「あの子ね。」
 木陰からそうつぶやくユカの視線の先には、一人の少女がたたずんでいた。
 木々の中で、少女は小鳥と戯れている。
 美しく、幻想的な光景。
 小鳥たちと少女を驚かさないように、ユカがそっと足を踏み出したその時、
 「だれ?」
 振り返った少女の声に、小鳥たちが一斉に飛び立つ。
 「いい勘、してるわね。」
 驚いた表情で、だが務めて冷静にユカはそう少女に話し掛けた。
 一つ息をして呼吸を整える。
 「杉原、真奈美さんね?」
 何かを期待していたのか、その少女、杉原真奈美はユカの顔を見て、ほんの少し残念そうな顔を見せた。
 「ごめんなさいね、ご期待に添えなくて。」
 そう言ってユカは、微笑を浮かべた。

Sentimental Midnight
第六章




 ユカが驚くほど素直に、真奈美はユカの話を聞き入れた。
 両親から聞かされていたのか、それとも、どこかで何かを感じていたのか。
 「それで私は・・・どうしたら。」
 不安そうな声で、真奈美はそう尋ねた。
 「怖がらなくてもいいわ。真奈ちゃんは私が守ってあげるから。」
 同性ながら、なぜか守ってあげたい、そんな意識が生まれて、ユカはそう言っていた。
 妹のような感じ、なのだろう。
 ふと、実の妹を思い浮かべ、ユイに対してはそんな感じがしないなあ、などと考えて、苦笑いを浮かべる。
 「?」
 「あ、ごめんね。とりあえず・・・」
 そんなユカの様子に怪訝そうな表情を浮かべた真奈美に、
 「とりあえず京都へ行きましょう。今はあそこが、一番安全だから。」
 「はい。」
 安堵感と信頼のこもった瞳で、真奈美は肯いた。
 初対面にもかかわらず、ここまでユカを信用できるのは、やはり彼女の持つ"能力"ゆえなのであろうか。
 どこか人の本質を見抜くような、そんな不思議な力を、ユカは真奈美の中に感じていた。
 「真奈ちゃん、か。」
 妙にその呼び方がしっくりとするような感じが、ユカにはしていた。
 そしてその名は、やがてユカの娘へと受け継がれて行くのだが、それはまた、別の話である。



 高松でほのぼのとしているそのころ、ここ東京では修羅場が続いていた。
 無論、優の言うところの”できそこない”とかそういう話・・・ではない。
 「で、この方はいったいどんなご関係?」
 今日三回目のるりかの質問。
 よくもまあ飽きもせずに同じ質問を、などということは口が裂けても言えない僕の姿がそこにはあった。
 この化け物とがいったいどういったものであるかは、優と一緒にいた女性、惣流キョウコさんから教えられていたから、るりかにとって今、一番聞きたいことは当然、僕と優の関係なわけである。
 幸か不幸か、これはあとで知ることであるがキョウコさんはユイさんやユカさんとはこの時接点はなく、彼女たちはまったく別の経緯でタブリスを追っていた。
 そのさなかで、神の血をひく少女足る優と出会ったのである。
 優は優で、狙われている、というのは随分前から分かっていたようであったが、特に気に留めた風な様子はない。
 この辺り、彼女らしいといえば彼女らしい。
 その優は、といえばユイさんやユカさんとは従妹に当るわけなのだが、そもそもこの時碇姉妹の存在など僕らの頭の中にはなかったし、そうであれば、この二人のこと、この二人がいまどこでなにをしているか、などという話などは浮かんでは来ない。
 もっとも浮かんできても優自身が、そんなことは知らないのだが。
 なにが幸か不幸か、というと、つまり少なくともこの場では若菜や真奈美の話が持ちあがってこない、ということである。
 もっとも、それは単に時間の問題でしかなかったことを、後で知るわけなのだが。
 第一そんな事に思いがまわるほど今の僕に余裕などはない。
 明日香のように、かえってむきになってるりかと張り合ってくれれば、まあそれでさっきまでは苦労してたわけだが、だがその方がまだ楽だと言うことに、僕は気付いていた。
 これは優の性格の問題で、しょうがない話といえばしょうがないのだが、黙ってにこにこと笑っていられるというのはなかなかにるりかにとっては神経を逆なでされるようであった。
 どこか余裕のような物が感じられるからである。
 その上、肝心なこと、つまり僕の潔白の証明についても、何も言及しようとしない。
 無論、優がフォローを入れてくれないのはわざと、つまりやきもちを焼いていたからだ、などということをこの時の僕は知らない。
 これは僕にとって非常に困ることであった。
 明日香や夏穂のように同級生、と一言でいってしまえばそれまでなのだろうが、そこにまた、ちょっと複雑な事情が絡んでくるから厄介である。
 同級生、と言っても僕は彼女と一緒の学校に通うことは、ついに一度もなかったからである。
 言ってみれば"幻の転校生"である。
 にもかかわらず、僕は優を知っている。
 しかも極めて親しい。
 少なくともるりかの目にはそう映っていた。
 これを説明し、かつ納得させるのには、非常に骨が折れるわけなのであった。



 「私ね、明日香ちゃんの大ファンなのよ。」
 「そうなんですか?」
 さて、僕が全身に冷や汗を書いていたころ、明日香とキョウコさんはなぜかほのぼのとしていた。
 どうやら修羅場なのは全国見渡しても僕のところだけなんじゃないだろうか、と思わず僕はそう思ってしまった。
 考えようによってはキョウコさんが明日香を引き付けてくれているおかげで、まだ楽だったとも言えなくもなかったが。
 「娘が生まれたら絶対”アスカ”ってつけようと思ってるのよ。」
 当のキョウコさんには僕を助けようなどという気は、(当然)さらさらないようであるが。
 「で、そっちの話は終わった?」
 話が一段落ついたらしく、キョウコさんがこっちにそう話し掛けてくる。
 終わったといえばもうだいぶ前に僕の話は終わっている。
 ただ単にるりかが納得してくれないだけで。
 「あ、な、なんですか?」
 救いの手、とばかりに僕はキョウコさんにそう返した。
 「ちょっとね、行かなくちゃならないことがあるのよ。こいつの件について、アタシもまだまだ、知らない事が多いからね。」
 そういってキョウコさんは化け物の死骸の方を指差した。
 「あ、な、なら僕らも一緒に行きますよ。」
 逃げたい一身でそう僕は言った。
 が、端から見ればキョウコさんに対していい顔を見せている風になる、ということに僕は気付いていない。
 当然そういう僕のキョウコさんへの態度が気に触ったようで、
 なにやら三方から突き刺すような視線が・・・気のせい、うん、気のせいだ、きっと。
 だが、その視線以上に危険な物がこの先にあることに、しかもそれを自ら呼び込んでしまっていたこに、気付いていなかったのが最大の不幸であったことを、後に僕は知ることになる。


第七章へ続く




あとがき

アスカ:今回はあれね、惣流アスカ、その名前に秘められた謎って感じね。
ジェイ:そんな大層なもんかい。
マナ:それに私の名前の方もあるんですけど。
アスカ:アンタはおまけよ。
マナ:ひ、ひどい。
アスカ:それにしてもなんかどんどんとどつぼにはまっていくわねえ、この主人公。
ジェイ:そう?シンジくんだって似たようなもんじゃない?
マナ:シンジはほら、私一筋ですから。
アスカ:ほほう。
るりか:いや彼だって一応私一筋なはずなんですけど・・・
ジェイ:だからさ、そういうとこをもひっくるめてシンジくんみたいだなあ、と。
明日香:大体シンジくんはともかくこっちはるりか一筋って保証はないと思うけどねえ。
アスカ:シンジだってないわよ。
夏穂:書いてる作者の問題よね。
真奈美:そうですよねえ。エヴァの方はマナちゃん一筋ですけど・・・
夏穂:こっちは途中で属性がるりかから若菜に変化してるからねえ。
若菜:やっぱり私が真のヒロイン、ということになってしまうんですね。
るりか:そんなことはさせません!










新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。



J’s Archeのジェイさんの、
センチ&エヴァ連載シリーズの第6話公開です。

今回、衝撃の新事実・アスカとマナの謎に迫る!!ってことでしたが、
あいかわらず、主人公は修羅場の真っ只中!!(笑)

主人公に安らぎの時は来るのでしょうか....

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