新・闘わないプログラマ No.311

音引き


「computer」は「コンピュータ」なのか「コンピューター」なのかは、永遠のテーマだったりするかもしれない(大げさ)のですが、「3音節以上の英単語の語尾にある『-er』等をカタカナ表記した場合には、長音符号を省く」ということがJISで定められていて云々、と言う話はよく聞きます。でも、じゃあその「JIS」とやらのどこでどう定められているのか、というのは実は知らない私だったりします。
そもそもこの話を初めて聞いたのは確か大学のときに読んだ「論文の書き方」本の中のことだったと記憶しています。何がどこでどう定められているのか、いわゆるひとつの「インターネットで検索」(あれ? そのJISとやらに従えば「インターネット」じゃなくて「インタネット」なのかな?)などというものをしてみたところ、JIS Z 8301「規格票の様式」というのに定められているものが、それであるらしいことがわかりました。しかしこのZ 8301という奴は要するにJISを書く上での様式や表記方法を定めた規格であって、一般的な技術文書のようなものを書くときの指針になるようなものでもないような…でも、他に該当するような規格も無さそうだし、多分これの事なのでしょう、一般に「外来語の表記に関して定められているJISの規格」とされているものは。
さて、これの1996年版にはこんなことが書かれています(JIS Z 8301:1996より引用)。

解説付表3 原語(英語)の語尾の長音符号を省く場合の原則
原則
a) その言葉が3音以上の場合には, 語尾に長音符号を付けない。 エレベータ(elevator)
b) その言葉が2音以下の場合には, 語尾に長音符号を付ける。 カー(car), カバー(cover)
c) 複合語は, それぞれの成分語について, 上記 a) または b) を適用する。 モータカー (motor car)
d) 上記 a) 〜 c) による場合で, 1)長音符号で書き表す音, 2)はねる音,
及び3)つまる音は, それぞれ1音と認め, 4)よう(拗)音は1音と認めない。
1) テーパ(taper)
2) ダンパ(damper)
3) ニッパ(nipper)
4) シャワー(shower)

ということみたいなのですが、これはあくまで「原則」でしかないみたいでして、必ずしもこれに従わないといけないわけでもないようです。そもそも、このZ 8301という規格自体、2000年に改定されていまして、今はそれが有効のようです。この最新版は、日本工業調査会のサイトで閲覧のみは出来ます。このサイトの「JIS検索」に行って「JIS規格番号検索」のところに「Z8301」を入力するとPDF形式のファイルの閲覧のみができます(スキャンした画像なので見づらい)。著作権がどうのうこうので、保存はできないことになっています…とは言え、PDFを閲覧するわけですから、そのファイル自体はローカルに落ちているわけでして、ブラウザのキャッシュを、もにょもにょ(以下略) ←おい。
それはともかくとして、この2000年版を見ると、上で引用した「原語(英語)の語尾の長音符号を省く場合の原則」という表が見当たりません。もしかして削除されてしまったのでしょうか。見つかったものと言えば「7.2.3 用語及び外来語の表記」という項にある下記の記述です。

b) 外来語の表記 外来語の表記は, 主として“外来語の表記”平成3.6.28, 内閣告示第二号)による。

上記引用の中に閉じ括弧があるのに、それに対応する開き括弧が無いのは私のミスじゃなくて、原文もそうなっています。これはもしかして規格の誤植でしょうか?
要するにJISの最新の規格では「内閣告示」とやらに従うのが正しいようです。このあたりもいろいろしらべてみたところ、こんな情報がみつかりました。これによれば、「-er」等は原則として長音符号を書け、ということみたいですね。

ところで、ここでいろいろと駄文を書き散らしている私ですが、英語の表記は結構いい加減でした。基本的にはJISに従っているつもりなのですが、そうじゃない記述もいっぱいありそうですし、また、たとえば「server」をそのまま「server」と書いたり、カナにして「サーバ」と書いたり「サーバー」と書いたり。混ぜて書いてあるところも随所にありそうです。
で、先日本を書いたときに、このあたりは結構悩みました。編集者さんに「本を書くにあたって、書き方全般にわたっての指針や制約がありませんか?」と尋ねたのですが「今回の本は普通の技術書というわけではなくて読み物なので、特に制約は設けません。自由に書いてください」とのことで、結局私が自分で決めました。
原則としては、その世間で「JISで定められている」と言われる「3音節以上の場合は云々」というやつを採用しました(とは言え、私の勝手な裁量でそうなっていない英単語もあります)。ただ、今読み返してみると、特に「読み物」としてみた場合、変なところも結構ありますね。一番変に見えるのが「メーカ」。
やっぱりこれ「メーカー」と書くべきだったかしらん?

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