新・闘わないプログラマ No.438

切り替える


「CPU切替器」という装置があります。最初にこの言葉を聞いたとき、私は「CPU切替器? CPUを切り替えるってどういうこと?」と思ったものです。で、最初に頭に浮かんだイメージは、PCのマザーボードのCPUソケットのところに取り付けて、2個以上のCPUをスイッチで切り替えられるようにした部品でした。でもよくよく考えみるに、「今日は動画のエンコードの重い処理をさせるから、速いCPUにしよう」とか「今日は重い処理をさせないから、消費電力の少ないCPUのほうがいいや」とか、「CPUを切替」てもせいぜいそんなことにしかメリットないですね。
「CPU切替器」とはそんなものではなく、なんのことはない、複数台のPCでディスプレイ・キーボード・マウスなどを共用するための切替器のことでした。なぜ、その装置のことを「CPU切替器」と呼ぶのか不思議です。「KVMスイッチ」とも呼ばれていて、そのほうがわかりやすいと思いますけど。ちなみに“KVM”とは“keyboard, video, mouse”のことです。

昔むかしは、周辺機器を複数のPCで共用するための切替器というが多用されていました。たとえば複数のPCから1台のプリンタに出力するために「プリンタ切替器」というのがあって、出力したい人はスイッチで切り替えて使っていたわけです。当然、他の人が印刷中にスイッチを切り替えてしまうと、その印刷が中断してしまって、プリンタが変な状態のまま次の印刷に行ってしまい、わけのわからないものが出力されちゃったりして、使いづらいものでした。そこで、プリンタ切替器で切り替える前に「お〜い、これから俺がプリンタを使うけど、スイッチ切り替えていいか〜?」と確認しなければいけませんでした。ちなみに、プリンタ切替器は家でも使っていました。
いま調べてみたのですが、この種のプリンタ切替器、BUFFALOではMDP-22Hというのがまだ売られているようです。一方、アイ・オー・データでにはもう製品が無いようです。そもそも、いまどきのプリンタのインターフェースはたいていUSBでしょうから、こういうプリンタ切替器は使えませんし(この種の切替器はパラレルインターフェース専用)。
切替器といえば、他にもモデムを共用するためのRS-232C切替器というのもありましたね。これも家で使っていました。あと、ディスプレイ切替器(「KVMスイッチ」ならぬ「Vスイッチ」?)というのも、昔むかし、家にPC9801が2台あったときに使っていたわけですが、そういえばこの間の大掃除のときにすべて処分してしまいました……って、取っておいても使い道もありませんし。
この種の切替器が流行らなくなったのは、言うまでもなく複数のPCや周辺機器をLANで接続してネットワーク経由で使うことができるようになったからです。プリンタを複数のPCで共用する場合に、わざわざ機械的なスイッチで信号線を切り替えるかわりに、ネットワーク上にプリントサーバ(専用の装置だったり、OSの機能だったりする)を置いて、それ経由でみんながプリンタを使う形態ですね。10数年前には、現実的な(個人で買えるだけの)値段でこのような環境が構築できるとは夢にも思っていませんでした(いや、私が想像力がないだけなのかも)。

さて、そんなわけで切替器の必要性は昔に比べてかなり減ってきているわけですが、今でも(というか、もしかすると今のほうが)必要性が高い切替器があります。それが最初に述べたKVMスイッチです。同様のことをネットワーク経由でやる手も無くはないですが、telnetやsshやXが容易に使えるUNIXならともかく、リモートデスクトップなどでのWindowsの操作はまだまだの気がします。それに、UNIXであっても、ネットワーク経由での操作が何らかの理由でできない場合の最後の手段として、コンソールでの操作ができるようにしておく必要があります。
職場などでも、多くのサーバ機にそれぞれディスプレイ・キーボード・マウスを置いていたら場所がいくらあっても足りないわけで、このKVMスイッチが多用されています。まあ、先日などは「最後の手段としてコンソール」を使おうとしたら、KVMスイッチが壊れていて、結局いきなりブチッっと電源を切らざるを得なかった、なんてこともありましたが。
さて、仕事ではKVMスイッチをよく使っていた私ですが、週末に家用にも買いました。もちろん仕事で使っているような高級機ではなく、1万円弱の4台の切り替えができるやつです。いま、家では(以前から「やる」と言っていながら手を付けてなかった)サーバ機の更新作業をやっている最中でして、最大4台のPCが同時に動作する状態です。そんなわけで、キーボードとマウスが4セット机の上に乗っているわけで……数日前、何度「CTRL-C」を押してもプログラムが止まらないなあ、と思ってよくよく見たら、別なPCのキーボードだったりして、あとちょっとで終わるはずだったtarコマンドによるファイルのアーカイブの処理を中断させてしまっていたり。
「えー、また、あと3時間かけてやりなおすの、これ?」


2006.5.29 追記
「CPUを2つ積んでいてて切り替える、っつーたら昔のPC9801にあっただろーが、このタコ!」(意訳)というメールをいただきました。そうそう、そうでした。ひところのPC9801には、NECのV30というIntel 8086上位互換のCPUが乗っていて、そのあと80386(80286も?)のCPU搭載のPC9801が出たときに、互換性のためにV30も搭載していて、DIPスイッチで切り替えて使えました。そんなこと、すっかり忘れていました。ご指摘ありがとうございます。

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