ヨーロッパを土浦ナンバーで走りまわった10ヶ月

 ホーエンツェルン城の入口 スイスの高速道路の通行章

 もう、2年前になるが、会社の長期研修でヨーロッパで11ヶ月過ごせる機会に恵まれた。私の車は、平成5年に晴海のヤナセの中古車フェアで購入したメルセデス190D2.5であり、ちょうど車検を通した直後であったこと、元来ヨーロッパ産であるので使用上問題ないだろうということや、せっかくだから里帰りさせてやろうということから、日本国籍のまま持ち込んだ。

 最初の滞在先は、フランスのストラスブールだった。フランスの東北に位置するドイツ国境の町である。日本からは、車は海上輸送で一ヶ月かかるので、私が日本を発つよりも早く発送したおかげで、あちらでアパートを見つけ生活を立ち上げ始めたときに、入手することができた。

 受け取ってみると、ボンネットを支えるダンパーが壊れており、輸送業者に文句を言ったが、何しろあちらは、フランス人で、フランス語しか分からない。「知らない。知らない。」と逃げられてしまった。幸いにも、お世話になっていた日本人がミドルクラスメルセデスに乗っており、定期点検に出すところというので、一緒にドイツのメルセデスのディーラーに連れていってもらうと、3千円程度の出費で済んだ。

 ストラスブール近郊の道は、「フレンチサークル」という大きく反時計廻りに回るロータリーがあるのが大きく日本と異なり、最初は面食らった。また、ラテン系の運転なんだろう、発進は、全開で行かないと流れに乗れない。右側通行に右ハンドルは、心配もあったが、日本で左ハンドルを乗るのと大きな差はなく、むしろ不慣れな道で車両感覚が完璧なので、神経的にかなり楽であった。

 最初の週末は、近郊にある「アルザスワイン街道」をドライブした。フランスの片田舎のぶどう畑の中を30秒で駆け抜けてしまうような小さな村や町が連なっている。そんなところだから、中世の町並みがそのまま残っており、道幅もコンパクトメルセデスでも注意しないとぶつけてしまうような石畳の道だった。民家の軒先を通り、城壁をくぐりと夢の様なドライブコースだった。

 走りまわると当然、給油が必要となる。フランスでも給油は、セルフサービス。自分で入れるのだ。スタンドに乗り入れ、好きな給油ポンプに止まり、好きなだけ給油して、支払う。当たり前のようだが、日本では、うざったい店員が、やれ水抜き剤だ、オイルが劣化してるなど言ってくるのを考えれば、合理的。しかし、油の値段は、日本よりちょっと高め。サービスがないのに高いなんて納得が行かない気もする。ちなみにドイツへ行けば、間接税の利率が異なるので若干安いということであったが、通貨が異なるので、為替の影響から結局良く分からない。フランスでは、軽油は「GASOL」と言うがドイツでは、「DISEL」だった。ヨーロッパでは、ガソリンはまだまだ有鉛ガソリンが販売されているので、給油には注意が必要だった。

 フランスのガソリン屋では、よくノベルティの格安セールキャンペーンを実施していて、これが、また、ドライブの一つの楽しみとなった。同一元売り会社のスタンドで給油をして点数を貯めると音楽CDや牛革製サッカーボールが2から3百円で購入できるのだ。フランスでは、音楽CDは高めだったので、良いドライブの友となった。

 11カ月の間とはいえ、留学で学生だったため、休みが自由に取れず土日のみの行動となったため、日帰り強行ドライブも多かった。会社の同期がボジョレーでフランス人と結婚するというので、往復1000キロを往復して、結婚式に出席したり、モナコで開催されたF―1グランプリを1泊で見るために往復2000キロを走ったりした。こんな強行軍にもかかわらず、メルセデスは故障知らずであり、運転者と同乗者は、快適に移動することが出来た。メルセデスの生まれた環境は、こういうものかと実感することができ、ドライブに対する考え方の違いを身を持って経験することが出来た。

 2月から4月にかけて、ロンドン郊外のサレー州ギルフォードに行くこととなり、メルセデスでいくことにした。もちろん、英仏海峡は、チャネルトンネルを通っていくことにして、自動車輸送列車「ル・シャトル」の予約をした。ストラスブールからは、高速道路を通って、英仏海峡の都市、カレーまで陸送する。フランスを横に横断することとなる。フランスの高速道路は、有料だか日本の料金の数分の一であり、制限速度は130km/hと高めであること、走行車線と路肩が広くて、舗装がものすごく良いことなどから、ものすごく快適であった。日本との国力の余裕の差を感じないわけには、いかなかった。日本の高速道路は、これに比べるとケチって、低技術で作った道路といった感じである。さすが、TGVの国である。さて、カレーに向かい走って行くと、やがて、パリ方向とカレー方向に高速道路が分岐する。この当りから、料金所が右ハンドル車対応になってくる。ちょうど、日本の高速道路に左ハンドル車用の機械が装備されているのと同様である。フランスの料金所は、区間毎に道路を区切ってあり、日本の様に出口に有るわけではない。従って、何回も通過するので、この心遣いは嬉しい配慮である。

 カレーに近づくとトンネルの行き先表示が出てくるようになる、それに従い車を進めていくと、やはり大きい料金所が出現する。ここがチャネルトンネルの受けつけだ。切符を提示すると、買い物をするかどうか聞かれる。ここは、国境なので、デューティーフリーのモールがあるのだ。もちろん寄るというと、免税用のカードをくれるので、パスポートコントロールを受けてから、左にあるモールへ行く。

 さて、買い物を済ませトンネルの標識に従って、係のおじさんの指示に従って行くと、そこはもうプラットフォームであった。銀色の列車が止まっている車が列を作って、その中に入って行っている。列車に乗る前に、写真を一枚係のおじさんに撮ってもらう。そして、そのまま、列車の中へ。


 列車の中は、ちょっと狭いトンネルで、列車自体2階建てになっていた。ふーんと感心していると、警告音が鳴り響き、列車の車両間の扉が自動的にしまり、やがて、動きだした。数分もしない内にトンネルに入っていく。30分もするとトンネルを抜け駅に停車する。乗った時のように、列を作って、そのまま走っていくと、ロンドンの表示が見え、気がつくと高速道路に入っていた。しかも、左側通行になっている。イギリスである。

 イギリスへフランスから行くと面食らうことが多い。逆の通行、異なる信号、マイル表示の看板、時計周りのロータリー。特に、イギリスの交差点は、殆どロータリーになっており、ひどいロータリーは、路面にペンキで直径1メートルほどの●が書いてあるだけと言うのも有る。日本の感覚では、とんでもない、大廻りをして右折しないといけない。

 イギリスの高速道路は、無料で走れる。そのせいかフランスに比べると整備が行き届いておらず、路面が荒れて揺れるし、落ちている石ころなどが多い。このせいで、滞在中にフロントガラスに石がぶつかり、ヒビが入り交換するはめになった。

 外国からの通行車を意識していないのか、スピード制限の表示がないのも困った点であった。大陸側ではお互いの交通ルールは知らないということを考えてか、大きく表示してあるのが通常であった。

 イギリスでは、メルセデスは高級車の取扱いを受ける。ストラスブールでのカローラ的な扱いから日本的な感覚だ。フランスでは、スーパーに入っている車用品屋で、オイル交換をやってもらったのに、ここでは、メルセデスは別料金とかやってないと言われてしまう。サービス可能か先に聞かないとならなかった。

 イギリスでは、春休みまで滞在し、イースターの時期に2週間の休暇中にウェールズから湖水地方、マン島とスコットランドへ行き、そのまま再度チャネルトンネル経由でフランスへ渡り、ストラスブールに帰って来た。

 メルセデスのディーラーは、どこも素晴らしく東洋から来た旅行中の一見の客でも、丁重に扱って貰えた。そのおかげもあり、大したトラブルもなくヨーロッパでの11カ月を過ごし、合計35000kmを走行して、日本に戻って来ている。現地滞在中に訪問した国は、フランス、イギリス、イタリア、モナコ、ドイツ、リヒテンシュタイン、ベルギー、ルクセンブルグ、オランダ、スイスの10ヶ国となった。現在走行12万5千キロを越えているが、まだまだ、走る。


平成10年4月6日記

190D2.5 平成元年登録

ヤナセ練馬営業所にて平成5年8月購入

走行累積 125000km