新・闘わないプログラマ No.9

バックアップの悲劇と喜劇


ひところ流行ったマーフィの法則ならこんな感じでしょうか。

「バックアップを取っていないときに限ってディスクがクラッシュする」
「バックアップを取ろうとマシンを立ち上げたらディスクがクラッシュしていた」
「リストアしようとしたらバックアップデータの入ったメディアが壊れていて読めなかった」

まだまだ、いくらでも続けることが出来そうです。
ともかく、コンピュータ(メインフレームからパソコンまで何でも)の運用と、データのバックアップは切っても切れない関係にあります。身近なところでは自分のパソコンのファイルのバックアップから、巨大なシステムの何100GBもあるデータベースのバックアップまで、いろんなレベルがあるわけですが、どんなレベルの話であれ、何らかのトラブルに巻き込まれない限りはバックアップの必要は無いわけです。そんなこともあって、ついついおろそかにされてしまうのがこのバックアップというやつです。
私も、ずっとコンピュータと付き合ってきて、たくさんのバックアップにまつわる悲劇を喜劇を見てきました。今回は、そんな話をして行きたいと思います。

まず、パソコンの話題です。
最近のWindows95/NTの入っているパソコンの場合、OSディスクがクラッシュした場合は、OSの再インストールからアプリケーションの再インストール、各種の設定、等々、最初からやり直すのが一般的のようです。でも、これってすごく原始的というか、だいたいこれだけで1〜2日は潰れてしまいます。
DOS/Windows3.1の頃は、フロッピーディスクで立ち上げて、XCOPYでMOでもファイルサーバーにでも簡単にバックアップが取れ、また、リストアすることが出来ました。
Windows95の場合は、ロングファイル名やら隠しファイルの問題もあって、そう簡単には行かないのです。95に付属のバックアップソフトを使うと一応バックアップ出来るようですが、リストアするには95が動作していないと出来ない(^^;)あのー、95をリストアするのに、95が必要なんですか?フロッピー立ち上げでリストア出来て欲しいのに(;_;)結局、いろいろなソフト(市販、shareware、freeware)の助けを借りることになるのですが、はっきり言って面倒くさいことこの上ありません。
NTの場合は、NTFSが絡んでくると、お手上げの状態になってしまいます。NTのバックアップソフトはテープにしか対応していないし、そうそういつもテープドライブが使える環境とは限りません。
OSのバックアップは、必ずしもディスククラッシュの場合だけに必要なわけではありません。大容量のディスクに入れ替えるとき、同じ環境を大量のパソコンにインストールしたいとき(これは企業等ではよくある話です)、ディスクごとバックアップを取っておいて、リストア出来たらなぁ、と思うことはよくあります。でも、そういうことが標準の機能では困難なのがWindows系のOSの現状です。
そんなこんなで、私はWindows95/NTのインストールを今までいったい何度行ったことでしょうか。多分、公私含めて両方とも100回は超えていることと思います。もうなんかいい加減アホらしくなってきますけど。
で、家にあるMacintoshを考えてみたのですが、よくよく思い起こしても、OSにしろアプリケーションにしろ、どれも1回しかインストールした記憶がありません。その間にディスクは何回も交換していますし、いろいろがちゃがちゃやっているのですが、でも全て1回きりです。OSのバックアップにしたって、システムフォルダ(Windowsでいう"Windows"ディレクトリのようなもの)をごっそりMOに取っているだけです。で、感動したのが(って、感動するほどのことでも無いですが)、そのシステムフォルダのバックアップを取ったMOでブートするとちゃんとOSが起動する。Macintoshって、こういうところでもちゃんと考えられて作られているなぁ、と思ったりします。個人で使うコンピュータなら、こういった配慮は当たり前のように思えるのですが、現実はなかなか。

パソコンにおけるバックアップでも、OSやアプリケーションは、最悪、再インストールすればいいので、時間さえかければなんとか、の世界でもやって行けるわけですが、作成した文書やらプログラムのソースやら、の場合はそんなことは言っていられません。
だいたいこの場合は、ディスクがクラッシュして・・・・というよりは自分で誤ってファイルを消してしまった、というケースの方が百万倍くらい多いわけです。で、こういうことをやる人間は「バックアップ」という言葉は知らなくても、なぜか「ノートン」(Norton Uitilities)という言葉は知っていたりします。「ノートン」というのは、誤って消してしまったファイルを復活する魔法の呪文かなにかと勘違いしているフシがあります。
私も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も言われたことがあります。「間違ってファイル消したんだけど、ノートンでなんとかして」
私だってなんとかしてあげたいのはやまやまですし、フロッピーディスクやローカルディスクのファイルなら救ってあげたこともありますが、でもねぇ、救えないことも多いわけです。まして「ファイルサーバーにあるファイルを消しちゃったんだけど」と言われても、はっきり言ってお手上げです。でも、一番強烈だったのが「UNIXのノートン無い?」と言われたときです。私はその場で固まってしまいました(^^;)

データのバックアップも、企業のシステムを構築する場合には、上に書いたような悠長なことをするのでは無く、設計段階の早い時期から考えておく必要があります。ところが、システムの設計者がそういったことをあらかじめ考えているか、というと結構いい加減な人が多いのが現状です。しかも、設計者が考慮していたとしても、お金を出す方がなかなか理解してくれない、ということは多いものです。何せ、トラブルが無ければ出番は無い、無用の長物とも思われかねないのがバックアップですから。
私がこの間体験したのも、そんなことが重なった件でした。これは、先日稼動を開始したあるシステムのことです。このシステム、昼間はとにかく絶対に止まってもらっては困る、システムの停止が多大な金銭的な損害に結びつくシステムでした。データベースサーバーが中心の構成なのですが、サーバーからディスクからネットワークまで全て二重化して障害に備えていました。しかも、このデータベースの容量は数百GBというとんでもない大容量。
この大容量のデータを毎日バックアップしなければいけません。最初の設計では、夜間はシステムを止めることが出来るから、その間にバックアップすればいいや、という程度のいい加減なものでした。バックアップ装置は、1TB(=1000GB)程度のデータを保存できるテープ装置を置く、ということで一応容量的には問題はありませんでした。しかし、現実問題として、それだけの容量のデータのバックアップをある一定時間(夜間ならせいぜい5〜6時間、週末を利用しても24〜48時間程度)に行うことができるか、というとそれは全然別の問題なわけです。実際、時間内に終わらすことが出来ずに、今でもどたばたしています。私は、このシステムとは本来無関係だったのですが、そんなこんなで巻き込まれてしまいました(;_;)

とにかくデータのバックアップは、いい加減に考えると痛い目を見る、というお話でした。

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