新・闘わないプログラマ No.109

時代錯誤


四文字熟語のタイトルが続きまして、別に狙ってやっているわけでも無いのですけど……
俗に「システム子会社」などと呼ばれている会社があります。非コンピュータ関連の企業が、主に自社のコンピュータシステムを開発する目的で設立された会社をこう呼んでいます。社内の一部門として「システム開発部」とか「情報システム部」とか、そういう部門を持っている企業も多いですけど、それが子会社として独立したようなもの、と考えてもらえばよろしいかと思います。
まあ、最近は、自分のところでシステム開発まで全部やってしまう、というのはあまり流行らなくなってきて、自社では企画だけして、あとは外部の会社に開発を丸投げしてしまう(「アウトソーシング」なんて言葉もありましたね、もう死語かも?)なんてのが多いかも知れません。だからわざわざシステム子会社を設立して、というのは少なくなってきているようです。まあシステム子会社は、古くからコンピュータシステムを内製していた企業に多いと思います。

で、そのシステム子会社に勤務している知り合いのお話です。
子会社にはよくありがちな話ですけど、親会社の部長あたりが役員として天下ってくる、というのがあります。その会社にもそういう役員が沢山いるそうで、
「オレなんか、役員で、顔と名前が一致するのなんか、3人くらいしかいねーもんな。だいたいあいつら仕事なんかなにもしてねーんだよな。あいつらの高い給料を払うために、どうしても開発費用を高めに見積もらないといけないんだよなー」
などと、その知人は言っていました。
先日その会社の、開発部門のトップ(「開発本部長」とかなんとかいう名前の役員)に、親会社から天下ってきた人物が就任したのだそうです。親会社では営業畑一筋で、天下ってくる直前の役職は「なんちゃら営業部長」。もちろんコンピュータのことなんか何も知らない。全部秘書任せで、キーボードもマウスも触ったことが無い、という人物だそうです。
私は必ずしも、システム開発をずっとやってきた人物が「開発本部長」のようなその道のトップに立つのが望ましい、とは思いません。というより、「自分は経験豊富だ」とか「自分は技術力があるんだ」とか勘違いしてるオッサンがトップに立つことの弊害を、私も沢山見ているだけに、どちらかというとユーザ側の見方でモノを考える人物がトップに立つのも悪くは無いのではないか、とも思うわけです……まあ、人によりますけどね。
話は横道にそれますけど、システム開発をずっとやってきた人物がトップに立つことの「弊害」ですけど、この人たちって、自分が現場でやってきた時代の常識を、そのまま押し付ける傾向がある、ってのがあります。20年前の常識は、今の非常識かも知れないなんて当たり前のことが分かっていない人が多いんですよね。それと、この道ウン十年という人に多いのに、ユーザの立場に立っでモノを見れない人が多いんです。

余談はともかく、その知人の会社の開発部門のトップに、親会社で営業畑一筋の人物が天下ってきたわけです。
で、その一ヶ月後、ある通達が社内を回りました。
「同業者等との情報交換、その他の交流を、プライベートなものを含めて一切禁止する。君たちの技術は社の財産であり、それを勝手に漏らすことは、会社に対して損害を与える行為とみなし、処分の対象とする。君たちの育成には、社として十分な教育・研修を行っているわけであり、同業者との情報交換の必要性は認められない」
要するに、君たちには十分な教育を施してるわけであるから、外部との情報交換などするな、ってことですよね。まあ、唖然とするほか無いわけですけど、その知人が一番唖然としたのが、こんな通達が出ても、それに対する不満の声があまり聞かれなかった、ということだそうです。
要するにですね、その社内の大多数の人は、積極的に外部との情報交換を行って、常に新しい技術を仕入れてくる、とか、そういうこをやっていない、ってことですよね。はじめからそういうことはやってないのだから、不満にも思わない、ってこと。
その知り合いとは、10年くらい前にあるメーカのユーザ会で知り合って、それからいろいろと情報交換をしていたのですけど、そういうことは今後全部ダメってことになるわけです。「そんなアホらしい通達、守る気なんて無いよ」と彼は言っていましたけど、まあ、今後は用心のため、彼あてのメールは会社じゃなくて、プライベートのメールアドレスの方に送ることにしました。
情報交換と言っても、「いま、どこどこの会社のシステムを請け負っていて、あそこでは実は……」とかいうような、それこそ企業秘密に属するようなことは言ってもいないし、聞きもしないのがルールなわけで、一般的な企業秘密に属さない公開されている技術情報の交換をしているだけなのですけど。例えばLinuxの話だって、まだ世間では話題にもなってない5年くらい前から、有用性やら利用法についていろんな話をしていました。そんなのが処分の対象になると思うと、確かにアホらしい話ではあります。

まあ、この話は、よく知らない人物がトップに立った場合の弊害ということなんでしょうけど、実際問題としては、こういう通達がでて困る人ってのは、ほんの一握り(1割か2割くらい)の優秀な人だったりするんだろうなあ、なんて思います。それ以外の人は、そもそもそういう情報交換などしよう、などと考えもしないのでしょう。
要するに、この通達は、その一握りの優秀な人の首を絞めるだけの効果しかないわけで、それって結局、その会社自身の首を絞めている他ならないわけです。そもそも、自社の技術を優秀だと勘違いして、それを秘密にして外に漏らすまいとするような行為は滑稽以外のなにものでもありません。
そういえば、一頃流行った「オープンソース」(←おいおい、過去形かい?)でも、「ソースを公開するなんてとんでもない。それは自社の技術を公開することに等しい自殺行為だ」などという、勘違いコメントがありましたけど、まあ、似たような思想なのかも知れません。
技術は秘密にしても仕方が無いし、秘密にしておけるようなものでも無いし、同じようなことは他にも考える人が必ずいるし、そんなのは無意味でしか無いと思うわけです。

というわけでエラソーなことを書いてきましたけど、幸い私のところは、そういう勘違い通達は出ておりませんので、積極的にいろいろな人と情報交換はやって行きたいな、と思っているわけで……あ、でも、与える情報なんて無かったりして、貰うばっかりで。

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