Cross of the EDEN
エデンの園の十字架


『Please!』


 こんなにも好きになるなんて思わなかった。
 隣で珍しく居眠りなんかしている彼女、水野蓉子を見ながら思う。
 中学一年の時に初めて出合った貴女。
 クラスメイトなんて人に自慢できるくらい覚えられなかったのに、初めて顔を見た
 ときから名前まで覚えてしまった。
 どうして覚えれたのか、今でも全然解らないけれど。

 「風邪ひいちゃうよ〜」

 呼びかけてみるが反応は無い。
 小さく肩を上下させながら、時折「ん……」と呼吸か声か解らない音を漏らすだけ。

 今は蓉子の前でだけ、自分の心をさらけ出す事が出来る。
 もう一人の親友にも心を開いてはいるけれど、彼女は心の奥底まで覗き込んでは来
 なかったから。
 それに、見てる相手も違うしね。

 顔を蓉子に近づける。
 すぅ、と可愛い寝息が聞こえる。

 1年前までは蓉子とこんな関係になるなんて思わなかった。
 自分はどうしてここに居るのか、存在しているのか。ずっとそんな事を考えたりして
 いた高校1年生の頃までは「友達」なんて言葉や存在にあまり関心が無かったし。2
 年生の冬までは、春に出合った一人の少女しか目に入らなかったから。

 でも……

 栞との別離がきっかけで蓉子の想いを知ることが出来た。
 そして、その時にこれ以上は無いというくらいに自分自身を彼女に曝してしまったから。
 新しい仮面を被る事が出来たのも、卒業されたお姉さまと蓉子が居てくれたから。
 そして、作る事なんてないと思っていた『妹』もできたのも蓉子のお節介のおかげ。

 「起きないと襲っちゃうよ〜」

 今度は耳元で囁く。
 たまらなく可愛い寝顔。
 そのままキスしてしまいたかったけど、堪える。
 お節介焼きな蓉子。
 脆い心を努力し続けて作り上げた優等生という仮面で隠し続ける蓉子。
 栞という、自分の心の失ってしまった一部を必死に埋めようとしてくれた蓉子。
 いろんな蓉子を見てきた。
 何時の間にか、栞と共に蓉子も心の一部分になっていた。
 もう、離れたくない。
 これ以上心を失うのは許して欲しい。
 愛してる。

 「愛してる……」

 再び耳元で囁く。

 「あんまり恥ずかしい事を耳元で言わないでくれるかしら」
 「起きてたんだ」

 蓉子がむくりと体を起こす。

 「襲う、って言われて思いっきり反応したわよ」
 「そうなんだ」
 「聖だったらやりかねないもの」

 ほんの少し、気だるげな瞳に怒ったような色を浮かべて蓉子が言う。
 ああ、そんな貴女も可愛くて、綺麗で、大好きだよ。

 「それに……」
 「それに?」
 「聖に襲われるより、聖を襲うほうが好きだもの」

 その目には先ほどと打って変わって意地の悪い猫のような輝きが浮かんでいた。
 あ、まずい。
 このままだと本当に襲われかねない。

 「ここ、薔薇の館なんだけど……」
 「関係ないわ」
 「……本気?」
 「もちろん」

 女神様のような笑顔に、悪魔のように悪戯っぽい瞳で言う。
 その笑顔と瞳に何度屈服させられた事か。
 そうね、そんな蓉子に逆らえないくらい好きになってしまったんだから。
 また、襲われちゃお……。

  − f i n−


ごきげんよう。
先にお断りしておきますが、続きは書きませんので。
この先はご想像のままに(逃)
しかし、蓉子さま攻めが似合いすぎる。
聖さまは普段攻めっぽいからいざとなると受けって感じが…(妄想)
そろそろ瞳・祐も書きたいんですが、シチュが漠然としか浮かばないTT
といっていても仕方が無いので頑張ります。
それではまた近いうちに。


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