爆発事故は何故おこったか

―安全点検の重要性―

     

                                            

                 ある月曜日の朝

 東京のベットタウン埼玉県某市にあるM社の工場で、夏の盛りの月曜日の朝、その爆発事故は起こった。

 工場に隣接する団地では、通勤の夫や通学の子供達を送りだした主婦が、食事の後片付けや洗濯に取りかかっていた。時計の針は8時27分を指していた。

 団地に住む主婦の話では「突然ドカーン、バリバリバリという爆発音がし、底から突き上げるような衝撃が襲った。飛行機でも落ちたのかと思って外へ飛び出してみると、ガラスの破片、金属片、スレートの破片が降ってきた。工場の方を見ると黒煙があがっていた」と恐怖を語った。

 現場から1Km離れた畑で作業していた農家の主婦は「ドカーンというものすごい音がした。周りを見まわすと工場の方に黒煙があがり、破片がパラパラと降ってきた、すぐ近くにも落ちてきた」

とその瞬間を語った。

 爆発直前に現場を通りかかった従業員は「突然、ドドーンという音がして、目の前が煙のようなもので真っ暗になり、空からガラスやスレートがばらばらと降ってきた。爆風で体が飛ばされそうだったが,何が何だか分からず、とにかく逃げるので精一杯だった。よくあれで生きていられたと思う。いま思ってもひざが震えてくる」と恐怖におののきながら語った。

 別の作業員はTBMの開始を待つため自分の作業場で集合していたが、爆発直後に現場に急行して、惨状を確認した「二、三十キロもあるような部品が真横に三十メートルぐらい飛ばされ、柱の鉄骨や太いパイプが折れ曲がっていた」と興奮しながら語った。

 新聞の見出しを借りれば次のような表現になる。

爆音、飛び散る金属片

「工場周辺ドア割れ 自動車つぶれる

「負傷の作業員襲う激しい爆風 呼吸困難、髪の毛も焼け

まるで空襲、恐怖走る

空からガラス降る 折れ曲がった鉄骨の柱


                   
工場の概要

 M社の工場で起こった爆発事故は、20名の死傷者を出した(従業員は死者1名、負傷者17名、周辺住民の負傷者2名)、また爆発事故による周辺の民家の被害は73件にのぼると見られている。

 この工場はでは銅合金の継ぎ目なし管を製造しており、押出プレスに連結する高圧空気の貯蔵タンク(1,800リットルで210kg/cmの圧力)2基の破損がひどく、これが何らかの原因で爆発したものとみられている。

 この装置の作業員は、普段は連続操業のため高圧空気タンクの手動バルブは開いているが、休み明けのため閉じていた手動バルブを開いてアキュムレーター(空圧を油圧に変換し押出しプレスにに圧力を加える装置)に空気を送ったところ、カチッという音がし、約1分後に爆発した。

 工場の建物はスレートの壁と屋根は完全に飛び散り、窓ガラスもすべて四散して、鉄骨の骨組みだけが残った。


現地を訪れる

 筆者が現地を訪れたのは、年が変わって桜が満開の4月初めであった。工場の裏門に隣接したグラウンドの土手には桜並木が連なり、どこに大事故があったのかというようなのどかな風景であった。

 広い道路に面して、M社の広大な敷地が広がり、その左と右には他社の工場が1つづつあって工業団地をなしていた。工場の前には、道路を挟んで大住宅団地が続いており、工場の西側にも敷地に隣接して大住宅団地が広がっていた。

 もう事故から1年以上経過しているため、爆発のあった工場の残骸は撤去されており、周囲3〜4kmもある敷地のなかは樹木に囲まれて、静まりかえっていた。

 また、被害にあった住宅団地も補修が済み、事故の痕跡は見られなかった。

現 場 調 査

 事故の原因については、警察、消防が調査を行い、また、M社でも独自の調査を行ったが、原因を突き止めることは出来なかった。

 この装置は30年間使用しており、老朽化によるタンクの金属疲労等による破損が推定されたが、このような現象は発見できなかつた。

 また、同工場は高圧ガス取締法の認可を受けており、県が毎年1回保安検査を実施していた。事故の2月カ前に検査が実施されたばかりであった。

 社内の定期検査も実施されており、点検や保全が不十分であったとは考えられないというのが、M社の見解であった。

 但し破壊されたタンクの内壁に油が大量に付着していたことが、その破片から推定された。これは高圧空気を作るコンプレッサーから、潤滑油が高圧タンクに流れ込んだものと考えられた。

 原因の調査は高度の知識が必要と判断されたため、国は学識経験者を含む調査委員会を結成し、原因調査を委嘱した。


公表された爆発原因

 調査委員会の綿密な調査が行われ、その結果が公表された。

 ここで工程の流れを再度詳細に記すと、
(コンプレッサー)(高圧空気タンク)(手動バルブ)(アキュムレーター)

(押出しプレス)

となる。(図参照)



                                                              (図)

これらの調査結果は

(1)高圧空気タンクは破壊されており、その内 部にはかなりの油が残存していた。この油は、分析の結果アキュムレーターの作動油と同じものであつた。しかも経年劣化して変質をきたしており(その多くが低沸点成分の炭化水素に変わっている可能性が高い)新しい油に比べて着火、爆発の危険性の高い状態になっていたと考えられる。この残存油は、爆発の圧力等から計算して17リットルの容量のものが存在したことが推定される。

(2)アキュムレーターには変形は無く、作動油は流出して、ピストンは下部まで降りていた。

(3)手動バルブは8/9回転まで開いていたが破損していなかった。

(4)安全弁はテストの結果、正常に作動した。

(5)この工程では作業手順は作られておらず先輩作業員がOJTの教育で口頭伝授していた。

 運転操作で手動バルブを開閉するときは圧力の確認をしないで、操作をしていた。

 設備の点検状況も悪く、内部の清掃も設置以来(30年間?)行われておらず、管理上望ましい
状態ではなかった。


爆発原因を推定する

 燃焼・爆発が発生するためには、3つの要素が必要である。空気、可燃物、着火源である。 

 これを燃焼の三要素とよんでいる。この三要素を今回の事故原因と考えられる要因と対比してみると、次ぎのようになる

(1)空気については高圧空気を使用しているため、十分すぎるほどに存在する。

(2)可燃物については、アキュムレーターの作動油が高圧空気タンクに長い年月かけて漏れ出し、溜まっていた。

 アキュムレーターは約40時間の設備休止(休日のため)の間に漏れが生じ、初めには190kg/cmあった圧力が低下した結果、22kg/cmになっていたと考えられる。

 高圧空気タンクとアキュムレーターの間に大きな圧力差がある状態で手動バルブを急激に開けため、爆発範囲にある可燃性混合気体(または作動油のミストとの混合物)がアキュムレーターに流れ込んで発火し、爆発を起こした。その圧力で可燃性混合気が燃えながら逆流し、高圧空気タンクで大爆発を起こしたのではないかと考えられる。

(3)着火源については、

@装置内部から脱落したビス、ナット、鉄さび等の固形物が高圧空気流に乗って配管部と摩擦し、摩擦熱によって発生した火花

A高圧部から低圧部へ可燃性混合ガスが急激に流れ込んだことで起った、断熱圧縮による発熱

B静電気の放電

が考えられるが、静電気は真夏のことでもあり可能性は薄く、@の固形物と配管の摩擦が一番可能性が高いのではないかと考える。なぜならば、爆発現場近くにいた従業員が手動バルブを開けたとき”カチッ”という音を聞いており、その直後に爆発したことから金属同士の摩擦の可能性が高いと考えられる。

 またAの断熱圧縮による発熱も可能性はあり筆者の試算では、1000℃に温度が上昇することもありうるので、@とAが同時に起こったことも考えられる。


関係者の話

 本社に設けられた災害対策本部の責任者は「事故の原因については、作業に当たっていたのは5年以上勤務している従業員であり、人為的ミスは考えられません。また、設備は細かい部分を補修しながら通常は50年ほど使用できます。設備の老朽化でもありません」と語った。

 工場の責任者は「事故現場のプレス装置は30年以上使用している機械ですが、定期検査もおこなっており、老朽化していたとは認識していません」と語った..。

 県工業保安課の職員は「2カ月前に保安検査を実施しました。検査の内容は認可時の設備が変更されていないかどうか、書類と現物を対比すること、保安教育がおこなわれているかどうかの書類審査などをおこないました」と語った。

 定期点検を担当する作業現場の担当者は、爆発事故の原因を知って「プレス、計器類、設備の油漏れなどの点検はしますが、高圧空気タンクのドレーンバルブを開いて点検することは、点検チエックリストに項目が無く、また高圧空気が減圧してしまうので点検していませんでした。こんな大事故の原因がタンクに溜まった油ということがわかっていれば、真っ先に点検項目にいれてもらうのですが」と話した。

 保全担当者も事故原因が公表された後「高圧空気タンクの高圧空気を抜いて、タンクの内部を掃除することは、保全項目には入っていません。そのため、私の知っている限りでは、掃除はしていません。恐らく設置以来していないのではないでしょうか。類似の事故が他社でも発生しているという情報を知っていれば、ドレーン抜きとタンクの中の定期清掃を実施出きるようにしてもらったのですが」と話した。


事故の教訓

 この工場で起こった事故はそれほど珍しいものではなく、同じ種類の事故が時々発生している。そしてこれらの事故を防ぐには、空気の雰囲気から窒素の雰囲気に変えるというようなハード面の対策が、事故の防止という観点からは大変に有効である。しかしながら、出来あがって数十年稼動している設備で、作業方法を変更することは、大変に困難が伴う。

 次善の策としてはソフト面の対策である。
(1)安全点検の重要性

 この事故で一番重要なことは、高圧空気タンクの安全点検で、ドレーン抜きによるチエックが行われた形跡がないことである。変質するほど長期にわたって油が溜まっていたということは、点検計画や点検チエックリストにドレーン抜きによる点検項目が入っていなかったことになると思われ、これは現場の作業者の怠慢というレベルの話ではなく、設備設計者の安全に対する無知と怠慢、管理者の管理能力不足につながってくるのではないだろうか。

 この事故が中小企業でのものでなく、日本でも有数の大企業で起こったものであるだけに、大変驚きである。設備は劣化したり、機能が低下したりするものであることを経営者、管理者が良く理解し、設備が問題を起こす前に、定期的に安全点検で欠陥を発見し、事前に対策を打つことによって事故を未然に防がなければならない。

@社内の安全衛生基準に基づき安全衛生点検計画を作ろう。

A安全衛生点検を定期的に実施しよう。点検は思いつきではなく、点検項目・時期、点検者の教育訓練を計画的に行おう。

B安全衛生点検は作業に支障があるとか、準備に手間がかかるとかいう言葉に絶対妥協してはいけない。労働災害で失われた人の命は二度と戻って来ないのだから。

C技術スタッフの力を借りて、安全衛生点検チエックリストに必要な項目が抜けていないか、余分な項目が残っていないか定期的に見直そう。点検項目の不備が今回の事故の大きな原因なのだから。また、点検者の実施能力に対して点検項目の多すぎるのも、問題である。人間は機会があれば手抜きをしょうという習性がある。自分の実施能力以上の点検を要求されれば、手を抜いて、厳密な作業はしないものである。

(安全衛生計画やチエックリストが無かったら直ちに作ろう)

(2)作業手順の明確化

  この事故で気になるのは、200気圧前後の高圧を扱う作業でありながら、手動バルブを開放する前にアキュムレーターの圧力を確認していないことである。空圧、油圧ともに圧力計が設置されていたことは確認されているので、作業手順が明文化されず、口頭で教育されただけのため、正しい作業手順を忘れていたか、手順に抜けがあったため、圧力の確認を忘れるという、誤っ作業をしたものと思われる。

  作業手順は作るだけでなく、その内容を忘れることのないよう、繰り返し教えることが大切である。

 (作業手順書が机の中で埃をかぶっていたのでは何にもならない。)

(3)清掃の徹底

  今回の事故でさらにびっくりすることは、この工程の設備の内部が、設置以来一度も清掃さ

れていないという事実である。定期に点検を行い、定期に清掃を行っていればこのような事故は未然に防げたはずである。整理、整頓、清潔、清掃の4Sは安全衛生の基本であるという言葉は、まさに生きている。

(4)災害情報の収集

  内外の同種設備の事故・災害について情報を収集し、熟知するとともに、情報を社内に流して理解させることが安全スタッフの必須条件である。


参考文献

・化学安全工学 北川徹三著 日刊工業刊

・爆発災害の解析 北川徹三著 日刊工業刊

・化学工場の安全管理総覧 共著 中災防刊

・火災・爆発の化学 内藤道夫著 中災防刊 

・これからの安全管理 西島茂一著 中災防刊

・圧縮空気貯槽等破損事故調査の概要 柳田省三著 安全 Vol.47,No8,1996収録

・油の経年残留が引き金 《安全スタッフ》 1996.2.25

・埼玉新聞 1995.8.1〜3

・朝日新聞 1995.9.26

―以上―


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