● 遺跡情報システムの可能性


「文化財情報システム」のこと

 Webでみた限りの情報しか持ち合わせていないが、文化庁主導で、平成2年度以来、下記のようなプロジェクトが進行しているらしい。下記の囲み内は筆者によるノートであり、当事者による公式なものではない。オリジナル情報は、関係機関のサイトで確認されたい。なお今のところ、これは研究段階を越えるものではないようだ。

●現状(2000.3.7追加)→文化情報総合システム 文化財情報システム・美術情報システム

文化財情報システム 文化庁
全国センターシステム

 不動産文化財全国センターシステム  →奈良国立文化財研究所に設置

 全国遺跡情報データベースシステム
・教育委員会等の管理する埋蔵文化財資料、建造物等の情報管理
・全国的ネットワークを通じて容易に検索・利用出来るシステム
・目的
  1. 全国の不動産文化財情報の一元把握
  2. 関係者、関係機関への情報提供と調査研究支援
  3. 所内研究員、学芸員の調査研究成果の共用
  4. 教育、出版、報道等、文化財普及広報活動への支援
  5. 文化財行政支援
 動産文化財全国センターシステム →東京国立博物館に設置
 美術情報システム
・各公私立機関が独自に情報システムを作るのが基本
・それぞれの電子文書化・電子出版の内容は不問
・WWWに共通索引システムを構築[→文化財情報システムフォーラム]
・インターネットの常識・原則に忠実
ローカルシステム

 文化庁、文化財研究所、国立博物館等各機関に設置するもの


 不動産文化財とは、埋蔵文化財などの、教育委員会の管轄する文化財等をさしており(遺物は動産だろう、という突っ込みは当然あるだろうが...)、実質的には、不動産文化財全国センターシステム=全国遺跡情報データベースシステムであるらしい。プロトタイプとして研究されているものは、要するに全国遺跡台帳のWWW版であるようだ。実体はともかく、このシステムの目的は、調査活動や行政活動の情報支援であり、市区町村等で発生した情報の項目的情報を収集し、全国センターのデータベースに集中させ、共同利用する計画らしい。

 動産文化財とは、美術館・博物館等の収蔵品をさしており、実質的には、動産文化財全国センターシステム=美術情報システム=共通索引システムであるらしい。共通索引システムをめぐって、フォーラムが設けられており、それは文化財情報システムフォーラムとも呼ばれている(これでは「文化財情報システム」が、美術館・博物館等にのみ関わるという誤解を招きかねないような気がするが...)。

 「共通索引システム」については、インターネットの常識を踏まえたところがあり、分散主義の原則にたっている。ただ、HTMLとバッティングするようなタグは、どうかと思う。現在ならXMLこそ、この種のプロジェクトに相応しいと思われるが、プロジェクトの現状は不明である。

 埋文系は、美術系と異なり、一元主義の傾向が強い。また、結局何をしたいのか、何が可能であるのか、よく分かっていないような印象を受ける。「共通索引システム」の方が、実体はともかく、現実的である。

遺跡台帳の難しさ

 そもそも遺跡台帳を如何にして整備するのだろうか。筆者の知る限り、都道府県レベルの遺跡地図(遺跡台帳)は、市区町村の制作した台帳を集成する形で作られている。

 しかし、遺跡には色々な事情がある。中には、正式な発掘調査が行われ、報告書も出版されたにも関わらず、登録されていない遺跡だってあるのだ。

 報告者が報告書で報告した遺跡名が、遺跡名として尊重される、という原則は認めてもいいだろう。また時を改めて、新たな調査が行われ、異なる線引きや命名が行われること自体は、全く問題ではない。その都度、遺跡の名称と範囲がはっきりしていればよい。何より困るのは、周知の遺跡名と、報告書のタイトルが異なる場合である。少なくとも、報告者の意図が明確であればよいのだが...

 遺跡台帳で一つの番号が与えられていながら、新たな調査において、別の地区名、地点名ではなく、別の遺跡名をつけてしまう場合もある。その場合は、一つの番号で複数の遺跡名が併記されるか、いずれかの遺跡名が後に無視されることになる。逆に、調査次が異なる毎に、異なる遺跡番号が与えられる場合もある(それも一つの方法かもしれないが、単位としての遺跡には、それなりの広がりが必要な気もする)。名称に地点名や地区名を含むことの是非はともかく、遺跡が上位集合で、地区や地点が下位集合である、という論理が貫徹していないことは問題である(ちなみに、遺跡群は遺跡の上位集合のはず)。

 こうした様々な問題点を考えると、まともな遺跡台帳を作ることが、いかに困難な事業であるか想像できるだろう。正直なところ、ごく狭い範囲に限っても、完璧な遺跡リストを作ることは、しばしば非常に困難な作業である。

項目的な遺跡情報の可能性

 今では遺跡報告書必須の要件となった、いわゆる「報告書抄録」というものがある。 [抄録の一例] 日本語で抄録といえば、元の文献の一部を抜き出したものをさしており、いわゆる「抄録」は、通常の日本語では「要覧」とか「要目」といった方がふさわしい気がする。それはともかく、この種の項目的な遺跡情報を明示すること自体は、非常に素晴らしいアイデアである(もっとも、それならば、既に抄録XML化の研究が進んでいてもいいような気がするが...)。

 ここで問題にしたいのは、そのデータ項目である。まず明確にしておきたいのは、いわゆる「抄録」は、書誌情報、調査情報、遺跡情報の3部構成になっていることである。書誌情報は、その文献固有のものであり、調査情報は、報告されている発掘調査次固有のものである。これに対して遺跡情報は、埋蔵文化財情報の本体であろう。これをもう少し詳しくしていくと、有効かもしれない。 こうしたものから、例えば確認遺構一覧、出土石器器種一覧、出土土器型式一覧、などにリンクしていけばいいのかもしれない。そこから先は、図版画像などにリンクしていけばいいのかもしれない。最終的には報告書に辿り着くことになろう。

 つまり、いわゆる抄録と報告書の間に、ハイパーテキストの応用として、埋めるべきギャップがある、ということだ。そして、抄録の前に、作るべき遺跡台帳がある。こうして、第1層に遺跡台帳、第2層に項目的データベース、第3層には殆ど報告書本体に近いものを置けばいいだろう。これは筆者が「ISEKIDAS」として提言したところである。

日本考古学版RFC、あるいは埋文RFCのすすめ

 考古学の世界では、コンピュータ技術の応用として、データベースへの憧憬が語られることが多い。その話題は、常に用語の不統一への嘆きで締めくくられる。だが、おそらく問題はそんなことではなく、実践の不足こそ、最大の問題なのである。

 もう一つの問題点は、データを揃えることの難しさである。遺跡台帳ですら困難であるが、いわんや遺跡の内容に踏み込む、項目的データベースはさらに困難である。その任に最適なのは、報告者自身であろう。当然、内容の精粗が生じるとは予想される(いわゆる抄録を以てしても、その報告書の書名と副書名が何であるか、よく分からないケースもある−表紙・抄録・奥付の全てにおいて、表記が異なる)。だが、報告者が発表したデータを、さらに修正しながら集成すれば済む話である。見解の相違は、オリジナル情報で確かめればよい。情報は、公開し、持ち寄ることによってしか、本当に集成することはできないだろう。

 報告書の電子化は、国主導で進められる可能性もある。建設CALSはいい例である。しかし、そうした計画が埋文の世界で上手く機能するかどうか、全く予測がつけ難い。この種の問題に関しては、様々なスタンスや議論がありうる。だが、インターネットの世界で明らかになった通り、在来型の社会的決定のパターンやモデルは、ネットワーク対応の情報化には相応しくないのだ。パラダイムが異なるのである。RFCはそのいい例である。

 日本考古学版のRFC、あるいは埋文RFCが必要である。それには、提案以前の実践(実例)が豊富に存在しなければならない。


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