Cross of the EDEN
エデンの園の十字架


「心の鎧」


   昔、誰かが言った。

 「虚構と欺瞞で塗り固められた仮面は心の鎧である」と。

 それはまさに自分ではないのか?
 −真面目。優等生。努力家。
 自分が長年かぶり続けた仮面に辟易しそうになる。
 誰かにその仮面をはがして欲しいと思いつつも、そうなることに怯え続ける自分。

 その仮面は自分そのものだったのではないのか?
 そう想うようになったのはいつの頃からだろうか。

 何時の間にか高校生という「子供の時間」も残された時間はあと半年になっていた。
 自分に素直に生きていられたのはいつ頃までだったのだろうか。
 何も考えず、思ったことをそのまま行動に移し、思ったことをすぐに口に出してしまえたのは。

 周囲の顔色を窺うことも無く、自分を守るために思っていることと正反対の言葉を紡ぎだす。

 いつの頃からかそうする事が普通になって、当たり前になって。
 自分の表面はおろか心まで重く固い鎖で縛り上げて……

 そんな自分を助けて欲しいと悲鳴をあげることも許さなくなっていってしまっていた。

 −自分はこんな穢れた人間です。それでもマリア様はお守りくださいますか?
         ロサ・キネンシス
 「ごきげんよう、紅薔薇さま」

 後ろからそう挨拶をされたので、振り返って挨拶を返そうとした「紅薔薇さま」水野蓉子
はそれを実行する事は出来なかった。
  ロサ・ギガンティア
 「白薔薇さまっ」

 声を掛けて来た「白薔薇さま」佐藤聖が蓉子の腕に自分の腕を絡ませてきたからだった。

 「あはは、可愛いねぇ。紅薔薇さま」
 「ちょっと聖!」
 「あ、聖って呼んでくれるんだ。嬉しいなぁ」

 にたにた笑いながら聖は顔を近づけてくる。

 「聖!あなたね、一体ここをどこだと思っているの?」

 絡められていた腕を振り解きながら言った。

 「どこって、正門から下足箱に向かう道」
 「そうじゃない。学校の中なのよ」
 「じゃあ、学校の外なら蓉子はOKなわけね。よしよし」
 「ち・が・う」

 ああ言えばこう言う。
 全く持って聖には付き合いきれない。
 本当に彼女は「あの」佐藤聖と同一人物なのか疑いたくなる。
 もちろん、それがやっとの思いで掛けることのできた彼女の
 仮面である事を蓉子は良く知っていた。

 2年前までは自分の存在そのものが解らなくて。

 1年前は一人の少女を想いすぎて。

 そして今。聖は軽薄とも取れるほど他人に接近するのに決して心の中の扉は開かない。
 常に他人との距離を取って自分を守っている。

 「蓉子?」
 「なにかしら。白薔薇さま」
 「あんまりわたしの心の中、覗かないでくれる」
 「さすがね。自分の心は開かないくせに人の心の中は良く見ている」
 「蓉子だから解るのよ」
 「あら、嬉しいこと」
 「棘、あるね。蓉子のほうこそいつもわたしの心の中を見ているくせに」

 そうね。特に高等部に上がってからは良く見ていたわ。
 見ていなければ、あなたが消えてしまいそうだったから。
 だから、そんな時はあなたに罵られても干渉し続けたのよ。

 「蓉子さ……」

 聖が振り返る事無く言った。

 「わたしの前でだけ、仮面を外せるようになったのは何時からだったかしら」
 「覚えていないわ」
 「そう……」
 「聖の方こそいつから?わたしの前でだけ扉を開くようになったのは」
 「さあね、覚えてない」

 こうして聖と心の覗きあいができるのはいつまでなのだろうか。

 出会いがあれば別れがあるのは必然。いつまでも子供のようには生きられない。
 人もいつしか変わってしまう。
 それでも…今だけは。

 あなたの前でだけは何時の間にか仮面が必要でなくなってしまった。
 あなたの心の扉も、わたしの前でだけは開いてくれる様になったのは何時からかしら。

 あなたが好きよ。聖。

 仮面を外したわたしの心。覗き見ているあなたなら知っているんでしょうけど。だから今
以上、わたしとは距離を詰めてはくれないのね。

 でも──

 あなたが好き。


   −fin−


ごきげんよう。
やっぱりちょっと重くなってしまった。(反省)
本当はライトな話が好きなのに、書いてるうちに重くなっていてしまう。
なんでだろうか……
「Un Locky〜」のような話を期待された方、すみませんでした。
ライトなのりはノッているとき以外は難しいです(汗
それではまた近いうちに。

  | NovelTop |