<作業者側からの安全対策>

1. 私の大失敗
 先ず私がやってしまった大失敗の昔話から書き始めます。
 私が新入社員として現場実習を行った初日のことでした。塗料を作る工程で、計量したプラスチック材料や有機溶剤をボールミルに仕込み、駆動用の電源スイッチを入れました。その時の私の頭の中は、昨日で終わった新入社員教育のこと、将来への期待と不安、そんなことが駆け巡っていたように思います。
 ところが、ふと気付くとボールミルのボールや仕込んだ材料が外に飛び出してくるではありませんか。そうです、ボールミルの蓋をするのを忘れていたのです。
 とっさに私は、ボールミルに飛びついていました。冷静に考えれば、ボールミルの回転を人の力で止められる筈がありません。私はコンクリートの床に尻餅をついてしまいました。そこでようやく冷静さを取り戻し、痛い尻をさすりながら電源スイッチを切り、ボールミルを止めました。
 安全指導をしている今になって考えてみますと、
この事故は大変に学ぶべき教訓を多く含んでいるように思います。

2. ケガの原因について
 ケガを起こす原因には機械・設備の不安全な状態と、作業者の不安全な行動があります。

分  類 項  目
機械・設備の不安全状態 設備の異常
 〃 環境の異常
 〃 状態の異常
作業者の不安全行動 操作の異常
 〃 動作の異常
 〃 方法の異常

                          表1 不安全状態と不安全行動


 このなかで、作業者が関係する要同因は、ほとんど不安全行動であり、不安全状態は経営者や管理者が責任を持って改善しなければならないことが多いと思います。

3.不安全行動の内容
 不安全行動を更に細かく説明するとつぎのようになります。
項        目 内        容
操作の異常 安全装置をはずすか無効にする。
故障している作業設備を、そのまま使用。
機械を止めず、注油や掃除。
保護具未使用。
動作の異常 無理な姿勢、危険な位置での作業。
作業場での飛び乗り、飛び降り。
合図や誘導、の方法等が不適当。
方法の異常 共同作業で統制が取れない作業。
荷物の積み上げ過ぎ。
作業方法の欠陥。
                            
                          表2不安全行動の内容



4.不安全行動の原因
  次に不安全行動はどんな原因で起こるのかを調べたデータがあります。

項         目 原          因
    1.正しい作業方法を知らない。 (1) 指導を受けていない。
              〃 (2) 指導をうけたが忘れた。
    2.正しい作業方法を知っている。 できなかった。
    3.正しい作業方法を知っている。またできる。   やらなかった。

                          表3.不安全行動の原因


4. 不安全行動の例
(1) 操作の異常
? 安全装置をはずすか無効にする(安全装置は正しく付ける)
機械の駆動部分は人と接触すると挟まれたり、巻き込まれたりするため非常に危険です。



(図1 機械の危険個所)

そのため、安全カバーや安全柵、インターロックなどの安全装置で防護されています。ところが、機械が故障したときに安全装置を外して修理しなければならないので、面倒なため安全装置を外しっぱなしにしていることがよくあります。安全装置は機械から人間を守る、大事な盾の役割をしているのです。機械の操作は、安全装置を取り付けてから行いましょう。

? 故障している作業設備をそのまま使う(故障の機械は直して使う)
機械の故障は放置しないで、出きるだけ早く修理しましょう。安全カバーのボルトが2本抜けていたのに、面倒くさいので危険はないと自己判断し、そのまま機械操作をしていたところ安全カバーが外れて、頭に当たったケガもありました。
また、安全柵の固定ボルトが緩んでいたのに気付かず安全柵にもたれたため、安全柵が外れ、1mの作業床から転落して、足をケガした例もありました。
 クレーンのフックは外れ止め装置が付いています。ところが、外れ止め装置が破損したのをそのまま放置していたため、フックからワイヤロープ
が外れ、荷物の下敷きになった作業者が死亡された例も報告されています。ところが、安全診断のために中小企業に伺いますと、この外れ止め装置が故障して、取り外してしまった例を良く見かけます。故障したら早く直してください。

(図2 外れ止め装置)

 もう一つクレーンで忘れてならないのが、玉掛け用のワイヤロープです。キンクしていたり、素線が一よりで10%以上も切れていたり、元の直径の7%以上も細くなっていたりするものがときどき見られます。また、油切れのため赤錆で強度の低下していると思われるワイヤロープも良く見られます、安全で永持ちさせるためにも、たまには油を差してやりましょう。ワイヤロープが切れて積荷が落下し、作業者に当たりケガをした例はよくあります。不良品は早めに取り替えましょう。

? 機械を止めず、注油ヤ掃除(掃除、注油は機械を止めて)
 コンベア‐・ベルトの下部を掃除するため、ベルトを駆動したままで掃除機を掛けたところ、掃除機のホースとともに右腕を巻き込まれ、骨折しました。
 機械の掃除や潤滑油を注すときは、必ず機械を止めて下さい。

(図3 掃除の時の巻き込まれ)

? 保護具未使用(保護具は必ず着用)
 私がプラントの組み立て作業をするため梯子を上っていました、1mほどの上部で作業をしていた作業者が木ハンマーを落とし、それが私の頭部に当たりました。保護帽をきちんと被っていたため、軽い衝撃だけですみましたが、それ以来、保護帽の重要性を痛感しています。
 そのほかにも、有機溶剤を使用する時のガスマスク、粉塵作業の時の防塵マスク、騒音職場での耳栓なども作業者を守る大事な保護具です。面倒くさくても、これ着用することがあなたのためなのです。

(2) 動作の異常
? 無理な姿勢、危険な位置での作業(無理な姿勢は腰痛招く)
 重量物を持ち上げる時、腰を曲げた状態で持ち上げるデリック型ですと腰痛の原因となります。膝を曲げ、そのまま上方へ持ち上げる膝型を心がけて下さい。

(図4 荷を持ち上げるときの姿勢)

? 作業場での飛び乗り、飛び降り(飛び乗り、飛び降りケガのもと)
 私が現場の安全診断をしている時のことでした。若い作業者が、約1m位のプラスチック成型機から勢い良く飛び降り、床面の漏れた油に足をとられて滑りかけましたが、若いためでしょう、危なく踏みとどまりました。良く見ていると、材料のペレット供給を微調整するため、時々、飛び乗り、飛び降りを繰り返していました。やや離れた所には、踏み台も設置されていました。面倒くさがらずに、踏み台を使用して昇降するようにしましょう。足の捻挫や骨折は休業災害につながり、長期の治療が必要となるものです。

? 作業の服装は正しく
 ある工場、作業者がフライス盤で切削作業をしていました。このとき、ボタンを掛けていなかった袖口がカッターに接触して巻き込まれ、左手首を切断されました。医療技術の進歩のお蔭で、幸いなことに手首は縫合され、軽い物は持てるまでに回復しました。後日、本社の安全担当者が訪問した時、被災者が元気に被災状況を説明してくれましたが、良く見ると、被災者の両袖のボタンは掛けられていなかった、という落ちまでついています。“知っていて、やれるけれど、やらない”という悪い習慣を止めさせることはいかに難しいことでしょう。

(図5 作業服装)

(3) 方法の異常
? 共同作業で統制が取れない作業(共同作業は呼吸を合わせ)
 鉄板を作業台からハンド・リフトに移動するため、A君が先に持ち上げ、次にB君が持ち上げようとしたとき、A君が急に手を離したため、B君は手を鉄板と作業台の間にはさまれました。

(図6 共同作業)

 共同作業では合図や呼吸を合わせましょう。また革手袋や安全靴は必ず着用しましょう。

? 荷物の積み上げすぎ(荷物の積み過ぎ、荷崩れ起こす)
 荷物の積みすぎや不安定な積み方によって荷崩れを起こし、ケガをしたり、死亡した例さえあります。積荷の高さは荷物の横幅の3倍以下。例えばパレットの場合の荷物の高さは、パレットの横幅の3倍以下にします。パレットや荷物の形状が一定の場合は、壁に高さ制限のラインを書いておくのが良いでしょう。
 また、荷崩れ防止のため、煉瓦積みのように、互い違いに荷を積み上げる方法もあります。

? 作業方法の欠陥(後方確認、安全作業)
 リーチ型フォークリフトを用いて荷役作業中、後方をよく確認しないでバックし、約8m後方で停車していたフォークリフトのフォークに激突され、右足踵を複雑骨折しました。
 このケガは、被災者の後方確認不十分と、停車中のフォークリフトが停車中にフォークを降ろして置かなかったことが原因です。

(図7 フォークに激突)

5. 終わりに
 この文章は、私が安全指導等で接触している中小企業の作業者、または、零細企業の親方を頭に置いて書いたつもりです。ですから、私が教鞭を取らしてもらっている東京安全衛生教育センター、でお会いしている、大企業の従業員には、そんなことは当たり前だよ、と言われることが多いかもしれません。
 しかし、中小企業の作業者がケガをしないために出来ることは、当たり前のことを当たり前に行う。不安全行動をしない、させないことが重要なのです。

6. 主要参考文献
(1) 新しい時代の安全管理のすべて 
大関 親著 中災防刊
(2) これからの安全管理 
西島 茂一著 中災防刊
(3) 安全衛生の考え方進め方
   森田福男・谷村冨男共著 日科技連刊

(4) 安全管理 角本定男著 日本労働協会刊
(5) 労働災害分類の手引き
          労働省安全課編 中災防刊
(6) 安全の指標 厚生労働省労働基準局編 
中災防刊
(7) 労働安全の基礎 牧野傳治著  弘文社刊
(8) TDK安全手帳 TDK兜メ  非売品

* 本橋安全管理事務所 所長
労働安全コンサルタント
東京安全衛生教育センター講師
東京都品川区二葉3-24-3
  TEL&FAX: 03-3786-0669
   E-Mail: makj@amy.hi-ho.ne.jp
URL: http://www.amy.hi-ho.ne.jp/makj/

―以上―


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