新・闘わないプログラマ No.376

書くこと


先日、本の読者の方(大学生)からメールを頂きまして、
「自分も、将来本を書きたいと思っています。どうやったら本を書けるようになるでしょうか」
というような質問を受けました。いや、私など本をたくさん出しているわけじゃないし、尋ねる相手の人選を間違っているような気がしないでもないのですが、まあネタにもなるしということで、ここに書きますので読んでください、と返事を出しました。
そんなわけで、日ごろ思っていることをだらだらと、自分のことは棚に上げておきつつ(←「そういうお前はどうなんだよ」という突っ込みを避ける卑怯な手段)、かなりいい加減に書いてみたいと思います。とりあえず、私に質問が来た、ということは、私が今までに出した2冊のようなジャンルというかレベルというか、技術書・教科書・入門書・読み物、そういう本を想定して話をしてみます。
なお、まじめな話は、たとえば結城さんがよく書かれていますので、そちらを参考にされたほうが有益なのではないか、などと思ったりもします。たとえば、「本を出版するということ」など。

さて、「どうやったら本を書けるか」という質問ですが、はっきり言ってしまえば「さあ?」としか答えようがありません。私はたまたま本を書いたという事実があるだけでして、私の経験を書いても、それはあくまで一例にしか過ぎないわけでして、同じ事をやったとしても目的を達せられるかはなんとも言えません。まして、それが近道であるかどうかも定かではありません。と言うか、なにがなんでも「本を書きたい」という願望がある人にとっては、私と同じことをやったら、多分遠回りにしかならないでしょう。
よく「誰でもがんばれば本ぐらい書ける」とかお気楽なことが言われたりしますけど、それはどうでしょう。努力だけではどうにもならないことも世の中にはあるわけです。それなりに売れる本が書けるのは努力以外の何かは必要だと思います(と、大して売れない本の著者が寝言を言っております)。まあ自費出版でもいいなら話は別ですが。最近はお金を払って作家気分を味わわせてくれる商売(別名「協力出版」とか)なんてのもあるようです。
ところで、実際のところ、本を書くに当たっていったい何が一番重要なんでしょう。専門知識があること? 文章がうまいこと? 著者が有名かどうか?

世の中には、ひどい内容の本というのが結構ありますよね(もちろん、自分のことは棚の上)。内容が独りよがり、他人に解ってもらおうという努力を放棄している、「そもそもあなたは何をいったい読者に伝えたいと思っているんですか」と問いたくなるような本。
偏見かも知れませんが、大学の先生の肩書きを持つ著者の本にそういうのが多いような気がします(もちろん、逆は必ずしも真ではありません、大学の先生の書いたすばらしい本もたくさんあります)。「大学の先生」→「専門知識ばっちり」→「いい本書くだろう」ってな感じなんでしょうか。それか、大学の先生には執筆の依頼が来やすいから、ひどい本でも出版されてしまうことが多いのかも知れません。この種の本に特徴的なのが、自分の書いた原稿を客観的に見ることが出来てないと思われる著者が多いことでしょうか。
私が原稿を書くときには、まず想定読者層をイメージします。そして、その想定読者に語って聞かせるつもりで書きます。とは言え、当然のことながら、その想定読者は目の前にはいません。ですから、自分で文章を書きつつ、一方で、自分がその想定読者になったつもりでそれを読んでみるわけです。そして「ここは何を言っているかわからん」とか「そんな思い込みで話を進めても、読者は付いてこないぞ」とか、自分で自分に突っ込みを入れるわけです。そうして「著者としての自分」と「読者としての自分」を頻繁に行き来しつつ原稿を書いています。
たぶん、大抵の著者の人は同じようなことをやっていると思うのですが、そういうことをしないのか出来ないのか、そういう著者もいるということですね。
この「想定読者(層)」という考え方は、別に本を書くときだけじゃなく、文章を書くときにはいつでもついてまわります。職場や学校でレポートなどの文書を書く場合でも、こんなふうにここにこうやって駄文を書く場合でも。2ちゃんねるあたりでも、この想定読者層を意識しない書き込みには「チラシの裏にでも書いてろ」と突っ込まれるのが最近の流行のようですね。

結局のところ、頂いたメールの質問に対する答えは、私にも見つけられません。特に「いい本」を書くとしたら。それは果たして努力によってなんとかなるようなことなのか、それとも生まれ持った(もしくは幼少期に形成された)資質によるところが大きいのか、それとも……。
とまあ、だらだらと思うことを書いてみました。
え? こういう首尾一貫していない、論旨も明確ではないような文章しか書けないやつは本なんか書くな、ですか?

[前へ] [次へ]

[Home] [戻る]


mailto:lepton@amy.hi-ho.ne.jp