新・闘わないプログラマ No.397

インクジェット


「おい、ウチはどうなってるんだ?」
「何……がですか?」
「『何が』じゃねーよ。あれだよ、あれ」
「あれ……ですか?」
「ほら、あれだよあれ。インクジェット!」
「はい?」
「だから、インクジェットだって」
「インクジェットがどうかしましたか?」
「いいから、つべこべ言わずに調べて報告しろ、っつーてんだよ。今週中な」

「常務から『インクジェットについて調べろ』って言われたんですが」
「『インクジェット』? 何を調べるんだろう? ウチはプリンタメーカじゃないし、社内で使っているインクジェットプリンタの台数でも調べろ、ってことかなあ」
「なんかずいぶん急いでいるようでしたよ」
「そんなの調べて何をするんだろう?」
「でも『インクジェット』と言ったらプリンタの話くらいしか無いですよね?」
「社内でインクジェットプリンタなんてほとんど使われてないんじゃないかな。それとも技術的動向についての話かな。でもそれだったら、もっと別の部署の人間に調べさせたほうがよさそうだし」
「そうそう『ウチではどうなってるんだ?』って言ってました」
「んじゃ、やっぱり社内や、ウチで開発したシステムでインクジェットプリンタがどれだけ、どのように使われているかを調べているんじゃないかな。なぜ、そんなものを知りたがっているのかはわからないけど」
「そうですよね。一応調べて報告してみます」

「ばかやろー、誰がプリンタことなんか調べろ、っつーたんだよ」
「いえ、あの、常務は先日『インクジェットがどうなってるか調べろ』とおっしゃいましたよね?」
「そーだよ。だからそれを調べろっつーてんだよ。プリンタのことなんかどうでもいいんだよ」
「あのー」
「いいから、今日中に調べて報告を出せ。世間でこれだけ騒がれているだぞ。もしそのまま放って置いたらどうなると思ってるんだ。客からも早急に調査しろ、って言われてるんだ」
「あのー、ですから……」
「おまえら開発の人間は、セキュリティのことに本当に無頓着だな。この間の『カカクコム』のような大騒ぎになったらどうするつもりだ? 会社が潰れるかもしれないんだぞ」
「ええと、あの、その、それってもしかして……」
「ん? 何だ?」
「それって、『SQLインジェクション』のことではないかと思うんですが……」

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