんに手のひらを返すような発言は、品のない話です。

そもそも、研究費が少なすぎます。開発に伴う原因者負担の緊急調査に頼った行政の仕組みそのものに、少々無理があるのです。原因者負担の原則は妥当ですが、その調査成果のさらに詳しい調査や保存・活用、学術的発掘調査などに対して、ひも付きでない金…即日成果があがって地域起こしに利用しようと期待するとかでなく…をもっと出すべきなのです。マスコミを利用するとか、町起こしを利用するとか、そういう傾向は、つまりは、諸々の経費獲得を期しているのです。その悪循環が、今回の悲劇の遠因になっています。

もし、国が強い意志を示そうとするなら、重要な遺跡は守り、歴史的景観を守る、という方針を示すことでしょう。そして地域での考古学的研究や活用に、予算を出しやすいようにする、といったことです。

署名 00.11.7


本メールに対しては、丁重なお返事をいただきました。

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