新・闘わないプログラマ No.181


「点の後ろの文字を一気に変えるのはどうすればいいの?」
「へ?」
「ほら、点の後ろに3文字くらいあるじゃない」
「へ??」
「だからあ、エクスプローラで見ると、点の後ろに3文字あるでしょ? それを変えたいんだよね」
「ああ、もしかしてファイル名の拡張子のことを言っている?」
「そうそう、それよそれ。さっきから言っているじゃない」
「そんなこと言ったって、いきなりなんの脈絡も無しに『点の後ろの文字』って言われたって、何のことだかさっぱりわからんよ。んで、その拡張子を変更したい…ということ?」
「だから言っているじゃない、さっきから。コンピュータに詳しいんだったらそれくらいすぐにわかってくれよ」
「あのなあ。で、そんなの、エクスプローラで変更すればいいんじゃない? やりかた知らない?」
「そんなことくらい知っているよ。でも、100個くらい変更したいんだよ。だから、一気に変更するにはどうすればいいのかな、って聞いてるの!」

などと質問されても、ファイル名を一気に変更する方法を素直に教えてはいけません。彼(または彼女)が欲しているのは、全く別のことかも知れないからです。

「あーあー、そーゆーことね。それならコマンドプロンプトを出して、該当するドライブのディレクトリ…いやいやフォルダに移動して、RENコマンドを使えば出来るよ」
「へ? 何を言っているかさっぱりわからないんだけど。もっと具体的に教えてよ」
「あー、めんどくさいなあ。ええと、まず…」

〜〜10分経過〜〜

「あ、出来た。ありがとー」

などと感謝されても、そこでほっとしてはいけません。何故なら…

「おーい、おまえ変なこと教えただろー。さっき教えてもらったとおりにやったら、ファイルが全部文字化けしてしまったぞ。あれ、大切なファイルなんだから、責任とってなんとかしてくれー」
「へ? さっきやったのは拡張子を変えただけで、ファイルの中身は変えてないから、それだけで文字化けするなんてことはありえないんだけどなあ」
「だーって、なったもんはなったんだから。変える前はちゃんと見れたのに、あの操作をやったら文字化けしちゃって見れなくなったんだよ。なんとかしてくれよ」
「文字化け、ねえ。あ、あのさ、拡張子を、何から何に変えた?」
「『なんちゃら.PDF』ってなっているのを全部『なんちゃら.DOC』ってのに変更したんだよ」
「へ? それってもしかして、PDFファイルの拡張子をDOCに変えてMicrosoft Wordで開こうとした?」
「ん、言っている意味がよく分からないけど、『なんちゃら.PDF』ってファイルを変更したかったんだよね。でも、それを開いても変更出来ないじゃない。だから、Wordでなら開いて変更できるだろうと思って…」

などということになって、結局その人物がやりたかったことは拡張子を変えることじゃなくて、PDFファイルを編集したい、ってことなわけです。でも、それを最初の質問「点の後ろの文字を一気に変えるのはどうすればいいの?」から推測するのは、ほぼ不可能だったりするわけです。
他にも、私が以前経験したのでは…

「ねえねえ、インターネットで表示を禁止するにはどうしたらいいの?」
「へ?『インターネット』で『表示を禁止』?」
「そう、どうやるの?」
「あのー、言っている意味がさっぱり分からないんだけど…もうちょっと詳しく言ってくれないと」
「だからあ、インターネットを見るときに、メニューに『表示』ってあるじゃない。それが出来ないようにしたいの!」
「それって、もしかして『インターネットエクスプローラ』のメニューにある『表示』ってののことを言っている?」
「うーん、なんかよくわからないけど、そういうやつ。それを選べないようにしたいんだよ」
「さあ? メニューから消すことは可能なのかも知れないけど、やり方までは知らない。いったい何故そんなことをしたいの?」
「いや、うちの会社のホームページを見たときだけ、『表示』が選べないようにしたいんだよ」
「あ? それってもしかして、自分のPCのインターネットエクスプローラの『表示』メニューを消したい、ってんじゃなくて、あんたの会社のサイトを見たときに、その見た人の『表示』メニューを使えないようにしたい、ってことか?」
「そうそう、さっきからそう言っているじゃん」
「それはいくらなんでも…もしかすると可能なのかも知れないけど、でも、そんなことやったら顰蹙買って、会社の評判を落とすだけだよ」
「だって、『表示』メニューがあると、ホームページのソースを見られちゃうじゃない。うちの上司がさあ『ソースは会社の財産なんだから、ユーザーには見られないようにしろ。そんなの常識だろ? どこの世界に、会社の財産であるプログラムのソースを公開している会社があるんだ!』なんて言うもんだから…」

っつーわけで、この人物のやるべきことは、インターネットエクスプローラの「表示」メニューを隠す方法を探ることなどではなく、件の上司にWWW、HTTPの仕組みを(最低限)理解させて、そういうことは無意味だと説明して説得することなわけです。要するに、それがヤなら公開しなけりゃいいじゃん、ということを。

まあ要するに、「質問の内容」は往々にして、質問者の本当にやりたいことからかけ離れていることが多く、これが「質問者」と「回答者」の間のいざこざの元になったりすることも多いと思うのですけど、じゃあどうすればいいのか、と言われると…名案は無いですねえ。

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