新・闘わないプログラマ No.324

古い「情報処理用語事典」を眺めてみる


矢田光治・荒川正人編「情報処理用語事典」(オーム社、1981年発行)という古文書(?)をあるところで発見しました。で、何かネタにならないだろうか、と思い借りてきました。1981年と言えば、IBM PCが発売された年だったと記憶していますが、するとこの事典はPC以前の「情報処理」(←この言葉自体死語になりつつあるかも)について書かれているはずです。
この本の外観をざっと眺めてみると、装丁が思い切り地味です。最近の派手なコンピュータ関連書籍と違って、いかにも専門書という雰囲気を醸し出しています。ページ数は260ページで「定価2800円」となっています。結構、と言うかかなり高いですね。私の書いた本が300ページ弱で1680円……いやいや、そんな比較しちゃいけませんね、すみません。

本の最後にあるオーム社の広告を見ると(抜粋)、

JISに準拠したFORTRAN (基礎コース)
JISに準拠したFORTRAN (拡充コース)
JIS FORTRAN 全釈
入門 FORTRAN
入門 FORTRAN 77
FORTRAN 77 プログラミング
FORTRAN 基本演習
演習 FORTRAN
FORTRAN プログラム入門
FORTRAN 77 による数値計算入門
入門 COBOL
演習 JIS COBOL
COBOL プログラムスタイル入門
入門アセンブラ
演習アセンブラ
入門 PL/I
FORTRAN ユーザのための PL/I 入門
基本 JIS BASIC
演習 BASIC
BASIC vs FORTRAN 77
PASCAL 入門
APL プログラミング入門

っつーわけで、FORTRAN本がイヤというほど出てますね。やっぱりというか何と言うか、当時はFORTRANが人気だったようです。あとはCOBOLとBASICとPASCALと、おお、APLなんてのもあるではないですか。APLって、もうこの当時からあったんですね。あのヘンな記号を使うAPL、私も使ってみたかったのですが、そういう機会はありませんでした。

さて、中身の方を見ていきます。ここで申し上げておきたいことがありますが、私としては別に後知恵で当時の用語辞典の内容を笑ってやろう、とかそういうことをしたいわけではありません。当時の状況を多少なりとも知っている私のような人間としては、その頃の事を懐かしんでみようかな、というのが今回の趣旨です。
まずは、ぱらぱらとめくってみたところ、最初に目に付いた言葉は(170ページ)、

フリッピ flippi =ミニフロッピ.

なにやらフロッピーディスクのことらしいですね、「フリッピ」。最後に長音記号が付いていないのは「3音節以上の英単語の語尾の“-er”等には長音記号は付けない」という例のあの規則のためでしょう。では、今度は「ミニフロッピ」の項を引いてみます(190ページ)。

ミニフロッピ mini-floppy 標準のフロッピが8インチ角であるのに対して, これは5インチ角の小さなフロッピである.

「標準のフロッピが8インチ角である」というあたりになかなか時代を感じさせるものがありますが、「5インチ角の小さなフロッピ」のことを「フリッピ」というのは寡聞にして知りませんでした。これからは私も5インチフロッピーディスクのことを「フリッピ」と呼ぼう……と思ったけど、いま時5インチフロッピーなど使う機会すらないような気がしないでもありません。
この「フリッピ」「flippi」、いったい誰がどこで使い始めたのかなあ、とGoogleあたりで検索してみたのですが目ぼしい情報は得られませんでした。名前を付けた瞬間に死語になってしまったのでしょうか、「E電」みたいに。

次に、何を引いてみようかな、といろいろと考えた末に「UNIX」を調べてみる事にしました(196ページ)。

UNIX (ユニックス) ベル電話研究所(BTL)の開発したミニコン用のOSであるが, マイコンにも適用され, 言語Cで書かれている.

ううむ、「マイコンにも適用され」というあたりがちょっとばかり謎です。当時「マイコン」という言葉は、今で言う「パーソナルコンピュータ」「PC」のようなものを指している場合が多いはずなのですが、そもそもこの用語事典には「マイコン」という項が無く、いったいどういうものを「マイコン」と称しているのかいまいち不明です。「マイコン」で動くUNIXって、当時あったのかなあ…。
それから「言語Cで書かれている」というわけで、「C」の項目も見てみます(65ページ)。

C ベル研究所のRitchieによって開発されたシステム記述用のプログラム言語で, PDP-11用のオペレーティングシステムUNIXの90%はこれで書かれ, いろいろの応用ソフトウェアもまたCでつくられている. CはPASCALなどに比べて演算子の数が多く, これらの演算子がアーキテクチャに反映していることもあって, 効率のよい目的コードが作成できることなどの点ですぐれている.

何やら、上のUNIXの解説と微妙に矛盾しているような記述も見受けられますが、「演算子の数が多く, これらの演算子がアーキテクチャに反映している」ってのは、ポインタ演算やビット演算等のことを指しているのでしょうかね。当時この事典を使った人の大半(99%以上?)はCというプログラミング言語を使ったことはおろか見たことも無かったのではないか、と思うのですが、こう間接的な説明だと、なんのこっちゃとなるように思えます。まあ、この辺が用語辞典の限界だと言ってしまえば、そうかも知れませんが。

というわけで、1981年発行の「情報処理用語事典」なるものをネタに駄文を書いてみたわけですが、まだまだ書くネタがありそうなので、この本、当面借りて置こうかと…。


2003.3.22追記
「『マイコンにも適用され』というあたりがちょっとばかり謎です」と書いたところ、1981年ということならMicrosoftのXENIXではないか、という情報をいただきました。XENIXって1980年発表なんですね、意外と早くてびっくりしました。1985年前後だったかなあ、と勝手に勘違いしていました。情報ありがとうございました。

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