Cross of the EDEN
エデンの園の十字架


「DESIRE」


 お互い好きな人が居た筈だった。
 本当なら卒業まで友達として過ごし、仲良くしたり、喧嘩をしたりして過ごす筈だった。
 それなのに、何時の間にか自分の傍らには常にこの人が居た。
 それはなんとも甘く、時には切なく、そして背徳という言葉が似合いすぎる関係だった。

 「瞳子……」
 「なんですの、乃梨子さん」

 ベッドの中で気だるげに返事を返す、背の低い少女。

 「祐巳さまの事、好き?」
 「当たり前ですわ。乃梨子さんだって白薔薇さまのことを誰よりも好きなのでしょう」

 二人とも2年生になり、そろそろお互いの『妹』に関する話題が薔薇の館でもちらほらと囁かれ
 つつある。けれど、そんなこと急に言われても考えられない。

 「もちろんだよ」
 「お互い、大切なお姉さまを裏切り続けているのね……」

 瞳子が自虐的な言葉を口にする。
 その表情は暗くてはっきりとは掴みきれないけれど、乃梨子にはよく解った。

 「好きで好きでしようがないからこうしちゃうんだって」
 「あ、ん……んむ」

 瞳子の唇を塞ぐ。
 抱き寄せる彼女の肩が小さく震える。
 木綿のパジャマ越しに伝わる体温と、鼓動のリズムが心地よく脳内に響いてくる。
 甘い感触を暫くむさぼった後、唇を離す。

 「もう、いきなり……」
 「ごめん。でも瞳子が『裏切ってる』なんて言うからさ」
 「祐巳さまの心の中には祥子お姉さましかいらっしゃらないんですもの」
 「志摩子さんだってそう。佐藤聖さまの存在が大きすぎるの」
 「『妹』として以上の存在にはなれない……」

 瞳子の声が真っ暗な部屋の中に冷たく響いていく。
 そう、お互い愛して止まない『お姉さま』には自分達以上に大きすぎる存在が巨大な断崖のように
 立ちふさがっていたのだ。
 それに気づいたのは春、祥子さまたちが卒業なさった時だった。

 「志摩子さままでそうだったなんて想像も出来ませんでしたわ」
 「わたしだってそう。薄々はそうじゃないかって思っていたけど、出逢って一年経っても乗り越え
  られなかった……」
 「乃梨子……」

 先程のキスで瞳子の中の頚木が外れたのだろう。乃梨子のことを呼び捨てて、今度は瞳子からキス
 をしてきた。

 「ん……んん」

 瞳子の唇は甘い。
 酔ってしまえるほどに。

 月に一度の逢瀬。と言うには余りにも哀しく、切ない。
 求め合っても、その想いは別々の女性に向けられたまま傷つけあう。
 二人が堕ちて行く先にあるものはなんなのだろう……

 「瞳子……」
 (志摩子さん……)
 「んあ、乃梨子……」
 (祐巳さまぁ……)

 深く深く、互いを貪りながら沈んで行く。
 底の見えない深淵へと。

 二人に突きつけられる背徳の代償は一体……


ごきげんよう。
「DESIRE」
この言葉を思い浮かべて書くと絶対こんな話になります。
言葉の本来の意味以上に、自分の中ではこういうイメージがあるからなのかも知れません。
18禁にすべきかどうか…
どのみち表には出しませんが。
でわ。


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