JR宝塚線事故に想う

   


1.どんな鉄道事故だったのか
 兵庫県尼崎市内のJR宝塚線で平成17年4月25日(火)午前9時20分頃、
宝塚駅発同志社駅行の快速電車(7両編成)が脱線して線路脇のマンションに激突し、107人が死亡した事故である。



図1.事故現場(朝日夕050425)

2.事故調の中間報告
 国土交通省航空・鉄道事故調査委員会(以下事故調と略称)が9月6日に事故の中間報告を公表した。これらを解説も交えて記すと次のようになる。
(1)事故の原因
@事故の直接原因は制限速度70km/hのカーブに110km/hで進入したこと。
A制限速度はカーブの曲率半径(カーブを円周とみると、その円の半径をいい、
半径が大きいほどカーブは緩やかになる。)
 制限速度と曲率半径の関係は次のようになっている。

局率半径 制限速度 備  考
300m 70km/h 事故現場
600m 120km/h

 表1.曲率半径と制限速度
 
B電車は図2のカーブ起点に40km/hの超過速度で進入し、そこから25m過ぎた地点(カーブ起点から1分弱過ぎた地点)でブレーキをかけたが、十分な減速は出来ず、(10km/h位の減速)約100m走行した地点で脱線し、
約60m前方左のマンションに激突したものである。



図2.ブレーキと脱線状況

  (読売・夕050906)
(2)事故調の建議
 @自動列車停止装置(ATS)の機能向
 上
A事故発生時の列車防護の確実な実行
B走行状況を記録する装置設置と活用
C速度計の制度確保
これは建議というけれども、いわば災害発生時の措置が大部分である。事故調の報告に期待していたが、期待外れであった。

3.マスコミの対応
 事故調の中間報告を受けて、新聞の見出しは次のようになっている。
(1)「異常な運転浮き彫り」(産経050907)
(2)「『40キロ超過で進入』原因・異常運転の心理解明へ」(読売・夕050906)
(3)「浮かぶ不可解な運転」(朝日050907)
これらを見ていると、脱線事故は運転士に責任があり、運転士に責任をかぶせて一件落着という従来のパターンが事故調やマ
スコミの論調に見え隠れしていないだろうか。
 日本の事故の調査は事故の原因を調べるのではなく、誰がその事故を起こしたかを調べ、犯人を見つけ出して終わり、とい
うパターンであった。今回もこのパターンを引きずったものであり、これでは、事故原因の解明にはならない。
 
4.事故発生時の運転士の精神状態
 「機械は壊れるもの、人は過ちを犯すもの」という言葉がある。制限速度を超えて運転した運転士の精神が異常であったと片付けられるものではない。
(1)前日宿直であったための寝不足による居眠り、意識不明瞭。
(2)事故発生地点の前に、2か所でオーバーランを起こし、その挽回のために制限速度を大幅に超えた運転を行った。
(3)オーバーランの距離についての報告を車掌と電話で話していて、ブレーキをかけるタイミングが遅れた。
(4)仕事以外の、遊びや家庭の事情等に気を取られて、運転時の注意力が不足であった。
(5)運転技術が未熟で、難所での対応が未熟であった。(運転歴11カ月)
(6)当日は体調不良であった。
(7)病気があり、災害多発者であった。
これらのうちのいくつかが重複している可能性もあり、これ以外にも原因があるかも知れない。

5.運転士だけに罪を負わせるな
 脱線事故の直接原因は電車の速度超過にあることは確かかもしれない。
 しかし、その原因となる行動を引き起こした背景(管理的要因)に注目することが、災害防止対策を考える上で、より重要である。
(1)会社の隠蔽体質
 事故が起こった時、自動車との衝突事故と説明していた。次には線路に置石があったと、その粉砕痕を示し、他に責任転嫁を
図った。
(2)過密ダイヤ
 他の私鉄との競争から、JR西日本は数分置きに電車が通過する過密ダイヤを組んでいる。そのため、駅でのオーバーラン
や、乗客の乗降時間が多くかかることによる遅れで、ダイヤ全体が混乱をきたすことがある。
(3)日勤教育
 遅れを出した運転士にはペナルティーが待っている。運転業務をはずされ、電車区の一室でレポートを何枚も書かされる。
 教育期間は区長が判断する。教育期間は乗務手当てが支給されず、収入が減る。苦痛に耐えかねて自殺した運転士もいるという。受講理由は京都駅で発車が90
秒遅れたことによるという。
(4)速度超過、「みんなやっている」
 朝日新聞(050428)に見逃せない記事が載っていた。「脱線事故の起きたJR宝塚線では、『直線で飛ばし、カーブ直前で急ブレーキをかける』という運転方法が、遅れを回復する
ための『裏技』として運転士の常識となっていた。」
 労働組合の書記長を務めている現職の運転士が記者会見で次のように語っている。
 「通常の運行では、この直線で出す速度は100〜110キロ程度。塚口駅(事故地点の手前の駅)を過ぎたあたりでブレー
キをかけ始め、カーブから約170メートル手前の名神高速道路の高架付近で70キロになるよう調整する。
 しかし、遅れを出したときには減速を遅らせ、高速のまま塚口駅付近を通過、カーブの直前で急ブレーキをかけて70キロ
まで落とし、カーブを回るのだという。」遅れを回復するための「裏技」を、会社の上部は「知っていて黙認していたのか」「知らなかったのか」。
 事故を起こした運転士は、みんなの使っている「裏技」を使って、技能が未熟だったためか、精神的なあせりによって「裏技」
を正しく使えなかっためか。いずれにせよ、事故の背景に会社の圧力による管理的要因がほの見えてくるのである。

6.公共交通機関に安全と安心を
(1)本質安全化の徹底
 人間の注意力による対策は、人間の本来持っている特性(ヒューマンファクター)から考えて、万全を期しがたい。
 @フールプルーフ
  人間が間違えても、機械がカバーする機能、例えばATS等で速度超過時には電車を止めてしまう。これは事故調の建議に書かれている通りである。
 Aフエールセーフ
  機械が故障したとき、安全側に働く、すなわち電車であれば止める。
 いずれにしても、人間の注意力に頼る方法ではなく、機械の本質安全化が大災害を防ぐ良好な方法である。
(2)車体を強化する方法
 ステンレス製の車体を厚くして強化したら、今回のような大災害は防げたのではないかという意見もあった、これに対して
はある情報処理会社がシュミレーションを行い、車体の厚さを6倍にしても、マンションと衝突したときは、車体が「く」の
字に折れ曲がると結論している。
(朝日050925)

7.現場を訪ねて
 私が現場を訪れたのは、大惨事から1カ月経った5月24日であった。翌日、行われる慰霊祭のためであろうか、撤去された
線路の跡に白い献花台が置かれ、山盛りの花が107人のご冥福を祈るように置かれていた。
 現場はJRの職員30人程が、屈みこんで、敷石の間に隠れているかもしれない遺品を探していた。それを写す数社のビデオ
カメラと新聞社のカメラの放列。事故現場100mほど離れた東名高速の高架から事故現場のマンションを見てみたが肉眼で見た範囲では、ほぼ直線でカ
ーブしているようには感じられない。



図3.東名高速道路方面から事故現場を望む

こんなところであんな大惨事が起きるとは、私には実感できない事故現場であった。
 不慮の死をとげた107人のご冥福を祈って、現地を後にした。

8.参考資料
・産経新聞(2005/4/25〜2005/9/7)
・読売新聞(2005/4/25〜2005/9/7)
・朝日新聞(2005/4/25〜2005/9/7)
http://www2.asahi.com/special/050425/amagasaki/amagasaki0426.html
http://www.kobe_np.co.jp/news_now/jr_ama/_ama_why.html
http://asyura2.com/0502/nihon16/msg/679.html

―以上―







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