DTPと情報化を考える

少しでも電子化への理解を進めるため、新たに書き下ろしたものです
99.11.17…99.11.25…00.9.1

DTPの登場

 DTP(デスクトップパブリッシング)とは、印刷データの作成を手元のコンピュータでやってしまうことです。従来なら、編集の成果物は、トレースや白黒写真を貼った版下・文章をおさめたフロッピー・カラー写真のポジと、レイアウト指定紙でした。文章は手書きからワープロ化し、やがて標準的なテキストファイルになっていったわけですが、最近では図版のデジタル化も進行しています。

 かつて、レイアウト指定は白本に記入していましたが、ワープロの登場と共に、苦労してワープロでレイアウトのシミュレーションを行ったものです。このプロセスもコンピュータしていくと(ワードプロセッサーならぬ、レイアウトプロセッサーです)、そのレイアウトシミュレーションが、そのまま印刷データになるのが一番合理的ということになります。

 高品位な印刷に対応した精度は、Adobe Systemsの開発したポストスクリプト言語によって初めて可能になりました。デスクトップパブリッシングは、ポストスクリプトの賜物でした。

DTPのメリット

 版下や指定紙は、DTPによる印刷データの作成に置き換わろうとしています。物理的には、MOディスクとレーザープリンタの出力見本しか見えません(DTPですからレーザープリンタの出力は実際に印刷されるものと寸分違わないといってよいのです)。これは、写植からDTPへのシフト、ということでもあります。

 またDTPは、印刷工程の一部を、編集部に持ち込んだことにもなっています。確かにDTPの本質は、レイアウトと校正の内製化に他なりません。外注から内製化に、部分的にせよ移行するのは、時代に逆行しているでしょうか?

 一般に印刷コストは、DTPの普及によって、だいぶ下がったと思われます。それだけだと、印刷会社の売上げが減って、編集部の仕事が増えただけに見えてしまいます。もっともDTPの編集をやっているのが調査団なのか、委託先なのかは、ケースバイケースでしょうが...

 そんな話ではない、もっと積極的なDTP導入の理由があります。

 原稿一般がデジタル化していくのですから、最終的な編集もデジタル化していかないと、著しく不合理なことになってしまいます。テキストデータの再利用の意味はお分かりでしょうが、ワープロの出力を、わざわざOCR(光学的文字読取)にかけるのは、著しく不合理です。同様に、ベクトル化された図版データを、紙に出力して版下を作成していくのも、著しく不合理です。

 レイアウトが自在にシミュレーションできるのは、分りやすい報告書を作っていくためにも有効です。やはり編集レイアウトのコンピュータ化は、コンピュータのツールとしての有効活用そのものです。DTPは、第一義的には報告書編集のツールです。

 最後の文献電子化は、社会的な情報化、あるいは高度情報化の流れに沿ったものです。

CD-ROM化とAcrobat

 文献電子化の流れは、必然的に、紙印刷からCD-ROMに移行していきます(同時にWeb化も進んでいくでしょう)。

 CD-ROMの製作(プレス)のコスト構造は、マスターの作成とプレスに分けられます。マスターの作成は基本料金中の基本料金みたいなもので、当然プレス枚数が多くなる程、総合的な単価は安くなっていきます。実際には15万円で500枚程度、20万円で1000枚程度作れるでしょう。紙印刷の単価の現状から考えて、30〜40頁分を減らせば、CD-ROMが添付できることになります。

 ちなみに、これだと、編集コストは計算に入っていません。CD-ROMをどんな風に作ればいいのか? 確かにプログラミングみたいなことをしていきますと、編集コストはいくらでも上がっていきます。

 そこで、Acrobat(PDF)の意味があるのです。DTPデータが完成していれば、PDF化は簡単です。手品みたいな話ですが、文献電子化のコストは、Acrobatによって劇的に下がったのです。つまり、印刷に耐える品位を持ったDTPデータを作成していくことが、同時に文献電子化の実現につながっていたわけです(→PDFの解説)。

 DTPのアプリケーションは、バージョンアップしますし、そうなると以前のデータが読めるかどうかが、必ずしも保証されない可能性があります。その点、PDFは(DTPの絶対的な業界標準である)ポストスクリプトをベースとしているため、将来にわたって可読性が保証されています。通常、作成アプリケーション以外では(バージョンはともかく)DTPデータが読めるはずもありません。従って、DTPデータが完成したならば(印刷に回すと同時に)、CD-ROM化の有無に関わらず、オフセット印刷対応レベルのPDFを作成しておくべきなのです(一般配付用のPDFとは別です)。

 一般論ですが、HTMLやXMLなどによる全面的な電子化については、制作ツールや環境の進歩を待った方がいいようです。研究は薦めますが...(特にXMLは注目です)。

印刷のオンデマンド化

 CD-ROMは、保管スペースも検索性も劇的に改善してくれます。実際には、安くなったハードディスクに収めていったり(GB単価は、既に500円程度)、オンライン化していく方が便利なのですが、それはそれとして...

 報告書はCD-ROMでいい、となってくれば、紙印刷はどうしてくれる、という話になります。紙印刷物を必要とする人、実需はどれ程あるのでしょうか。

 需要を予測しないで済む方法があります。それがオンデマンド印刷です。これは印刷のデジタル化の進行が生んだ歴史的必然みたいなものです。[オンデマンドの実例→HONCO on demand

 オンデマンド印刷とは、注文(デマンド)に応じて、任意のタイミングで少部数でも刷ってしまうという方式です。オンデマンド印刷は現在急速に進歩しつつある分野なので、固定観念で見るのは危険ですが、印刷品位、コスト共充分に実用的なものです。ごく大雑把に頁単価17.5円程度とみていいでしょう。100頁で1750円、500頁で8750円です。これが、理論的には、1冊から刷れるわけです(実際には、表紙だけはある程度在庫しておいた方がいいようです)。報告書作成の証拠として10部だけ刷り、表紙だけは50枚も用意しておけば、御の字ではないでしょうか。最初の印刷部数は、いつもの配付先にアンケートをとれば、確実に把握可能です。

 報告書を全面的にCD-ROM化したとしても、印刷データがPDFとして用意されていれば、何時でも印刷物の実体を再現できるわけです。オンデマンドの注文や配送の手間は、委託してしまえば、内部的には手が離れます。CD-ROMも、CD-Rという手がありますから、CDオンデマンドも現実的な話です。重量からいっても、CDの方が余程省エネ省コストになります。CDオンデマンドのコストは、ファイル容量、レーベル印刷、パッケージ、梱包体裁等によって変わってきますが、概ね1枚1000〜2000円程度でしょう。

情報の資産化

 報告書がバーチャル化していきますと(印刷可能性は、PDFによってあくまで確保しておきます)、報告書の本質が、更に問われることになるでしょう(→報告書の電子化の現状)。

 調査を持続している団体であれば、資料の蓄積はいうまでもありません。しかし、それらが整理されているかどうか、は別問題です。報告書を含めた、情報の資産化が必要なはずです。

 報告書の電子化は、既存の埋蔵文化財情報の総体とリンクされる必要があります。これは企業で使われるような新世代のデータベースに他なりません。つまり、モダーンなデータベースと連繋していくこと、あるいはモダーンなデータベース構築の起爆剤となっていくこと、それが報告書電子化の本質的な価値だと思われます。本格的な報告書のオンライン化は、デジタルアーカイブの用意と、本格的文書データベース整備を踏まえて、進められることになるでしょう。


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