Cross of the EDEN
エデンの園の十字架


「銀世界」

 「寒ぅ……」

 隣で身勝手な呟きをする彼女。
 本当ならこんな時間はまだベッドの中でぬくぬくとまどろんでいる筈だったのだけど、隣の彼女が
 ベッドの中で自分を揺すり起こした所為で、こんな朝早くから公園に出てくる事になってしまった。

 「でも、起きて良かった。昨日の夜、降り出したのを見てもしかしたらって思ったのよ」
 「そうね、確かにこの景色を見られるなら早起きした甲斐もあったわね」
 「でしょ?」

 降り積もった雪。まだ誰にも汚されていない、まっさらな雪。
 江利子と聖が歩いた所以外には足跡一つ付いてはいないヴァージン・スノー。
 普段どおり、その整った顔立ちに子供のような笑顔を浮かべて聖が言う。
 いつから彼女とこんな関係になったのだろう。
 明確な事は、もう思い出せない。

 「江利子って寒いの平気だったかしら」
 「そんなこと無いわよ」

 そう言って、江利子は毛糸の手袋を外して、ポケットに挿し入れられた聖の手を取った。

 「うわ、冷た……」

 江利子の手の冷たさに、聖が驚きの声を上げる。
 冷え性とかそう言った訳ではないけれど、恐らく気温は零度に近い。こんな中に居れば手だって随
 分冷えてくる。
 ポケットの中に入れている位であんなに暖かい聖の方が普通じゃないような気もする。

 「そっちの手も貸して」
 「何故?」
 「いいから、いいから」

 聖が嬉しそうに江利子の手を取る。
 そして、残った方の手の手袋も取り去ってしまう。
 急に外気に触れた手に、痛いほどの冷気が襲い掛かる。

 「ちょっと、聖。冷たいってば」
 「ほら」

 聖が江利子の両手を自分の頬に当てて、その外側を自分の手のひらで包み込む。

 「あ……」

 暖かい。
 先ほどまでの、刺す様な冷たさと別世界のような暖かさだった。
 そう感じた途端に、体の奥から熱くなるほどの恥ずかしさがこみ上げてくる。

 「聖、冷たいでしょう。大丈夫だから離して」

 今更、聖相手に恥ずかしいなんて気持ちが湧いてくるなんて思わなかった。
 お互いの全てを曝け出しているのに、こんな些細な事で、こんなにも恥ずかしくなるなんて。

 「江利子だから暖めてあげたいの」
 「聖……」

 こんな事を平然と出来る彼女が羨ましい。
 まるで幼い恋人達のよう。
 でも、こんな恥ずかしさも、こんな暖かさも嫌いではない。
 もちろん、それは相手が聖だから。

 「寒かったら何時でも暖めてあげるよ」
 「有難う……」

 陽がいくらか高くなり、気温が多少は上がってきた所為だろう。
 一面の雪景色から、薄く靄のように白い煙のようなものが湧き立ち始める。

 その小さな銀世界の中で、江利子と聖は微笑みあっていた。

 ─大好きよ……聖。

   −fin−


ごきげんよう。
うわ、こっぱずかしい。
でもこういう甘々なのが好きな物でしょうがないっす(笑)
さて、このSS。一体見つけられる人が居るのかどうか…
ここにはこういう、取り留めの無いSSが時々出ると思います。
ある程度貯まったら纏めるかも知れません。
でわ。


Note