「一人作業を安全に」

            

1.はじめに

 企業は経費削減のため、設備の自動化等の合理化を進めてまいりました。更には、バブル崩壊後の不況を打破するため、より一層の作業員削減を実施してきました。

 その結果、一人作業の職場がふえて安全管理上の不具合が生じて来ています。これらの不具合について考えて行きたいと思います

2.一人作業の定義は

 まず一人作業の定義をしておきましょう。一人作業は次のよういえるかと思います。

(1) 他の作業者から身体が見えない

(2) 他の作業者と直ぐに連絡が取れな

(3) 万一の場合、大声を出しても他の作業者に聞こえない

以上の3つをすべて満足する作業を一人作業といいます。

3.一人作業を行なうのはどのような場合があるか

(1) 大型設備・機械の操作

(2) プラントでの監視作業

(4) 電車の運転士

(5) 修理、検査等の非定常業務

(6) 構内巡視

(7) 休日出勤での作業

 

4.一人作業の安全衛生上の問題点

(1) 機械に巻き込まれたが、大型の機械の陰で分からない

(2) 機械に巻き込まれたが、騒音が激しくて分からない

(3) 居眠りしたり、体調不良で失神したりしてプラント誤操作

(4) 居眠りしたり、体調不良で失神したりして電車誤運転

(5) 人がいない場所で点検作業をしていて、トラブルがあっても分からない

(6) 夜間巡回中に、高血圧症や心臓発作等 

 で倒れ、対応が遅れる

(7) 休日出勤で機械の補修をしていて事故が起こり、出勤日まで事故がわからない

5.災害事例

(1)ボール盤のドリルに巻き込まれる



災害発生状況

 作業者は大型ボール盤で、金属板への穴あけ作業をしていました。職長が巡回中に気づきましたが。作業者はボール盤に寄りかかるように倒れ、死亡していました。ドリルの刃には軍手が巻きついていました。

{労働安全衛生規則第111条(手袋の使用禁止)違反} 



(2) 稼動中の攪拌機に巻き込まれる


災害発生状況

 稼動中の攪拌機の羽根に粉体がこびりついたため、ハンマーでたたいたところ、羽根に巻き込まれました。機械の騒音が激しく、また近くに人がいなかったため自分では機械が止められず、右腕を切断してしまいました。

(3) 列車事故















災害発生状況(1)

  新幹線のある駅で、列車が本来の停車位置の100m手前で停車しました。死傷者はありませんでした。原因は運転士の居眠り(無呼吸症候群でした。)

災害発生状況(2)

  民鉄のある駅の構内で列車が所定位置で停車せず、ホーム端の車止めに衝突しました。乗客4名が軽傷を負いました。原因は運転士が体調不良のため、運転中に気を失いマスコン(アクセルとブレーキのレバー)に倒れ込み、加速操作になったことが原因です。


(4) プラント監視作業での誤操作














災害発生状況

 このような事故は、プラントの操作員がコンソールに倒れこんで誤ったスイッチを押し、爆発事故になりかけたこともありました。


(5) 狭い場所で点検中感電











災害発生状況

装置の操作を一人でしていましたが異常を感じたため、装置裏面に入って点検していたところ、電源の露出部分にふれ感電して失神しました。数時間後に巡視中の職長が発見し電源を切り救出。命は取り留めました。

(6) 夜間巡回中の警備員が側溝に転落














災害発生状況

  夜間巡回中の警備員が側溝に転落しました。守衛所への帰りが遅いため同僚が探し回って発見し、引き上げました。右足骨折、両碗打撲でした。


(7) 蛍光灯取替え作業中脚立から転落











災害発生状況

 倉庫内で作業者が蛍光灯を交換するため脚立に乗って作業をしていました。脚立の背が低いので、脚立の天板に乗ったためバランスを崩し、転落して頭を強打しました。倉庫の奥で一人作業をしていたため他の者が事故に気付かず、数時間後に発見した時はすでに死亡していました。


(8) 扉の修理中転落














災害発生状況

 連休の最終日に、不具合な自動扉を修理するためその職場の職長が休日出勤しました。フォークリフトのパレット上によじ登り、修理を終えた後に降りようとして、パレット上から転落したものと思われます。

 連休明けに従業員たちが出勤したときは、職長は死亡しておりました。 

6.安全衛生対策

 一人作業に対する安全対策は言うまでもなく、人目の届く、上長の目配りが効く作業場にすることが効果的なのは言うまでもありません。しかしながら、作業の効率化のために行なった人員削減を簡単に元に戻すことは困難です。そのため、人員を増やさないで、安全衛生が確保できる方法を考えることが必要です。

(1) 作業者の異常を監視する方法

 これはスーパー、銀行等でよく見られる監視カメラまたは監視ビデオによる方法です。一人作業をしている場所に監視カメラを設置し、作業者の異常を定期的、または一定時間を置きながら監視する方法です。モニターテレビは現場事務所や守衛所に設置する方法です。但し、監視体制が作業者の人権にかかわる問題に発展することもあり、夜間、休日等の監視や普段、人の立ち入らない場所に設置するのは良いでしょうが、定期の作業をしている作業者の監視をするのは問題があります。

(2) 携帯電話の所持












監視カメラの例

 一人作業の作業者に携帯電話を所持させる方法は良いでしょうし、すでに実施されている会社もあるでしょう。構内の広い工場では、コストの関係や、私用電話への流用制限等から内線専用の携帯電話を構内に設置して使用している企業もあります。

 但し、携帯電話の欠点は、電話番号を押さなければならないので、緊急の役に立たない場合があります。

(3) 緊急通報装置の活用

発信機はポケット型、ブローチ型、押しボタン型がありこれらを無線で動作させる装置が市販されています。

 受信機はパトライト、フラッシュライトを無線で動作させる装置が市販されています。

いずれも発信機を動作させることにより、上記の受信機から警報を出すことが出来ます。動作範囲は障害物がない見通しの状態で300mです。














@ 発信機の種類

・固定型

赤いボタンを押すことにより発信します。

・ポケット型

スイッチをON側にスライドすることにより発信します。

・ブローチ型

 下のピンを引っ張ることにより、発信します。

A 受信機の種類

・フラッシュ・ライト

・パトライト

 作業の状態により、これらの送信機、受信機を組み合わせることにより、ひとり作業での緊急警報装置としての機能が十分に発揮できるのではないかと考えられます。

 無線のインターホンとしての送・受信機も市販されているようですが、動作範囲は障害物がない見通しの状態でも送信距離が短いので、むしろ携帯電話を活用した方が実用的でしょう。

(3) 機械、設備の停止

 先に記した警報と共に、被災者が機械・設備を自分で停止することが出来る非常停止スイッチを、特に多く付ける必要があります。手でも、足でも、体でも緊急時に機械・設備を止められる工夫も大切です。

7.非常時の対応

 非常事態への対応は、マニュアル化はもちろん大切ですが、それよりむしろ一人作業の時の労災や事故を想定した救助、避難等の実践的な訓練を数多く行うことが、有効であろうかと思います。

8.まとめ

 一人作業の安全対策は現場責任者の職場巡回等で災害を最小限に止める方法も考えられますが、これでは対応が遅くなります。

 災害発生時に被災者が直ちに被災情報を発信し、周囲の関係者が直ちにかけつけられるシステムが重要です。そのためには被災者が直ちに、また簡単に警報が出せ、しかも、その警報を周囲の人々が容易に確認できるシステムズ作りが大切です。

 それとともに、被災者が警報の出せない場合も想定して、現場監督者が定期的に一人作業の現場を巡回することも必要です。

 その上で、これらのシステムがスムーズに行なわれるように、訓練を怠らないことがさらに大切です。

10.参考文献

(1) 「一人作業の現状と安全対策」小熊正徳 中災防 安全Vol.46,No.91995

(2) 「一人作業の安全衛生対策」 保坂雅明 中災防 安全衛生のひろば 2000.5(4)  http//:www.security-joho.info/teresensor /index.htm

(5)  http://home.t01.itscom.net/jikoku/jiko2000.htm











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