電子カルテ、特にMML (Medical Markup Language)は、まさにXMLの好例といえる(当初のターゲットはSGMLであったが、今はXML)。電子カルテは、説明の必要は無いかもしれないが、グループウェア的性格を持った、一種のドキュメントデータベースである。
▼参考文献 お薦めです! 対象を読み替えれば、そのまま埋文の話になります。
監修 里村洋一、吉村博幸 他著 1998『電子カルテが医療を変える』日経BP社. 1800円. ISBN4-8222-8047-0
社会システムとしての医療情報システムを構築していく上で、情報交換の機能を集約した記述様式が求められ、MMLが生み出された。MMLの要点だけまとめれば、以下のようなものである。
これによってローカルシステムの自由度と開発の自由競走を保証しつつ、同時にデータの互換性、相互運用性を確保することができるわけである。
イメージがわかない人は、以下の文書を参照して欲しい。1995年版はプランの初期段階のもので、1998年版はより具体的になっている。合わせて読むことで、電子カルテの概要が分かるはずである。
電子カルテの具体像 吉原・永田 1995
http://www.miyazaki-med.ac.jp/medinfo/SGmeeting/document/95JCMI/95elc_chrt_WS/95elc_chrt_WS.htm
診療情報交換・保存のための標準規約MML (Medical Mark-up Language) 吉原 1998
http://www.miyazaki-med.ac.jp/mml98/
XMLビギナーのためのMML概説:"What is MML?" 吉原 1999
http://www.seagaia.org/WhatIsMML/
●リソース:電子カルテ研究会(Seagaia Meeting)のサイト(miyazaki-med.ac.jp内)
以下、それぞれの文書の一部を引用し、抄録する。(文章は変えていないが、短縮化のため、中略した部分が多い)
[引用開始]電子カルテの具体像 吉原・永田1995
「正確な病歴管理を元にした意志決定支援システム」を仮に電子カルテと呼ぶ。
●ローカルシステムでは、多様性を許す
互換性を実現するためには標準化が必要であるが、標準化の為に単一製品を全国に配布というのは事実上不可能な戦略であるし、また、競争の原理が働かないシステムは総じて成長しない。従って、標準化は情報交換の標準手続きを定めることで実現する。●医療情報交換の標準手続きの確立
SGMLの様な、タグ付きデータとして交換する。この標準規約については、現在電子カルテ研究会で検討中である(MML: Medical Markup Language)。●システムの部品化と、その独立性の確保
低価格で高機能の商品(ソフト)を組み合わせることが出来るように、システムをオープン化しておく。また、それぞれのシステムをオープン化を前提とした設計とし、データ交換の標準インターフェイスを整備する。
診療情報交換・保存のための標準規約MML (Medical Mark-up Language) 吉原1998
データベースは、例えて言うと一種の表(テーブル)であり、各々の施設では、独自の定義のテーブルを運用している。従って、たとえば、住所、氏名、病名、、、の様な簡単なデータセットを交換する場合を考えても、施設間でデータの出現順序が違う可能性がある。これをそのまま転送するとデータの順序が入れ変わってしまう。それでは具合が悪いので、全てのシステムのデータベースを同じ定義にする方法が考えられるが、これは事実上不可能である。そこで考えられたのがMMLである。この考え方では、個々のシステムを拘束せず、他の施設とのデータ交換の際、MMLフォーマットに変換して送出する。
情報の細かさを追求して行くと、最終的には個々の検査項目、病名、画像そのもの、、、など、膨大なデータの定義を行う必要が出てくる。しかし、これは事実上不可能なことであり、しかも、すでにそれぞれの分野でコードなどが細かく定められているものもある(検査医学領域におけるHL7など)。したがって、我々はある一定以上の細かい情報に関してはMML側からのタグ定義を行わず、すでに存在する定義にゆだねることとした。つまり、検査、画像などの実体情報はMML文書には取り込まず、添付ファイルとして送るのである。MMLには、「外部ファイルを添付したので参照の事」の如く、外部参照形式の指示を書くことにした。
WWWで使われているHTMLも同様であるが、HTML file本体は文字情報のみで、画像ファイルは別ファイルとして持ち、HTML側からHREF, IMG SRC等のタグを使い参照する。これと同じように、MML fileは主なカルテ情報のみを持ち、検査結果、画像などの細かい情報は外部ファイルとして別に持つ。これらの外部ファイルをMREFタグを使って参照することにより、MML側での過度な情報定義を回避している。
MMLは電子カルテシステムのデータベースそのものを定義するものではない。あくまでも施設間での診療情報交換の為のコンテナとして開発されたものであり、診療情報のミニマムセットとして解釈されるべきものである。当然の事ながら、個々の電子カルテシステムが内包するデータは施設によっては多岐に渡り、MMLの概念だけでは表現できないものもあるだろう。しかし、診療情報のコアと言うべきデータはMMLによってカバーされていると考えられる。
[引用終了]
電子カルテは、単なる電子ファイリングではないし、清書マシンでもない。ある種のデータベースであるが、ある事業に関わる人々全てのコミュニケーションを図るためのものであり、データが電子的にネットワークベースで再利用され、情報が共有されることを前提としている(医療情報のセキュリティの問題は、多層的に十分配慮されるものと思われる…医療関係者とて日本人だから容易いことではないが…指紋認証などの技術を活用するか...)。
ローカルシステムは各医療機関に任せ、基本的な情報交換機能をMMLに集約し、詳細情報についてはMML外への外部参照とする。こうした、ある種の階層性を導入することで、システム全体の現実味が増してくる。
電子カルテ、およびMML、あるいは医療情報システム全体の概念は、まさに遺跡情報システム(仮称ASIS:Archaeological Site Information System)や発掘情報システム(仮称AEIS:Archaeological Excavation Information System)といったものを構想するとすれば、そのモデルとなりうる。いわゆる報告書抄録や、それを拡張したものについて、コアデータのエレメントセット(ADES)を作ろう、という筆者のアイデアと全く(同時代的な意味でも)パラレルなものである。