福島原発事故はなぜ起こったか


                                             平成13年5月28日

本橋 秀一郎

1.はじめに

 2011年3月11日に起きた東日本大震災によって、三陸海岸は大変な災害を被りました。それと同時に発生した津波によって、福島第一原子力発電所も被害を受け、配電盤の浸水、外部電源の停止、非常用ディーゼル発電機の水没等の被害を受けました。ここで致命的だったのは、配電盤が水没することによって、1~4号原子炉の冷却機能が全滅してしまったことです。

その後の処理が上手くいかず、原子炉から放射能が流出し、放射能汚染面積は3,000に達し(東京都の約1.5倍の敷地面積)、この地域の住民11.3万人は住む土地を追われ避難を余儀なくされています。

それでは、津波と原発事故との関係、原発事故はどうすれば防げたのか、ほとんど停止している日本の原発を再稼働できる可能性があるのか。他にも問題があるのか。これらについて検討してみることにいたします。

図1.福島第一原発遠景(飛行機より)29-1

2.日本で発生した津波について

 福島原発で発生した事故は、地震によって発生した津波と、その津波によって全電源が停止してしまったことに原因があります。それでは、今回の東日本大震災で確認された福島県の津波高さを次の図に示します。

(1)東日本大震災での津波高さ



図2.東日本大震災での津波高さ 29-2

   資料:気象庁・H23年3月地震・火山月報(防災編)ほか

(2)明治以降に起きた国内の大津波の高さ

 明治以降には次のような津波が地震にともなって発生しています。

地震名称

年月日

マグニチュード

津波の高さ(max)

明治三陸地震(M29年)

1986-6-15

8.25

38.2m

関東大震災(T12年)

1923-9-1

7.9

12m

昭和三陸地震 (S 8年)

1933-3-3

8.1

28.7m

東南海地震

1944-12-7

7.9

8m

南海地震

1946-12-21

8.0

6m

チリ地震

1960-9-23

9.5

6m

日本海中部地震

1983-5-26

7.7

?

北海道南西沖地震(奥尻島)

1993-7-12

7.8

10m

十勝沖地震

2003-9-26

8.0

4m
















表1.明治以降の地震と津波高さ


資料:理科年表(H23年「日本付近のおもな被害地震年代表」国内の地震


(3)津波高さの予測

20113-11日の東日本大震災時点では津波の最大波高は6.1mと予測されていました。しかし、今回の地震で大熊町の福島第一原子力発電所に襲いかかった津波の高さは13.1mにも達しました。これに対して行政や東電は想定外と発言しています。ところが表1の明治三陸地震では38.2m、昭和三陸地震では28.7mの津波の高さを示しています。三陸海岸の津波は過去にも、6,1mどころか13.1mをはるかに超えた津波が押し寄せていたのです。

地震が発生した時の津波の予測高さは、1971年に福島第一原子力発電所の設置許可が原子力安全保安院によってなされたときは、3.1mでありました。その後、議論が重ねられ、1999年には5.7m、2009年には6.1mに替えられました。しかし、それでも予測がはるかに甘かったことが示されました。

3.津波による電源喪失

20113-11日の東日本大震災における福島第一原子力発電所の事故原因は、津波により電源喪失が生じ原子炉の冷却機能が停止したことにあります。

 福島第一原子力発電所には1号機~6号機の原子炉があります。このうち1号機と2号機、3号機と4号機、5号機と6号機がペアーになっていて、中央制御室等の建物を共有しています。その内、4号機~6号機は定期点検のため稼働を停止していました。


    図3.福島第一原発所要部配置図 29-3

(1)正常運転の時の冷却系統

 原子力発電は簡単に説明すると、原子炉で沸かした高圧蒸気でタービンを回して発電します。原子炉は約290、7MPa(約70atm)の高温、高圧で稼働しています。そのため、原子炉を真水で冷却しながら稼働する必要があります。

 一方、タービンも高温、高圧の蒸気を吹き付けて動かしているため、海水で冷却しています。

(2)津波による全電源喪失

 原発が停止しているときの電源は、外部発電所からの外部電力と、非常事に使用するディーゼル発電機があります。

 地震により原発は停止し、外部電源は鉄塔の倒壊、電線の切断等がありましたが、その後に押し寄せた津波が1~4号機の非常用ディーゼル発電機(以下非常用D/Gと略称)と配電盤(電源と電気設備の間にあって電気回路の開閉や電気系統の切り替えを行う設備で、開閉器、電気計器、表示ランプ等を取り付けたものです。)に津波が襲いかかりました。



図4.福島第一原発建屋と主要設備図29-4

非常用D/Gは6台のうち4台が使用不能になりました。高所にあった2台は空冷式のため使用可能でしたが、致命的だったのは配電盤が浸水で使用不可能になったため、仮に非常用D/Gが働いたとしても、外部電源が回復したとしても、冷却設備は使用不能になったと思われます。



図5.福島第一原発の電源構成 29-5

配電盤が浸水し、1~4号機の電源喪失により交流電源を使用した原子炉の冷却機能が停止しました。それは、配電盤のほとんどが地下1階に集中的に配置されていたため、津波により浸水して、電源が喪失したからです。 非常用D/G(ディーゼル発電機)も設置されていましたが、配電盤の浸水による故障によって、もし外部からの電気が供給されたとしても、非常用D/Gは動かすことはできても、電源は回復できなかったわけです。



図6.浸水した配電盤室 29-6

  配電盤の代替として、現在は外部から配電盤積載車を持ち込み、電源の供給をしていま すが、配電室内でネズミが感電し、数時間停電したという笑えない喜劇も起こっています。
  配電盤の浸水によって直流電源も喪失し、中央制御室制御盤、直流電動弁、放射線モニ  タ、地震計、バッテリーなども働かなくなり、制御システムの状況が把握できなくなり ました。

 (3)ベント

  原子炉の温度が上がり、原子炉内の蒸気が噴き出すと、燃料冷却用の水位が低下し始め ました。そのため、原子炉内の圧力を下げるためベント(原子炉の圧力を下げるため、蒸 気を外部に放出する。)を行い原子炉の爆発を防止する処理を行いました。そのため、炉 内の放射性物質も放出されたと考えられます。

 (4)水素爆発

 原子炉の水位が下がって燃料棒がメルト(熔融)して原子炉壁から溶け出したため、燃料の被覆をしているジルコニュームが溶けて高温で水と反応し、水素ガスが発生して原子炉建屋に充満して、爆発したものと推測されています。2号機は1号機の水素爆破の際、その爆発で建屋に穴があき、そこから水素ガスが外部に逃げたため水素爆発をまぬかれました。4号機は原子炉が定期検査のため停止していましが、3号機から流入した水素ガスによって水素爆発が発生しました。

(5)その後の対処

  消防車による注水や外部電源の回復によって、原子炉は冷却に向かいつつあります。しかし、原子炉内部の燃料のメルトダウン(チャイナシンドロームの心配)による原子炉の爆発と核物質の飛散が心配されましたが、冷却機能の回復により心配は去りました。しかし、核燃料が水冷しないで格納できるようになるには、10年の期間が必要だそうです。気の遠くなるような話です。

  この事故で一番心配されたのは、4号機の使用済み燃料プールに収容されていた燃料棒が1~3号機の3~5倍あり、プールの水量が減少しはじめたことでした。燃料棒が露出して爆発すれば、東京も避難区域に入る危険があると心配されましたが、まさに幸運中の幸い、隣のウエル(容器)に点検に使用するため水が張られており、この水がプールに流れ込んで、冷却水不足を補いました。まさに幸運中の幸運でした。

しかしここで厄介な問題は、放水した汚染水の処理等の問題が残っていますが、これはまた別の場で取り上げます。

  

(6)福島原子力発電所の安全対策について

 今まで述べてきたように、原子力発電の制御には原子炉の真水による冷却とタービン発電機の海水による冷却、が必要であります。これらは、自己のタービン発電機で作られた交流電源と外部の発電所から送電された交流電源が必要になります。また、交流電源を直流電源に変換して、原子炉やタービン発電機、その他の制御用装置の電源としても使用しています。

  津波対策としては、防波堤(高さ7m)を津波の高さより高く作る方策もありますが、どのくらいの高さの津波が、いつ来るかわからない状況ですから、実用的ではありません。

   配電盤を複数作る

   配電盤の設置位置を高所にする

   非常用ディゼルエンジン発電機を水冷式と空冷式の両様式備える

  ④ 非常用ディゼルエンジン発電機を高所に配置する

   配電盤と非常用ディゼルエンジン発電機を水密化(水が入らないようにした部屋に設置する)

 これらの対策で、今回の事故の発生は防げたと考えられます。

4.放射性廃棄物処理と原子力発電

 今までに福島第一原子力発電所の事故とその発生原因、その防止対策等について考えました。

  今回、発生した事故は、原子力発電の知識を振りかざさなくても、一般的な安全対策を忠実に実施すれば防げたものと考えられます..

  ところが、原子力発電はトイレのない住宅のように、発生した核燃料廃棄処理の仕方が解決されていないのです。

  核燃料廃棄物は、半減期が元素によって異なりますが、たとえばウランから生成するプルトニュウムは半減期が8,200万年です。そのため、日本の場合は、青森県六ケ所村に集め、ガラスで固めて土中に埋蔵しています。

  埋設施設は1号施設:140,795本で現在70%、2号施設:67,312本で33%となっており、3号は計画中ですが、まだ作成の予定が立っていません。.

  日本の原発は現在54基ありますが、核燃料の崩壊熱を冷却するだけで10年必要になります。これらをガラス化して土中に埋蔵しますと、予想もつかない土地が必要になります。

  再生可能エネルギーの実用化の研究が進み、化石燃料の依存度が減少するとともにCO削減の見通しが立ち、更には核燃料廃棄物の処理の方策が立つまでの期間、原発への依存は止むを得ないのではなかろうか。「あつものに懲りてなます吹く」の愚をやらないように。

  ただし、上記についての見通しが立った時点では、人間による制御不能の原子力発電は廃止すべきであると考えます。

(参考資料)

1.政府事故調報告書

2.国会事故調報告書

3.福島原発で何が起こったか 淵上他著 日刊工業2912-12-25

4.H233月地震・火山月報(防災編)

5.理科年表 H23年丸善刊 「日本付近の主な被害地震年代表」国内の地震

6.http://ja.wikipedia.org/wiki/・六ケ所低レベル放射性廃棄物処理センター

                                  ―以上―
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