転倒災害はなぜ起きる


1.転倒災害最多の発生
 平成19年度版の「安全の指標」を注意して読まれた方はお気づきでしょう。全産業の事故の型の最多発生率が「墜落・転落」から「転倒」に変わったことを!
 筆者が平成16年に「安全衛生の広場」で転倒災害の特集を書き、続いて「ビデオの転倒災害」に出演させてもらった時は、全産業のなかで、転倒災害は3位でした。
 ところが、平成17年だけでなく平成18年にも転倒災害は最多となり、平成19年も途中経過ですが最多になりそうな雲行きです。(図1参照)


図1.事故の型別死傷者数(H18年・全産業)
しかし、転倒の結果で発生する死亡災害が他の事故の型に比べて少ないため、あまり注意を引いていないようです。(図2参照)



図2.事故の型別死亡者数(H18年・全産業)

 それでは、転倒災害がどんなところで増え、原因は何なのか、その対策はという順に述べていきたいと思います。
 ここで転倒災害の定義をいたします。(表1参照)
2.転倒災害の原因(統計資料からの解析)
平成18年には転倒災害が、全産業の中で最悪の発生率になってしまいました。これは今までになかったことです。
 転倒災害はなんで起きるのでしょうか。また、それを防ぐにはどうしたらよいのでしょうか。
 事故の型ではH13年には多い順に @墜落・転落 Aはさまれ・巻き込まれ B転倒になっていましたが、H15年には転倒がはさまれ・巻き込まれを抜き、さらにH17年には墜落・転落を抜いて転倒災害がワースト・ワンになってしまいました。(図3参照)


表1.転倒災害の定義


図3.事故の型別時系列推移
転倒災害は業種別に@製造業 A商業 B接客・娯楽業などの順位になっていますが、製造業、商業での発生率が目立ちます。(図4参照)


図4.業種別転倒災害
業種別に転倒災害の推移を見ると、上記の5業種が上位を占めます。
 増加傾向にあるのは製造業で、次が商業です。その他の業種はほぼ横並びです。(図5参照)

図5.業種別転倒災害時系列推移

製造業での転倒災害をさらに分類すると図4のようになります。
 食料品製造業の転倒災害が圧倒的に多いことがお分かりいただけると思います。(図6参照)
 食料品製造業での転倒災害をさらに分類すると図7のようになります。
 食料品製造業の転倒災害が圧倒的に多いことがお分かりいただけると思います。(図7参照)

 
 図6.製造業の内訳別転倒災害(H16年)



図7.食料品製造業の内訳別転倒災害(H16年)


食料品製造業の転倒災害の発生率を小分類ごとに見ると、その他の食品の分類で発生する転倒災害が圧倒的に多いことが分かります。(図8参照)

図8.食料品製造業転倒災害時系列推移


 食料品製造業の全体の転倒災害増加傾向は、その他食品の増加傾向とほぼ同じになります。
その内容は
(1)ふくらし粉等製造業     (2)でんぷん製造業
(3)めん類製造業        (4)もやし等製造業
(5)豆腐・油揚製造業      (6)あん類製造業
(7)冷凍調理食品製造業     (8)惣菜製造業
に分類されます。これらは中小、零細企業に属する企業が多いのではないでしょうか。<その他食料品製造業の転倒災害増加傾向>
それでは、なぜ転倒災害が急増したのでしょうか。その理由は雇用継続などによって労働人口が高齢化し、作業者が作業に対応しづらくなっていると推定できるのではないでしょうか。さらに解析を進めます。

3.転倒災害の起きる場所はどんなところか
 転倒災害は大きく別けて次のように別けられます。
(1)通路、作業床で滑る。
(2)機械、設備につまずく。
(3)材料、荷物につまずく。
(4)動力運搬機(フオークリフトなど)が転倒し、その下敷きになる。
 動力機械の転倒は、発生の頻度は小さいのですが、大きな災害になりかねません。
 その中で、製造業で起きる転倒災害を見てみますと、大きく2つに分けられます。

4.製造業での転倒災害が起きる場所
 それでは製造業の場合はどうかというと
(1)通路、床面で滑る
(2)段差、設備、材料につまずく
  になっています。
  この中では、「滑って」が40,0%と一番多く、「つまずいて」が32.3%
とそれ続きます。なお、起因物別に見ると「通路」が一番多く、次に「床面」
で多く発生しています。(表2参照)

事故の型 滑って つまずいて バランス
を崩した その他 人
人 2,027 1,641 473 934 5,075
比率(%) 40.0 32.3 9.3 18.4 100.0
表2.H17年 製造業の事故の型別死傷者

5.滑りどのようにして起きるか
歩行の時は床面にかかる垂直力と、水平にかかる水平力が働きます。水平力>垂直力になると、水平力の働く方向、すなわち、足を踏み出す方向に滑ります。
 床面に水や油があると、薄い層が出来、摩擦係数が小さくなるので、滑り易くなります。(図9参照)


図9.滑るときの条件


6.転倒事例
(1)滑って転倒
業種  :その他の食料品製造業
事故の型:転倒
起因物 :通路
傷病部位:頭部骨折 休業1ヶ月
性別  :男子
原因:洗い物を整理のため、木の容器を4つ持って倉庫へ移動中、床が濡れていてすべり、転倒して顔を扉のレールにぶつけた。(図10参照)

図10、滑って転倒


(2)つまずいて転倒
業種:その他の食料品製造業
事故の型:転倒
起因物:通路
傷病部位:顔を骨折 休業31日
性別:女子
原因:通路に置いてあったダンボール箱につまづいて転倒し、近くにあった機械で顔面を強打した。(図11参照)



図11.つまずいて転倒


7.加齢と転倒災害
(1)年齢と身体機能の低下
年を取るにつれ、身体の機能が低下します
 特に「薄明順応」といって、例えば映画館のような暗い場所に入った時、一時的に周りが見え難くなる現象が、顕著に現れます。
平衡感覚の低下も、顕著です。(図12参照)


  図12.年齢と身体機能の低下


(2)年齢と労働災害
人間は年を取るに従い、体力が衰えてきます。
 そのため、50歳位から労働災害が増加する傾向があります。
  20歳未満に労働災害の多いのは、教育訓練の不足と未熟練による技能不足がその原因になっていると思われます。(図13参照)

図13.年齢と労働災害


(3)年齢と転倒災害
転倒災害も年齢が高くなるにつれて、増加の傾向があります。30歳未満の人に対し、50歳以上の人は約9倍も転倒災害が増加します。(図14参照)
(4)年齢と低照度下視力
  年を取ると瞳孔が小さくなるため、目に入る光量が減ります。そのため、暗い場所で物が見え難くなります。20〜30歳に比べ60歳代では2倍の光量が必要になります。そのため、明るさに、十分な配慮が必要です。
(図15参照)

図14.年齢と転倒災害



図15.年齢と低照度下視力


8.転倒対策
  転倒対策にはすべりの防止、つまずきの防止、体力の強化がありますが、いずれにしても特効薬はありません。ここの転倒対策を地道に実施するほかありません。 
(1)滑り対策
 @ 床面を良く清掃する。
A 床面の水や油は良く拭き取る。
B 滑り止めのマットを敷く。
C 滑り止めのテープを貼る。
D 滑りにくい靴底の靴を履く。
(2)履物とすべり
(摩擦係数の大から小へ)
ゴム底靴>運動靴>レインシューズ>ラシャ裏スリッパ>皮底靴>スキー靴
「ゴム底靴は摩擦係数が大きく、滑り難い材質だということが分かります」
(3)つまずき対策
  つまずき対策は4S(整理、整頓、清潔、清掃)の徹底に尽きます。
 @ 通路に物を置かないようにする。
 A 通路に物を置かないようにする。
B 床面の凹凸を出来るだけ無くす。
C 通路の損傷は、早く直す。
D 通路面を明るくする。
(4)体力強化
 体力の強化が転倒災害防止に有効です。
@ 始業時に体操を行う。
A 普段から足腰を鍛える。
B 良く歩く。(特に加齢対策)

9.終わりに
 転倒災害は平成17年以後、全産業のなかで最多になりました。その要因は、年金支給の高年齢化による雇用継続。好況による労働力の不足を補充するためには、在来型の中小零細企業での設備の近代化遅れと、労働集約型の作業形態が若年労働力に好感されず、高齢労働力に頼らざるを得ず、その結果、食料品製造業の中でも特に「その他食料品製造業」や「その他の商業」分類される中小零細企業に転倒災害が増加してきたのではないでしょうか。いわば好況による受注増と作業人口の高齢化が転倒災害の増加という現象として現れてきたともいえると思います。
―以上―
 








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