Angra
Aurora Consurgens


ブラジルが生んだ、プログレッシヴ・メロディック・パワー・メタルバンドの6作目。
前作「Temple Of Shadows」が世界的なヒットになり、続くこの「Aurora Consurgens」に多大な期待が寄せられていた。
私も「Temple Of Shadows」がメタルの5本の指に入ると思い、一生Angraに付いていこうと思った。

期待に胸を膨らませ、「Aurora Consurgens」を聴いてみた。
一聴した感じでは、う〜んと唸ってしまったのだ。
それは、地味で暗め、わかりにくいサウンドが並んでいたからだ。
最初からノレる曲がなく、じっくり聴いてみないことには、評価がむずかしかった。
それじゃ、今なら語れるかということだが、まだ無理っちょい。それでも書いてみよう。

B誌のインタビューによると、今回はみんなと一緒に歌えるように、エドゥのキーが低く抑えられているという。
確かに、低い。高音のエドゥの声が好きな私には残念だった。あのように突き抜けるような声を出せるボーカリストは少ないから。
これは、Temple〜は、低音から高音まで幅が広くてむずかしく、ボーカリストに負担があったから、シンプルにしたのだ。
さらに、エドゥがTemple〜の頃に、喉がひっくり返る病気にかかって、満足に歌えなかったことも関連がある。喉の酷使を控えたんだろう。

また、Temple〜後に、皆で持ち寄った曲が、スローバラードばっかりだった事実も興味深い。
Temple〜の成功後、Angraの特徴とも言える、アグレッシブな疾走曲を書くむずかしさを感じたんじゃないかと思われる。
「前作を超えなくては、バンドを継続する意味がない」というプレッシャーがあったんじゃないだろうか。
だから、テクニカルかつキャッチーなTemple〜とはちょっと違った路線を取ることにより、新しい境地を築こうとしたのだろう。
その結果、サビがガーンと来るのではなく、マニアックな、だけどよく聴いてみるとむずかしいことをやってるアルバムになった。
制作期間が短かったことも、影響しているだろう。

水準は遥かに越えている。
テクニックやサウンドのバランスは、他のバンドの追随を許さない。音質もいい。
まぁ、キャッチーな曲があと2曲ほしかったってだけなんだ。

“Aurora Consurgens”というのは、中世に錬金術のシンボルについて書かれた文書のことだ。
心理学者のユングは、錬金術のシンボルは、夢と幻と同じように、人間の心を代弁するものと信じていた。
多くの歌詞を担当しているギタリストのラファエル・ベッテンコートによると、
『(Aurora Consurgensの)わかり難い文体や38個の挿絵は、読者の探求心を駆り立て、人間の潜在意識の暗い部分を知りたいという気持ちにさせてくれる。この本に出てくる残忍なイメージはシュールリアリズムの極地で、人間の心の未知なる荒野、恐怖の公開、トラウマ、記憶、アイディア、目標、敵意に満ちていると思われることの多い存在に関する探究を試みたいというインスピレーションを与えてくれるのだ。』
ということで、
『みんなの苦悩を表現することで、リスナーに少しでも光ともたらすのを目指している。』
『自分たちのダークなサイドを映し出すことで自分自身をより知ることができ、異なるアイデンティティや行動様式のさまざまな人間たちがより調和の取れた社会で生きられるようになると信じている。』

実際、歌詞は、苦痛、闇、混乱、自殺、狂気、拷問、地獄、恐怖、後悔、孤独などの言葉が使われている。
が、救いがないのではなく、かすかな上昇が歌詞に含まれている。
「苦悩しているのは、自分だけでなく、大方の人々がそうなんだ。
だからこそ、生きていく価値があるんだ」とのメッセージを感じた。

歌詞の内容が深刻で、意味を理解するために繰り返し読むように、曲も繰り返し掘り返して聴くことにより、違う表情を見せてくれるようになる。
手が掛かるが、それだけに少しでも理解できた時はうれしい。

では、曲ごとに感想を書いてみる。



1 The Course Of Nature エドゥとキコの作品。前作の最終曲“Gate]V”の延長のような、クラシカルな導入から、中南米の民俗音楽のようなリズムが続き、本編が始まる。
低音のリフの上に重なるギターソロは、キコ、ラファエルの順であろうと想像できて楽しい。

エドゥの低音ヴォイスは、そのうちに上がると思ったが、最後まで上がらず。が、慣れればこれもいい。
2 The Voice Commanding You ラファエル作の疾走曲。テクニカルなイントロ、慌しいまでの変化に富むスピーディで高度なリフは、Angraならでは。
アキレスのドラミングが冴え渡る。
途中にクワイアが挿入され、荘厳さが加わっている。ツインギターやギターソロがテクニカルだ。
3 Ego Painted Grey エドゥの低音と低音のアルペジオから始まるシリアスな曲。キコ作。
徐々に盛り上がり、エドゥは雄々しく豪快に歌い上げる。
プログレがかっている。ギターソロとキーボードソロ(?)の掛け合いにスリルがあってカッコいい!
4 Breaking Ties Wishing Wellのような、明るめのキャッチーな曲。エドゥ作。
エドゥは高音で歌っているせいか、心地良く聴ける。
このようなPOPめの曲にさえ、高度なセンスを感じる。好きな曲だ。
5 Salvation : Suiside Nova EraやTemple Of Hate系の疾走曲。もう、イントロを聴いただけでAngraとわかる。
ツインギターがうなり、ライブで盛り上がること請け合い。ギターソロがこれでもかと速い。
6 Window To Nowhere これも、ギターオリエンティッドな曲。ちょっとマニアックか。
もともとAngraは、ギターだけだとマニアックになるきらいがあった。それがエドゥのボーカルが入ることによってリスナーに近づいていた。それを思い出させる。
ギターソロは、キコのソロアルバムのようにフュージョンがかってて高度で難解だ。早弾きは当然で、速いのに音のひとつひとつにチョーキングを施しているような、叙情性と表情を与えているのが驚愕だ。
いえ、キコのギターソロには、ほとんどこの表情を感じる。アグレッシヴなラファエルのギターソロとの区別は、これとリバーヴ感でつけているのだ。
7 So Near So Far 民俗音楽をイントロに使った、静かな曲。キコ作。
歌メロの部分はサルサか。
キコがインバビューで答えていたが、民俗音楽を減らすようにと周りから言われているらしいが、ブラジルのバンドとして、民俗音楽を取り入れることにプライドを持っているという。今後も使用していくようだ。
私も民族音楽はこの半分にしても。。と思っていたが、インタビューを読んで気が変わった。というのは、彼らのオリジナリティもさることながら、Angraの役割や周りに与える影響を考えているのだろう。後世に名を残すバンドとしては。
8 Passing By Bのフェリッペ作。初提供だ。
イントロからベースがリードを取っているのがおもしろい。
サビが印象的で、ライブで合唱できそう。
重低音の強力なリフに乗って、プログレ風なギターソロが自由に華麗に舞う。
9 Scream Your Heart Out 私には、この曲のメッセージがAurora Consurgensのメッセージに思える。
Scream your heart out! Dig your soul in it (心を外に出してそこに魂を入れろ!)
Time to fly again and left your mind go free (飛躍の時 精神を解き放て)
マイナー調からメジャーになるギターソロがいい。
10 Abandoned Fate アコースティックな作品。
途中、ビートルズのような曲が挿入される(曲名がわかりましぇ〜〜ん)
11 Out Of This World 日本のみのボーナストラック。ラファエルが歌っている。
それが、スティーブ・ペリーにも似て、かなりうまい。
高音でシンプルなHMがほしくなってきた時だから、素直に真っ直ぐに突き抜けるような歌い方が気持ちいい。
肩の力を抜いたように、のびのび演奏している姿に好感が持てる。