ガソリンタンク爆発

―些細な原因が人を傷つける―

     

日曜日の夕方

 信州の静かな地方都市、そこからJRで一駅離れた小駅に隣接する油槽所で、日曜日の夕方に火災は起こった。

 油槽所に隣接した住宅地に住む住民の話によると、「私の家は、燃えたタンクから約10mの位置にあります。家内と買い物から帰ってきたとき、油臭いにおいが充満していました。油槽所内にはトラックが止まっていたので、なにか工事で臭うのかなと話しながら家に入って5分ほどしたとき、窓の外が真っ赤になり、見ると50mほどの火柱が立ち上がっていました。直後にものすごい音とともに激しい振動が起こりました。とっさに家内を車に押し込み、避難しました。けたたましいサイレンの音とともに、消防自動車が到着したのは、それから数分後でした。」

 

火災の拡大

 火災になった油槽所の社員の話によると、「私は、会社から1kmほど離れた所に住んでいます。自宅でくつろいでいたところ、消防自動車のサイレンであわてて外に飛び出してみると、会社の方角に大きな黒煙が揚がっていました。自動車に飛び乗り黒煙の方角に急いだが、道路は渋滞していて先に進めません。やむをえず、車をわき道に乗り捨て、徒歩で急ぎました。信越線の上り特急が停車しているのが見えました。会社の近くにようやく到着しましたが、非常線が張られていて、それから先へは立ち入り禁止となっていました。非常線のところから見ると、会社の石油タンクが火を吹いていました。」

 

火災の概況

 テレビや新聞の報道によると、10月10日()午後6時ごろ、M社U油槽所のガソリンタンク2基(合計容量600kl)と軽油タンク1基(容量150kl)の計3基が次々に燃え上がった。

 火災現場の近くを通っている信越線は、危険な状態になったため、上下線とも出火直後から運転をストップした。また、火災現場の西側に隣接する20戸の住民は、近くの公民館に避難した。

 当日は同油槽所内で配管工事を行っており、6人が作業をしていた。そのうち、工事にたちあっていた同油槽所の所長は死亡、工事業者2名が火傷を負って病院に収容された。

 火災は消防隊の懸命な消火活動で、出火から4時間後に鎮火した。

 

現地に立って

 私が現地を訪れたのは、火災から1月が経過したある夏の日であった。上田市は観光都市であり、大阪の陣で有名な真田幸村の城跡がある。徳川の大軍と二度までも戦って勝ちをおさめたとは思えない、小城である。また、近くには別所温泉があり、鎌倉時代の古寺が残っていて信州の鎌倉と言われている。

火災現場は観光都市の郊外に広がる、のどかな田園地帯にあった。駅構内から見ると、線路をはさんで向かい側に、油槽所が二つ並んでおり、その右側の油槽所、約千m位の敷地に焼け焦げたタンクが見えた。敷地を一周して、隣接する住宅街からタンクを見てみると、十数m先にタンクがそそり立っていた。

 ここに住んでいる住民にとっては、火災のときはさぞ怖かったろうと察せられる。

 

火災原因の調査

 火災の翌日から火災原因の調査が行われた。その結果、配管の一部が外れており、そこへ5号タンクのガソリン170klが流れだしたため、投光器が着火源となって、燃え上がったものと推定された。その火災が1,2,4号タンクに燃え移ったものである。

 ちなみに筆者の試算では、170klのガソリンが爆燃したときは、半径約15mの半球状の火炎が発生し、約800度の温度に達すると推定される。

 延焼したタンク3基には約500kl(ドラム缶千五百本分に相当)のガソリンと軽油が貯蔵されていた。これらが同時に燃えあがったため、その地域には化学消防車も1台しかなく,消火能力の不足な消防隊は、放水(危険物火災では効果がなく、危険物を飛び散らすだけのため、直接放水は不可とされている。)で延焼していないタンクや施設を冷却して、引火を防ぐしか方策がなかったようである。

 火災の原因を要約すると、油槽所のガソリンタンクの工事中に外しておいた配管をつなぎ忘れ、その配管に誤って、オイルタンクから大量のガソリンガソリンを流出してしまった。それが蒸発して空気との混合ガスとなり、爆発範囲の濃度になったところで、そのガスに投光器の白熱電灯の火花が引火して爆発的に燃焼し、さらにその火災で過熱された3基のタンクも燃え上がったというのがこの大火災の原因と考えられる。

 

さらにその背景にある原因

 火災の直接の原因は、ガソリンの流出にあることは明らかになった。しかし、それではこの原因であるガソリン流出が何故起こったのかという説明にはなっていない。ガソリン流出を引き起こすに到ったその背景にある原因を、探り出さねばならない。

 

工事関係者の回想

*配管担当者(外注業者)の回想

 「この日行われた工事では、配管の取り替え、ポンプの交換等を行ったが、溶接を行うため、配管内部のガソリンの蒸気が残存すると爆発の危険もあるため、配管を接続部で外しておいた。配管の接続は溶接担当者が、溶接が住んだ後にやってくれるものと思っていた。」

*溶接担当者(外注業者)の回想 

 「パイプの溶接が済んだので、私はタバコを吸うため喫煙所に行き休憩していました。配管の接続部分が外れていたのは、もちろん知っていました。しかし、配管の接続は溶接ではなく、フランジを8本のボルトとナットで締め付ける作業なので、配管担当者がやるものと思っていました。」

*工事責任者(外注業者)の回想

 「我々は3人がチームを組んで山口県から来ています。この仕事は危険物を取り扱う作業なので、あまり業者がいません。そのため、長期の出張で全国を飛び回っていますので、半年も自宅を離れることも珍しくありません。今回の仕事も3カ月になります。だいぶ工期が遅れてあせりましたが、今日の配管工事で仕事はほぼ終わりなので、数日後には故郷に帰れます。そのため、今日は帰りに仲間と祝杯を上げる予定でおりました。

 こんな大事故をおこしてしまったのも、私が始業のとき作業分担をはっきり指示しなかったのと、配管を十分にチエックしなかったのがいけなかったのです。それも、長期出張と工期遅れによる疲れと、今日の休日作業が残業になってしまったため、早く終わらせようとする焦りからこんなことになってしまったのでしょう。」

*工事立会人の油槽所長(数日後死亡)の回想

 「パイプラインの操作盤を動かしたのは私です。配管工事が終わったので、5号タンクのバルブをリモートスイッチで開けました。この操作は送油口までガソリンを送るためのものです。しかし、配管が外れていたとは、予想もしていませんでした。そのため、遠くの方でバルブを閉めろと合図を送っていたそうですが、何で騒いでいるのか分かりませんでした。ぱっと火柱があがり、急いでバルブを閉めようとしましたが、慌てていたため、なかなかバルブが閉められませんでした。そのうちに火災のため、バルブ閉止の操作は効かなくなってしまいました。

 消火設備は手動のため、オイルタンクの近くに設置されています。そのため,またたくまに火炎に包まれてしまい、役にたちませんでした。」

 

終わりに

この大事故は、配管の未接続を見逃してしまい、ガソリンの大量流出を引き起こして、それが直接の原因になったものであるが、非定常作業において、作業分担、危険性にたいする作業前の指示の徹底、操作前の設備の確認等がいかに重要であるかをあらためて認識させられる。さらには、後期遅れにたいする焦り、長期出張による疲れ、工事の終了が間近にせまった安堵感、残業による疲れから来る注意力の欠如等のあまりにも人間的な事情がその背後には隠されている。

 一見単調で意味がないと思われ、マンネリになりがちな指示、確認等を確実に行うことが重要であるとともに、作業者の作業環境や生活環境にも十分な配慮をする必要性があると思われる。

 それとともに「事故原因が馬鹿馬鹿しいといわれるほど些細で日常的であることは、いつでも、どこでも起こりうることを意味し、かえって恐ろしい。」(柳田邦男・事故の視角・文芸春秋)ということも良くかみ締めて、安全対策に十分な努力を怠ってはならないと考える。

―以上―

 

 

参考文献

1.信濃毎日新聞 

2.「事故の視覚」 柳田邦男著 文芸春秋刊 S57年7月25日(第9刷)



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