新・闘わないプログラマ No.106

平行線


「あなたのページ、字が小さくて、目がチカチカして読むのが大変なんだけど、もっと大きな字で書いてくれないかかあ。あ、それとフォントは××を使ったほうが読みやすいと思うよ」
「『字が小さい』と言われたってねえ……それは私の責任じゃないからねえ」
「大きなフォントサイズの文字を使えばいいじゃない、<FONT>タグを使って。そんなことすらやらないで『私の責任じゃない』なんて知らん顔しても、世間じゃ通らないよ」
「世間で通るか通らないかは知らないけど、フォントやフォントサイズを指定したりする合理的な理由も必然性も感じていないんでね」
「だーかーら、あんな小さな文字で書かれちゃ、読みづらいんだけど。大体、うちのパソコンって、15インチモニターだし、それに1024×768ドットにしているから、なおさら読めないんだよ。読んでくれる人のことをちょっとでも考えたら?」
「あのさ、ちょっと言っていい? 15インチやら1024×768なのって、あなた自身の問題でしょ? 読みづらいんだったら、読むほうで字を大きくしたらいいでしょ? そんなのこっちに振られてもなあ」
「それはおかしい。15インチモニタに1024×768なんていうごくありふれた環境で、しかもInternet ExplorerとNetscape Communicatorの両方で読みづらいんだから。やっぱりそれでちゃんと見えるようにすべきだよ」
「だからさあ、あなたが見づらいと思うんだったら、ブラウザのフォントサイズを変えればいいだけの話じゃない。何度も言っているように、それは読むほうの問題だってば」
「わからないやつだなあ。結局あなたは、誰にも読んで欲しくない、って言っているわけだよね、要するに。あんなちっちゃな文字で書いておいて、それを読んでくれ、と言う方が絶対に変だよ」
「別に、無理に『読んでくれ』とお願いしているつもりは無いけど。どうしても『読みづらい』と思われるのでしたら、そして、ブラウザ側でフォントサイズを変えたくないとおっしゃられるのなら、お読みにならないのがよろしいかと。なんか勘違いしているようだけど、私は文字の大きさなんて指定していなんだからね。だから、その文字が、読み手の環境でどんな大きさの文字で表示されるかは、読み手側の責任であって、読み手側で調節すればいいし、その方が読み手にやさしいページと言えるんじゃないかな」
「あ、開き直ったな」
「…」
「何とか言えよ」
「だから、<FONT>によるフォントやフォントサイズの絶対値の指定は、読み手の環境を無視して、書き手の都合でページの見栄えを規程してしまうわけで、そうする必然性を私は感じていない。そもそも、そういう見栄えを規定するんだったら、スタイルシートでやるべきだよね」


「ウィンドウサイズの横幅一杯に文字が並んでいるのって、なんか窮屈で見づらいんだよね。両側に余白を付けてくれるといいんだけどな。本なんかだって、余白があるじゃない、あんなやつ」
「別に必要性は感じないけどなあ。読むほうでなんとかすればいいんじゃない? そもそもスタイルシートを使わないとそういうことは出来ないし……特にやるつもりありません」
「え? 知らないの? HTMLだけで出来るよ。<BLOCKQUOTE>というタグがあるじゃない、あれを使えば左右に余白が出来るんだけど、知らなかった?」
「ううむ、<BLOCKQUOTE>はもちろん知っているけど、あれって別にそういうことをやるためにあるんじゃないんだどなあ。あれは、文書の論理的な構造として、引用を表すためにあるんだけど」
「いや、そんなこと言ったって、Internet ExplorerだってNetscape Communicatorだって、<BLOCKQUOTE>を使えばちゃんと左右に余白を付けてくれるんだから、それを使ったっていいじゃない」
「だからさ、Internet Explorerがどうした、とか、Netscape Communicatorがどうした、とか、そんなことはこの際、関係無いの。引用のためにある<BLOCKQUOTE>をそういう目的で使うこと自体が変なの」
「だって、それ以外のブラウザなんて無いに等しいんだから、その二つで動作確認すれば、それで問題無いじゃないか。じゃあ、逆に聞きたいけど、あなたは世の中にあるすべてのブラウザで動作確認しているんだ?」
「なんで、そう話を飛躍させるの。世の中のすべてのブラウザで確認できないからこそ、規格に則って書くんでしょ? ある環境を仮定するのはよくないと思うんだけど。たまたま偶然に、あるブラウザが引用を字下げによって表していたからと言って、それに依存した書き方をするほうがおかしい」


「ウィンドウ幅一杯に、改行もなしに文字を書かれると、1行がものすごく長くなって、すごく読みづらいんだけど。全角40字程度で改行してもらえるといいんだけどな」
「この『改行』って<BR>を入れろ、ってこと?」
そうそう、改行も入れずに、横にずらずら書いてあるページ、本当によく見かけるんだけど、1行があんなに長かったら誰も読まないよ。だいたい、レイアウトの基礎も知らない素人が作っているから仕方ないのかも知れないけど」
「1文の途中に<BR>を入れるのって、ものすごく変だと思うんだけどな。1行40字ってのも、文書の論理構造とは何の関係も無いし」
「そんなこと言ったって、読みづらいんだから。いま1024×768ドットの画面で、いつもブラウザのウィンドウを最大にして見ているから、途中に改行の入っていないページは1行が横にものすごく長くなっちって、それだけで読む気がしなくなる」
「そんなの、読み手の問題じゃない? 読みづらかったら、ウィンドウの横幅を縮めるとか、そうすべきだよ」
「あなたは、読み手の立場に立ってものを考えたことがないんだね。どんな環境でも読みやすいページを作るべきじゃないのかな。ウィンドウ幅が広いってだけで、とてつもなく読みにくくなるようなレイアウトは駄目だね」
「あのさ、今の言葉、そっくりそのまま返してあげるよ。さっき、1行40文字で改行しろ、って言ったよね、君は。その40文字の根拠っていったい何? それでもって、ブラウザの横幅が1行40文字を表示できないほど狭かったらどうなる? そんな場合は行の途中で改行が入るし、<BR>による強制改行も入るから、かなり見づらくなってしまうんだけどな。そういう環境のことは考慮に入れないの?」
「いまどき、1行40字が表示できない環境なんてあるの? そんなのは論外だよ。考慮する必要無し」
「なあんだ、結局、自分のことしか考えてなかったわけね。いまどきのパソコンなら1行40文字はどれでも可能だろうけど、パソコンじゃない環境で見る場合だってあるはずなんだけどなあ」


と、今日も議論は平行線をたどるのであった(完)

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